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WSL史上初のデビュー戦ハットトリック。清家貴子がブライトンで目指す即戦力「ゴールを取り続けたい」

REAL SPORTS 2024年11月1日 2時46分

今夏、浦和からイングランド1部・WSL(女子スーパーリーグ)ブライトンに加入した清家貴子が、新天地で着実に足跡を残している。9月21日、エバートンとのリーグ開幕戦でハットトリックを記録。個の強さとゴールのバリエーションの多さを披露し、クラブ史上初のWSL月間MVPを受賞した。一方、大量補強で新たなスタートを切ったチームで、レギュラーに定着するハードルは低くないようだ。パリ五輪を境に環境が大きく変わった中、清家はイングランドでどんな日々を送っているのか――。現地・ブライトンのカフェで話を聞いた。

(インタビュー・構成・撮影=松原渓[REAL SPORTS編集部]、トップ写真=ZUMA Press/アフロ)

WSL史上初のデビュー戦ハットトリックで月間MVPに

――ブライトンに加入して、開幕戦から公式戦5試合を戦いましたが、環境や、チームメートの雰囲気には慣れましたか?

清家:慣れてきました。チームメートはみんな温かくて、すぐに馴染めたので、その点ではまったくストレスはありませんでした。英語がしゃべれない状態でイングランドに来たんですけど、クラブが英語の先生を雇ってくれて、週に1、2回勉強しています。最近はチームメートと単語でコミュニケーションが取れるようになりました。

――エバートンとの開幕戦では、ハットトリックという最高のデビューを飾りました。遠目からの思い切ったシュートが多かったですが、実感としてはどのぐらいのパフォーマンスが出せた手応えがありますか?

清家:それまでの練習や練習試合の中でWSLのいろんなチームと対戦して、こっちでも十分戦えるとは感じていましたし、シュート練習はかなりやってきたので、まぐれという感じではなく、今の自分ができる100パーセントのパフォーマンスが出せた手応えがありました。さすがにハットトリックは出来すぎだったかなと思いますが(笑)。1点目のループシュートは、今まで浦和でも決めていた形ですが、3点目のシュートは目の前にスペースがあったので、思い切り強いシュートを蹴ろうと思ったらいいコースに飛んでくれました。

――シュート4本で3点と、チャンスを確実にものにしましたね。

清家:3ゴールのうち2点は相手のミスから奪った形でした。得点をするとしたら逆サイドからのクロスに入っていく形が一番可能性として高いだろうなと考えて、積極的に入ろうと思っていたので、その形から1点取れたのは良かったです。ただ、それ以外で右サイドから崩してシュートという形はまだないので、今後その形も作っていきたいですね。

――デビュー戦のハットトリックは、WSL史上初だそうですね。リーグ選出の月間MVPと、WSLファンが選ぶ月間MVPに輝きましたが、周囲の反響はどうでしたか?

清家:賞を2つももらえて光栄です。トロフィーを2つもらって、その度にチームで手が込んだ撮影もしました。あとは、SNSの取り上げられ方や、チームの中での盛り上がり方も違うので、それはすごいなと。チームメートもみんなで祝福してくれて、いいチームだなと思ったんですけど、これを続けていくことが大事だし、それが一番難しいことだと思っているので。あれで終わらないように、ゴールを取り続けたいと思っています。

即戦力を大量補強したブライトン。「常に上位にいたい」

――ブライトンは今季、かなり補強に力を入れていますね。ダリオ・ヴィドシッチ新監督を迎え、選手も昨季から過半数が入れ替わり、清家選手を含めて12人の新戦力が加わりました。

清家:そうですね。新加入の選手数や選手層については、代表のイングランド組からも「すごいね」と言われます。ブライトンからオファーをいただいた時も、「即戦力を11人獲得したいと思っていて、その中の1人として来てほしい」と言われていたのですが、監督も含めて、本当に新しいチームなんだと思います。サッカーの色もはっきりしているので、今後、強豪チームにどれだけ通用するのかが楽しみです。

――開幕から5試合で3勝1分1敗で4位と、リーグのダークホースになりそうです。

清家:ここまで好調ですけど、自分自身はずっとレッズにいたので、同じように、常に上位にいたいという気持ちはあります。WSLの降格争いには関わらず、優勝候補争いに絡むようなチームになりたいですね。

――サッカーのスタイルについては、どう感じていますか?

清家:最終ラインから、しっかりとボールをつなぐサッカーを目指しています。プレッシャーをかけられてもロングボールはあまり蹴らないので、前から見ていて怖いと感じるときもあります。日本のサッカーに似ている部分もあるなと。プレシーズンも含めてあまり強いチームと対戦できていなかったので、相手に研究された時や、上位のチームと当たる時にどこまで通用するのかが勝負になると思います。

「今まで通りのプレーでは…」レギュラー定着への戦い

――パリ五輪では主力として全4試合に出場しましたが、今季に向けてはどんな課題を持ち帰ったのですか?

