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ダルビッシュ有が否定する日本の根性論。「根性論のないアメリカで、なぜ優秀な人材が生まれるのか」

REAL SPORTS 2020年1月12日 11時0分

日本球界の至宝にして、唯一無二のアスリート、ダルビッシュ有。全4回にわたる『REAL SPORTS』独占インタビューも、いよいよ今回で最終回となる。
近年、記録的な人気を博している高校野球だが、いまだ旧態依然とした体質、風習からさまざまな問題を抱えている。ダルビッシュは日本の高校野球、育成年代をどのように見ているのだろうか。そこには、野球を飛び越え日本社会全体にも通じる問題が隠れている。

(インタビュー・構成=岩本義弘[『REAL SPORTS』編集長]、撮影=浦正弘)

「1週間に500球」への疑問。球数制限に対するダルビッシュの提案

――日米野球界の育成について聞かせてください。1週間に500球までという日本高校野球連盟(高野連)の決定がありました。Twitterで、すでにちょっと皮肉を込めた発信もありましたが、改めて、あれを聞いた時の感想は?

ダルビッシュ:高野連の人たちは、とりあえず、“やってます感”を出したいだけなんだろうなと。世間からの批判がすごいから、ひとまず、野球は好きだけどそこまで深く考えていない層に向けてのアピールをしたんだろうと思いましたね。

――正直なところ、「ちゃんと肩を守ろう」と考えるのであれば、あのような形にはならなかったと思います。

ダルビッシュ:そうですよね。あんなふうにはならないと思うし、「今すぐに何かしないとまずい」という思いが先走っているから、ああいう提案しかできない。これはもう4、5年ぐらい前から言っているんですが、例えば、球数制限、イニング制限において「1人100球まで。100球投げたら次の登板まで3、4日空けなければいけない」という規定を今作ってしまうと、現場の選手から絶対に不満が出るんですよ。

 だから、例えば今の中学1年生に合わせて、それか小学6年生でもいいから、「4年後ぐらいから新しいルールが設けられますので、みなさん理解しておいてくださいね」って先に通達しておけばいいと思うんですよ。それならば、まだ不満が減ると思います。そういうことを考えず、「批判を受けないようにするにはどうするべきか?」という部分ばかりを考えてしまうから、そういうことになってしまうんです。

――確かに、今まさに現役でやっている選手たちからは反発が出ますよね。

ダルビッシュ:小学6年生なら、高校生になるまで時間があるから、いくらでも準備ができるじゃないですか? その子たちのタイミングに合わせてルールを作り、「自分たちの世代にはこういうルールが適用されるんだ」と理解してもらえば、普通に受け入れてもらえると思うんです。


「日本人はいろいろな可能性を閉ざしてしまっている」

――ダルビッシュ選手が発信していた記事には、日本の小中学生のトップの選手の75%が肩や肘に故障が出ているというものもありました。その年齢層の選手に対しても、日本における根性論がはびこってしまっているイメージがあります。

ダルビッシュ:そうですね。球数制限の議論の中で一番多いと思うのが、「高校野球の選手は3年間しかない」「プロを目指している選手ばかりではない」と。だから、「そういう選手たちの思い出のためにも球数制限を設けるべきではない。それに、厳しい状況に置いたほうがその選手の将来に生きてくる」。こう言う人がすごく多いんですよ。

 でも、日本経済界に優秀な人材がどれくらいいるかを見ると、他の国に比べて少なくないですか? 例えばアメリカ。いわゆる先を行っているこの国には優秀な人材がたくさんいます。アメリカには根性論のような考え方がないのに、なぜそんなに優秀な人材が生まれるのか。それってきっと、人生でたくさん訪れる苦しい場面を乗り越えていくための打開策を、自分自身で考えているからだと思うんですよね。

 一方で日本では、いろいろな経験をしたのに、自分の成績や収入、能力に結びついていない人が多い。それは教育にとって良い状態ではないと思うんです。だから、根性論については一度考え直さないと。もちろん、それしかやってきていないから、根性論を否定することによって自分の人生を否定することになってしまう人が多いとも思います。ただ、だからと言って、自分のやり方や考え方を正当化するのはやめてほしいと思う。

――容易にさまざまな情報を入手することができる時代。全世界の事例をもとに、何が正しいのかを考えるところから始めるべきですよね。

ダルビッシュ:日本人ってそれができないんですよね。タトゥーもそうだし、マリファナもそう。マリファナはちょっと難しい問題があるだろうけれど、ただ何と言うか、「日本は日本」「日本人は日本人」と定めすぎてしまい、いろいろな可能性を閉ざしてしまっていると思いますね。

――そうですね。ダルビッシュ選手のように、自分自身で判断できる中高生はほとんどいないじゃないですか。やっぱり指導者が絶対だと思ってしまっているし、それが正しいとされてしまっています。

ダルビッシュ:自分の高校時代もそうでしたよ。監督は神様であり、監督の言っていることはすべて正しいし、部員はみんな、監督には絶対服従のスタンスで臨んでいたので。

 でも、それは自然のことなのかなとも思いますけどね。小さな頃からみんなそうやって生きてきているし、それ以外の考え方や発想がないわけですよ。だから、せっかく自分を成長させられる可能性があるのに、すごく小さな世界に自分を閉じ込めてしまっている。それではなかなか成長できないと思います。

――でも、ダルビッシュ選手は別に監督と揉めたりしないじゃないですか? メジャーの監督とのコミュニケーションはどのように取っているんですか? 何か疑問が生じたら直接聞きに行くようにしているんですか?

