12月28日に開幕する全国高校サッカー選手権大会。48校が4つのブロックに分かれたトーナメントの「Aブロック」が“死の組”であると注目を集めている。第1シードの青森山田を始め、尚志、静岡学園、東福岡の高校サッカーの最上位リーグ・プレミアリーグを戦う4チーム。そして、その下のプリンスリーグ勢の5チームを含め強豪校がひしめき合う。今大会の行方を大きく左右するAブロックを中心に選手権の展望と注目校、注目選手を見ていこう。
(文=松尾祐希、写真=長田洋平/アフロスポーツ)
例年以上に波乱が多かった地区大会
今年度の開催で103回目を迎える全国高校サッカー選手権大会。昨年度は青森山田が2年ぶり4度目の優勝を果たした。
最後に笑うのは果たしてどこか。夏のインターハイを制した昌平(埼玉)、同準優勝の神村学園(鹿児島)、ベスト4の帝京長岡(新潟)といった高円宮杯 JFA U-18サッカープレミアリーグ勢が地区大会で姿を消し、昨年度の選手権で全国4強の市立船橋(千葉)も千葉県大会の準決勝で敗退。その他にもU-19日本代表MFの布施克真を擁する日大藤沢(神奈川)や今年度のインターハイで8強入りを果たした国見(長崎)、全国大会常連の立正大淞南(島根)も地区大会で涙をのんでおり、例年以上に波乱が多かった。
そうした状況下で迎える今年度の選手権。青森山田(青森)が連覇を成し遂げるのか。それとも流経大柏(千葉)、前橋育英(群馬)、東福岡(福岡)といった全国優勝経験校が再び凱歌を上げるのか。新興勢力が一気に頂点へ駆け上がるのか。準決勝までの山を4つに分け、“死の組”と話題を呼ぶAブロックを中心に、過去の“死の組”も踏まえながら大会を展望していく。
「死の組を制して日本一」は難しいミッション
全試合が中1日以上で行われるようになった2021年度以降で、“死の組”と呼ばれるブロックが形成された大会は幾度もあった。
最もわかりやすい例は昨年度だろう。Bブロックに青森山田、昌平、静岡学園(静岡)、米子北(鳥取)、大津(熊本)といったプレミアリーグ勢が5チームも同居。その中で準決勝まで勝ち上がったのは大会を制した青森山田だったが、静岡学園が2回戦で敗れたため、プレミアリーグ勢と対戦したのは準々決勝が初。逆にその青森山田に4−0で敗れた昌平は2回戦で米子北(1−1/4PK3)、続く3回戦で大津(2−2/5PK4)に勝利したものの、強豪校との対戦が続いた余波を受けて8強で力尽きた。最終的にプレミアリーグ勢との対戦を最小限に留められた青森山田は消耗を抑えながら、一気に頂点へ駆け上がったのは決して偶然ではないだろう。
現行の日程になる以前も死の組は存在したが、強豪校と戦い続けて勝ち上がったチームは少ない。もちろん、順当に勝ち上がらないケースも多く、一概には言えないが、近年で強豪校を連破して頂点に立ったのは2018年度の青森山田くらいだろう。3回戦でプレミアリーグ勢の大津を3−0で下し、準々決勝では高円宮杯 JFA U-18サッカープリンスリーグ関東を制した矢板中央(栃木)を2−1で撃破。そして、準決勝では翌シーズンからのプレミアリーグ参入を決めていた尚志(福島)を迎え撃つ。当時2年生の染野唯月にハットトリックを達成され、窮地に陥ったものの、2−3から土壇場で追いついてPK戦で勝利。決勝ではプレミアリーグEASTでDF関川郁万を擁する流経大柏(千葉)を3−1で下し、2度目の優勝を達成した。
過去の大会を踏まえても、死の組を制して日本一を達成するミッションは簡単ではない。そうした前例を踏まえ、今冬の戦いを予想していくと、Aブロックの結果が結末を大きく左右する可能性が高い。
強豪校がひしめくAブロックを制するのは?
