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宇野昌磨、2度の涙で辿り着いた「原点回帰」 珠玉の物語の続きは、世界選手権で…

REAL SPORTS 2020年3月22日 20時6分

2020年の世界フィギュアスケート選手権は、残念ながら中止となった。出場を予定していた選手たちもさまざまな想いを口にしながら前を向いており、ファンもまた同じ気持ちだろう。世界選手権の名場面を振り返り、美しい記憶に身を委ねながら、新たなシーズンへと想いを馳せる連載の第2回。

「明けない夜はないと信じ」
そう言葉にした宇野昌磨は、これまで2度の世界選手権で涙を流している。そこから這い上がり、たどり着いた場所。物語の続きは、さらなる進化を遂げた姿で魅せてくれるに違いない――。

(文=沢田聡子)

失意に終わった、初めての世界選手権

世界選手権のミックスゾーンで涙する宇野昌磨を、2回見たことがある。そしてそのたびに、宇野は失望を糧に新たな進化を遂げてきた。

2014-15シーズン、4回転トウループとトリプルアクセルを習得した宇野は、全日本ジュニア選手権・ジュニアグランプリファイナル・世界ジュニア選手権を制し、ジュニアのタイトルをことごとく勝ち取った。翌季シニアデビューを果たした17歳の宇野は、グランプリファイナルで銅メダルを獲得、一気に世界トップクラスまで駆け上がる。初出場の2016年世界選手権(ボストン)ではショートプログラムで4位につけ、メダルを狙える位置でフリーに臨んだ。

『トゥーランドット』の重厚な旋律で、宇野の演技が始まった。表彰台に乗れるかどうかを大きく左右するのは冒頭の4回転トウループ+2回転トウループの成否だったが、4回転トウループの着氷が乱れて単独のジャンプとなる。そのため後半に組み込んだ2本目の4回転トウループをコンビネーションジャンプにしなければならない状況になるが、今度は転倒してしまう。グランプリファイナルでは世界に強烈な印象を残した『トゥーランドット』は、ボストンでは未完成のまま終わった。TDガーデンのスクリーンにキスアンドクライが映し出されると、そこには目を真っ赤にした宇野が座っていた。

最終的に総合7位に終わりメダル獲得はならなかった宇野は、顔に涙の跡を残したままフリー後の囲み取材に応じている。

「あれだけ練習してきたのに自分でその練習を否定してしまったことが、本当にすごく悔しいです」
「今までは、いつも以上に練習した時はいい演技ができたから……。たまたまかもしれませんが、試合の結果・内容に報われていた部分が自分の練習につながっていたんですけど、これだけ練習してこのような演技をしてしまったというのは、練習量以外の問題があるとしか思えない」
「(4回転トウループは)『1個目の単発でなら跳べる、でも後半ではあまり跳べない』という気持ちはあったんですけども、それでも試合に集中して……。これまであんなに練習してきたから『きっと練習してきたものが出るんだ、出せるように頑張る』という気持ちもあったんですけど』

「初めての世界選手権は思った以上に緊張したのか」と問われると、宇野は「『初めてだから』という気持ちは本当になく」と語っている。

「『これが世界選手権』という実感はあまりなかったんですけど、たとえそれがどんな試合であろうと、これだけ練習してきてこの結果では……」

練習量の多さで知られる宇野が積んできた努力が報われなかった失望を語る言葉は、聞く者の胸にも突き刺さった。やっとのことで「また次頑張りたい」という言葉を絞り出してミックスゾーンを後にした宇野は、エキシビションの日にはもう一歩前に進んだ言葉を口にしている。

「意義のある失敗だったと、めげずにやっていくことが一番大事かなと思っています」

結果を求めた、さいたまの世界選手権

その言葉を裏付けるように、宇野は世界選手権の約3週間後に行われたチームチャレンジカップで、世界初となる4回転フリップを成功させている。さらに、翌シーズン中には4回転ループという新たな武器を手に入れた。そして2017年世界選手権(ヘルシンキ)のフリーでは3種類の4回転を成功させ、銀メダルを獲得している。失意に沈んだ2016年世界選手権後、気持ちを上げるため“気分転換”として挑戦した4回転フリップは、1年後に初の表彰台まで宇野を導いたのだ。

その後2018年平昌五輪、世界選手権(ミラノ)で銀メダルを獲得し、名実ともにトップスケーターになった宇野は、母国開催となる2019年世界選手権(さいたま)に臨むにあたり、今までと違う姿勢を見せた。大会前日の記者会見で「この試合に、僕は初めて、結果を求めて入りたいなと思っています」と宣言したのだ。

