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高卒後2年でマンチェスター・シティへ。逆境は常に「今」。藤野あおばを支える思考力と言葉の力

REAL SPORTS 2024年12月26日 23時21分

今夏に日テレ・東京ヴェルディベレーザからマンチェスター・シティに移籍し、着実にステップアップを遂げている藤野あおば。20歳のアタッカーは自他ともに認める人見知りでシャイな性格だが、試合後の会見やメディアのインタビューでは、その論理的思考を裏づけるように言葉があふれてくる。その思考力や言語力は、どのように培われてきたのだろうか。高校卒業から2年でビッグクラブへと羽ばたいた実力を育んだ習慣、課題を克服してきた原動力について、父・大輔さんと母・亜希子さんのインタビューを通じて紐解いていく。

(インタビュー・構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]、写真提供=ムツ・カワモリ/アフロ)

逆境は常に「今」。課題克服のための習慣とは? 

――あおばさんは日テレ・ベレーザ(現日テレ・東京ヴェルディベレーザ)の下部組織のセリアスから中学3年生の時にメニーナに昇格できなかった時など、挫折もあったと思いますが、そういう局面ではどのようにサポートされていたのですか?

亜希子:自分なりにいろいろ考えていたと思うんですが、もともと寡黙で、小さい時から自分の思っていることをすぐに言葉に出さない子だったので、私たちに悩みを相談することはほとんどなかったです。ただ、上の姉とは仲が良かったので、自分の思いを相談することはあったかもしれないですね。

――これまでのキャリアで一番大きな逆境はどんなことだったのですか?

大輔:常に「今」が逆境だと捉えていると思います。中学でセリアスに上がった時も「全然ついていけない」と言っていましたし、十文字高校に行った時も、ベレーザに行った時も、最初は「何もかも足りない」と、新しい環境になるたびに同じように言っていました。それでも結果的になんとかなってきたのは、本人の努力の成果だと思います。マンチェスター・シティに入ってからも、大きな壁にぶつかりながら、もがいていますから。

――とはいえ、ベレーザではデビュー翌年にベストイレブンに輝き、代表でも短期間でレギュラーに定着しています。課題を克服する速さの秘訣は、どんなことだと思いますか?

大輔:試合の結果にかかわらず、終わった後に映像を必ず見返して「自分がどうすべきだったか」をいつもよく見ていました。Jリーグや海外のサッカーの試合も時々見ていましたが、まずはとにかく自分の映像を隅々まで見ることが、課題を克服するための彼女のやり方なのだと思います。

プレーと言語力支える観察力と準備。「人事を尽くして天命を待つ」

――あおばさんは自他共に認めるシャイな性格だそうですが、取材の時はプレーを具体的かつ論理的に分析し、笑いを交えて報道陣を笑わせることもあり、コミュニケーション力の高さが際立ちます。ご家庭でも、自分の思いを言葉にする機会は多かったのですか?

大輔:あおばだけでなく、5歳上の兄の大樹も、2歳上の姉のひなたも含めて3人とも、言葉で表現するのは昔から得意だった印象です。ただ、あおばは家の中では自分からアウトプットしている姿はあまり見せなかったので、「今は外でしっかり話しているんだな」と驚くこともありますね(笑)。私も長男も長女も、みんな会話の中で笑いを取ろうと狙ったりすることが多いので、そういうのをよく観察して、自分なりの表現を磨いていたのかなと思います。

――語彙力や表現力なども、本を読むというよりは、日常の会話の中から得ていたのでしょうか。

亜希子:そうだと思います。指導者の方や、外でお話しされる方たちの話をいつも熱心に聞いていたので、そこで自分でもいろんな言い回しを習得していたのではないかと思います。本も嫌いではなかったので、中学や高校など、外では読んでいたんじゃないかと思います。

――座右の銘には「人事を尽くして天命を待つ」を挙げています。「できる限りの努力をして、結果は天に任せる」という意味が込められた言葉ですが、あおばさんらしい表現だと感じますか?

亜希子:そうですね。「思い立ったらすぐに行動する」というよりは、まず入念に計画を立てて、できる準備や対策を考え抜いてから挑むところはありますね。それは人付き合いでも同じで、「自分がどうしたいか」ではなく、会う相手のリサーチをして、「この人だったらこういうふうに接するのがいいんじゃないか」と考えることもよくありました。初めて代表に招集していただいた時も、なでしこジャパンの先輩方のデータを調べて、「自分より何歳先輩なのか」とか、経歴なども下調べして自分のノートに書いていました。それはなでしこジャパンだけではなく、世代別の代表の時もやっていましたね。初めてお会いする方は、話しながら様子を見て、「この人はこういうのが嫌なんだろうな」と思ったら、それを覚えておいて、次に会う時に生かすような感じで。準備をする努力は怠らないところはありますね。

――試合中のプレーでも、その徹底した「準備」が役立っているのですね。

大輔:そうかもしれません。私が彼女の試合や映像を見ている時によく気づくのですが、シュートを外したり、何かミスをしてうまくいかなかった時に、直後に一人言のようにぶつぶつしゃべっているんですよ。ミスの後にすぐ、「こうした方がよかった」と自分に言い聞かせていて、常に考えながらプレーしているんだなと感じました。

パリ五輪でも女子最年少ゴールを記録。届いたビッグクラブのオファー

――2022年のFIFA U-20女子ワールドカップを経て、翌23年にはFIFA女子ワールドカップ、そして24年のパリ五輪と、代表でも主力として活躍しました。国際大会は、いつも現地で応援されているのですか?