その“死の組”Aブロックは、プレミアリーグ勢の青森山田、尚志、静岡学園、東福岡が同居する最激戦区となった。
上記の4チーム以外にも専大北上(岩手)、新潟明訓(新潟)、阪南大高(大阪)、高川学園(山口)、長崎総大附(長崎)といった各地域のプリンスリーグで鎬を削る強豪校が入っており、県リーグで戦っているチームは僅かに3校(正智深谷[埼玉]、広島国際学院[広島]、高知[高知])。この数字からもいかにAブロックが“死の組”になっているかがわかるだろう。
そうした状況下で勝ち抜くのはどのチームも簡単ではない。その中で国立行きの最右翼はやはりプレミアリーグ勢だろう。今季は開幕当初からプレミアリーグで不安定な戦いを見せていた青森山田は現状高卒でプロ入りを決めたタレントはおらず、夏のインターハイも準々決勝で敗退。しかし、夏以降は昨年度のレギュラーで主将を務める右サイドバック小沼蒼珠を中心に一致団結。9月にはリーグ戦でJユース勢を相手に3試合連続完封勝利を収めるなど、右肩上がりで調子を上げて選手権出場を決めた。2回戦(シードのため初戦)で高川学園、順当にいけば3回戦では静岡学園、準々決勝では尚志もしくは東福岡と当たる可能性がある。タフな組み合わせになったのは間違いないが、堅守とセットプレーという一発勝負向きの2つの武器を組み合わせれば、十分に全国制覇を狙えるだろう。
ただ、青森山田が図抜けた力を持っているわけではなく、プレミア勢の力は横一戦。伝統のテクニカルなスタイルで勝負する静岡学園も力があり、尻上がりに調子を上げている。また、いきなり初陣で実現した尚志と東福岡は1回戦屈指の好カード。尚志はプレミアリーグEASTで残留争いを強いられているが、大内完介、髙橋響希といったテクニカルなMFが牽引する攻撃陣は破壊力がある。一方の東福岡は今シーズンから指揮をとるOBの平岡道浩監督のもと、粘り強い守備と攻撃力で福岡県大会を圧倒的な力で勝ち上がった。特にプレミアリーグ残留が決まった10月以降に攻撃をテコ入れし、両翼からの崩しを再構築。得点力が増し、伝統のサイドアタックが復活しつつある。近年は低迷し、3年ぶりの選手権出場になるが、勢いに乗れば全国制覇も夢ではない。
もちろん、プリンスリーグ勢も力があり、関西で上位争いを展開している阪南大高、北信越で2位に入った新潟明訓(新潟)も見逃せない。特に新潟明訓は新潟県大会の準決勝で帝京長岡を撃破しており、全国トップクラスのチームに対抗できる力を持つ。
強豪校がひしめくなかで、どこがAブロックを制するのか。優勝争いにも直結するだけに最も注目すべき山だろう。
1回戦でプレミアリーグ勢同士の対戦となるBブロック
死の組以外を紐解いていくと、Bブロックの有力校は前橋育英と米子北だろう。1回戦でいきなりプレミアリーグ勢同士の対戦となるが、この初戦がBブロックを占う上で肝となる。
前橋育英はインターハイ出場を逃したが、夏以降に守備陣が整備されてチーム力がアップ。キャプテンのMF石井陽を中心にまとまっており、2年生MF平林尊琉といった下級生の存在も面白い。攻守でバランスが取れており、初戦を取れれば一気に駆け上がる可能性を秘めている。
対するインターハイ4強の米子北は夏以降にケガ人が続出。プレミアリーグWESTでも苦戦を強いられており、台所事情は苦しい。いきなり強豪校との対戦となるが、策士でもある中村真吾監督がどのような手を打ってくるのか注目したい。
サウザンプトン加入内定FWが登場するCブロック
CブロックはAブロックほどではないが、有力校が揃う組分けとなった。
プレミアリーグWESTを制した大津と流経大柏が順当にいけば3回戦で当たる見込みで、反対側の山はプリンスリーグ関東1部で上位を争う矢板中央が伝統の守備に加え、攻撃力に磨きをかけて全国舞台に乗り込む。初戦で対戦する岡山学芸館は2年前の覇者で、今季はプリンスリーグ中国で1敗しか喫さずに優勝を決めている。この注目カードを制しても、次なる相手はイングランドのサウザンプトン加入が内定している今大会ナンバーワンFWの高岡怜楓が率いる日章学園(宮崎)が待ち構えており、こちらも一筋縄ではいかない情勢だ。
とはいえ、好調を維持している大津と流経大柏の立場は揺るがない。特に流経大柏は榎本雅大監督が「迷いが確信に変わりつつある」と一時期の不調から脱したことを明かしており、チームとして手強い。技術力が高い選手が揃っているだけではなく、汗をかける集団でもあり、心身ともに充実しているのは間違いない。番狂わせがなければ、この両雄の勝者が国立行きの有力候補だろう。
本命不在のDブロック。15年ぶり出場の帝京は…
15年ぶりに選手権へ帰ってきた帝京(東京B)が入ったDブロックは本命不在で、どのチームにもチャンスがある。
昨季のインターハイを制した明秀日立(茨城)は下級生時にインターハイ優勝を経験した選手が多く、伝統のフィジカルを生かしたスタイルで上位進出を目論む。神村学園を撃破して8年ぶりとなる選手権出場をつかんだ鹿児島城西(鹿児島)は突出したタレントはいないが、今季初参戦のプレミアリーグWESTで揉まれて成長が著しい。タフに戦えるチームでカウンターも鋭く、一発勝負向きのチームでもある。台風の目となり、国立行きをつかみ取っても不思議ではない。
そして、久しぶりに戻ってきた帝京は地力があり、全国大会でも上位を狙える力を持つ。U-18日本代表歴を持つ大型センターバック田所莉旺、パワーと決定力を兼備するFW森田晃を中心に攻守のレベルが高く、開幕戦となる京都橘(京都)との大一番を制して勢いに乗れば、4強行きの資格は十分にある。
一発勝負で決勝以外は延長戦なしの即PK。毎年のように波乱があり、有力視されているチームが早々に姿を消す大会も珍しくない。激戦必死の選手権。12月28日に幕を開ける真冬のビッグトーナメントを制するのは、果たしてどこか。
高校生の祭典から目が離せない。
<了>
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