日本ではまだ“タトゥー”に対してネガティブな感情を抱く人が多い現状がある。
ラグビーワールドカップ2019日本大会に出場する各国の選手たちに対して、ラグビーの国際統括団体ワールドラグビーより日本では“タトゥー”を隠すよう指示があったという。「日本の文化を尊重する」と選手側から反発する意見はほとんど出なかった中、日本では賛否両論さまざまな意見が飛び交った。
海外のクラブで4シーズン目を過ごす日本代表選手でありながら、タトゥーが理由で日本では「個人スポンサーはまずつかないでしょうね」と言い切る小林祐希は、どのような想いで体にタトゥーを刻み、そしてタトゥーとともに生きる現在をどう感じているのだろうか?
(インタビュー=岩本義弘[『REAL SPORTS』編集長]、構成=REAL SPORTS編集部、撮影=軍記ひろし)
「日本だとタトゥーは受け入れられないからダメ」
タトゥーを入れたきっかけを教えてください。
小林:もともとタトゥーに興味はあって。ロサンゼルスに住んでいるHIROさんというアーティストの方がいて、「タトゥー入れたいです。入れたい内容ももう決まっているんです」って話してたんですけど、「日本だとタトゥーは受け入れられないからダメ。お前のことは好きだからお前には入れない」と2年くらい断わられていたんです。「なんでだよ。自分が入れたいんだからいいじゃん!」って思っていたんですけど。「じゃあ、HIROさん、俺が家まで訪ねたらやってくれますか?」って聞いたら、「来ちゃったら考えるよ」って言われたから、本当に家まで行ったんですよ。住所を聞いて、この日に行くんでって。そしたら、やるしかないなってことになって、デザインを考えてもらいました。
それはいつ頃ですか?
小林:23歳の時ですね。まだジュビロ(磐田)でJ2の時です。まず家族の名前を一番最初に入れました。妹2人とお母さんの名前をデザインしてもらって。実は親父がすごく厳しい人で、親父には何も言わずにタトゥーを入れて帰ったんですけど。
お父さんの名前は入れてないんですよね?
小林:そう。そしたら電話がかかってきて、絶対怒られる……と思ったら、「なんで俺の名前が入ってないんだよ」って言われたんです(笑)。
タトゥーを入れたことは怒られなかったのですか?
小林:入れたことは怒られなくて(笑)。親父の名前も入れる内容が決まっていたので、次の年に反対側の腕に親父の名前を入れたんですよ。そうやって意味のあるものがちょっとずつ増えていきました。その時の自分の信条とか感情とかを、刻んで。
自己満足ではない。いろんな人の想いが詰まっている
そういう周りの人たちの想いを背負って戦うという意味で、タトゥーの文化って世界中で愛されているわけですよね。日本の場合は入れ墨と結びついたイメージがあったけれど、それを変えていく必要がありますよね。
小林:そうですね。実際今自分が彫っているタトゥーで、自分に対する自分の想いみたいなものは一個くらいしかなくて、あとは全部“人”のことなんですよ。だから、ただの自己満足で入れているのではなくて、いろんな人の想いが詰まっているんです。
さすがに付き合っている女性の名前とかはないですよね? よく、ヨーロッパの選手がそれをやって、別れたあと、気まずい感じになっちゃってますが(笑)。
小林:それはない(笑)。それは絶対やらないです(笑)。
自分自身の想いのメッセージはどのようなものがありますか?
小林:「自分の人生は自分で決める」とか「自分のメソッドをつくる」という意味を持つ好きな言葉「OWN」は、オランダに着いた日に入れました。日付も、オランダにいた期間。唯一ここだけ文字で、他はできるだけ柄のデザインで表現したくて。
お母さんと妹さんのタトゥーは?
小林:これは、ひらがなをデザインしてもらいました。親父は「タクヤ」という名前なんですけど、“開拓”の拓なので、開拓をイメージするツルハシのイラストを使って、父という漢字にして、巳年なので蛇のマークを入れました。というふうに、一個一個意味があって。
実は背中にも大きく入ってるんですよ。これは鏡に映らないと読めないんです。鏡文字になっていて。「愛・感謝・縁・楽しむ・挑戦・道」と自分の好きな文字を並べて。これらの文字は信念でもあるから、自分の中心の背骨に入れました。これは名古屋で出会った書家の先生がいて、その人が鏡文字としてこのまま書いてくれたんですよ。そういう人の想いとかも詰まっているんです。
代表へ行ったら長袖を着ないといけない
最初は止められて、入れてから3年くらい経ちましたが、実際ネガティブなこともあるのですか?
