プロ野球チームの価値とはなにか――。
野球が勝敗を競うスポーツである以上、もっとも大切なのは「勝つこと」=「強いこと」なのは間違いない。ただ、それだけで球団の価値が決まるかというと、決してそうではない。
プロ野球は勝敗を競い、リーグ優勝、日本一を争うスポーツであると同時に、興行でありエンターテインメントでもある。スタジアムに観客を呼び、グッズを売り、世の中に大きな影響を与えられる存在でなければならない。
そこで本稿では、プロ野球12球団を3つの視点で格付けし、球団価値を独自のデータで客観化してみた。
もちろん、ここで紹介するデータだけで本当の意味での球団価値が決まるわけではないが、最大限主観を取り除き、目に見える「数字」でランキング化することで、「勝敗」だけではない球団の付加価値も感じていただければ幸いだ。
(文=花田雪、写真=Getty Images)
1stステージ:成績ランキング 首位は過去10年で5度日本一のソフトバンクまずは、プロ野球チームとして最も大切な「チーム力」=「戦力」に軸を置いたランキングを紹介したい。下表は2009~2018年までの12球団のリーグ成績と日本一の一覧だ。
リーグ1位=6Pt~6位=1Ptとする。また、日本一になった場合はさらに3Ptをプラスする。
日本一を3Ptに設定したのは、各年度「日本一になったチーム」のポイントがもっとも高くなるようにするためだ(リーグ3位から日本一になった場合は7Pt、リーグ優勝チームは6Ptになる)。
ちなみに、リーグ優勝を逃した上でクライマックスシリーズを勝ち上がり、日本シリーズに進出しただけでは追加ポイントは与えないものとする。
これは、リーグ優勝チームに最大限の敬意を払うためと考えてほしい。
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1位 福岡ソフトバンクホークス 66Pt
09年:3位 10年:1位 11年:1位
12年:3位 13年:4位 14年:1位
15年:1位 16年:2位 17年:1位 18年:2位
日本一:5回(11年,14年,15年,17年,18年)
2位 読売ジャイアンツ 55Pt
09年:1位 10年:3位 11年:3位
12年:1位 13年:1位 14年:1位
15年:2位 16年:2位 17年:4位 18年:3位
日本一:2回(09年,12年)
3位 北海道日本ハムファイターズ 45Pt
09年:1位 10年:4位 11年:2位
12年:1位 13年6位: 14年:3位
15年:2位 16年:1位 17年:5位 18年:3位
日本一:1回(16年)
4位 埼玉西武ライオンズ 41Pt
09年:4位 10年:2位 11年:3位
12年:2位 13年:2位 14年:5位
15年:4位 16年:4位 17年:2位 18年:1位
5位 広島東洋カープ 38Pt
09年:5位 10年:5位 11年:5位
12年:4位 13年:3位 14年:3位
15年:4位 16年:1位 17年:1位 18年:1位
6位 阪神タイガース 36Pt
09年:4位 10年:2位 11年:4位
12年:5位 13年:2位 14年:2位
15年:3位 16年:4位 17年:2位 18年:6位
7位 中日ドラゴンズ 35Pt
09年:2位 10年:1位 11年:1位
12年:2位 13年:4位 14年:4位
15年:5位 16年:6位 17年:5位 18年:5位
8位 東京ヤクルトスワローズ 32Pt
09年:3位 10年:4位 11年:2位
12年:3位 13年:6位 14年:6位
15年:1位 16年:5位 17年:6位 18年:2位
9位 千葉ロッテマリーンズ 30Pt
09年:5位 10年:3位 11年:6位
12年:5位 13年:3位 14年:4位
15年:3位 16年:3位 17年:6位 18年:5位
日本一:1回(10年)
10位 東北楽天ゴールデンイーグルス 29Pt
09年:2位 10年:6位 11年:5位
12年:4位 13年:1位 14年:6位
15年:6位 16年:5位 17年:3位 18年:6位
日本一:1回(13年)
11位 オリックス・バファローズ 23Pt
09年:6位 10年:5位 11年:4位
12年:6位 13年:5位 14年:2位
15年:5位 16年:6位 17年:4位 18年:4位
12位 横浜DeNAベイスターズ 20Pt
09年:6位 10年:6位 11年:6位
12年:6位 13年:5位 14年:5位
15年:6位 16年:3位 17年:3位 18年:4位
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その上で導き出したランキングの1位はソフトバンク。
過去10年間でリーグ優勝、日本一がともに5回、Aクラス9回と圧倒的な強さを誇っている。2位は球界の盟主・巨人。2012~2014年までのリーグ3連覇と、2度の日本一で大きくポイントを稼いだ。
