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阪神・梅野隆太郎、真の武器はバズーカに非ず。MLB選手も絶賛「地味で痛い」技術とは

REAL SPORTS 2020年5月6日 13時0分

昨季はプロ野球新記録となる123補殺をマークし、2年連続のゴールデングラブ賞を受賞した、阪神タイガースの梅野隆太郎捕手。代名詞の“梅ちゃんバズーカ”が表すように、その強肩ぶりは広く知られている。だが共に戦う仲間たちが虎の正捕手に絶大な信頼を寄せるのには、他に理由がある。今やキャッチャーにとって欠かすことのできない重要な技術、「ブロッキング」に対するこだわりの秘訣を明かした――。

(文=遠藤礼、写真=Getty Images)

梅野のブロッキング技術は、球界屈指の呼び声も高い

“壁”とは「はね返すもの」ではなく「止めるもの」なんだと実感した。阪神タイガース・梅野隆太郎の「あざ」を見た時だ。シーズン中のある日、履いていたジャージをおもむろにまくり上げて見せてくれた両腿には、ちょうど硬式ボール大のどす黒いあざが何個も顔をのぞかせていた。

「これはこの前の東京ドームで。マジで痛かった」

一個、一個、説明してくれた表情は、少し誇らしげに映った。バッテリーを組む投手にサインを出し、ボールを捕球することだけがキャッチャーの仕事ではない。抽象的な表現をすれば「止めること」もその一つ。ボールをそらすことなく、文字通り「体を張って」受け止めることでピンチを防ぎ、時には一つのアウトを確実にすることもある。

日々、行われていく試合の中では見逃されることもある“地味で痛い”技術。そんな積み重ねが、虎の正捕手の見せてくれた“生傷”だった。ボールを後ろにそらさない、この「ブロッキング」は配球、送球、フレーミング(※)と同列で今や捕手が兼ね備えるべき必須能力の一つに数えられるだろう。
(※ ストライクゾーンギリギリの球について、審判からストライクのコールを引き出す技術)

そして“梅ちゃんバズーカ”の名でファンにも定着する強肩のイメージが強い男の「ブロッキング力」は、こちらも球界屈指の呼び声が高い。難しいワンバウンドを止め、投手との信頼も強固にしていく“壁”の極意とは――。

ミットではなく、視線でボールを捕球する?

まず口にしたのは優先順位と秒速の判断力の難しさだった。

「もちろん、全部止めるつもりでいくけど、体で無理だと思ったら手でいく。そこの判断が一番難しい。これはやばい(体では止められない)って思った時は手でいくしかないので。一瞬の判断でコンマ何秒とかになる」

言語化しても、筆者のような素人にはなかなかイメージしづらい世界ではあるが、体なのか、手なのか、瞬時の状況判断で止めにいくパーツを決断していることが分かる。その上で、最も意識するのが「視線」だという。

梅野は、捕手側から見て右にそれるワンバウンドのボールを左手にはめるミットを逆シングルにして止めたり、捕球するシーンがよく見られる。秀逸なブロッキングを象徴する“飛び道具”のような存在。映像を通して見れば、たまたま入っているようにも見えてしまう「好捕」に至るまでの過程を明かす。

「全部、(視線は)下から上を意識してる。ボールがちょっと手前だったら、跳ねるところに合わせていく。小さい時にボールは上から捕りにいくなと教わりましたよね? 下から上じゃないと絶対に捕りにいけないので。体で捕れないって判断をした時に手でいく時は、目線は上がらないように、潜る」

「潜る」と表現したように、地面を這うように低く、いうなればミットではなく視線でボールを捕球するイメージなのかもしれない。

“ワンバンゴー”の抑止が、結果として失点を防ぐ

ミットの操作も独特だ。甲子園の本塁付近の土は掘れやすく、イレギュラーが起こりやすい。他球場なら跳ねるものでも、そのままゴロとなったり、大きく跳ね上がることも少なくない。

「ボールによって、グラブの角度を思い切り変える。ミットも自分で曲げられるところまで曲げる。ボールを真ん中に集めるように。全部角度を変えてやる。止める感覚より、捕る。止めにいきながら、捕る」

左右にそれたなら、ミットで強引に寄せる。止めるのではなく「捕る」ことにこだわるのには、理由がある。

「今はワンバウンドゴーが主流。相手に“あのキャッチャー捕るな”と思わせたら、なかなかスタートは切れない」

走者が「跳ねる」と思った瞬間にスタートを切る“ワンバンゴー”の大きな抑止にもなり、結果的に失点を防いだ経験は、一度や二度ではない。

元同僚のメジャーリーガーも絶大な信頼を寄せる

一瞬の判断がチームを救う一方、「それが一番怖い」と話すように、後逸してしまえば時には致命的な局面を招くこともある。サインが決まり、モーションに入った投手の手からボールが離れた瞬間から始まっているブロッキングを「相撲」に例えた。

「立ち合いの“のこった”ってあるじゃないですか。自分はあのイメージで。変化球のサインを出したら、視線を低くして、その時(ボールが左右にそれる時)にすぐに足が出るように。逆シングルの時は左足が出るように。(自分のブロッキングは)足が動かないと無理なんで」

昨年、梅野はシーズン123補殺をマークして65年ぶりにプロ野球記録を更新した。ブロッキングを生かした振り逃げ阻止などのたまものともいえる快記録。2018年から2年連続でゴールデングラブ賞も手にし、球界を代表する捕手への道を歩んでいる背番号44に、仲間たちも絶大な信頼を寄せていた。今季からサンディエゴ・パドレスに所属するピアース・ジョンソンは鋭角に落ちるカーブを何度も止めてもらった記憶がある。「あれだけ止めてくれたら、どの投手も自信を持って腕が振れるよ」。トロント・ブルージェイズに移籍したラファエル・ドリスも「安心して、どのカウントでもフォークを投げられる」とうなずく。

“生傷”の絶えないポジションで、チームのため、投手のためにそびえ立つ壁。梅野の受け止める一球、一球には捕手としての技術と執念が凝縮されているようにみえる。

<了>







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