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阪神・佐藤輝明“規格外”の証明。藤浪の見通しを超越する「チームの命運を分ける存在」

REAL SPORTS 2021年3月12日 11時30分

阪神ドラ1“規格外”のスラッガーが、早速その存在感を示している。チーム春季キャンプの話題を独占し、オープン戦でも昨季最多勝&最高勝率の石川柊太(ソフトバンク)から初打席で本塁打を放った。このルーキーは果たしてどこまで進化するだろうか――。「スポーツニッポン(スポニチ)」で11年阪神担当記者を務める遠藤礼氏に“怪物”の姿を伝えてもらった。

(文=遠藤礼、写真=Getty Images)

ドラフト1位、規格外のスラッガー、怪物新人…、その名に違わぬ輝き

「佐藤輝明の春」を象徴するラストシーンだった。1カ月の“締め”は、かりゆしホテルズボールパーク宜野座の右中間への強烈な弾丸ライナー。春季キャンプ打ち上げ日となった3月1日、最後の屋外フリー打撃でトリを務めたタイガースの新背番号8は、打撃コーチの「最後は放り込め」の声に5スイング目で応えてみせた。

「(スタンドに)入れないと終われない雰囲気だったので。はい、狙いました」

無観客で実施された阪神タイガースの2021年春季キャンプで話題を独占したのは、沖縄での日々で「怪物」と称されるようになった22歳だ。佐藤輝明――。現場で取材する身として、その名前を聞かない日は本当に一日もなかった。報道という表面的な部分を見れば分かりやすい。スポーツニッポン(関西版)では2月1日から3月1日までの1カ月間で「佐藤輝」が1面を飾ったのは実に10回を数えて断トツトップ。単純計算でも3日に1回は紙面の主役を担っていたことになる。

感覚としては、もっと多かった気もする。キャンプ初日、打ち上げ日もそろって1面。これは、故障などで離脱することなく戦い抜いたことに加え、期待外れに終わらず終盤になってもその輝きが全く衰えることがなかった証しともいえる。躍った見出しも規格外だ。「バット折って柵越え」「140メートル弾」「超通天閣打法」……。形容されたプレーヤーも柳田悠岐、吉田正尚……。映像でしか目にすることができなかったファンにとっても「佐藤輝明幻想」はどんどん膨らんでいったはずだ。




物おじせず、チームに自然と溶け込む姿

コロナ禍で取材制限が厳しく設けられたため、筆者はほとんど本人を取材する機会はなかった。対面取材に1度、加わったぐらいだと記憶している。それでも、気付くことや分かったことは少なくない。チームの中心選手である梅野隆太郎と、キャンプ序盤で佐藤の話題になった時、自然と「テル」と呼んでいたことが何となく印象に残った。佐藤ではなくテル。何でもないことかもしれないが、すでに先輩選手にもかわいがられ、集団に溶け込んでいるんだなと勝手に想像してしまった。

実際、外野でのノックなどを見ていても、ほとんどが先輩の中でも物おじしていないように見えるし表情も実に豊か。本塁打を打った際にベンチ前で披露する「ゴリラポーズ」も定着しそうな勢いだ。さすがは大学屈指のスラッガーとして昨秋ドラフトでは4球団が指名した逸材。周りに流されたり周囲に圧倒されるような気配は微塵も感じなかった。

何より、結果が伴った。対外試合デビューとなった2月9日の日本ハム戦では5回無死一塁から鈴木健矢のスライダーを捉えて右翼ポールを越える“1号”。「飛距離は十分かなと。あとは切れるか切れないか」の言葉は新人とは思えない重厚感があり、幼い頃から幾多のアーチをかけてきた男ならではだろう。たとえ凡退しても、強靭(きょうじん)な体躯(たいく)から放たれるパワフルなスイングは対戦した投手に恐怖を植え付けていた。

「プロでも捉えられればホームランにできるのは分かった」

矢野燿大監督が紅白戦で演出し、新旧ドラ1対決として注目され、空振り三振に斬った藤浪晋太郎も「ファーストスイングで(ボールが)当たったら怖いなと思った。当たるようになったら飛距離も出る」と振り返った。そんな右腕の見通しよりも、随分早くプロの投手にも対応。2月18日のDeNA戦では9回に直球を仕留めてアトムホームスタジアム宜野湾の右中間にあるスコアボードを飛び越えていく推定140メートル弾を打ち込むと、3日後の21日には広島の次代エース・森下暢仁の直球を捉えて右中間を破る二塁打を放った。

2月はチームの実戦全11試合に出場し、41打数15安打の打率.366、2本塁打、9打点。ベールを脱ぐまでは「プロでは苦労する」との声も無かったわけではないが、申し分ない数字を残して“雑音”を払拭(ふっしょく)した。沖縄入りする前は、期待を込めてのレギュラー候補だった若武者が、今は開幕スタメンの最有力に躍り出ている。井上一樹ヘッドコーチもキャンプを総括し「チームの命運を分けるのは佐藤輝の働きだと分かった」と結んだ。

沖縄での全メニューを消化した3月1日の昼下がり。実力の一端を証明した刺激的な29日間を振り返る言葉には、説得力があった。

「長打力、振るのはプロでも負けていないし、しっかり捉えられればホームランにできるのは分かった。でも、まだまだ捉える確率が足りていないのも分かりました」

見る者に衝撃と期待を抱かせた南国での時間は、佐藤輝明にとってはかけがえのないものになった。「アーチスト」としてプロでも生きていく――。そう決断できたのだから。

<了>






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