再び黄金期への道を進むのか、それともその逆か……。球団記録を更新する4連覇はもちろん、日本一を見据えたはずの昨季は、ジェットコースター並みの上下動を繰り返し、終わってみればBクラス。あれから半年。球団としては53季ぶりの投手出身監督となる佐々岡真司新体制のもと、ペナント奪還を目論む広島カープのキーマンを全3回にわたって探っていく。
第1回は投手編。先発、リリーフそれぞれの主軸へ期待のかかる2人とは――?
(文=小林雄二、写真=Getty Images)
先発のキーマン:大瀬良&クリス・ジョンソンに加え、2桁勝利を期待したいのは…今季の広島カープの先発ローテーション候補には大瀬良大地、クリス・ジョンソン、野村祐輔、床田寛樹に加え、ドラ1ルーキー・森下暢仁、そして高卒3年目コンビの山口翔、遠藤淳志、着実に実績を積み上げてきた九里亜蓮にアドゥワ誠らの名前が挙げられる。
このうち、3年連続2桁勝利のエース・大瀬良とクリス・ジョンソンの両輪は、もはや別格。続く床田も昨季7勝6敗ながら、防御率2.96という好数字と安定感は立証済みで、普通にローテを守ればこちらも2桁の勝ち星は圏内といっていい。
ここにもう一枚、2桁投手が加わるかが広島の命運を握ることになりそうなのだが、ルーキーの森下はキャンプでの仕上がりも順調で、OBの江夏豊氏も「十分即戦力。うまいこといけば2桁、新人王が狙える」と太鼓判も、あくまで新人。佐々岡真司監督が期待をかける山口や遠藤、そして3年目のアドゥワの3人は発展途上な部分もあって計算は立ちにくい。九里に関してはロングリリーフにも対応できるユーティリティ性を考えると、先発一本というよりも、これまで同様、ある程度便利屋的な立ち位置となることが予想される。
となると、この人が2桁を挙げれば……という仮説を立てるにふさわしい先発投手は、野村ということになる。
そもそも広島の3連覇の投手の中心にはこの人がいた。
野村は25年ぶりのリーグ優勝を果たした2016年には16勝3敗、防御率2.71という圧巻の数字で最多勝利、最高勝率の投手2冠に輝き、翌17年には9勝5敗ながらも防御率は2.78。翌18年は故障もあって7勝止まりに終わったが、連覇中の成績は32勝14敗で18もの貯金をもたらしているのだ。
ちなみに、連覇中の大瀬良は28勝10敗で同じく貯金18。クリス・ジョンソンは32勝15敗で貯金17。優勝を逃した昨年は野村が6勝5敗で貯金1、大瀬良は11勝9敗で貯金2、クリス・ジョンソンが11勝8敗で貯金3であるから、やはりこの3本柱でいかに貯金をつくるかは、そのままチーム成績に直結していくことを数字のうえでも見て取れる。
「広島残留」を決意した野村には、覚悟を感じ取ることができるその野村なのだが、前述したように2017年の9勝はともかく、18年は7勝、19年は6勝でいずれも防御率は4点台。モヤモヤ感満載の不完全燃焼に終わっている。それだけに、ファンの間でも昨年権利を得た国内FAを行使することで“環境を変えて出直すのでは”と見る向きも少なくなかった。実際、野村自身もかなり迷ったようで、昨年10月25日に行われた球団との3度目の交渉後は「う~ん……」と言葉にならない言葉で悩める胸中を吐露。この態度を受けて一部スポーツ紙は「野村FA宣言も」「3度目の交渉も物別れ」の見出しをつけたほどなのだが、結果的には「広島残留」。
「やっぱり鯉(カープ)が好き。このチームでもう一度リーグ優勝、そして日本一になりたい」というのがその大きな理由だが、環境を変えるより、残るほうがむしろ、いろんな意味での変化はつけにくい。残留は残留で、結果を残さなければ風当たりは強くなることも考えられる。広陵高時代3年間とプロ入り後も8年間を過ごしてきた広島という土地のファン気質を、野村も十分承知のはずだ。
