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たった3勝でワースト降格、7年経って破竹の快進撃! 徳島ヴォルティス、躍進の秘訣

REAL SPORTS 2021年4月11日 10時45分

徳島ヴォルティスが快進撃を見せている。クラブ初のJ1挑戦となった2014シーズンは、わずか3勝でその冒険を終えた。だが7年の時を経て再びJ1の舞台に帰ってきたチームは、開幕から8戦で早くも3勝を挙げるなど、まったく異なる戦いぶりを演じている。4年間チームを率いた指揮官を引き抜かれ、新監督の合流は遅れている。にもかかわらず、なぜ望外ともいえる躍進を遂げることができているのだろうか――?

(文=藤江直人)

7年前はJ1ワースト記録の勝点で降格。今季はいったい何が違うのか?

快挙が3度続けば実力といっていい。7年ぶりにJ1リーグへ臨んでいる徳島ヴォルティスが、最下位に終わった2014シーズンとはまったく異なる戦いぶりを演じながら躍進している。

開幕9連敗でスタートした2014シーズンは、ホームの鳴門・大塚スポーツパーク ポカリスエットスタジアムで一つも白星を挙げられず、なおかつ連勝もないまま3勝5分26敗でフィニッシュ。勝点14は2012シーズンのコンサドーレ札幌、2013シーズンの大分トリニータと並び、18チーム制以降のJ1ワースト記録となっている。

対照的に今シーズンは、2分3敗で迎えた3月21日のJ1リーグ第6節で横浜FCを2-1で撃破。7年越しのJ1ホーム初勝利を挙げると、国際Aマッチデーによる中断を挟んだ4月4日の第7節では、敵地で清水エスパルスに3-0で快勝して初の連勝をマークした。

勢いは止まらず、ホームにベガルタ仙台を迎えた7日の第8節でも1-0で勝利。2014シーズンに挙げた勝利数にわずか8試合で到達し、総失点8に対して総得点9と後者を先行させた。ちなみに7年前の第8節終了時は、総得点1に対して総失点は実に26を数えていた。

ヴォルティスの頼れる主将・岩尾憲が明かす「目には見えないもの」

2014シーズンと今シーズンのヴォルティスで、何がどのように違っているのか。

まず挙げられるのは、昨シーズンまで4年間にわたって指揮を執った、スペイン出身のリカルド・ロドリゲス前監督(現浦和レッズ監督)のもとで育まれ、今シーズンへも受け継がれている団結心だ。

ロドリゲス監督が就任した2017シーズンからキャプテンを拝命。同じスペイン出身のダニエル・ポヤトス監督体制になった今シーズンも、5年目の大役を担う32歳のボランチ岩尾憲が「目には見えないものですけど」と断りを入れた上で、団結心をより具体的に説明してくれたことがある。

「僕たちは誰か一人の選手に頼り切って、何とかするようなチームではありません。選手のみんながそれぞれ違った個性と武器とを持っている中で、できないことに対してイライラするとか、できないことを求めて文句を言い合うのではなく、できないことはみんなで補い合い、できることは褒め合う。そういう人間らしさみたいなものが、人と人との信頼関係といったものが、試合に出ている選手も出ていない選手にも、練習の段階から詰まっているのがこのチームの良さだと思っているので」

リカルド・ロドリゲス前監督が植え付けた“イズム”

2014シーズンの悔しさを知っている選手は、副キャプテンを務める一人、在籍11年目のベテラン、32歳のキーパー長谷川徹だけとなった。岩尾自身は2014シーズン、日本体育大学から湘南ベルマーレに加入して4年目、J2の舞台で戦っていた。

リーグ戦の出場試合数は23を数えたものの、レギュラーを獲得するまでには至らない。ベルマーレがJ1に昇格した2015シーズンは、J2の水戸ホーリーホックへ期限付き移籍。ヴォルティスには2016シーズンに完全移籍で加わり、2年目となる翌シーズン、ロドリゲス前監督と運命的な出会いを果たした。

どんな相手にもボールを握り続けるスタイルをベースに据えながら、ボールを失ったときには前線から激しいプレスをかけて奪い返し、それが難しい場合は自陣に下がってでも焦れずに守る。3バックと4バックを巧みに使い分けた臨機応変な試合運びを、ロドリゲス前監督はヴォルティスに植え付けた。

そして、指揮官のイズムをピッチ上で具現化させる役割が、キャプテンシーと正確な長短のキック、刻一刻と変化する状況を的確に見極められる戦術眼を兼ね備えていると評価された岩尾に託された。

