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「日本中から大バッシングだった」。キングコング西野×元Jリーガー社長・嵜本が熱論、スポーツ選手はどうやってお金を稼ぐべき?

REAL SPORTS 2021年4月16日 18時8分

スポーツとお金――。この2つは決して切り離して考えることはできない。特にこれからの時代、アスリートは「いかに自分でお金を稼げるか」「いかに自分のキャリアを築いていくか」が問われている。

そこで今回、未来を見据えたエンタメを生み出すため、クラウドファンディングを活用して2億円以上を調達してきたキングコング西野亮廣さん、そして、元Jリーガーで22歳で現役を引退し、現在は上場企業の社長として華麗なるセカンドキャリアを歩む嵜本晋輔さんの2人が、「アスリートとお金」「アスリートとセカンドキャリア」をテーマに対談を行った。

(進行=岩本義弘[REAL SPORTS編集長]、構成=REAL SPORTS編集部、撮影=高須力)

コロナ禍で苦境に立たされるアスリートの「お金」と「キャリア」

昨年から続く新型コロナウイルスの猛威により、世間の「お金」「キャリア」に対する意識、考え方が変わったといわれている。一つの会社に勤めあげる時代は終わり、転職を通じてキャリアアップを図ることはもちろん、独立してフリーランスとして働いたり、起業することも珍しくない。副業・複業の考え方に対する見方も変わりつつある。経済環境、会社、仕事が不安定になり、生涯を通じてどのようにお金を稼いでいくのか、自らのキャリアをどう築き上げていくかがより強く問われるようになった。

これは、アスリートも同様だ。

コロナ禍で各競技のプロスポーツチームは収入が大きく減少し、実業団に対してもお金を出し続ける余裕がなくなる中で、当然その余波はアスリートに降りかかってくる。もはや競技をしていれば、最低限のお金をもらえる保障はない。現役時代だけでなく、引退後のことも考えなければならない。「人生100年時代」が叫ばれるようになって久しいが、アスリートも例外なく、自分のキャリアを自分で築いていく必要に迫られている。

コロナ禍で苦境に立たされるスポーツ界で、アスリートはいかにしてお金を稼いでいけばいいのだろうか。そして、来るべきセカンドキャリアをどう考えればいいのだろうか。常に自らのキャリアを広げ、成功を収めてきた2人が、エンタメとスポーツの垣根を越えて語り尽くした――。

思う以上に早い引退年齢。プロ野球は29歳、Jリーグは26歳

――西野さんは4月19日に、「【教えて西野先生】 親子で学ぶ!とっても大切なお金の話」というオンライン講演会を開催します。西野さんが伝えているように、お金に関する知識は“学校では教えてもらえないけど、生きていく上では絶対に知っておかなくちゃいけない”大事なことです。しかし、残念ながらほとんどのアスリートは“お金の稼ぎ方”を知りません。しかも現役を続けられる時期は短く、例えばプロ野球選手の平均引退年齢は約29歳、Jリーガーは約26歳といわれています。

西野:早いですね。

――1年で終わりというアスリートもすごくたくさんいます。それこそ高校を出て、すぐ引退とか。嵜本さんも引退したのは早かったですよね。

嵜本:22歳です。

西野:えー! なんで引退を決意されたんですか?

嵜本:勝てる可能性が低かったからです。客観的に自分を見て、サッカー界で生き残れる可能性が1%未満やったんですよ。

西野:にしても早いですね、決断が。

嵜本:家が商売家系やったから、そういうふうに見られたのかもしれないです。

西野:ああ、そういうことか。なるほど。

――嵜本さんは逆に、“22歳でセカンドキャリアをスタートできたのは有利だった”と考えているんですよね?

嵜本:そうですね。

西野:そうか、そうか。そうですよね。ズルズルとやっちゃってとかね。なるほど。

――30歳前後で引退する選手も多いです。それはそれで、“自分はサッカーしかしてこなかった”というスタートになって、セカンドキャリアに進むのが大変だったりします。今回の対談では、アスリートが自分のお金やキャリアを考えるヒントを見つけられたらいいなと考えています。

競技以外に視野を広げるべきも、「なんでYouTubeやってんねん」

西野:具体的に、例えばサッカー選手でいうと、引退後の仕事って何があるんですか?