昨年までセ・リーグ3連覇を果たしている広島はポイントの上では5位。
日本一を逃し続けていることと、過去10年でBクラスが5回という不安定さが響いた形だ。最下位はDeNA。
2009~2012年までの4年連続最下位(対象期間外も入れると2008年から5年連続最下位)、12球団で唯一、過去10年間で一度も2位以上になっていないことなどが理由だ。
「チーム力」の点で見ると、現在のプロ野球界を牽引しているのは間違いなくソフトバンクといえそうだ。
2ndステージ:観客動員数ランキング 球界の盟主・巨人が貫録の首位プロ野球が「興行」である以上、スタジアムに観客を呼ぶことができなければ意味がない。
もちろん観客動員はチームの成績にも左右されるが、決してそれだけではスタジアムは埋まらない。
ファンサービスやチケットのバリエーション、価格帯なども大きく影響する。
「ビジネス」としてプロ野球を見たとき、観客動員数からは各球団がどれだけの「顧客」を抱えた優良企業なのかが分かるはずだ。
表は、2009年~2018年までの過去10年間における12球団の主催試合平均観客動員数だ。
年間総動員数ではなく1試合平均にしたのは、単純にスタジアムに「どのくらい人が集まるか」がイメージしやすいためだ。
その上で、10年間の平均値を導き出し、ランキング化した。
(単位=人)
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1位 読売ジャイアンツ 4万1110
09年:4万0755
10年:4万1203
11年:3万7736
12年:4万0333
13年:4万1781
14年:4万1921
15年:4万2270
16年:4万1724
17年:4万1675
18年:4万1699
集客率(2018年):75.8%
2位 阪神タイガース 4万0145
09年:4万1765
10年:4万1745
11年:4万0256
12年:3万7886
13年:3万8494
14年:3万7355
15年:3万9977
16年:4万0994
17年:4万2148
18年:4万0831
集客率(2018年):85.9%
3位 福岡ソフトバンクホークス 3万3643
09年:3万1194
10年:3万0062
11年:3万1860
12年:3万3993
13年:3万3458
14年:3万4284
15年:3万5221
16年:3万5112
17年:3万5094
18年:3万6149
集客率(2018年):93.7%
4位 中日ドラゴンズ 2万9222
09年:3万1922
10年:3万0460
11年:2万9777
12年:2万8896
13年:2万7753
14年:2万7790
15年:2万8469
16年:2万8991
17年:2万7927
18年:3万0231
集客率(2018年):82.5%
5位 北海道日本ハムファイターズ 2万7350
09年:2万7669
10年:2万7027
11年:2万7644
12年:2万5813
13年:2万5773
14年:2万6358
15年:2万7221
16年:2万9281
17年:2万8978
18年:2万7731
集客率(2018年):67.2%
6位 広島東洋カープ 2万6185
09年:2万6015
10年:2万2224
11年:2万1980
12年:2万2079
13年:2万1744
14年:2万6455
15年:2万9722
16年:2万9963
17年:3万0670
18年:3万1001
集客率(2018年):93.9%
7位 埼玉西武ライオンズ 2万2281
09年:2万1042
10年:2万2101
11年:2万2106
12年:2万1195
13年:2万2234
14年:2万0811
15年:2万2456
16年:2万2791
17年:2万3239
18年:2万4833
集客率(2018年):74.0%
8位 横浜DeNAベイスターズ 2万1568
09年:1万7319
10年:1万6800
11年:1万5308
12年:1万6194
13年:1万9802
14年:2万1730
15年:2万5546
16年:2万6933
17年:2万7880
18年:2万8166
集客率(2018年):97.1%
9位 東京ヤクルトスワローズ 2万1510
09年:1万8505
10年:1万8513
11年:1万8726
12年:1万8371
13年:1万9899
14年:1万9983
15年:2万3021
16年:2万5063
17年:2万5871
18年:2万7152
集客率(2018年):85.3%
10位 オリックス・バファローズ 2万1454
09年:1万7860
10年:2万0049
11年:1万9458
12年:1万8482
13年:1万9979
14年:2万3663
15年:2万4890
16年:2万4923
