新型コロナウイルスの脅威はいまだ収束のめどが立たず、プロ野球もいつ開幕できるのか見通しがつかない状況だ。すでに交流戦18試合の中止が決定しているが、レギュラーシーズンの確保のために、クライマックスシリーズも中止すべきだという声もあがっている。だが、それは本当に妥当なのだろうか?
廃止論の根強く残るクライマックスシリーズ。未曽有の危機にある今だからこそ、あらためてポストシーズンの在り方を考え直してみたい。
(文=花田雪、写真=Getty Images)
6月開幕なら、実際どれだけの試合数を消化可能?新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、プロ野球の開幕は早くても6月以降にずれ込む見通しとなっている。すでに交流戦は中止が発表され、仮に6月に開幕された場合でもしばらくは「無観客」で開催される可能性が非常に高い。
プロ野球界は恐らく、可能な限りレギュラーシーズンの試合数を減らさない方向で調整を続けているはずだ。中止となった交流戦を除けば、残りの試合数は1チーム125試合。
6月以降の開幕で、これをどこまで消化できるかがカギとなる。そこで議論の対象となりそうなのがクライマックスシリーズ(CS)の在り方だ。
球団のことを考えれば、12球団満遍なく、試合数を確保したいのが正直なところ。ただ、例年通りCSを開催するとなれば、当然レギュラーシーズンの試合数に大きなしわ寄せがくる。
そもそも、今季の開幕予定は3月20日。東京五輪開催の影響で例年より1週間ほど早まる予定だった。仮に6月頭から開幕できたと想定しても、単純に2カ月以上遅れたことになる。球団ごとに多少の差はあるが、当初開幕予定だった3月20日~5月31日までに組まれていた公式戦の試合数は、約60試合。本来であれば5月終了時点でシーズンの4割以上が消化されていたことになる。
その一方で、東京五輪が2021年に延期となったことで、本来であればシーズンを中断する予定だった7月21日~8月13日までの期間も試合が行えることになった。この24日間に週6試合をベースに日程を組み込むことができれば、21試合を追加することができる。
CSを中止にすれば、レギュラーシーズン125試合確保も可能にとなると、理屈上のレギュラーシーズン試合数は以下になる。
シーズン143試合(当初の予定)-60試合(5月末までの予定試合数)+21試合(シーズン中断予定だった期間に行える試合数)=104試合
交流戦を中止にした残る125試合には、あと20試合ほど足りない。
ちなみに、本来であれば今季、セ・リーグは10月17日に全日程を終了、パ・リーグは同12日に終了予定で、CSの開幕は両リーグともに10月24日を予定していた。
シーズン終了から1~2週間弱でCSへと突入する日程だったが、さすがにこの期間内に20試合を消化することは物理的に不可能だ。
ただし、もしCS開催を見送り、レギュラーシーズン+日本シリーズのみの開催とするとどうだろうか。日本シリーズの開幕予定は11月7日。
レギュラーシーズン終了から3週間程度が確保されることになり、プロ野球が現時点で目指す『シーズン125試合』を確保できる可能性はグンと上がる。
これらを踏まえたうえで、今季のポストシーズンの開催について、考えられるケースをいくつか挙げてみよう。
ケース①:CS開催の中止レギュラーシーズンの試合数をできるだけ確保し、なおかつ日本シリーズ終了の時期を変更しないためには、この方法がマストだ。CSが開催される予定の10月末~11月頭までレギュラーシーズンを行えば、各球団が目指す125試合、もしくは限りなくそれに近い試合数を担保できる。
ケース②:レギュラーシーズンのさらなる短縮125試合にこだわらず、あくまでもCS+日本シリーズ開催にプライオリティーを置くのであれば、このプランになる。単純計算で各球団総当たりの20試合制=シーズン100試合、もしくは21試合制=105試合あたりが、当面の目標になるだろう。