7年ぶりのJ1開幕戦は追いつかれるも「楽しかった」

2017シーズン以降のヴォルティスがここまで戦ってきた、リーグ戦とJ1参入プレーオフを合わせた179試合のうち、岩尾は174試合でピッチに立ってきた。途中出場はわずか4試合だけ。プレー時間は1万5366分を数え、総プレー時間1万6110分の実に95.4%を占めている。

ピッチ上の指揮官として、まさに代えの利かない存在に成長を遂げてきた岩尾の軌跡を、2011シーズンからコーチを務める甲本偉嗣は目の当たりにしてきた。コロナ禍で来日できない状態が続いた、ポヤトス新監督に代わって指揮を執る今シーズンも全幅の信頼を置いている。

「いま現在のところは、彼なしではなかなか戦えないというか。他の選手たちにも、そういう存在になってほしいと常に要求してはいるんですけど」

ヴォルティスにとって7シーズンぶり、岩尾自身にとってはベルマーレ時代の2013シーズン以来となるJ1でのプレーとなった2月27日の開幕戦。先制しながら後半にトリニータに追いつかれ、ドローに終わった試合後に、岩尾は意外な言葉を口にしている。いわく「楽しかった」と。

「相手の監督さんや選手の質によるものなのかは分からないですけど、1-0のまま勝たせてくれないところや、前半は自分たちがうまくいっていても後半に入って修正してくる能力など、自分たちのやりやすいように長い時間プレーさせてくれない点で、苦しかったというよりはどちらかといえば楽しかったですね。そういった戦況の変化を自分たちで感じ取って、ベンチの指示待ちではなく、相手が修正したことに対してもう一回優位に立てるように変化させていくことが僕の課題であり、チームの課題でもあるので。そういう意味でも、試合の中でいろいろな変化があった展開は楽しかったです」

3連敗を喫するも、誰一人ネガティブに陥らなかったワケ

4月7日の第8節終了時点のJ1戦線で9位につけているヴォルティスは、J2リーグを制した昨シーズンの主力がそろって残留した。その中にはチーム最多、J2全体でも3位となる17ゴールをマークし、鹿島アントラーズからの期限付き移籍を延長した23歳のストライカー垣田裕暉も含まれている。

さらに19歳のMF藤田譲瑠チマが東京ヴェルディから完全移籍で、20歳のFW宮代大聖が川崎フロンターレから期限付き移籍でそれぞれ加わった。選手同士の絆が重視される環境で、垣田がすでにチーム最多の3ゴールを挙げ、宮代が2ゴールで続くなどホープたちが伸び伸びとプレーしている。

前指揮官のイズムが浸透した陣容で引き続き、それも国内最高峰となるJ1の舞台を戦える状況が、岩尾をして「楽しめた」と言わしめた。終了間際の失点で引き分けてホーム初勝利を逃したヴィッセル神戸との第2節でも、悔しさを募らせながら、課題を克服していく楽しさも同時に増した。

第3節からは3連敗を喫した。王者・川崎フロンターレの前に完敗し、昇格組のアビスパ福岡にはホームで逆転負けを喫し、横浜F・マリノスにもビルドアップ時のミスを突かれて決勝点を奪われた。それでもキャプテンとしてチームの雰囲気を俯瞰(ふかん)しながら、岩尾は成長の二文字を感じていた。

「J1の経験がない選手が多いので、勝てない試合が続くと(普通は)後ろ向きのプレーや、ネガティブな発言が生まれがちになります。ただ、自分たちの場合はやるべきプレーに一人ひとりがトライしているというか、結果にとらわれずに一人ひとりが何を求められていて、ピッチでどのような仕事をしなくてはいけないのかが整理されている。そこに対するエネルギーや責任感といったものを、選手一人ひとりの中に感じている。そういうところが、成長というのかもしれませんね」

チームに生じつつある変化。ついにつかんだ初勝利

ロドリゲス前監督が4年もの歳月を費やして築き上げた、確固たる土台が存在する。そこへスペインからのリモート指導を介して、新たな彩りを加えようとしているポヤトス新監督が示す方向性に迷いを感じないからこそ、白星を挙げられなくても誰一人として下を向かなかった。