それでもなお残留という道を選択した野村に、逆に覚悟を感じ取ることができるのだ。普段から、あまり自身を鼓舞するような発言をしない野村が「(昨年は)チームとしても個人としても悔しい思いをした。チームを引っ張っていけるような選手でありたい」との言葉にも明確な意欲がうかがえる。
野村がエース復権に向け、オフに取り組んだのが「1年間戦える体づくり」(野村)だった。そこで「強くて、柔軟性のある体を求めて」体幹、下半身を中心に鍛えるトレーニングを実施。キャンプ前の自主トレでもウェートトレに重点を置くなど体重は3kgアップの88kgと、キャンプインしたときの野村の体は明らかにパンプアップしたそれであった。
皮肉にも、キャンプインから間もない2月3日に「右腓腹筋損傷」(いわゆる肉離れ)により不名誉なリタイア第1号となってしまったが、これも時期が早くてよかったともいえる。回復も思いのほか順調なようで、2月7日にはキャッチボールを再開。表情も明るく、そもそも「肩は問題ない」(本人)という上体の仕上がりは維持。患部の「痛みもない」というから、まずは一安心といっていいだろう。
キャンプを訪れたOBの達川光男氏も「自主トレもしっかりしてきた選手で長年働いてきて(キャンプの)第1クールでケガした選手はね、その年、やりますよ」と妙な太鼓判。その信憑性はともかく、野村の復権はペナント奪還の絶対条件であることには変わりはない。
リリーフのキーマン:中﨑&今村をカバーする期待のかかる佐々岡チルドレンは…次に中継ぎ&抑えのキーマンを探る。
昨年までクローザーを務めた中﨑翔太は手術明けということもあり、その回復ぶりに加え、懸念されている勤続疲労の影響もあって復活は不透明な状態。今村猛も同様に、長年蓄積された疲労が気になるところだ。
3連覇の、中継ぎ&抑えの柱的存在であったこの二人をカバーする存在として一岡竜司、中村恭平、菊池保則、島内颯太郎、フランスアらの名が上がる。さらには新外国人のDJ・ジョンソン、テイラー・スコットを補強したことで一通りの顔ぶれが揃っている感はあるものの、中﨑&今村の担った役割をカバーするほどの絶対的な存在がもう一枚欲しいところ。
そこで佐々岡監督が白羽の矢を立てたのが岡田明丈だ。
キーマンはズバリ、その岡田だろう。
今年でプロ入り5年目の岡田は、2年目の2017年には12勝5敗の好成績で連覇に貢献。150キロを楽に超える直球(最速は156キロ)の威力はチーム屈指。2018、19年ともに苦しいシーズンを送ったが、「日本一をとったソフトバンクは6回以降が全員パワーピッチャーで三振をとれる。岡田は150キロを投げられるし、空振りも三振もとれる」(佐々岡監督)ことから配置転換となった。
今季の中継ぎ陣をおさらいしておくと、一岡はオフの間に肉体改造を実施、筋量を落とすことなく5~6kg体重を絞ったことで見た目はシャープになり、ストレートのキレもアップした。昨季、9年目のブレイクを果たした156キロ左腕・中村恭平はアラサーながらいまだに進化中。移籍を機にツーシームとフォークを投げて、昨季終盤はセットアップも務めた菊池保則も計算の立つ存在になった。さらには新外国人のDJ・ジョンソンに関しては「クローザーでいけるんじゃないか」(達川氏)との声も上がるほど評判は上々だ。
あとは岡田がハマるか、否か。
そもそも1軍登板で結果を出せなかった新人年の岡田を2軍で指導し、再生させたのは当時2軍投手コーチだった佐々岡監督だ。佐々岡再生工場が開業早々うまく稼働すればチームに勢いもつく。
その岡田、キャンプ最初の実戦登板でいきなり151キロを計測するなど、現在のところ、調整は順調。
先発の野村、後ろの岡田。今季はこの両輪に大きな期待を寄せてみたい。
<了>