小林:いや、相当ありますよ。代表へ行ったら長袖を着ないといけないし、日本で経営者や目上の人と会う時は夏でも長袖にジャケット着ていくし、出せない場面もたくさんあるので、ネガティブというか不便な点はあります。けど、それが俺なので、ありのままに受け入れてもらって、あとは中身を知ってもらうしかないなと。
そういう文化を変えていきたいという思いはあるのですか?
小林:変えていきたいというよりも、そういう人もいるよってくらいでいいんですけど。受け入れられない人は受け入れられないと思うので、無理に受け入れてくれとは言わないです。そういう人もいるんだなくらいの感覚で見ていてくれれば。
逆にいうと、なんで受け入れられないのでしょうか?
小林:それはそれぞれの人の考え方なので。日本でもだいぶ今の若い人たちはタトゥーに対する抵抗は薄れてきましたけど、上の人たちはまだ違った考え方があると思うので。
日本と海外のギャップでいうと、ヨーロッパのチームメートやファンは小林選手のタトゥーを見てどういう反応ですか?
小林:「Fuck’n cool!!(めっちゃいいね!)」って言われますよ。特に背中の漢字を見て、そんなの初めて見たって。
日本人から見てもかっこいいですもんね。
小林:海外の人に、俺のイメージを漢字で書いてくれと言われたりもします。やっぱり日本人とヨーロッパの人の考え方はまったく違うので。
あと、スポンサー絡みになると出せないとかが多いです。別に悪い人間ではないのに、タトゥーによって企業イメージが悪くなってしまうからと使われないこともあるので。日本の個人スポンサーはまずつかないでしょうね。そういう人たちには、もう少しだけ優しい目で見てほしいなと。
(リオネル・)メッシが来たら、たぶん当たり前のように日本の銭湯入れるじゃないですか。お前とメッシは違うだろうってなりますけど、「同じ人間じゃん、何でどちらかは良くてどちらかはダメなの?」みたいな。大崎にある友人の実家が銭湯なんですけど、いつか銭湯のポスター作ろうかなと思っています。後々、いろんな地域の銭湯を再生させたいという想いもあるので。
それでも代表に呼ばれるというような選手になるべき
銭湯のポスターにタトゥーが入ったアスリートが登場するというのは、とてもクールでいいですね。
小林:そうですね。ないじゃないですか。外国人もこれからたくさん来ると思うし、日本のお風呂文化に触れてほしいので。
そうですよね。日本のお風呂文化は素晴らしいから、外国人が日本に来たら入りたいですよね。
小林:でもそこで帰されたら、「なんで?」ってなるじゃないですか。
タトゥーOKな銭湯・温泉ガイドブックとかを出したらどうですか?
小林:だいぶそういう場所も増えてきていますよね。大分県はタトゥーOKの温泉施設を積極的に発信しているみたいですよ。
大分はそれでインバウンドがかなり伸びているみたいですよね。
小林:次のチーム(編集部注:本取材は8月29日に実施。9月6日にベルギー1部のワースラント=ベフェレンへの加入が決定)では、タトゥーの映像を撮って、自分のコメントつきで出していこうと思っているので。
そこまでこだわってやっているのだったら、それはセールスポイントとなりますね。
小林:そう。それで代表に選ばれなかったら、それはしょうがないので。ただ、それでも呼ばれるような選手になるべきだと思っています。
<了>
PROFILE
小林祐希(こばやし・ゆうき)
1992年生まれ、東京都出身。ワースラント=ベフェレン所属。ポジションはミッドフィルダー。東京ヴェルディ下部組織を経て、2011年にトップチーム昇格。1年目から中心選手として存在感を発揮し、2012年にジュビロ磐田に移籍。2016年にオランダ1部のヘーレンフェーンに移籍して欧州の地でもボランチとして確固たる地位を築き、2019年9月にベルギー1部のワースラント=ベフェレンに新天地を求めた。背番号10。