NTTデータ関西は「地域に根ざした社会課題の解決」というミッションのもと、行政サービス、センシングDX、教育、さらにはスマートシティ推進など、地域社会の課題解決に貢献する事業を多数展開してきた。2022年に新規事業施策で立ち上がったのが、スポーツコミュニティプラットフォーム「GOATUS(ゴータス)」。立ち上げから2年、2024年12月にアプリがリリースされた。アスリートとファン、そして企業をつなぐこのアプリの発起人は今年で入社20年目となる山下だ。彼に「スポーツを軸とした街づくり」に乗り出したきっかけ、その想いを聞いた。
(インタビュー・構成=中﨑史菜、写真提供=NTTデータ関西)
地域課題解決のプロフェッショナルがスポーツ事業に参入
――NTTデータ関西では、これまで地域社会に根ざしたさまざまな事業を展開されてきましたが、その中で今回スポーツビジネスに参入されたきっかけはなんだったのですか。
山下:私たちNTTデータ関西は、行政サービスやセンシングDXによる防災や社会インフラ管理、大学支援、さらにはスマートシティ構想の推進など、多岐にわたる事業を展開しています。そのすべてに共通しているのは、「地域社会の課題を解決する」という目標です。私自身、2005年の入社以降、一貫して公共事業向けのサービスを担当してきました。
2022年、新たに過疎地域での自動運転導入の可能性を検討しはじめました。しかし、自治体の方々と対話を重ねる中で、「自動運転そのものへのニーズよりも、人々を地域に集める仕組みが必要だ」と気づかされたんです。
例えば、兵庫県の香住という地域では、おいしいカニというブランドがありますが、それだけではコロナ禍後の観光需要の復活には十分にはつながりませんでした。そこで、「スポーツイベントや健康増進につながる活動が、地域振興に寄与するのではないか」という発想に至ったのです。
その際ちょうど社内で行われていた、社員が手を挙げ、新規ビジネス創出にチャレンジできる新規事業施策の企画に応募し、スポーツコミュニティプラットフォーム「GOATUS(ゴータス)」を立ち上げることになりました。
――スポーツに対して可能性を感じられたわけですね?
山下:はい。ヒントとなったのは東京2020大会の「スポーツには世界と未来を変える力がある」という大会ビジョンでした。未曾有のパンデミックによる史上初の大会延期、次から次に押し寄せる課題の中にあっても誰一人諦めることなく希望を見出し歩み続ける姿は正にスポーツが持つ大きな力を感じた瞬間でした。
記憶を遡れば日本には古くから地域で開催される運動会があり、テント張りからリレーまで町内が一つになっていました。また、地元から全国大会へ出場するチームがあれば地域が一丸となって応援をしていました。今は少し失われつつある印象ですが、確かにそこにはスポーツをする人と見る人、そして支える人をつなげる文化が根づいており、スポーツをきっかけに地域が活性化する土壌が備わっていると確信しています。
「GOATUS」が目指す“Greatest Of All Time with US”
――コロナ禍以降の新たな地域課題に対応する必要性があり、その役割の一端をスポーツが担える可能性があったということでしょうか。その中で、「GOATUS」というプロジェクトが具体化していったのですね。
山下:はい。「スマートシティ」をもじり、「スポーツシティ」としてプロジェクトを開始しました。しかし正直なところ、最初はほとんど形のない単なるアイデアでした。スポーツ庁を始め、産官学さまざまな方々とのディスカッションやヒアリングを重ねてたどり着いたのは、「甲子園球場のデジタルプラットフォーム版」というビジネスイメージでした。
グラウンドでは、野球、サッカーなどのメジャースポーツからマイナースポーツまで、さまざまなスポーツ選手が夢に向かって活動しています。観客席からは、ファンがエールを送り支える。そして、甲子園球場の看板のように、チームや選手を応援してくれる企業が並ぶ……。これをデジタルプラットフォーム上に作り上げようと考えました。
――このビジネスモデルにたどり着くまでに、最も大きかった「気づき」はなんだったのでしょうか。
山下:「アスリート」「ファン」「スポーツチーム」の3者が、それぞれに抱えている課題に気づけたことが大きかったと思います。
スポーツ業界の方とお話しする中で、スポーツで生計を立てられるアスリートはごく一握りであること、それ以外のアスリートは資金が足りずに夢を諦め、競技をやめてしまうという現実を知りました。また、個人SNSに向けられた誹謗中傷に悩むアスリートも多くいます。
一方、コロナ禍でファンの「応援の仕方」が制限されました。例えば、フィギュアスケートで演技が終わった後にリンクに花やぬいぐるみを投げ入れることができなくなり、ファンも、「応援したいのにできない」というフラストレーションを抱えていたのです。
また、スポーツチームは資金難や人材不足から、「広報」になかなか労力を割けていません。また、「広報活動がどれだけ収益につながっているか」を可視化することに難しさを感じていました。
このように3者の課題を同時に解決する方法を考え、辿り着いたのがコミュニティプラットフォーム「GOATUS」でした。
――「GOATUS」という名前には、どのような意味が込められているのですか?
山下:「GOATUS」は、「Greatest Of All Time with US(最高の瞬間をともに)」という言葉に由来しています。私たちは、「GOATUS」を通じて、アスリートとファンの夢をともに叶えることを目標としています。このプラットフォームでは、チームの公式アカウントや、アスリート個人が自分の目標や夢を発信するアカウントを持つことができ、それに共感したファンが応援でき、ファンが撮影した写真をチームやアスリートが公式ページでシェアできる仕組みを提供しています。 「アスリートとファンの夢をともに叶える」ことを一番の軸としているので、ファンからのギフティング(エール)は最大9割以上を応援金として当社からアスリートにお支払いし、アスリートが新たな挑戦に踏み出しやすい環境を作ります。この点は、他のギフティングサービスと一線を画すポイントだと思います。
「GOATUS」が社内風土を醸成
――このような革新的な取り組みを推進する上で、特に苦労されたことや課題はありましたか?
山下:2019年、新規事業を立ち上げるための「ビジネスイノベーション室」が発足し、私も配属されました。しかし、私自身で新規事業を立ち上げることができなかったんです。
しかし、社員の想いで立ち上がった今回の「GOATUS」では、経営層をはじめとする多くの方々の協力を得ることができました。実は、「GOATUS」が会社にとって初めて社員から創出されたビジネスであり、初めてのBtoCプラットフォームであり、初めてのスポーツ業界でのビジネスなんです。
――会社としても、こうした新規事業を推進する中で、社員の意識改革が進んだのではないですか?
山下:そうですね。このプロジェクトを通じて、社内の若手社員たちが新しい経験を積み、自分たちの手で新しい価値を生み出すという姿勢が芽生えたと思います。今、一緒にプロジェクトに取り組んでいるメンバーが、新たな社会課題に対してまた新たな事業を立ち上げていってくれたらうれしいですね。
<了>
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[PROFILE]
山下剛直(やました・たけなお)
株式会社NTTデータ関西 第二公共事業部 第一ソリューション担当 課長。2005年4月株式会社NTTデータ関西入社。システムエンジニアとして通信情報基盤構築案件を歴任。2019年に社長直轄部署であるビジネスイノベーション室に異動。広域エリアをカバーするDX Wi-Fiのディストリビューター事業を技術・営業支援担当として立上げる。2022年7月に第二公共事業部に戻り、公共事業の新規ビジネス企画に従事。2022年10月、「GOATUS(ゴータス)」を新規企画。2024年4月よりマネージャに就任。現在はGOATUS及びスポーツビジネスの事業創発に従事している。