嵜本:プロクラブのコーチとか、地域のサッカーチームのコーチとか、マックスでも月30万円が限界という仕事が多いですね。

西野:例えばコーチの(仕事の)寿命は、どう考えたって(選手寿命より)長いじゃないですか。走れなくてもコーチはやろうと思ったらやれるから。ですが毎年引退する人は入ってくるから、結構ここ(コーチの仕事)って渋滞しないですか?

嵜本:おっしゃる通りで、もともとJ1でプレーした人がJ1かJ2のコーチをやることが多かったんですけど、今はJ2もJ3もJFLも地域リーグもあるので、どんどんコーチとして働けるカテゴリーが下がっていってるというのが実情ですね。

西野:じゃあ、そこってなかなか、すごく開けた未来ってないですよね。

嵜本:本当に厳しいと思います。

西野:ああ、なるほど。コーチ以外はないんですか?

嵜本:そこがかなり根深い課題で、彼らはやっぱり“サッカーをやっている”と。サッカー以外のことに視野を広げることって、これまでなかなかなかった。最近は少しずつ出てきたんですけど、“なぜサッカーのコーチをやるか?”というと、シンプルに“選択肢がない”からです。

 だから、今のサッカー選手の課題は、現役中の3年とか5年の間に、どれだけ自分のファンをつくれるか、フォロワーをつけられるか、視野を広げられるか、だと思っています。ただなかなか、外からの目とかもあるじゃないですか。“サッカー選手やのに、なんでYouTubeやってんねん”みたいな。

西野:あるんですか?

嵜本:あるんです。

西野:えー、なるほど!


8年前はフルバッシングも…今や当たり前になったクラウドファンディング

嵜本:サッカー選手の練習時間って、だいたい午前中の2時間だけで、午後からはほぼフリーなんですよ。キャンプとか以外は。

西野:へえー!

嵜本:だから腐るほど時間があるんです。

西野:むっちゃいいじゃないですか! YouTubeやったらいいじゃないですか!

嵜本:何でもできるんですけど、今だいたいやってるのは、パチンコぐらい……。

西野:え、もったいなっ!

――本当にびっくりするぐらいの人数が、パチンコ、パチスロをやっています。あとスマホゲームとか。それが悪いとは言いませんが、そればっかりやっていても先がないとは思います。だから本田圭佑さんは、やっぱり普通じゃないわけですよ。いろんな仕事の中の一つに、“サッカー選手”もある、と。あそこまで飛び抜けたケースはなかなかありませんが、でも本当はそうなっていかなきゃだめですよね。

西野:システムはもうあるわけじゃないですか。例えばYouTube(という出来上がったシステム)もあるし、他にもあれやこれやあるじゃないですか。(そう考えると、)ちゃんと成功例を出すという(のが大事かもしれません)。

 自分も考えてみると、(初めてクラウドファンディングをやった)8年前は、それこそクラウドファンディングなんかやろうもんなら、もう日本中からフルバッシングで。同業者からもバッシングで。“なに芸人がインターネットでお金を恵んでもらうようなことをやってんだ”みたいな。とにかくたたかれるんですよね。

 それが、ずっとやってるうちに、“どうやらクラウドファンディングで面白いことが進み始めたぞ”ってなったら、急にみんな手のひら返すんで(笑)。そこってなんか、人っぽいなと思うんですよね。“いけるんだ”という確認が取れたらみんなやる、みたいな。オンラインサロンもやっぱり3~4年前は、“何それ?”みたいな感じだったんですけど、結局、“オンラインサロンってお金になるんだ”と見えた瞬間に、みんなやり始めるじゃないですか。

 ということを考えると、誰か一人、スターをつくるっていう。例えば格闘界だと、朝倉兄弟(兄:未来、弟:海)さんがYouTubeやって、フォロワー数が増えて、そこで収益つくれるのねって分かった瞬間に、格闘家がみんなYouTube始めたじゃないですか。そういう誰か、一人に絞って育てた方がいいのかもしれないですね。

