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NZデビューの姫野に松島。なぜ今ラグビー日本代表は世界で求められる? エージェントが明かす移籍市場原理

REAL SPORTS 2021年3月27日 8時12分

松島幸太朗は昨夏から世界最高峰のフランスリーグに挑戦し、姫野和樹は今冬ニュージーランドに活躍の場を移した。2019年ラグビーワールドカップで列島を熱狂の渦に巻き込んだ桜の戦士たちが、世界から注目を受けている。なぜラグビー日本代表の海外移籍が続くのか。姫野のエージェントも務めるヘイロー・スポーツ社の栗原雄我氏が、世界の移籍市場の原理を明かしてくれた。

(文=向風見也)

一昔前には考えられなかった、世界から日本代表への注目度の高まり

ラグビー日本代表勢の海外挑戦が相次いでいる。

2019年のラグビーワールドカップ日本大会で5トライを決めた松島幸太朗は昨夏から、フランスプロリーグのトップ14に挑戦。強豪のASMクレルモン・オーヴェルニュでレギュラーとなり、弾力性のある走りを披露している。

さらに今冬、やはり日本大会でブレイクした姫野和樹がニュージーランドのハイランダーズに加わり、デビュー戦で早速存在感を示した。突進、ジャッカル(接点で相手の球に絡むプレー)といった、ぶつかり合いで世界へ挑める日本人選手として期待されている。

「2015年のワールドカップでは、日本代表は決勝トーナメントにこそ行けなかったものの南アフリカに勝つなど世界を驚かせるパフォーマンスをした。さらに2019年の日本代表の活躍があったことで、日本人の選手も――正直、まだまだ完全に同じ土俵の上に立ったとは考えていませんが――世界のラグビーからもようやく注目され始めてきたと思っています」

こう語るのは栗原雄我氏。世界中のラグビー選手とラグビーチームをつなげるアスリートマネジメント会社、ヘイロー・スポーツ社で働く。日本代表選手の注目度が高まった背景には、2015年のワールドカップ・イングランド大会以降の日本代表の躍進があるとうなずく。

「(現在は)世界のクラブチームからバイネームで(日本人選手の)契約状況がどうかを聞かれることもあります。姫野がハイランダーズに行くことがアナウンスされた時には、SNSで海外のファンが『あのナンバーエイト(姫野の定位置)はよかったよね』『活躍するんじゃないか』とコメントしていました。世界の一般のファンの方が日本の一選手のパフォーマンスを語るなんて、一昔前には考えられませんでした」

「ラグビーは人が人を呼ぶスポーツ」 姫野のNZ移籍の要因

姫野が加わったハイランダーズは、現日本代表ヘッドコーチのジェイミー・ジョセフが率いたことのあるクラブだ。さらに現在は、日本代表のアタックコーチとしてジョセフを支えるトニー・ブラウンが指揮官を兼務する。

栗原氏は姫野のエージェントを務める。こうも続ける。

「成功しているチームを見ると――一部の例外はありますが――その組織の指導者やマネジメントの方が、(別の場所で一緒に働くなどして)もともと知っている選手を呼びたがる傾向があります。ラグビーは、人が人を知って呼ぶという色が出やすいスポーツだと感じます。今回は、トニー・ブラウンが彼を欲しいと思ったから呼んでくれたと思います。ジェイミー・ジョセフからも、今回の姫野の海外挑戦は日本代表のヘッドコーチとしてもぜひやってほしいという話をもらっていました。ハイランダーズのスタッフが姫野の人間、プレーを知っているということは、今回のオファーにつながった大きな要因だとは思っています」

日本代表は2016年以降、サンウルブズという装置を強化に活用してきた。

サンウルブズは、ハイランダーズなどが参加する国際リーグのスーパーラグビーへ日本から参戦。代表候補群がナショナルチームとプレースタイルを共有しつつ、高強度の実戦に挑めた。入試に例えれば、ワールドカップなどの代表戦が本番なら、サンウルブズでの活動は出題傾向の絞られた良質な模擬試験だった。

