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いつか虎のエースと呼ばれる男…阪神・髙橋遥人が噛み締めた、巨人・菅野の遠い背中

REAL SPORTS 2020年8月21日 19時3分

今季2度目の登板となった18日の巨人戦、菅野智之と堂々と投げ合う姿に多くの称賛が集まった。だがそれでも、結果以上の“距離”を感じた。プロ3年目の24歳、髙橋遥人は、マウンドで味わった苦みをかみしめ、いつか虎のエースと呼ばれるに違いない――。

(文=遠藤礼、写真=Getty Images)

「あれがエースなんだ」近いようで遠かった、菅野の背中

24歳の目に「エース」の姿はどう映っただろうか。18日、東京ドームで行われた「伝統の一戦」は、緊迫感あふれる投手戦が展開された。結果からいえば、1対0で読売ジャイアンツが勝利。菅野智之が最後までマウンドを守り抜き、完封で開幕からの8連勝を決めた。

対照的にベンチで敗戦をかみしめたのは、タイガースの3年目・髙橋遥人。失点は4回に浴びた岡本和真のソロのみで、降板した7回までの被安打2は菅野を下回った。今季2度目の登板で喫した悔しい黒星。濃密な143分間で、若き左腕のアンテナに飛び込んできたものは少なくなかった。

「やっぱり見ていてもすごいなという。1回から9回まで(ボールの)精度だったり、強さが変わっていなかったので。何年も投げて、中5日でああいう投球をする。ああいう人がエースなんだと」

表面上は互角の投げ合いを演じながらも、日本を代表する右腕の「すごみ」が脳裏に焼き付いていた。近いようで遠かった。結果以上に“距離”があった菅野の背中。試合後、矢野燿大監督は「この先」を見据えるように言った。

「“あのピッチャーにどう勝つか”っていうのは遥人の中でも大きな自信になると思うので。これからもまた投げ合うことも出てくると思うので、モチベーションにしてもらえたらいい」

いずれは髙橋がその看板を背負い、エース同士のマッチアップに昇華すれば――。指揮官は、そんな未来を思い描いた。

次代のエースと期待されるだけの、類いまれな潜在能力

かつて大黒柱として君臨した井川慶の背番号「29」をまとう本格派のサウスポー。その潜在能力で周囲をうならせ、夢を抱かせてきた。中学時代は永遠の“2番手投手”で、亜細亜大時代も通算5勝止まり。アマチュアではその力を存分に発揮することはかなわなかったものの、2017年のドラフト2位指名という事実は、将来を見込んだ球団の評価そのものだ。翌年、当時の金本知憲監督は1月に行われていた新人合同自主トレでブルペン投球を目にし「すごい。あれ打てないと思うよ」と初見で絶賛。まだユニホームは着られず、ジャージにビブス姿の初々しいルーキーにほれ込んだ。

キャンプは2軍で過ごし、開幕間もない4月に早速、1軍に昇格。甲子園で行われた4月11日の広島戦で7回無失点の好投を披露し、初登板初勝利と鮮烈なデビューを飾った。武器は、“鉄人”もうならせた最速151kmの直球。そして、東浜巨(ソフトバンク)らOBが操る“亜大ツーシーム”に加え、カットボールなど変化球も質は高い。特徴は、どの球種もホームベースから7.2mの空間にあるとされる「ピッチトンネル」を通ること。直球も変化球も「ピッチトンネル」まで同じ軌道をたどり、打者にとって見極めは難しくなる。

次代のエースは髙橋遥人――。そう抱かせるだけのポテンシャルを秘めるルーキーの登場に夢は膨らんだが、早々に挫折を経験することになる。1年目の6月に左肘を痛めて戦線離脱。その年はマウンドに戻ることができず、長いリハビリ生活は、冬まで続いた。「みんなが野球をやってる時に自分は何をしてるんだ」。ノースロー期間にかかわらずボールを持ち出して、トレーナーに叱責(しっせき)されたこともあった。1軍で腕を振った約3カ月の時間が幻だったのではないか。現実と向き合えるまで時間はかかった。

挫折も敗戦も成長の糧に。キャンプで取り組んだ新たな武器

それでも、地道でつらい道のりの先にあったのは、刺激にあふれた成長の場。2年目の2018年はシーズン序盤からローテーションに加わって、シーズンを完走した。18試合に先発して、白星こそ3勝(9敗)と伸びなかったものの、経験という財産を得た。3年目を迎えるに当たってこう明かしていた。「昨年は、目の前の一球しか正直考えられなかった。それだけで精いっぱい。でも、たくさん負けた中で、ストライクを取れる変化球がいかに大事か分かった」。

昨秋、今春のキャンプでは一貫して変化球の精度アップに取り組んだ。カットボールに関しては「左打者には横ではなく、斜めに曲げてやろうと」と直球の軌道から鋭く大きく曲がる「スラッター」に近づけた。緩急を生かすべく新球のカーブにも着手。どれも、幾多の痛打から浮かび上がった伸びしろだ。そして、意識する存在もできた。

「よく打たれましたけど、昨年、(巨人の)岡本に投げる時が一番ワクワクした。楽しかった。自分の中ですごくスリルがあって」

昨年、対戦打率.333と打ち込まれた主砲を抑えるイメージも描いてきた。今季初登板だった8月6日の巨人戦では丸佳浩を「斜めに曲げてやろう」と言っていたスラッターで空を切らせ、そして岡本は、3打数無安打に封じた。

しかし、リーグ首位を独走するジャイアンツは、甘くない。2戦連続の白星を狙った敵地での一戦で菅野、岡本という投打の軸に付けられた土。きっちりと借りを返された。1失点でも敗戦投手になる。チームを背負った投手と投げ合うとはそういうことだ。今は、マウンドで味わう苦みが髙橋を強くする。エースまでの“距離”を縮める日々は続いていく。

<了>








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