17年:2万2658
18年:2万2575
集客率(2018年):62.5%
11位 東北楽天ゴールデンイーグルス 1万9597
09年:1万6711
10年:1万5856
11年:1万6225
12年:1万6358
13年:1万7793
14年:2万0142
15年:2万1467
16年:2万2513
17年:2万4931
18年:2万3972
集客率(2018年):77.8%
12位 千葉ロッテマリーンズ 1万9543
09年:2万0350
10年:2万1474
11年:1万8511
12年:1万7211
13年:1万7506
14年:1万6999
15年:1万8620
16年:2万1207
17年:2万0425
18年:2万3127
集客率(2018年):76.9%
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1位になったのは巨人。やはり、さすがの人気というべきだろう。年間70試合以上の主催試合で、1試合4万人以上をコンスタントに集客できる。これほどの集客力を誇るスポーツエンターテインメントは、今の日本ではプロ野球以外に見当たらない。2位以下は阪神、ソフトバンク、中日と続くが、実は注目したい点は他にある。
まず一つは、10年前と比べて、観客動員全体が伸びているという点だ。2009年時点では平均観客動員が2万人に満たない球団が4つもあった。しかし、10年後の2018年は全球団が平均2万人以上をマーク。上位の巨人、阪神などは4万人程度で推移していることから、観客動員の面ではトップと最下位の差が年々詰まっていることが分かる。特にここ数年、すさまじい勢いで観客動員を伸ばしているのがDeNAだ。「暗黒期」真っただ中の2011年に1万5000人台に落ち込んだ観客数は、2012年に親会社が代わって「横浜DeNAベイスターズ」となったころを境にV字回復。昨年は平均2万8166人を動員し、7年前からほぼ倍増させている。これは、チーム力が上がったことはもちろん、席種のバリエーションを増やす、球場でイベントを行うなどといった「ファンサービス」の成果といっていい。
さらに注目したいのが、「集客率」だ。12球団それぞれの本拠地は、収容人数、いわゆるキャパが違う。キャパ3万人のスタジアムでは、どう頑張っても巨人や阪神のように1試合平均4万人の観客を動員することはできない。だからといって、キャパが大きければいいというわけではない。集客力に見合ったキャパシティが、各球団の本拠地には求められるのだ。2018年の「集客率」を見ると、ソフトバンク、広島、DeNAが90%を超えている。特にDeNAは97.1%と、すでにキャパオーバーといっていい。こういった経緯もあり、横浜スタジアムには今年からライトスタンド後方に「ウィング席」が増設。今後はレフトスタンドも増設する計画で、さらなる観客増を見込んでいる。
3rdステージ:SNSフォロワー数ランキング トップは熱狂的なファンを持つ阪神「戦力」「動員力」の次は、世間への「影響力」をランキング化する。「影響力」をもっとも客観化できるものといえば、現在では間違いなくSNSだろう。
もちろん、フォロワー数=影響力の大きさとは一概に言い切れないが、これだけSNSが蔓延する世の中において「インフルエンサー」とは「フォロワー数の多い人」を指す。
ここではTwitter、Facebook、Instagramの公式アカウントから、各球団のネット上での影響力をランキング化してみる。
(単位=人) ※2019年7月13日現在
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1位 阪神タイガース 157万8437
T:137万5228
F: N/A
I : 20万3209
2位 福岡ソフトバンクホークス 124万5375
T:91万6030
F:14万9948
I :17万9397
3位 北海道日本ハムファイターズ 121万8454
T:92万8934
F:28万9520
I : N/A
4位 中日ドラゴンズ 95万8860
T:81万8836
F:14万0024
I : N/A
5位 千葉ロッテマリーンズ 94万2623
T:75万6218
F: 8万5284
I :10万1121
6位 読売ジャイアンツ 93万2267
T:39万9268
F:30万2871
I :23万0128
7位 東北楽天ゴールデンイーグルス 92万9917
T:65万6844
F:17万8092
I : 9万4981
8位 東京ヤクルトスワローズ 68万6539
T:60万9009
F: 7万7530
I : N/A
9位 埼玉西武ライオンズ 47万2333
T:39万7376
F: 7万4957
I : N/A
10位 オリックス・バファローズ 45万3407
T:32万3523
F: 5万7151
I : 7万2733
