5年で4度の日本一、近年の日本野球界で最も成功している球団といっても過言ではない、福岡ソフトバンクホークス。その原動力はなんといっても屈指の厚い選手層だ。これまでにも数々の育成出身選手を育て上げてきたソフトバンクに、新たな「育成の星」が誕生するかもしれない。
(文=花田雪、写真=Getty Images)
1軍出場は無しも、王貞治氏に高く評価される将来性と素質千賀滉大、甲斐拓也、石川柊太、周東佑京、牧原大成――。
これまでも多くの「育成出身」選手を1軍レギュラークラスに育て上げてきた福岡ソフトバンクホークスに、また新たな「育成の星」が生まれるかもしれない。
宮崎県・生目の杜運動公園野球場で行われたソフトバンクの春季キャンプ。
A班がメイン球場として使用するアイビースタジアムでは、内川聖一、松田宣浩、今宮健太、周東佑京といった、昨季日本一に貢献した選手たちがシートノックを受けていたが、そこにひときわ目立つ大柄な選手が一人、交じっていた。
背中には、「育成選手」の証でもある3ケタの背番号「127」。
入団3年目を迎える、砂川リチャードだ(今季より登録名をリチャードに変更)。
189cm、112kgの堂々たる体格は、遠目で見ても迫力十分。ノックでは松田宣浩と共にサードのポジションに入っていたが、大柄な体格のわりに動きも良い。スローイングでは強肩ぶりも披露し、スタンドから歓声が沸くシーンもあった。
沖縄尚学高校から2017年育成ドラフト3位で入団したリチャードだが、入団2年目の昨季は2軍でも8試合出場、13打数1安打、打率.077の記録しか残していない。
それでも、3軍戦ではチーム最多の11本塁打、アジア・ウィンター・リーグでも3本塁打を放つなど、その将来性は王貞治球団会長も高く評価している。
フリーバッティングでは粗さも見えたが、ツボにはまった時の飛距離は日本人のそれではない。比較の対象はむしろ、新加入のウラディミール・バレンティンやキューバの主砲でもあるアルフレド・デスパイネだろう。
グラウンドでは打撃練習を終えるたびに、立花義家1軍打撃コーチがつきっきりで指導。育成選手ながらキャンプでA班に抜擢されたことも含め、周囲の期待値は高い。
オフの自主トレでは同郷の先輩・山川穂高に師事するなど、着々と成長中だ。
多くの育成選手を抱えるソフトバンクにおいて、リチャードがキャンプA班に抜擢され、練習試合、オープン戦と1軍に帯同している理由は明らかだ。
誰がどう見ても「素質」があるのは間違いない。あとは、それをいかに開花させることができるか――。
ソフトバンクの最重要課題、松田と内川の後継者育成現在のチーム状況も、リチャードのブレイクを後押しする。12球団屈指の分厚い選手層を誇るソフトバンクだが、唯一弱点を挙げるとすれば「一、三塁を守れる強打の右打者」が少ないことだろう。松田宣浩、内川聖一といった主力打者の後継者がなかなか育っていない。内川にやや衰えが見られ、松田は昨季も30本塁打を放ったが今年で37歳。後継者育成はチームの最重要課題だ。
その証拠に、チームは2017年ドラフト3位で増田珠、2018年ドラフト3位で野村大樹と、2人の「右のサード」を獲得(※増田はプロ入り後に外野手からサードに転向)。昨年ドラフトでは抽選で敗れたとはいえ、「高校球界屈指の右打者」でもある石川昂弥を1位で指名している。もちろん、石川のポジションもサードだ。
チームをあげて「ポスト松田」の育成に着手する中、将来性豊かなリチャードに白羽の矢が立ったのはある意味必然だったのかもしれない。
2月23日に行われた今季初のオープン戦には8番サードで出場し、特大の一発を披露。紅白戦、練習試合と併せて「3戦3発」と支配下登録どころか開幕1軍、開幕スタメンに猛アピールを続けている。
精神面の弱さを課題とされることもあるが、技術が上達し、結果が残ればおのずと心にも余裕ができる。
とはいえ、このまますんなりブレイクへの階段を上れるかというと、そう簡単な話ではない。
キャンプではA班に招集され、オープン戦でもスタメンを任されたとはいえ、リチャードの立場は今もまだ「育成選手」。支配下登録選手とは違い、1軍公式戦出場の資格すら持っていない。
サードのレギュラーに君臨する松田の壁はまだまだ高く、分厚い。2軍には前述した増田、野村をはじめ、多くの有望若手選手がひしめく。
千賀も、甲斐も、周東も、そんな競争を勝ち抜いたからこそ今がある。
リチャードのストロングポイントである体格と長打力は、ある意味天性のもの。ただ、天性だけでは生き残れないのがプロ野球の厳しさたるゆえんだ。
素質は間違いなくある。
球団からの期待も高い。
だからこそ、今季が勝負の年になる。
一度つまずいてしまえば、取って代わる選手はいくらでもいる。
それが、ソフトバンクの強さであり、厳しさだ。
誰もがその将来を夢見る「未完の大器」。
その才能が花開くか、未完のままで終わってしまうのか。
プロ3年目、し烈なサバイバルは始まったばかりだ。
<了>