ケース③:ポストシーズンの日程変更10月24日開幕のCS、11月7日開幕の日本シリーズの日程を後ろにずらし、レギュラーシーズンの試合数も可能な限り確保したうえでCS、日本シリーズも例年通り行う。日程の調整や球場の確保さえ可能であれば、このプランを選択する可能性は非常に高い。
これは筆者の個人的な意見ではあるが、ケース①のCS中止に関しては断固反対だ。例年、その存在自体に否定的な意見もあがるCSだが、2004年にパ・リーグがプレーオフ制度を導入し、2007年からセ・リーグもそれに追随して『クライマックスシリーズ』としてスタートを切った現行のポストシーズン制は、開始から十数年を経てようやくファンにも浸透し始めている。
このタイミングでCSを中止にするということは、かねてから否定派が言っている「CSはシーズン優勝の価値を下げている」という主張を認めることになる。
「レギュラーシーズン+CS+日本シリーズ」の形がようやく定着しつつある今、その理念を根底から覆すことは避けてもらいたい。もしここでCS中止を決断すれば、「やはりCSは不要なのでは」といった議論が再燃する可能性もある。
となるとやはり、ケース③のポストシーズンの日程変更が一番望ましい。
そもそも6月開幕が不可能になったケースを考える必要があるただ、ここで問題なのがここまでの話が全て「6月開幕」を前提とした話であるということだ。現時点でたとえ無観客でも6月にプロ野球が開幕できるかは不透明だ。むしろ、収束の見込みも立たない現状を考えると、7月、8月までずれ込む、もっといえばシーズンそのものの中止すら考えなければいけない。
この1年間、日本からプロ野球が消える可能性も十分ある。
もちろん、そんな状況は避けてほしいが、例えば9月、もしくは10月以降の開幕となったような「超短期シーズン」になった場合、プロ野球の在り方そのものが大きく問われることになる。
そうなった場合、シーズン125試合やCSの開催といった現行システムにこだわっている場合ではない。
ただ、やり方は他にもある。
ケースα:スペシャルクライマックスシリーズを開催例えば、セ・パ6球団がそれぞれ総当たり戦でグループリーグを行い、上位チームが決勝トーナメントに進む「スペシャルクライマックスシリーズ」のような形式の開催も視野に入れてほしい。
あくまでも仮定の話ではあるが、
6球団が各3試合ずつの総当たりでグループリーグを行う。その上で、上位2チームが3~5試合制の決勝戦を行い、勝ち上がったチーム同士で日本シリーズを戦う。
これであれば、試合数は以下に抑えられる。
グループリーグ
1球団=5球団×3試合(2戦先勝制)=最大15試合
リーグ代表決定戦=3~5試合(3戦先勝制)
日本シリーズ=7試合(4戦先勝制)
最大でも27試合。これなら、1カ月半もあれば日程消化は可能だ。
サッカーやラグビー、大学野球のリーグ戦のように、勝敗ではなく「勝ち点制」を導入しても面白いかもしれない。
当然、長いシーズンと違い、いわゆる「捨て試合」のようなものが一切なくなる。
若手を試す機会や新戦力を起用するチャンスは減るかもしれないが、そもそもシーズンが短縮されれば、そういった現象は起こる。
1カ月半の「超短期シーズン」と考え、毎試合「絶対に負けられない」試合が続くとなれば、超法規的措置とはいえるがこれまでとは違ったプロ野球の魅力も見えてくるかもしれない。
もちろん、シーズン試合数を可能な限り担保し、CS、日本シリーズも現行通り行えるのが理想ではある。
ただ、先の見えない今、プロ野球もいつ終わるかわからない新型コロナウイルス感染拡大の収束を見据えながら、レギュラーシーズン、ポストシーズンの在り方を考えなければいけない。
ここで挙げたようなプランだけではなく、今までにない、画期的な、ファンを驚かすような施策をとって、プロ野球の底力からを見せてほしい。
<了>