サンウルブズの撤退。日本代表が国際経験を積むには…

もっともそのサンウルブズは、2020年限りでのスーパーラグビー撤退を余儀なくされた。2019年春ごろの日本ラグビー協会は、サンウルブズの価値を理解するのにやや消極的に映っていた。

さらに2020年以降は、コロナ禍の影響で既存のラグビー市場が激変した。海外移動の多いスーパーラグビーそのものが打ち止めとなり、来季からは同リーグのニュージーランド勢、オーストラリア勢が自国での戦いを中心に行う。時期は冬から初夏にかけてと、日本の国内リーグが行われる時期と重なる。

日本の選手が代表活動以外の場で国際経験を積むには、おのおので海外へ出るしかなくなっているのだ。

サンウルブズで成長した姫野も、ニュージーランド行きを決めた背景をこう語っている。

「自分の夢に、今後、ラグビーを日本になくてはならない存在にしたいという思いがある。自分が海外挑戦というチャンスをつかむことで、日本ラグビーに大きなものをもたらすと考えています。また自分の成長には、居心地のいい日本を離れてまた一からハングリーにプレーすることが必要だと感じました」

裏を返せば、現在決定済みの2人以外に海外へ行く選手が増えれば、代表チーム総体としての国際経験を増強させられそうだ。栗原氏は第3、第4のチャレンジャーが生まれる可能性についても決して否定はしない。

世界の市場で求められる「必須項目」とは?

では、これから海外進出を目指す選手に求められる資質はどんなものなのだろう。あるいは、海外の市場で求められるのはどんな選手なのだろうか。

「正直に申し上げますと、『今はこういう選手が求められている』という型にはまった答えはありません。ラグビーは人間と人間がつなげるスポーツであり、タイミングのスポーツではないかと思っています。その時々で、ネームバリューのある、お客さんを呼べるプレーヤーを取るクラブもあれば、ネームバリューに関係なく自分たちのやりたいことに適したいい選手を探すクラブもある。今も昔も、それぞれのクラブが必要とするポジションの選手が、その時に、世の中にいるかいないか、というところに尽きると思います」

栗原氏が世界市場の原理原則に沿ってこう説明する傍ら、具体例を挙げるのは松島だ。松島自身のプレーするフランスがタフな環境なのもあって、競技の格闘技性に基づきこう説く。

「やっぱり、フィジカルから逃げない選手(が求められる)。気持ち的な部分が見えない選手だと、あんまり……という感じだと思います。トップ14の感じからするとフィジカル(のぶつかり合い)がメインになっている。体を当てにいける、体を張るという選手が好まれるんじゃないですかね」

どのカテゴリーのどのクラブも、原則的にコンタクト局面にひるまぬ戦士を求めている。幾多の熟練者の中からのよりすぐりで戦う世界トップクラスの集団では、その傾向がより強まる。海外でプレーしたい、もしくは海外でプレーできると決まった選手にとっては、「逃げない」は必須項目となりそうだ。

リーチ マイケルが口にしていた、NZチーフスの実際

ワールドカップ2大会連続で日本代表主将となったリーチ マイケルも、2015年、当時在籍していたニュージーランドのチーフスでの雰囲気をこう述べていた。

「(試合中に)歩いている選手がいたら、次の週の練習前にボロクソに言われます! ブレイクダウン(ボール争奪局面)への寄りが遅かったり、激しくなかったりしても、言われる。タックルができなかったら、話にならないです」

日本人ラグビーマンが世界トップクラスのプロリーグに挑んだのは、2013年にハイランダーズ入りした田中史朗が最初。同年には堀江翔太もスーパーラグビーのレベルズに加わり、両者は日本ラグビー界のパイオニアと目された。

以後はリーチら複数の選手がスーパーラグビーとの縁を持ち、2016年以降はサンウルブズを主戦場に多くの有望株が世界にアプローチしてきた。新時代に首尾よくその系譜を継げる「逃げない」才能は、どれだけ現れるだろうか。

<了>













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