清家:個人としては、もっとドリブルで相手をはがしてゴール前に入っていくプレーができたらよかったなと思います。アメリカ戦では1、2回はドリブル突破できる場面があったんですけど、それをできる選手がいるかいないかでチームの勢いもだいぶ変わると思うので、一人、二人ぐらいは抜けるようにしたいなと。今は海外の選手相手にチャレンジできる素晴らしい環境にいるので、日々、積極的に取り組んでいます。ただ、これから代表監督も代わってやり方が変わると思うので、その力をチームに生かせるようにしたいと思います。

――ブライトンでは、ここまで右サイドで起用されることが多いですが、監督からはどんなことを求められているのでしょう?

清家:ビルドアップに関わるというよりは、ワイドに張って相手と駆け引きするプレーを求められています。縦に突破はしやすいんですけど、得点という部分では少し遠くなる感覚があって、難しさも感じています。突破からのクロスは自分の強みだと思っているんですが、チームとしてはしっかりつないで崩したいという狙いがあるので、ある程度ボールをキープして時間を作るプレーも意識してきました。レッズでは、中央のゴールに近いところでボールを受けてシュートに持っていく形や、縦に速い攻撃でクロスを上げることも多かったので、求められる役割は違いますね。

 開幕戦までは、試合に使われるかどうかが勝負だと思っていたので、そういうチームのやり方に徹する中で、開幕から2、3試合は先発で出ていました。ただ、最近は先発で出る機会が減ってきたので、今まで通りのプレーをしているだけではダメなんだろうなと。

――役割の中で、自分ができるプレーを模索しているんですね。サイドで張っていると、なかなかボールを触れないこともありますよね。

清家:そうですね。うまくいってボールが動けばいいんですけど、練習試合とかでボールが動かないときにはボールにほとんど触れないこともあって、これはしんどいな、と思うこともあります(苦笑)。

――同じポジションにはフィジカルやスピードのある選手も多いですが、レギュラーに定着するために、どんな違いを見せていこうと考えていますか?

清家:足元の技術は他の選手よりも長けているところだと思いますが、個人で目の前の相手をはがしてゴール前に入っていくところは、もっと成長しないと難しいと思っています。あとは、言葉がまだわからない部分もあるので、戦術理解の面でもっと積極的にスタッフやチームメートとコミュニケーションを取ることが必要だと思い、英語の勉強を頑張っています。

チームメートから受ける刺激「度肝を抜かれた」

――対戦相手も含めて、同じFWのポジションで刺激を受けた選手はいますか?

清家:もともと、WSLの選手をあまり知らなかったんです。だからこそ、練習も試合も、ビビらずにやれているのはいいんですが……。(マンチェスター・)シティの選手などは有名な人が多いから、試合中のマークも、背番号で言ってほしいんですけど、「○○選手!」という感じで、みんな名前で言うから分からなくて、今覚えているところです(苦笑)。

 チームメートでは、チェルシーから移籍してきたイングランド代表のフラン・カービー選手には刺激を受けました。(浜野)まいかから「すごい選手で、びっくりすると思います」と聞いていたので、何がすごいんだろうなぁと思っていたら、打つシュートがゴールの四隅にバンバン決まるんですよ。それは度肝を抜かれましたね。

――イングランド代表では、マンチェスター・ユナイテッドから移籍してきたニキータ・パリス選手も、国際大会で日本がそのスピードに苦しめられてきた選手の一人、という印象があります。

清家:ニキータは同居人なんですよ。

――そうなんですか!

清家:自分はもともと一人暮らしを考えていたんですが、英語を話せるようになるためには、チームメートと一緒に住んだほうがいいなと思ってお願いして、共同生活をさせてもらうことになったんです。クラブが提供してくれている広い一軒家に2人で住んでいるんですが、ニキータは優しくて、毎晩イングリッシュティーを作ってくれるんですよ。

――ほっとするエピソードですね。英語でどんな話をしているんですか?

清家:ニキータは毎晩、サッカーの試合を見ているんです。テレビで男子の試合や平日もやっているチャンピオンズリーグなどを見ているので、2人で紅茶を飲みながらサッカーを見て話しているんです。おかげで、サッカーも英語も学べています。

【連載後編】「レッズとブライトンが試合したらどっちが勝つ?とよく想像する」清家貴子が海外挑戦で驚いた最前線の環境と心の支え

<了>

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[PROFILE]
清家貴子(せいけ・きこ)
1996年8月8日生まれ、東京都出身。三菱重工浦和レッズレディースのジュニアユース、ユースを経て、2015年にトップチームに昇格。スピードと決定力を生かしてサイドハーフ、サイドバック、ウィングバックなどでプレーの幅を広げ、2023-24シーズンのWEリーグで得点王、ベストイレブン、MVPの個人3冠を受賞した。今夏のパリ五輪では4試合に出場。大会後にWSL(女子スーパーリーグ)のブライトン・アンド・ホーヴ・アルビオンWFCに移籍。デビュー戦となった9月21日の開幕戦・エバートン戦でハットトリックを記録する好スタートを切り、9月のWSL月間MVPを受賞。2023年AFC年間優秀選手賞を受賞した。

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