アスリートはセカンドキャリアで成功する“能力”を持っているはず

――セカンドキャリアという面で見れば、嵜本さんが分かりやすい成功例ですよね。元Jリーガー初の上場企業社長なので(※2011年に現バリュエンスホールディングス株式会社を設立し代表取締役社長に就任、2018年に東証マザーズ上場)。

西野:そこってありますよね。サッカーの技術ではないですが、持ち前のガッツとか、飛び込んでいく力みたいなのがあるじゃないですか。メディアの本田圭佑さんのイメージってむちゃくちゃクレバーで、全て計算ずくで、みたいなイメージがあるんですけど、しゃべってみたら案外そうでもなくて。「やっちゃえ~!」みたいな、「ちょっとよく分かんないんっすよね~」みたいな、「でもいっちゃえ!」みたいな感じでやられてるなと(笑)。やっぱスポーツで鍛えたメンタルとかがちゃんとうまく機能してるんだろうなと思いますね。そこ、大事っすよね。案外、始めてみたらやれるのかもしれないですよね。

――それこそ、本田圭佑さんに話を聞いた時、「自分がやっているビジネスの半分以上は失敗している。でも今は失敗から学んでいる」と。西野さんもまさにそうしたことを発信していますけど、失敗ってすごく貴重ですよね。アスリートは失敗しても、失敗から学んで次に生かす能力がすごく高いと感じます。Jリーガーって、サッカーをやっている人からしたらトップのトップじゃないですか。同じクラスどころか学校で一番うまかった人でも、そうそうJリーガーにはなれていない。それは失敗を生かして誰よりも成長してきたから。それぐらいすごい才能だということに、世間だけでなくアスリート側も気付いていない。

西野:芸人も、それこそテレビとまではいわないですが、劇場に立てるぐらいまでいった芸人さんが引退した後、次の仕事にいった時に、だいたいうまくいってるんですよ。やっぱりコミュニケーション能力がむっちゃ高いんで。別に笑わすということだけじゃなくて、聞き上手とか。そこってやっぱり培ったものがあるんだろうなっていう。使ってる能力は、お笑いじゃないんですけど。

――その良さに、やってるうちはみんな気付いていない。

西野:確かに。気付いてないですね。

嵜本:理想を掲げる目標設定の仕方とか、あとは行動力。うまくなるための現実と理想のギャップの埋め方というのは、アスリートは飛び抜けてうまいはずなんですよね。でも“俺にはサッカーなんだ”“俺にはテニスなんだ”と思い込み過ぎている。だから、現役の間にいかに競技以外のことに触れるかが大事なんですよね。うちの会社で雇っているコンシェルジュ(ブランド買取専門店の鑑定士)に、元美容師だった社員がいるんですが、めちゃくちゃ成果が出せる。

西野:ああ、なるほどなあ、面白いなあ。

嵜本:しゃべりがうまい。コミュニケーションの間合いがうまい。そういうふうに、サッカー選手も自分の可能性にふたを閉じている人間が多過ぎて、本当にもったいないなと。

西野:もったいないですね、確かに。相当根性決まってるわけですもんね、そこまでいくような人は。もう筋肉だけじゃなくて、メンタルのところで決まってるんですもんね。


アスリートはいつ“撤退”を決めるべきか。西野亮廣の考え方

嵜本:あと、アスリートの非常に難しい問題に、撤退(引退)時期ってどう判断するのかがあると考えています。僕の場合は、サッカー選手としては一流どころか、二流、三流やったんですよ。幸いクビを切って“もらえた”んですね。“おまえはもう通用しないから、だめ、来年から来んでええ”って言われたんで、撤退することが決められたんです。だけど逆に、1軍には入れないけどぎりぎり1軍と2軍をさまよっているような、“あと1%、2%可能性がある”って思っている選手が、どこで撤退を決めるのか。「早くやめた方がいい」と言っても、ほとんどの人がまだ続けたいと思っている。

西野:そりゃそうですよね。

嵜本:1%の可能性に懸けた方がいいのか、99%失敗するなら前向きな撤退を決めて次に向かった方がいいのか。撤退のタイミングというのが一番難しいところだなと悩んでいるところです。

西野:超大事ですね。

嵜本:西野さんは商売とかビジネスで撤退のタイミングをどう考えていますか?

