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高校サッカーに訪れたビジネスの波 スポンサー入りユニフォームの是非を考える

REAL SPORTS 2019年6月4日 11時0分

今、高校サッカー界にあるトレンドが表れ始めている。それは、Jリーグクラブのアカデミーだけでなく、いくつかの高体連チームのユニフォームにもスポンサーがついていることだ。「スポーツの産業化」が叫ばれる中、プロスポーツだけでなく学生スポーツにもビジネスの波が訪れるようになっている。

なぜ高体連のユニフォームにスポンサーが入るようになったのか? そのメリットや課題とは何なのか? あらためて、高校サッカー、学生スポーツのあるべき姿を考えたい。

(文=池田敏明、写真=Getty Images)

冬の選手権ではスポンサー入りユニフォーム着用が認められていない

プロスポーツだけでなく、学生スポーツもビジネス化が進んでいる。春と夏に行われる高校野球の甲子園大会や年末年始の全国高校サッカー選手権大会、箱根駅伝などはメディアへの露出も多く、多くの観客を集めるため、最近ではさまざまな企業が関わる一大イベントとなっている。

サッカーの2種(高校生年代)カテゴリーでは、そんなビジネス化の波が新たな局面を迎えつつある。高校サッカー部のユニフォームに、企業のロゴが掲出されるケースが増えているのだ。青森山田や東福岡、前橋育英、尚志、京都橘、國學院久我山、米子北、市立船橋など、主に強豪校に限られた話ではあるが、ユニフォームの胸部分や背中、パンツなどに企業のロゴが掲出される様はJリーグクラブを彷彿させる。

こういったケースがまだあまり一般的に知られていないのは、メディアへの露出が少ない高円宮杯 JFA U-18サッカープレミアリーグやプリンスリーグなどに限定されているからだ。全国高等学校体育連盟(高体連)の管轄である冬の選手権では企業ロゴの掲出は一切、認められていないため、学校名が記載されたおなじみのユニフォームが使用されている。

ユニフォームにスポンサーを入れる流れは今後さらに加速すると考えられるが、スポンサー企業側と学校側、それぞれどのようなメリットとデメリットが考えられるだろうか。

遠征費用などによる金銭的負担を軽減する

企業側のメリットとしては、高校サッカー部をサポートすることでイメージアップにつながるという面は大きいだろう。プロクラブとの契約と比べてビジネス臭はせず、純粋に応援している、という印象を与えることができる。前橋育英のユニフォームには群馬県に本社があるヤマダ電機のロゴが掲出されているが、両者は共同でサッカー教室を開催するなど、地域貢献を促進させるという側面もあるだろう。また、サポートする高校の所属選手が後にプロになり、海外クラブに移籍したり、日本代表で活躍したりした場合に、高校時代からのつながりを生かして広告に起用する、という先行投資的な側面も期待できる。

高校側にとっての最大のメリットについては、昨年8月に市立船橋とスポンサー契約を結んだマイナビのリリースを見ると分かりやすいだろう。同リリースには市立船橋側のコメントとして、プレミアリーグ参加のための遠征費用について「日本サッカー協会からの補助金や船橋市等からの補助はあるものの、依然として保護者の負担はかなり大きなもの」となっている現実があり、スポンサー契約を結ぶことによって「保護者負担の軽減だけではなく、経済的に困難な状況にある才能ある生徒に参加の機会を与える」ことが期待できるとある。つまり、両者のスポンサー契約は資金提供を伴うものであり、それを遠征費用に充てることで、選手たちは家庭に大きな負担をかけることなく遠征に参加できるようになっている。チームにとってはメンバー選考の幅が広がり、選手たちも競技に集中できるようになる、というのは何より大きなメリットだ。

すべてのケースが資金提供を伴うものではなく、例えば青森山田はJAL、BALANCE STYLEとのスポンサー契約について、移動着やユニフォーム、ウェア等での協力を得ていることを明らかにしているが、市立船橋と同様のケースは今後、増えていくだろう。また、広告掲出は胸の他に背中の上部と裾部分、パンツ、袖などが可能だが、契約を結ぶ企業が増えればそれだけチームの活動に関する負担は軽減され、さらに競技に集中しやすい環境がつくられるだろう。

選手たちは今まで以上に責任ある行動を取らなければならなくなるが、それが人間形成に資する側面もあるだろうし、企業側の人間とコミュニケーションを取る機会が多くなれば、それだけ個々の世界を広げるきっかけを増やすことになる。高校側にとっても、さまざまなメリットがあるといえるだろう。

今まで以上に大きくなるチーム間・競技間の格差

一方、デメリットもないわけではない。企業側としては、期待どおりの費用対効果が得られるかどうか、という問題がある。上述したとおり、ロゴが掲出されるのは露出の少ない大会に限定される。一般メディアも大きく取り上げる選手権で着用するユニフォームにロゴを掲出できたらどんなにいいだろうか、と考える企業側の人間もいるだろうし、メリットがないと判断して契約を打ち切ったり、更新しなかったりすれば、学校や選手の負担が急に増えることになる。

また、部活によっては100名以上の部員が所属するところもあり、そういった部はトップチーム以外にBチーム、Cチームなどを有し、各都道府県リーグやルーキーリーグに登録している。企業ロゴが掲載されたユニフォームを着用するのはトップチームだけで、それ以外は通常のユニフォーム、というケースが多く、企業ロゴを掲載することの意味や責任を全員が認識していない可能性もある。それだけの大所帯だと何らかの不祥事が起こる可能性もあるだろうし、そうなった場合は企業側もダメージを受ける。もちろん企業の不祥事が高校に及ぼす影響もゼロではない。

将来的にロゴの掲出がより一般的になり、知名度の高いチームへのロゴ掲出をめぐって企業同士が争奪戦を繰り広げるような状況になれば、企業側が部活の関係者に“何らかの形で”便宜を図ろうとする動きが出てきてもおかしくはない。不正の温床になる可能性も潜んでおり、発覚すれば大問題になることは間違いない。

そして、チーム間の“格差”は今まで以上に大きくなるだろう。人工芝の専用グラウンドやS級ライセンスを持つ指導者など、恵まれた環境を有する私立高校や強豪校がただでさえ優勢である中、スポンサーがついて金銭的負担が軽減されるとなれば、人材の集中はさらに進み、それ以外の部活の存在意義が問われる事態にもなりかねない。また、各高校が抱えるのはサッカー部だけではないわけで、学校内の部活間での確執が生じる可能性もある。

高校サッカー部のユニフォームにスポンサーが入る流れは、今後さらに広がっていくだろう。それが一部の私立高校、強豪校に限定されるのではなく、どうせなら日本中を巻き込んでさまざまな高校に広がり、一般的な事例になるのが理想的な展開だ。また、企業が各学校全体のスポンサーとなり、部活動にいそしむ全員がその恩恵を授かりつつ、責任を感じ、その意味を理解しながらそれぞれの競技に打ち込むようになれば、それが究極の形といえるのではないだろうか。

<了>









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