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東邦・石川昂弥(中日)の強い「こだわり」とは? 東邦を30年ぶり選抜優勝に導いた天性のスラッガー

REAL SPORTS 2019年10月12日 19時10分

プロ野球ドラフト会議が今年もいよいよ、10月17日に開催される。どの球団が誰を指名するのか、その行方に注目が集まる中、上位指名を期待されているのが、石川昂弥だ。春のセンバツでは投打にわたる活躍で東邦を30年ぶりの優勝に導いた主将には、ある強い「こだわり」がある――。

(文=花田雪、写真=Getty Images)

中学時代から注目されていた「野球エリート」

――本当に、投手にはまったく興味がないんだな……。

10月17日に行われるドラフト会議で上位指名が確実視される東邦・石川昂弥を取材して感じた、率直な感想だ。

石川は中学時代からNOMOジャパンに選出されるなど、早い時期から世代を代表する打者として注目され、卒業後は両親も通っていた地元の名門・東邦に進学。1年春からベンチ入りを果たし、主に三塁手としてチームの主軸を担った、いわゆる「野球エリート」である。

能力の高さは、世代でも群を抜く。2年夏の県大会では6試合で打率.737という驚異的な数字を残し、新チームでは主将に就任。さらに、本職の三塁だけでなく投手も任された。

名実ともに「石川のチーム」となった東邦は秋季県大会、東海大会を制し、今春行われたセンバツに出場。石川は背番号1を背負い、投げては全5試合で勝利投手に、打っては3本塁打を放ち、センバツ優勝の立役者になった。

特に決勝の習志野戦は、まさに「一人舞台」。先発マウンドに上がると習志野打線を散発3安打に封じ込め、わずか97球で完封。3番打者として3安打2本塁打4打点。投打で高いポテンシャルを見せ、チームを頂点へと導いた。

そんな石川を取材したのは今年の6月。センバツも終わり、夏の県大会を目前に控えた時期だった。

「打者」へのこだわりと、チーム事情による投手起用

センバツでの好投があったとはいえ、プロからの評価はあくまでも「打者・石川」。とはいえ、甲子園優勝という誰もが憧れる瞬間をマウンドで味わったことで、石川本人に何か心境の変化はなかったのだろうか――。そんなことを想定しながら本人に話を聞いたが、返ってきた答えは何があってもブレない、「打者へのこだわり」だった。

大活躍を見せた甲子園決勝についても、「完封したこと、優勝の瞬間をマウンドで迎えられたのは確かにうれしかったですけど、やっぱり本塁打を2本打てたことの方が喜びは上でした」と断言。投手としての起用はあくまでもチーム事情によるもので、「本心は今でも打者に専念したい?」という質問にも、苦笑いを浮かべながらしっかりとうなずいた。

確かに石川のプレーを見れば、そのポテンシャルは間違いなく「打者」の方が高い。センバツ時には一部で「二刀流」などと騒がれたが、上の世界でプレーするのであれば選択肢が打者なのは明らかだ。

それでも、全国の舞台であれほどの投球を見せれば、投手としてのやりがいや喜びを感じてもおかしくない。にもかかわらず、石川本人はあくまでも「打者として勝負したい」と、強い口調で語る。普通の高校生なら、本心は別にしても「投手としてもチームに貢献したいです」と優等生発言してもいいものだ。しかし石川の言葉の端々からは「プロで、打者としてやっていく」という、正直かつ強固な思いが感じ取れた。

そして、その思いを誰よりも理解していたのが、同校を率いる森田泰弘監督である。森田監督は石川について「東邦に入ってきたころから、打者としてプロに行きたいという目標を持っていた」と語る。しかしその一方で、チームを率いる指揮官としてのジレンマも抱えていた。

「理想は、石川は打者に専念させること。ただ、少なくとも秋、春の時点で彼以上の投手がチームにはいなかった」

教え子が打者に専念したい気持ちはわかる。しかし、それ以上にチームを勝たせるためには石川を投手として起用せざるを得ない。

石川の野球選手としての能力が高いが故の悩みだ。

森田泰弘監督が石川に投手、主将を任せた狙い

しかしその一方で、打者志望の石川に投手を経験させることは、彼自身を大きく成長させるために必要なことでもあった。

「打者に専念させてあげたい気持ちもあるけど『投げて、打って』でもいいんじゃないかなと。なぜなら、石川に一番能力があったからです。新チームでは彼に主将も任せました。もともとあまり周囲を引っ張っていくタイプではないけど、主将をやらせることで精神的にも成長してくれればなと」

打者としてのレベルアップだけを目指すのであれば、余計な負荷はかけずに思う存分打撃に集中させればいい。しかし、森田監督は石川に主将、投手という役割をあえて与えることで、打者としてだけでなく、野球選手として、人間としての成長を期待したのだ。

森田監督が石川の話をするときに、何度か引き合いに出した選手がいる。石川の3学年上の先輩で、現・中日ドラゴンズの藤嶋健人だ。

藤嶋もまた、東邦時代に投打でその才能を発揮した選手の一人。3年時には主将・エース・4番と、投打、さらには精神的にもチームの中心を担った。高校通算49本塁打を放つなど、プロからは投手、野手の両方で評価されたが、本人は投手としてのプロ入りを希望し、ドラフト5位で中日に入団。プロ2年目の昨季、1軍デビューを飾ると、今季はリリーフの一角として32試合に登板。プロ3年目にして、しっかりと1軍の戦力となっている。

森田監督は石川と藤嶋はタイプが違う、と前置きしたうえで「藤嶋も投打、さらには主将としてチームを引っ張ってくれた。石川も違う形ではあるけど、チームをまとめあげてくれている」と語ってくれた。

取材後に行われた夏の県大会。東邦は2回戦で星城に3対10とまさかのコールド負けを喫し、春夏連覇の夢は途絶えた。石川は1回戦で本塁打を放つなど打者としては結果を残したが、先発した2回戦で敗戦投手に。最後の夏は、不完全燃焼に終わってしまった。

それでも、甲子園後に行われたU-18ワールドカップでは高校日本代表の4番として8試合に出場、打率.333、1本塁打、9打点と「打者専念」でしっかりと結果を残した。

10月17日、石川昂弥は運命の日を迎える。おそらく、ドラフトでは1位、もしくは2位までにはその名前が読み上げられるだろう。

「打者として、上の世界で活躍したい」という目標の第一歩だ。

東邦で過ごした3年間、打者だけでなく投手、主将も兼任した。しかし、プロ野球選手・石川昂弥にとってその経験は決して無駄にはならない。

打者としてだけでなく、野球選手として、人間として大きく成長を遂げた高校球界屈指のスラッガーが、運命のドラフトを待つ――。

<了>








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