西野:芸人なんかもっと深刻で、例えばアスリートの場合だと、肉体の衰え、体力のあれ(限界)があるじゃないですか。芸人はちょっと厄介で、例えばブリーフ一丁になるのも、二十歳の子がやるよりも40のおっさんがやった方が面白みが増していくという(笑)。なので、ブレイクするまで10年とか15年って結構当たり前で、むっちゃやめにくいんですよ。もっとやめにくいんですよ。なので、40歳までやってそろそろ限界かなとか、45歳までやって潮時かな、みたいな。そこってむっちゃありますよね。

嵜本:好きを貫いていくのか、好きを諦めるのか、そのトレードオフだと思うんです。好きを貫き過ぎると、失うものも出てくる。だから好きを諦める時期・タイミングが、相当難しいし、アドバイスしづらいですよね。サッカー選手に「どうしたらいいですかね」って相談されるんですけど、本人は“もっとやった方がいいよ”って言われたいんですよ。「やめた方がいいよ」って言っても、“いや、まだもうちょっとやりたい”っていうのが心の中にあって。

西野:僕、すごくシンプルで、“ゴールをどこにする?”って考えたときに、すごくざっくりですけど、“エンタメで世界をとる”……ってなったら、締め切りが一応あるわけじゃないですか、寿命の間にやらなきゃいけない。……ってなったら、まずは言語を捨てなきゃいけない。日本語でどれだけ流ちょうにしゃべれるようになっても、アメリカに行くときに日本語は通用しないので、非言語のものとか、極めて翻訳のハードルが低いものでちゃんとアプローチできるようにならなきゃいけない。……ってなったら、当然言語にかける時間、つまり漫才とかテレビのバラエティーを追求する時間をちょっと削って、絵本だとかそっちに(時間を)使わないと、絶対に無理っていうのがもう結論として出ているので。そこ(ゴール)から逆算するとすっきりしますね。

 例えば、美術館をつくるってなったときに、30億円必要ですってなったら、なんとかして30億円を集めなきゃいけないわけじゃないですか。そうすると、レギュラー番組でスケジュールを埋めてしまうと絶対無理っていう、そもそもみんなとゴールが違う。みんなは多分レギュラー番組の本数をステータスとするんですけど、レギュラー番組で1週間埋めちゃったら、絶対届かない数字なので。じゃあ“レギュラー番組入れちゃだめなんだな”みたいなところが、最終ゴールを明確に決めると、僕の場合は結構見えてきました。これやっちゃ絶対届かないんだっていうのは。

――アスリートうんぬんじゃなくて、誰しも自分自身がどうなりたいのか、そこを自分なりに解像度を高くしてイメージするのが大事ってことですよね。

西野:そうですね。そうしないと、確かになかなかやめにくいっちゃやめにくいですよね。

プロになっても、仕事は続ければいい? 競技以外の時間をどう有効活用するか

――今、Jリーグを目指しているチーム(南葛SC/関東リーグ2部)のGMをやっているんですけど、選手を嵜本さんの会社で雇ってもらっていて、コンシェルジュをやっています。

西野:めっちゃいいですね。

――今はまだJリーグ所属のチームではないので、ほとんどの選手が働いていますが、Jリーガーになってプロ選手になったとしても仕事はし続ければいいんじゃないかと思っています。

西野:だって2時間しか練習しないんですもんね。

――練習以外に体のケアとかもありますけど、それでも一般の人より十分に時間がありますから。お金をもらいながらいろんな勉強もできるはずです。

西野:めっちゃいいですね! フリーランスだったらないですよ、確実にお金もらえるとか。毎日何かやらなきゃいけないし。

――Jリーガーになるとレギュラークラスなら1000万円以上、中には1億円以上もらっている選手もいるわけですよ。

西野:むっちゃいいじゃないですか。じゃあ余計チャレンジできるじゃないですか。要は、企画がどんだけこけても一応飯は食えるわけですね。

競技をしながらどれだけ仕事でも成果を出せるのか。デュアルキャリア採用の実験

――嵜本さんは普段から、アスリートをやりながら、同時に他のキャリアも積んでいく“デュアルキャリア”を提唱していますよね。

嵜本:今、バリュエンスグループでは、“アスリートのためのデュアルキャリア採用”というのをやっています。10競技10人ずつ100人採用を目指すもので、コロナ禍がきっかけで始めました。コロナ禍のスポーツ界で一番最初に手をつけられるのは、やっぱり人件費じゃないですか。スポーツをやり続けたいと思っていても、夢を追い掛けることを奪われてしまう選手が出てくる。でも逆に、自分の好きなことに夢中になって取り組めるアスリートのような人たちを大切にしていかないといけないと思ったんです。