大輔:ニュージーランド(女子ワールドカップ)とパリ(五輪)は、2人で行きました。長男と長女は現地で集合し、家族全員で応援しました。

――ワールドカップでは19歳で日本人史上最年少ゴール、パリ五輪予選では出場権がかかった北朝鮮戦で決勝ゴールを決め、パリ五輪ではなでしこジャパンのオリンピック最年少ゴールを決めました。大一番で勝負強さを見せてきたあおばさんの活躍を、どんな思いでご覧になりましたか?

大輔:私たち夫婦は純粋に、我が子がシュートを決めて「わーっ!」と心から喜んでいますけれど、それ以上に周りの方や日本のサポーターの方々がすごく喜んでくれるので、それにいつも感動しています。

――亜希子さんは、子どもたちのために海外のトッププレーヤーの映像や本を集めたりしてサポートされていたそうですが、マンチェスター・シティからオファーが来た時はどんな思いでしたか?

亜希子:「オファーが来たよ」と教えてくれた時は率直に嬉しかったです。ただ、「親を喜ばせたい」という思いがあるようなので、本人の前では喜びすぎないようにしました。一番大切なのは本人の意思で、主人ともあおばが『ここでやりたい』と思えるチームを時間がかかっても選べればいいね」と常々話していたんです。だから、本人が他の選択肢を選びたい時に躊躇しないように「良かったね」という程度の反応でした(笑)。

大輔:あおばとは「試合に出られるチームに行けたらいいね」と話をしていたんです。それがいきなりマンチェスター・シティというのは、大丈夫なんだろうか?試合に出られるのかな?という不安はありました。ただ、最後は本人が決めることなので、特に何か意見を言うことはありませんでしたね。

新天地の挑戦にエール「小さな成長に喜びを感じて」

――マンチェスター・シティに加入して4カ月目になり、出場機会も増えてきましたが、試合はどのようにご覧になっていますか?

大輔:いつもYouTubeで試合を見ています。ありがたいことに、今までは高校でもWEリーグでも先発で起用してもらえることが多かったので、マンチェスター・シティではポジション争いの中で、試合の1時間ぐらい前にXやインスタグラムで発表される先発メンバーを見て、「今日スタメンだ!」とか「サブなのか」と、新鮮な気持ちで見ています。今はそういう競争の最中にいるんだなと感じていますし、試合に出た時は「頑張れ!」って、思い切り応援しています。

――試合ごとにできることも増えている印象を受けますが、現在の成長曲線はどのようにご覧になっていますか?

大輔:妻が加入から2カ月ぐらい、マンチェスターで一緒に生活をサポートしていたんです。想像はしていましたが、やはり本当に強いチームで、周りも上手い選手たちばかりなので、最初は「1年後ぐらいに試合出られるようになって、チームに貢献できるようになっていたらいいね」と話していました。ただ、3カ月経った今は、試合に出る機会もいただき、「何もできない自分が悔しい」と話しているのを聞いて、成長を実感しています。

――試合に出て活躍しているように見えても、本人としては「何もできなくて悔しい」と感じていることが多いのですか?

亜希子:評価していただけるような活躍をした試合でも、毎回感想を聞くと「全然できていない」という答えが返ってきて。いいプレーができてないはなおさら落ち込んで、すごいへこみようでした(苦笑)。

大輔:十文字やベレーザではゴールを決めてチームの勝利に貢献すると決めて頑張ってきたので、今は「まだチームに貢献するところまで行けていない」「まだまだ足りない」と感じているようです。

――環境が変わっても、自分に課す目標はブレないのですね。代表では2027年のワールドカップ、そして2028年のロサンゼルス五輪に向けて、新体制で再出発となります。イングランドと代表での活躍が期待されるあおばさんにエールを送るとしたらどのような言葉ですか?

大輔:月並みですが、サッカーを思い切り楽しんでほしいです。もちろん、楽しむためには試合に出た方が楽しいでしょうし、いいプレーをした方が楽しいと思うので、その中で自分らしくやってほしいと思っています。これからも、つらい時や苦しい時はたくさんあると思いますが、いつでも「自分が楽しむ」ということを目指してほしいと願っています。

亜希子:「楽しんでほしい」というところは主人とまったく一緒です。自分に厳しいところがあるので、課題は誰かが言わなくても向かい合って努力できるので、できたことはしっかり認めて、小さな成長に喜びを感じながら楽しくサッカーを続けてほしいと思っています。

【連載前編】女子サッカー育成年代の“基準”上げた20歳・藤野あおばの原点。心・技・体育んだ家族のサポート

<了>

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[PROFILE]
藤野あおば(ふじの・あおば)
2004年1月27日生まれ、東京都出身。女子サッカーのイングランド1部(女子スーパーリーグ)・マンチェスター・シティWFC所属。日テレ・東京ヴェルディベレーザの下部組織であるセリアスで育ち、トップ昇格は叶わなかったが、進学した十文字高校では年代別代表でも規格外の存在感を放ち、2022年にベレーザに加入。スピードに乗ったドリブルと左右両足から放たれる外国人選手並みのシュートインパクトで1年目から主力として活躍し、翌シーズンからWEリーグで2年連続ベストイレブンに選出。22年8月のFIFA U-20女子ワールドカップでは飛び級で背番号10をつけ、準優勝の原動力になった。同年9月になでしこジャパンに初選出され、主力に定着。23年夏のFIFA女子ワールドカップではコスタリカ戦で日本人史上最年少ゴール記録(19歳180日)を記録。24年2月のパリ五輪アジア最終予選の北朝鮮戦ではオリンピック出場権がかかった試合で決勝ゴールを決め、今夏のパリ五輪ではスペイン戦で女子のオリンピック最年少ゴールを奪取。大会後にマンチェスター・シティに3年契約で移籍することが発表された。

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