オウンゴールで先制しながらセットプレーで追いつかれ、最後は宮代の決勝ゴールで横浜FCを撃破した直後のオンライン会見。勝利した直後はタッチライン際にひざまずき、歓喜の涙を流した甲本ヘッドコーチは、チームに生じつつある変化をこんな言葉を介して説明している。

「これまではいい流れで得点した後に、積極的な守備をすることが少なくなっていた。今日は決して受け身になるのではなく、得点した後もプレッシャーをかけてラインを高く設定して攻撃していたし、ボールロストを怖がって後ろ向きにボールを動かすのではなく、勇気を持って前へボールを進めていた。それが勝利につながると理解して、選手たちはプレーしてくれていた」

J1でも主導権を握るスタイルは通用する。確固たる信念

オフに積極的な補強を成功させたエスパルス戦では、チーム全員で相手の状況や戦い方の変化を的確に見極めながら、選手主体で進めながら主導権を握り続けた。中心を担った岩尾が振り返る。

「プレスに関しては前半が始まった段階で、相手の後ろと中盤、中盤とFWの選手の間にスムーズさが感じ取れなかった。なので、自分たちから先手を取ってポジションを動かせば、相手が前へ出てくる、出てこないにかかわらず、味方にフリーの選手ができていた。そこに関してはあまり深く考えずに、プレスが分離していることを逆に利用して、隙間でボールを受けようと大まかに考えていた。

 後半は僕や鈴木(徳真)選手のところだけでなく、FWの選手もキーパーまでかなりプレッシャーをかけてくるなど、割り切った人の当て方をしてきた。僕たちが前線へラフなボールを入れる展開が増えた中で、いい質のボールを蹴ることや、さらに垣田選手が収めてくれると信じて(セカンドボールを)拾いにいくことも重要になる。今後は相手が人数をかけてきたときに、自分たちがどのようにボールを保持するのか、どのエリアでボールを保持したいのか、どのような時間帯なのか、といった変数を一人ひとりがもっと理解しないと、少し大味な試合になってしまいかねないと思っています」

宮代のゴールで28分に先制したエスパルス戦では、後半開始直後に垣田が放ったクロスがDF鈴木義宜の手に当たったとしてPKが宣告された。VARが介入してオン・フィールド・レビューが実施されても、笠原寛貴主審が下した判定は変わらない。キッカーを託されたのは岩尾だった。

「チームの助けになる1点だと思ったので、思い切り蹴ることができました。ただ、J1では大勢の選手たちがゴールを決めているので、特別すごいとか、そういう思いはないですね」

J1で通算14試合目の出場でほぼ真ん中のコースへ決めた、記念すべきJ1初ゴール。岩尾は苦笑いを浮かべながら、ベルマーレの一員として7試合380分だけJ1でプレーした2013シーズンの心境との違いを、ヴォルティスを背負う覚悟を込めながらこう説明している。

「湘南にいたときの自分と今の自分とでは単純に立場が違うし、ピッチ内でもピッチ外でも、それに見合った仕事をしなければいけない。ある種の責務みたいなものを今は持っています」

ベテラン、中堅、若手が一体に。快進撃はどこまで続くか

3連勝をマークしたベガルタ戦後には、24分に右コーナーキックから決勝点をたたき込んだ、右サイドバックを務める23歳の岸本武流が意外な裏話を明かした。

「岩尾選手からとてもいいボールが続いて来た中で、試合後には『しっかり決めろ。俺にもっとアシストをつけさせてくれ』と言われました」

実はゴールシーンに至るまでに、岩尾が蹴った3本全てのコーナーキックに岸本が頭で合わせ、3度目の正直でネットを揺らしていた。岩尾の檄(げき)はもちろん冗談まじりだが、このやりとりからもベテラン、中堅、そして若手が一体になったヴォルティスの雰囲気の良さが伝わってくる。

4連勝をかけた11日の次節はレッズのホーム、埼玉スタジアム2002に乗り込む。ともに3勝2分3敗の勝点11で並び、得失点差でヴォルティスが9位につけている状況で、ロドリゲス監督が指揮を執るレッズとの対決を迎える。ヴォルティスの選手たちが抱く思いを岸本が代弁する。

「お世話になった監督なので、絶対に勝利して恩返ししたい」

先月下旬にようやく来日を果たし、クラブが管理する14日間の待機期間に入っているポヤトス新監督も映像を介して見守る中で、ロドリゲス監督が掲げるスタイルに一日の長があると自負するヴォルティスのモチベーションは、打倒レッズへ、すでにマックスに高まっている。

<了>







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