いよいよ明日から「真の高校バスケットボール日本一を決める大会」ウインターカップが開幕する。今年は新型コロナウイルスの感染拡大の影響でインターハイや国体が相次いで中止となったため、各チーム並々ならぬ思いを持って挑む大会となる。そのなかでも、昨年の大会決勝で史上初の“福岡決戦”となった福岡第一高校と福岡大学附属大濠高校が今大会も順当に出場枠を確保。組み合わせも分かれ、2大会連続の決勝での再戦も期待されている。今では「バスケ王国」とも評される福岡県勢はなぜここまで力を伸ばしてきたのか?
(文=三上太)
2年連続の“福岡決戦”の可能性は十分ある新型コロナウイルスの感染拡大は高校バスケット界にも大きな影を落とした。インターハイや国体、地方ブロック大会が軒並み中止に追い込まれ、いわゆる強豪校と呼ばれるチームの選手たちでもプレーする意味を失いかけていた。
しかし10月19日、日本バスケットボール協会は「真の高校日本一を決める大会」といわれるウインターカップの開催を発表。予選方式は各都道府県協会に委ねられたが、目指すべき大会ができたことで、日々の練習に熱がこもるようになった。
各都道府県代表と、9つの地方ブロック代表(関東のみ2枠)、開催地枠、そして今年は登録学校数の多い2都県にも出場枠が与えられ、男女各60校がウインターカップ本戦に出場する。
なかでも注目なのは、男子としては史上4校目、女子を含めても5校目となるウインターカップ3連覇を目指す福岡第一である。昨年は、大会後に“高校生Bリーガー”として注目を集めた河村勇輝を中心に連覇を達成。しかも決勝戦の相手は同じ福岡県の福岡大学附属大濠だった。史上初の“福岡決戦”にも注目が集まった。
そして2020年、新型コロナウイルスの影響があったとはいえ、両校はそろってウインターカップ出場を決めている。福岡第一は県予選を1位で突破したが、2月の九州ブロック新人大会で優勝したこともあって「九州ブロック代表」として、同2位の福岡大学附属大濠は「福岡県代表」としての出場である。組み合わせもしっかり分かれ、再戦するには今年も決勝戦まで勝ち上がらなければならない。その可能性も十分にある。
なぜここまで福岡県勢が力を伸ばしてきたのか?しかしなぜここまで福岡県勢が力を伸ばしてきたのか。専門サイトには福岡県を「バスケ王国」と記すところもある。かつて、いや、今もそうだが「バスケの街」と呼ばれているのは秋田県能代市である。全国制覇58回を誇る県立能代工業高校を抱える都市だ。その「街」を上回る「王国」はどのように築かれたのだろうか――。
まず挙げられるのは福岡第一と福岡大学附属大濠がライバル関係にあることだ。
かつての福岡県は福岡大学附属大濠がほぼ覇権を独占していた。しかし1990年代後半から福岡第一が台頭し始め、2000年代に入って留学生が加わると、その戦いはさらに激化していく。
福岡大学附属大濠の片峯聡太コーチは「(福岡)第一の存在がなければ(福岡大学附属)大濠がここまで安定することもなかったでしょうし、第一もウチがいなければぬるま湯につかって、あの圧倒的な強さを出すところまでにいかなかったでしょう」と認める。
一方の福岡第一を率いる井手口孝コーチはもう少し過激だ。昨年のウインターカップ終了後、「(決勝戦で)負けたら、学校に辞表を出すつもりだった」と明かしている。その2年前、同じくウインターカップの準決勝で福岡大学附属大濠に敗れ、悔しい思いをしていた。それが今度はより高い舞台での対戦である。福岡県バスケットボール協会の理事長も務める井手口コーチは「決勝戦は福岡県対決を」と言いながら、両校が勝ち上がっていくにつれ、心のどこかで「大濠は負けてくれんやろうか。負けんのなら、ウチが負けたほうがええっちゃないか」とさえ思っていたそうだ。葛藤である。しかしそのいずれもがかないそうにないとわかったとき、井手口コーチの脳裏に福岡大学附属大濠に負けたら辞表を出す考えが浮かんだのである。
