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Jユースと高体連の明確な違いとは? 東福岡・志波総監督が語る、育成年代の加速度的変化

REAL SPORTS 2020年5月21日 12時26分

さまざまな人の尽力により創設された、高円宮杯 JFA U-18サッカープレミアリーグ。2011年に幕を開けた2種(高校生)年代最高峰の戦いは今季で10年目を迎える。この場を経験した選手たちが10代で海外へと羽ばたくなど、着実に進歩を遂げる日本の育成年代をより発展させる上で、プレミアリーグのさらなる成熟は欠かせない。東福岡高校で50年近く指導に携わる志波芳則はどのように見ているのか。本山雅志、長友佑都らを育て上げた名伯楽の考えに迫る。

(インタビュー・構成=松尾祐希、写真=Getty Images)

“赤い彗星”指揮官が語るJユースと高体連の違い

1997年に高校サッカー界で前人未到の偉業を成し遂げたチームがある。夏のインターハイ(全国高等学校総合体育大会)、秋の全日本ユース(日本クラブユースサッカー選手権[U-18]大会/現・高円宮杯 JFA U-18サッカープレミアリーグ)、冬の選手権(全国高校サッカー選手権大会)をすべて制し、トリプルクラウンを達成した東福岡高校だ。最高学年の本山雅志、手島和希、古賀誠史、2年生の金古聖司、宮原裕司、千代反田充を擁した“赤い彗星”は敵なしで、同年の公式戦は52試合無敗と圧倒的な強さを誇っていた。翌年も選手権を連覇。東福岡は一気に全国で名の知れた存在となった。あれから23年。今も高校サッカー界の最前線を走る東福岡。プレミアリーグには初年度から参加し、WESTでは高体連(全国高等学校体育連盟)で唯一、10年にわたりプレミアリーグで奮戦を続けてきた。名将は10年連続で大会に参加し、何を感じたのか。今後はどのように進化を遂げていくべきか。ポイントは学校教育とサッカーの融合だった。


――プレミアリーグの歩みをどのようにご覧になられていますか?

志波:高体連、タウンクラブ、Jクラブのアカデミー。同じU-18世代の選ばれしチームが戦い、毎週のようにレベルの高い試合を経験させていただいています。本当にありがたいですよね。

――10年前に創設された当初は戸惑いもあったと思います。それまでは高体連同士の戦いがメインでしたが、Jユースと戦う機会が増えたのはどのような意味合いがあったのでしょうか。

志波:これをいうと高体連のチームに失礼かもしれないけど、一人ひとりの質はJクラブのアカデミーが高いと感じています。それは選ばれし者がJユースで育てられているからですよね。ただ、高体連とJクラブのアカデミーでは考え方に違いがあります。

 高校年代を育成年代と捉えるのか。それとも、トップで活躍するための準備期間なのか。チームの考えによって変わってきます。ユース年代を育成と捉えて個の能力を伸ばしたいのであれば、子どもたちの個性をうまく引き出せるように育成したほうがいいですよね。逆に彼らをトップチームのメンバーに引き上げる目的があるのならば、トップの戦術や戦略に見合った選手を育てます。

 ただ、高体連の場合、次の進路が大学やプロであれ、上のレベルでもう一度セレクトされます。なので、今後の可能性も踏まえ、「彼のパフォーマンスでストロングポイントはここだから、さらに伸ばしてみよう」という育て方は往々にしてありますよね。そこがクラブと高体連で若干違うのではないでしょうか。

青森山田の素晴らしい戦い方

――確かにそのような違いはJリーグの下部組織と高体連でありますよね。

志波:そうですね。ただ、サッカーのスタイルも異なる点も忘れてはいけません。全体的にJのアカデミーはボールポゼッションをきちんとやってきます。GKも含め、ディフェンスラインから動かしながら相手を崩してくるので、ボールを持つ時間帯は長くなりますよね。ただ、一番重要なのは最後の局面。そこを突破できなければ、打開ができません。

 やはり、高体連はゴール前で個に頼るというのが難しいんです。なぜならば、質を持っている選手が少ないからなんですよ。個人技に頼れないので、チームの戦術や攻撃の形をきちんと作って、フィニッシュまで持っていくしかありません。攻撃のパターンとまではいいませんが、それが必然的に作られないと、得点につながらないんです。

 あとは青森山田(高校)みたいに身体能力が高いのであれば、セットプレーに特化する方法もあります。例えば、身長が高い、ロングスローを投げ切るプレーヤーがいる。リスタートをしっかりと生かし、ボールが動いていない状態から得点を確実に挙げていく。それも一つのサッカー。それで得点を重ねていくのは、本当に素晴らしい戦い方ですよね。

――逆に高体連のチームはリーグ戦でポゼッションをする相手と向き合うことが増えました。一方で、選手権などの県大会ではボールを握れる機会が多くなります。リーグ戦とトーナメント戦で嗜好するサッカーがまったく逆になる中で、いろんなスタイルの相手にチャレンジできるようになった点はどのように捉えられていますか?

