スポーツにおいては「ファン」「サポーター」という言葉の方が馴染みがあるかもしれないが、近年では自分の趣味が何なのかを表す言葉として「オタク」という言葉を使うことが定着しているほど1億総オタク時代と呼ばれる現代社会において、誰もが何らかのオタクであるといえるだろう。一方、オタクと呼ばれる人もいれば「にわか」と呼ばれる人もいる。どのような人がオタクで、どのような人がにわかと呼ばれるのか、オタクや若者の消費や実態のないものに対するマーケティングをテーマとした現代消費文化論、マーケティング専門に研究している廣瀨涼氏に解説いただいた。
(文=廣瀨涼、写真=Getty Images)
オタクには2種類のオタクが存在する一概にオタクといっても2種類のオタクに分類できる。まず「消費性オタク」である。彼らは趣味に対して時間やお金を過度に消費している。次に「オタクというレッテルを貼られた人」である。本人が実際にオタクであるかは関係なく、他人からオタクとして見られることでそこにオタクが存在することになる。例えば映画『電車男』で山田孝之が演じたようなケミカルウォッシュのジーパンにネルシャツ、メガネに、バンダナをつけた人がいたら、あなたはその人をオタクであると認識するでしょう。これはステレオタイプのオタクの存在が社会における共通のイメージになっていると言えるだろう。
これを逆手に取ると、自身をオタクとして見てもらうことも可能になった。例えばアキバ系に限らず、カープ女子と揶揄されるような広島東洋カープについてそこまで詳しくない人でも、“推し”のユニフォームを着て、タオルと応援バットを首から掛けて球場に向かえば他のファンから「カープファン」であることを認識してもらうことができる(全てのカープ女子がそうであるとは思っていないので悪しからず)。彼女たちのような存在は熱心なファンから「にわか」と呼ばれがちである。
熱心なファン、サポーターから呼ばれる「にわか」とはどんな人物なのかでは、「にわか」とは誰のことなのか。「にわか」自体も3種類に分類できる。
まず「①興味領域が広くて浅いにわか」である。彼らはスポーツに限らず複数の趣味があるため、趣味一つひとつの関心は熱心なファンと比較してライトだ。そのため、彼ら自身は最大限にチームを応援して楽しんでいるつもりでも、熱心なファンやサポーターから見るとまだまだと思われてしまっている存在である。
次に「②実社会でスポーツファンであると思われたいにわか」である。学生時代や勤め先を想像してほしい。人の輪の中に入るために何らかのキャラを演じた経験はないだろうか。いじられキャラや毒舌キャラなど、人はコミュニティの中で他人のキャラと被らないように棲み分けをしている。その中でやたらとスポーツ好きをアピールする人はいなかっただろうか。彼らは実社会における人間関係構築やコミュニケーション手段の一つとしてスポーツファンを名乗っている。彼らの目的意識はスポーツ観戦から得られる楽しさよりも、スポーツ好きというキャラを維持することにある。
最後に「③スポーツファンというアイデンティティを形成したいにわか」である。彼らは他のファンから仲間であると認識されることで帰属欲求を満たし、スポーツファンというアイデンティティを形成することを目的としている。誰もが初めて球場やスタジアムに向かう時、他のサポーターやファンがどのような服装をしているか気になるのではないだろうか。もしくは実際に試合を見に行って、他のファンの服装や持っているグッズを参考に次回の観戦の準備をするのではないだろうか。これは服装や応援歌などを真似ることで、その空間に生まれる一体感や共通意識を楽しむことができるからである。この一体感を通して自身の帰属欲求を満たし、スポーツファンであるというアイデンティティを形成しようとしている。このタイプのにわかは新参者に多い。
このように一概に“にわか”といってもその性質や目的は異なるが、どちらにせよ熱心なファンから軽視される存在である事は間違いない。
オタクの消費は自身の生活そのものをチームにささげている活動さて、オタクがオタクであるがゆえん、それは「消費」することにある。『2019年スポーツマーケティング基礎調査』によると、過去1年間でスタジアム観戦の経験がある人の年間平均支出は46,509円だった。しかしこれはあくまでも平均であり、ファンになればなるほど支出は増加する。例えばサッカー日本代表戦でも海外遠征に合わせて応援に行くサポーターは多く、彼らがテレビに映ると熱心だな、と感心する。彼らは試合のチケット代はもちろんのこと、渡航費や滞在費は自身で捻出する必要がある。彼らは、なぜわざわざ海外まで日本代表を応援しに行くのだろうか。スポーツオタクの消費心理を「消費性」と「コミュニティ」の2つの視点から考えてみる。
まず消費性であるが、前述した通り、オタクは自身のお金や時間を過度に消費する傾向がある。理由は、消費することが自身の満足に繋がるからである。スポーツ観戦で言えばスポーツ観戦をすることそのものが自身の生きがいであり、彼らが生活を送る理由そのものになる。その中でも天王山や優勝決定戦、国際試合など、その試合の意味合いがファンの中で大きいものを観戦するほどチームに対するロイヤリティは高まり、自身の満足度を高めることができる。グッズにおいてもレアなものほどオタクの中では価値があり、自身がファン活動を続けていくためのモチベーションや自信に繋がる。自身の生活そのもの(人生)をチームにささげている一方で、その存在に依存しているところもある。だからこそチームの成長を見守りチームと共に歩んでいくことができる。
次にコミュニティの視点から見てみよう。ブランド・コミュニティという言葉を聞いたことはあるだろうか。好きなブランドが同じ消費者同士によって構成されるコミュニティのことであり、スポーツに当てはめるとブランドはチームのことを指す。ブランド・コミュニティには、コミュニティメンバーの消費が促されるなどの機能がある。サポーター同士の関係が強固な「浦和レッズ」を例にブランド・コミュニティの機能を考えてみよう。
①浦和レッズサポーターは共にチームを見守り、時には叱咤するサポーターコミュニティを自分たちの聖域と受け止め、それが原動力となって浦和レッズに対する消費を行っている。
②コミュニティで同じ価値観を持つサポーターと触れ合うことで、チームに対する思いが高まり、チームを応援する確信に繋がる。その結果、熱狂的、宗教的に支持し消費に繋がっている。
③サポーター一丸となりチームを見守ることで選手への共感、親近感の高まりが消費に影響する。
ここでいう消費とは、グッズそのものの購買や試合の観戦、遠征するモチベーションと捉えることができる。サポーター同士が影響を与え合うことで相乗効果を生み、消費が促されていると言える。
<後編へ続く>
廣瀨涼(ひろせ・りょう)
ニッセイ基礎研究所 研究員
現代消費文化論、マーケティングが専門。主にオタクや若者の消費や快楽、ノスタルジア、恋愛といった実態のないものに対するマーケティングをテーマとして扱っている。本人はディズニーオタク。