「試合でいつも僕は『自分の満足いく演技ができたらいい、結果は気にせず』をモットーにやってきたんですけど……結果を求めるからといって特別練習を変えたわけではないので、この試合で結果を求めることが緊張につながるのか分かりませんが、それが僕にとって貴重な経験になることは間違いないかなと思っています」

迎えたショート、宇野は冒頭の4回転フリップで回転不足をとられた上に転倒。続くコンビネーションジャンプでは、1つ目の4回転トウループは成功させたものの3回転トウループを予定していたセカンドジャンプを2回転にしてしまう。本来の力を出し切れなかった宇野は、ショート6位でフリーに臨むことになった。

最終グループ2番滑走で登場した宇野は、『月光』に乗って演技を開始。最初のジャンプである4回転サルコウ、続く4回転フリップの両方で、着氷時にバランスを崩し手を着く。次の4回転トウループは成功させるが、2本目の4回転トウループはコンビネーションジャンプにできなかった。結局宇野はフリー4位、総合4位に終わる。

フリー後のミックスゾーンで時折涙声になりながら演技を振り返る宇野に「今回初めて結果にこだわって迎えた試合だったと思いますが、その意識は今回の結果に関係していますか」と尋ねると、宇野は「そうですね……」と考えながら答えた。

「最初の2つのジャンプの失敗は関係があるかもしれないですけど……うーん、正直今は、正しい判断ができないです」

――結果を求めるという新しい挑戦をしたことに、後悔はないですか?

「そうですね、そっちに後悔はないですけど、そういったところでの自分の弱さというのが……本当に失望したという気持ちの方が大きいです」

――ボストンの(2016年)世界選手権の後も、今と似たような宇野さんのコメント・雰囲気だったのですが、あそこから這い上がってきました。そういう自信、今やれそうな気持ちは?

「僕は今本当に正直な気持ちで答えると、『結果を求めて』とか『1位になりたい』とかって言っていた自分がこのような演技をしてしまうと、恥ずかしい。本当に自分にはそのような実力はなかったと思ってしまうほど、今は落ち込んではいるんですけど……過去にも同じように皆さんの前で答えている時がありましたけど、本当に僕はトップで争うために、自分がどこで戦っているかというのをまず全部リセットして、一から見直していこうかなと思っています」

居場所を見つけ、「楽しむ」気持ちを取り戻す

この後、宇野は幼少時から師事していた山田満知子コーチ・樋口美穂子コーチの下を離れる決断を下し、メインコーチ不在のまま2019-20シーズンを迎えることになる。その影響は大きく、グランプリシリーズ初戦のフランス杯ではジャンプの転倒が相次ぎ、8位に沈む。しかし、ステファン・ランビエール コーチに指導を受けるようになってから迎えたグランプリシリーズ2戦目のロシア杯では、4位という順位以上に調子が上向きになっていることを感じさせた。

グランプリファイナル進出を逃したことで、結果的に照準を合わせて臨むことができた全日本選手権では、前日練習の際、年明けからランビエール氏が正式にコーチに就任することに言及。ややフライング気味の発表に、ようやく居場所を見つけたうれしさがにじんでいた。そして、シーズン前半の不調を忘れさせるような演技を見せた宇野は、全日本4連覇を果たす。フリー後、宇野は次のように発言している。

「オリンピックで結果が出て、僕はオリンピックというものを特別意識はしていなかったんですけど、周りから言っていただける言葉とか、自分が想像している以上のものを頂けた。ですが、それに伴って『自覚を持たなきゃ』とか、楽しむスケートではなくて『もっと強く、うまくならなければいけない』とかいう気持ちが同時に出ていて、それが自分を苦しめてしまった。僕は2年ぐらい回って、『スケートは楽しみたい』というところに戻ってきたなと思っています」

前季の世界選手権に結果を求める姿勢で臨むという過程を経たからこそ、宇野は自分らしさを取り戻したといえる。この時、宇野は「世界選手権には、去年みたいに『1位になりたい』と思って行くつもりはない』と明言している。

「『楽しめそうだな』と思える練習をして、世界選手権に臨みたいなと思います」

世界選手権が中止となり、ランビエール コーチに見守られて楽しく滑る宇野を見られなかったのはとても残念だ。しかし、宇野がコメントしているように「明けない夜はないと信じ」、さらに進化した宇野の滑りを来季まで楽しみに待ちたい。

<了>







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