志波:さまざまなスタイルの相手と対戦できるのはプラスですよね。ただ、異なる戦い方を完全に消化しきれていない現実もあります。それを選手たちは頭で描いているけど、状況に応じて戦う際に臨機応変に対応する実行能力がそこまで高くありません。となると、狙い通りにハマらない場面が出てきますよね。

プレミアリーグの目標は何か?

――ここ10年を見ていくと、EASTとWESTでスタイルの色が鮮明に分かれました。EASTは堅実でWESTは得点の取り合いになっています。そこはどのように見られていますか?

志波:現在、10チームずつが参加しています。WESTとEASTの共通点は、ともに高体連が最低2チーム、多くても4チームぐらいな点です。そうすると、3分の2以上はJクラブのアカデミーになるので、前述の話と重複しますが、リーグ戦も母体になるトップチームの戦い方が色濃くなります。なので、EASTが手堅いというわけではないんです。例えば、鹿島アントラーズは勝負をきっちりモノにしていきます。一人ひとりがやるべきプレーを徹底していますし、チームからも要求されていますよね。逆にWESTでいえば、サンフレッチェ広島はまたちょっと違う戦い方ですが、ヴィッセル神戸、ガンバ大阪、セレッソ大阪はトップチームの影響を受けて個性の強い選手を育てています。好きなようにやっているわけではないけど、攻撃のバリエーションも多いので、サッカーの違いをかなり感じますね。

――となると、この10年間でリーグ戦の色が出たわけではなく、トップチームの色がユースにも伝わったと考えるべきなのでしょうか。

志波:そうですね。ただ、日本サッカー協会として、プレミアリーグの目標は何かというのは考えなければいけません。初期の全日本ユースもそうでした。チーム単位で戦う以前の大会は地域の選抜大会だったんですよ。なぜ、選抜チームでの大会形式になったのかというと、各都道府県から世界に通用する選手をみんなで育てる目的があったからなんです。

 一人でもいい、二人でもいい。将来有望なプレーヤーを集めて、地域で一つのチームを作って大会に挑む。そこから日の丸をつけ、世界で戦える者の育成が一つの理想論だったんです。ただ、10年前に今のプレミアリーグが創設された段階で上の世代につながるという考え方があるけど、それが日の丸を背負うためなのか、それともクラブのためなのか。その思考が分かれてきた気がしますね。

大切なのは、サッカーを通じての人間教育

――そうだったんですね。それは知らなかったです。

志波:要するにプレミアリーグの元の元は、日の丸をつけて世界と戦う選手の育成でした。以前はそれだけ世界に通じるプレーヤーがいなかったんです。でも、今は違います。日本にJリーグができて、いろんな強化を経て世界で戦えるようになりました。それはそれで構わないのですが、特にJリーグのユース年代は、さっきも言ったように自クラブのトップチームで活躍できる選手を一人でも多く育成する点が主眼にあります。高体連もプロや大学で活躍できる子どもを育てないといけません。もちろん人間教育もしないといけませんが、基本的に高体連もユースと同じ方向性を持っているんですよ。

 ただ、要するにクラブと高体連の違いは進路選択の幅で、指導方針にも影響を与えますよね。高体連はトップチームを持たないのでオファーを見て、行き先を決められます。クラブのトップに上がりたい者がユースにいくのであれば問題ありませんが、プロサッカー選手になるための最短距離がユースという形で、何となく進んでいる気がしないでもありません。大学側もJユース出身者が早く戦力として計算できるので、そうした獲得の傾向になりつつあります。

――そこは10年前より加速しましたか?