11位 横浜DeNAベイスターズ 37万4176
T:12万2943
F:15万8901
I : 9万2332
12位 広島東洋カープ 9万4037
T: N/A
F: N/A
I :9万4037
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SNS上で圧倒的なフォロワー数を誇るのが阪神だ。
Twitterでは12球団唯一のフォロワー100万人超えを果たしている。投稿頻度もかなり高く、選手の素顔といったSNSならではのつぶやきはもちろん、スタメン発表や試合速報など「情報」に特化したつぶやきも多い。
熱心な虎党は公式アカウントさえフォローしておけば、試合の動向を逐一確認できるというわけだ。
一方、ファンの数では負けていないはずの巨人は、TwitterよりもむしろInstagramに力を入れている。
投稿のほとんどが選手の素顔やベンチの裏側といった「ファン泣かせ」のもの。若年層、女性層をターゲットにしているのがよくわかる。
一方で、意外だったのは公式アカウントを持たない球団がまだあるということ。
Twitterは広島を除く12球団が持っているが、Instagramに至っては4球団が公式アカウントを発見できなかった。
厳密にいうと、ソフトバンクと広島の2球団のアカウントにも「公式マーク」は付いていない。
ただし、投稿を見る限り「公式」なのは間違いないため、早いところ承認してほしいと願わずにはいられない。
総合ランキングの結果は……
最後に総合ランキングの発表だ。これまで紹介してきた「戦力」「動員力」「影響力」それぞれのランキング順位をポイント化(1位=12Pt~12位=1Pt)した合計で12球団を格付けしてみよう。
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1位 福岡ソフトバンクホークス 33Pt
1st :1位(12Pt)
2nd:3位(10Pt)
3rd :2位(11Pt)
2位 阪神タイガース 30Pt
1st :6位(7Pt)
2nd:2位(11Pt)
3rd :1位(12Pt)
2位 読売ジャイアンツ 30Pt
1st :2位(11Pt)
2nd:1位(12Pt)
3rd :6位(7Pt)
4位 北海道日本ハムファイターズ 28Pt
1st :3位(10Pt)
2nd:5位(8Pt)
3rd :3位(10Pt)
5位 中日ドラゴンズ 24Pt
1st :7位(6Pt)
2nd:4位(9Pt)
3rd :4位(9Pt)
6位 埼玉西武ライオンズ 19Pt
1st :4位(9Pt)
2nd:7位(6Pt)
3rd :9位(4Pt)
7位 広島東洋カープ 16Pt
1st :5位(8Pt)
2nd:6位(7Pt)
3rd :12位(1Pt)
8位 東京ヤクルトスワローズ 14Pt
1st :8位(5Pt)
2nd:9位(4Pt)
3rd :8位(5Pt)
9位 千葉ロッテマリーンズ 13Pt
1st :9位(4Pt)
2nd:12位(1Pt)
3rd :5位(8Pt)
10位 東北楽天ゴールデンイーグルス 11Pt
1st :10位(3Pt)
2nd:11位(2Pt)
3rd :7位(6Pt)
11位 オリックス・バファローズ 8Pt
1st :11位(2Pt)
2nd:10位(3Pt)
3rd :10位(3Pt)
11位 横浜DeNAベイスターズ 8Pt
1st :12位(1Pt)
2nd:8位(5Pt)
3rd :11位(2Pt)
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1位に輝いたのはソフトバンクだ。成績はもちろん、観客動員数、SNSフォロワー数のすべてで12球団3位以内を記録。球団経営とファンサービスの充実をしっかりと結果に結びつけていることが分かる。
2位タイの阪神は、動員力と影響力ではソフトバンクと遜色ないが、過去10年間で優勝が一度もないことからも分かるように、人気を結果に結びつけられていない。
同じく2位タイの巨人は逆に、戦力と動員力は充実しているものの、近年のトレンドであるSNSの分野で遅れを取っている。球場に来るファン以外の、全国のファンに向けた発信力が今後の課題といえそうだ。
このランキングを見ると、一つ気付くことがある。それは、「強いチームは動員力も影響力も高い」ということだ。「戦力」「動員力」「影響力」の3つは独立しているようで実は相関関係にある。
チームが強いから観客が集まり、影響力が生まれるとも考えられるし、逆に観客が集まり、影響力も高いからこそ戦力が充実してくるともいえる。
球団価値を高めるには、戦力を整えるだけでも、ファンサービスを充実させるだけでもいけない。「勝利とファンサービス」の両立は難しいといわれるが、もうそんな時代は終わった。
これからのプロ野球界は、「勝利とファンサービス」を両立させた球団が、勝者となる――。
<了>