ダルビッシュ:いや、何も聞かないですね。監督とは特に喋ることもないですし。何かあれば向こうから話し掛けてきて、「体は大丈夫か?」「大丈夫だよ」ぐらいですね。監督とはむしろそういう関係。一方、ピッチャーの場合はピッチングコーチとのやり取りがありますからね。ブルペンとかですごくいろいろなことを言ってくるんですよ。そういう時は、ピッチングコーチに「もう俺に何か言うのはやめてくれ」「問題点は自分で直すから」って言ってます。


「現状よりも上を目指して、もっと良くしようと考える人が少ない」

――少し前のトピックになりますが、高校野球・岩手大会決勝で大船渡高校の佐々木朗希選手(現・千葉ロッテマリーンズ)を登板回避させた件は予想以上に話題になりました。それと同時に、ダルビッシュ選手がTwitter上でいろいろな人の意見に対してかなり丁寧に答えていたのが印象的でした。

ダルビッシュ:僕のリプライを見る人も多いと思うし、いろいろな人との議論はずっと残ります。一つの情報提供というか、全く野球を知らない人に対しての情報にもなり得る。だから意味のあるものだと思ってやっていましたね。

――日本では絶対的な常識だと思われているものに対しても、「そういう考え方があるのか」と気づきを与える良い機会になっていると思います。ただ、個人的には、ああいう機会に積極的に乗っかっていく人がほとんどいないところが、いかにも日本的だなと思いましたね。

ダルビッシュ:変えるのが怖いんですよ、日本人は。基本的に変化をものすごく恐れる。現状を変えなければ、今の状態を維持できるわけですからね。現状よりも上を目指して、もっと良くしようと考える人が多くないから、先ほども言いましたけど、成長がストップしやすいのかなと感じます。

――ダルビッシュ選手と意見が違ってもいいから、ああいう機会に日本のプロ野球選手たちも自分の考え方を発信したら面白いんじゃないかと思うんですけどね。

ダルビッシュ:そうですよね。でもみんな怖いだろうし、きっとやりませんよ。

――やっぱり、球界の縦社会みたいなところも影響しているんですかね?

ダルビッシュ:ヒーローインタビューではいい子ちゃんになって、みんな同じようなことを言うわけじゃないですか? 雑誌とかのメディアでもいい顔しか見せないわけですよ。嫌われたくないから。でも、裏ではみんな、文句を含めていろいろと言っている。もう、嘘というか詐欺というか。そういうのが嫌だったから、僕はTwitterを始めたんです。自分はプロ野球選手だけど、一般の人と同じで良いところもあれば良くないところもあるし、そういった部分を出していきたいと思って。同じような人がこの先も出てきてほしいなと思いますけど、まあ、いろいろとリスクを背負ってまでやろうとする人はいないでしょうね。

――実力がないと、それも圧倒的な実力がないとできないという面もあるんじゃないですか?

ダルビッシュ:めちゃくちゃなことを言うのは良くないけれど、ある程度の自己主張をするにあたって実力は関係ないと思うんですけどね。

――ちなみに、甲子園の予選の開会式が不要だというTwitterでの意見についても、かなりの反応がありましたね。

ダルビッシュ:ありましたね。でも、予選の開会式とか、誰がやりたいと思うんですかね? 暑い中、軍隊みたいに整列して、誰だかわからないおっさんの話をじっと聞いているわけですよ。僕自身、聞いたことは何一つ覚えていないですからね。ということは、意味がないことなんですよ。話の最後に「頑張ってください」と言われるけど、そんなこと言われなくたってみんな頑張るじゃないですか? これほど無駄な時間があるものかと思ったわけです。

 甲子園の開会式はいいと思うんですよ。テレビにも映るし、お父さんやお母さんが息子の晴れ姿を見て喜ばれるというのは理解しています。でもまあ、甲子園でも長い話を聞かされるのはいらないかなと思っています。

――順番に何人も壇上に上がらず、話をするのを1人にすればいいと思うんですよね。その上で話を短くすれば。

ダルビッシュ:いや、もうゼロでいいと思うんですよ。しかも、こっちは疲れてヘトヘトの中、閉会式でも話を聞かされるんですよ。高野連の会長か、誰だか覚えていませんけど。

 そう言えば、(2年生時の夏の高校野球)常総学院との決勝を終えた後、閉会式で壇上に上がった人がものすごく長く話すんですよ。向こうにとってみれば、一番目立つ場面だから喋りたいんでしょうね。だから僕らは、暑くて疲れてしんどい中、じっとして話を聞いているわけです。

 でも、僕はこういった性格で、しかも当時は高校生ですから、今よりもっと酷いわけですよ。遠慮なくあくびをしたりね。そうしたら、そのあくびが生放送に映ってしまい、ものすごくぶっ叩かれた記憶があります。それで記者に「なんであんなところであくびをするんですか?」みたいなことを聞かれて、高校2年生だった僕は「出るものはしょうがない」って返していましたからね(笑)。

<了>














PROFILE
ダルビッシュ有(ダルビッシュ・ゆう)
1986年生まれ、大阪府出身。MLBシカゴ・カブス所属。東北高校で甲子園に4度出場し、卒業後の2005年に北海道日本ハムファイターズに加入。2006年日本シリーズ優勝、07、09年リーグ優勝に貢献。MVP(07、09年)、沢村賞(07年)、最優秀投手(09年)、ゴールデン・グラブ賞(07、08年)などの個人タイトル受賞。2012年よりMLBに挑戦、13年にシーズン最多奪三振を記録。テキサス・レンジャーズ、ロサンゼルス・ドジャースを経て、現在シカゴ・カブスに所属している。

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