志波:そうですね。われわれもJユースに取り残されないようにしないといけません。ただ、根本的な考え方は、今も昔も変わりません。大切なのは、サッカーを通じての人間教育なんです。もちろん、育成年代だからといって、人間教育のモノサシで規律だけを重んじ、サッカーが横に置かれてしまうのはよくありません。好きなスポーツをしながら、なおかついろんなものを学ぶスタイルであるべきなんです。

 高体連の場合だと、授業中の様子も教員から情報が入ってきます。一昔前のJユースは学校との連携があまりなかったのですが、現在は通信制も含めて高校と提携している場合があります。そのようなJアカデミーが増えているのはいい傾向です。チーム単位で一つの高校にまとめて送り込み、学校での状況を一括して把握できるのは素晴らしく、クラブの指導者も密に学校と連絡が取れます。学校生活を把握できれば、Jアカデミーはサッカー以外の指導もさらに取り組んでいけるかもしれません。

同じクラスに「世界一」がいる環境

――東福岡は部活動が盛んで、ラグビーやバレーボールも強豪です。学校生活の中で、他競技から刺激をもらう機会が多いのもメリットの一つですよね。

志波:東福岡は特進英数コース、特進コース、進学コース、中高一貫コースしかありません。なので、同じクラスにスポーツで全国レベルの子どもたちが普通にいます。そこで切磋琢磨しているという話は、よく聞きますね。昔はそうではありませんでしたが、今はラグビー、バレーボール……他のクラブも含め、どの部活も全国に出て当たり前の環境があります。

 ラグビー、バレーボール、サッカーは日本一の経験がありますが、2018年に陸上部の出口晴翔君が男子400mハードルでユースオリンピックを制し、金メダルを獲得しました。やっぱり、世界一になったと聞けば、日本一が小さく見えてしまいますよね。

 ただ、スポーツばかりで勉強をおろそかにしているわけではありません。昔は成績が悪くても助けていましたが、今は点数を取れなければ、補修があります。今の子どもたちは大変ですが、すべての面で甘えがなくなりましたし、「これぐらいでいいだろう」という考え方を持つ生徒が少なくなりましたね。

プレミアリーグ改革の課題はコスト面

――プレミアリーグの改革についてはどのように考えていらっしゃいますか?

志波:EASTとWESTで10ずつ戦うレギュレーションは悪くありません。ただ、12チームずつにしてもらえるのであれば、ありがたいなと感じています。もしくは、プレミアリーグの1部、2部ができれば、また面白いのではないでしょうか。また、東西で分けるのではなく、全国で統一して10チームや12チームでリーグ戦を行うのも一手です。東西に分けなければ、ファイナルを行わなくてよくなります。

 ただ、改革の課題はコスト面です。ユース年代は学校教育を受けている年代なので、教育現場とクラブの連携が不可欠です。サッカー協会の問題にもなりますが、そこのコントロールをして、すり合わせが改革のポイントになるのではないでしょうか。

――プレミアリーグを改革するのであれば、各地域のプリンスリーグの改革もセットで考えるべきでしょうか?

志波:そうだと思います。プリンスリーグも九州では2部を作るという話が出ています。関東や関西で2部を作る話が出ているので、九州もそれに習う形になるのではないでしょうか。

――以前、プリンスリーグ九州が2部制だった期間、東福岡高校セカンドで2部を戦った時期があります。下級生が1つ上の戦いを経験し、2014年からインターハイを2連覇しています。早い段階で高いレベルのリーグ戦を体感できるのはプラスですよね。

志波:そうですね。ただ、試合数が本当に多いんです。現在、東福岡はU-16のリーグ、プレミアリーグ、県1部、2部、3部も戦っており、ハード面が大変です。コストも掛かりますし、練習のグラウンドも一つでは足りません。現状ではピッチは一つしかないので、うまく使い回さないといけないんです。

――最後にまとめになりますが、次の10年をやっていくためにはどうすべきなのでしょうか。一本化された日本サッカー協会という組織をうまく使いながら、子どもたちのためにやっていくスタンスが大事になりそうです。

志波:まさにその通りで、基本的には子どもたちのために運営することが大切です。プレミアリーグは選手たちをさらに高いレベルに引き上げ、育てていく大会にしなければなりません。そこが一番大事。プレミアリーグを戦えば、高体連の試合でさらに結果が生まれます。なので、WESTで高体連のチームが一度も制していないので、次の10年で一度は優勝したいですね。

<了>






PROFILE
志波芳則(しわ・よしのり)
1950年、福岡県生まれ。福岡商業高校(現・福翔高校)、日本体育大学を経て、東福岡高校に赴任。サッカー部の監督に就任すると、寺西忠成コーチと二人三脚で指導を行い、1993年に冬の高校サッカー選手権で初のベスト4入りを果たし、1995年には山下芳輝、小島宏美らを擁して2度目の準決勝進出を経験。2年後には本山雅志などの黄金世代がインターハイ、全日本ユース、選手権の3冠を達成し、翌年も選手権を連覇した。以降も長友佑都らを育て、現在は総監督としてチームに携わる。

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