同じように都道府県内でライバル関係にある学校は他にもある。例えば京都府は洛南と東山が毎年のようにせめぎ合い、近年の新潟県は開志国際と帝京長岡が切磋琢磨を続けている。それでも福岡県が「バスケ王国」と称されるのはより強いライバル心、たとえ全国の強豪校に負けても、“彼ら”にだけは絶対に負けてはいけないという意識があるからこその産物なのである。
むろんお互いへの対抗意識だけではない。
サイズの大きいオールラウンダーと、小さなポイントガードリクルートとチーム作りの妙もある。
両校ともに全国から有望な選手が集まってくる。より広範囲という意味では福岡大学附属大濠のほうがやや上回っているだろうか。しかも同校には中学時代に有望だった、比較的サイズの大きい、それでいてオールラウンドにプレーできる選手が集まってくる。片峯コーチの下でそうした選手たちが成長し、大学やBリーグで活躍する姿が、また次のオールラウンダーを呼び込んでくるわけである。
一方の福岡第一は、サイズこそ留学生に頼るところもあるが、同校のベースはポイントガードにある。小さいけれども機動力があり、運動量も豊富、得点能力も高い。2016年度の重富友希・周希の「重富兄弟」がそうであり、昨年度の河村&小川麻斗もそうだった。彼らを攻守の起点として、常に前へ、前へと進んでいくスピーディーなバスケットは見る者を魅了する力がある。井手口コーチは若い頃「県立能代工業のバスケットの真似をした」と言うが、まさに往年の県立能代工業のバスケットを見るような、そこに高さも加えた進化するトランジションバスケット――攻守の切り替えが速いバスケット――を築いている。
もちろん福岡大学附属大濠にも優れたポイントガードは多い。卒業生でいえばレバンガ北海道の橋本竜馬や、川崎ブレイブサンダースの青木保憲、アルバルク東京の津山尚大、筑波大学の中田嵩基らである。そのうち橋本や中田、今年のポイントガードである平松克樹はいずれも福岡県出身。上記の重富兄弟、小川麻斗もそうだ。
ここにもう一つの福岡県の強さがある。
育成は十把一絡げにしてはいけないつまり福岡県のミニバスケット(小学生)と中学バスケットは指導者の質が高く、身長が高くない選手であってもガードとして生きる道筋を、それぞれの年代できっちりと教わっている。それが西福岡中学の鶴我隆博コーチであり、近年では元プロバスケットボールプレーヤーの青木康平氏も福岡でクラブチームを立ち上げ、育成に取り組んでいる。
ポイントガードは「チームの司令塔」とも呼ばれ、一朝一夕で育てられるものではない。「経験のスポーツ」ともいわれるバスケットのなかでも、育成に一番手間ひまをかけなければならないポジションかもしれない。それを幼いうちから伝えられた選手たちの進路として、福岡第一と福岡大学附属大濠がある。片峯コーチはこう言っている。
「悪い面もあるかもしれないですけど、福岡県はちょっと古風な指導形態が定着しているところがあります。ただ今年のポイントガードである平松もミニバスから相当厳しい練習をしてきて、だからこそ、自然に負けず嫌いだし、歯を食いしばって頑張れるし、目の色を変えてボールを追えるんです。そういう魂をジュニア期に注入されている選手は多いですよね」
将来を見据えて、若いうちはスポーツを楽しむことから指導しよう。近年はそうした風潮が強くなっている。それはけっして悪いことではない。むしろ多くの子どもにはそうあるべきだ。しかしそうではない指導法で育つ子どもも、少なからずいるはずだ。厳しい練習の中でもバスケットを楽しみ、考えられる力がつけば、それは彼らの未来につながっていく。十把一絡(じっぱひとから)げにしてはいけない。少なくとも福岡第一と福岡大学附属大濠を牽引してきたポイントガードたちの多くは、そうしたなかから生まれてきた。
福岡県の強さは絶対に負けられないライバルがいて、そのいずれもが、それぞれのカラーで真っ向勝負をするところにある。そうした選手をジュニア期から、県協会としての方針ではなく、負けず嫌いな指導者たちが全力で育てていく。そこに全国各地から多才で、有望な選手が加わることによって、太い幹がより太くなっていく。
高校バスケットは人生の“通過点”かもしれない。しかしながら、その通過点を勝利にこだわって、懸命に過ごすことで開かれる未来もある。
<了>