 働く曜日や時間は自由に決めていいですよ、と。例えばサッカーはだいたい土日に試合があるので、土日は完全休みにして、平日は練習時間に合わせて夕方の17時であがってもいいし、午前中フルで休んでもいい。競技を優先しながら、仕事にも本気で取り組んでもらう、という環境づくりをやっていますね。

西野:超イケてるじゃないですか!

嵜本:あらゆる競技のアスリートを70人ぐらい面談して、実際に12人の採用が決まって、働いてくれています。

西野:やばっ!

嵜本:アスリートが競技を続けられる環境をサポートしたいという思いがあったんですけど、裏テーマとしては、“アスリートがどれだけ仕事で成果を出せるか”というのを実験したかったんです。理想と現実のギャップの埋め方は間違いなくうまいはずだし、メンタルも強い。そういう人たちがセカンドキャリアでどれだけのことを残せるか、と。世の中の認識としては、アスリートのセカンドキャリアは超ネガティブなんですよ。“サッカー選手はなんにもできない”とか、本人たちもそう思ってしまっている。バリュエンスで自信をつけてもらうことができればいいですし、アスリートが次の仕事を探すときの第一想起のブランドになれたらいいなという思いもあります。

西野:超イケてる、やばっ!

――西野さんはインターンの採用をよくやっていますが、人を採用するときのポイントはどこですか?

西野:明るいやつです(笑)。

一同:(爆笑)

西野:アホみたいな答えで本当に恥ずかしいです、今のお話を聞いた後で。明るいやつ、よくないですか? 恥ずかしいなあ(笑)。一概にはいえないですけど、明るいやつってすごく話し掛けられるんで、やっぱり賢くなるスピードが早い。いろんな人から情報が入ってくるじゃないですか。それは一つあるなと思っていて。あと、明るいやつと飲みに行った方が楽しいので(笑)。

一同:(爆笑)

西野:結局“そっちや!”ってなっちゃうんです、僕。申し訳ない。参考にしないでください。

「セカンドキャリア」という言葉の響きに、“都落ち感”がある?

西野:大事かもしれませんね、“名前をつける”みたいなの。「セカンドキャリア」っていう響きが、若干都落ち感があるんですかね。僕はまったくそんなこと思わないんですけど、そういうふうに捉えちゃう人もいるのかな。

 例えば、僕は“完成品を売る”ということをあまりやってなくて。メイキングとか、作る過程の方がどう考えても(希少価値が高い)。だって東京タワーはずっとあそこにあって、だからあしたもあさっても見れますが、東京タワーをつくってる途中というのは、その瞬間しか見れないわけじゃないですか。希少価値でいうと、現在進行形のメイキングの方が圧倒的に高いと思うので、値段は絶対そっちの方が高い。宮崎駿さんの『千と千尋の神隠し』を僕たちは(チケット代の)1800円しか払えないですけど、つくるまでのメイキングをずっと定点カメラでサブスクで見放題、いつボタンを押しても駿さんが描いてる手元が見れるよ、となれば、1万円払う人は全然いると思うんですね。

――100万円でもいるかもしれません。

西野:その瞬間しか見れないので。どう考えたって、メイキングを売った方が完成品を売るよりも利益率が高いな、っていうのがあって、自分はずっとそれをやってる。とにかくメイキングを売って、むしろ完成品はゼロ円で、ぐらいの。完成品っていうのはメイキングのCM、ぐらいの感じで。それこそ蜷川実花さんに、映画『えんとつ町のプペル』のスペシャルムービーをつくってもらったんです。これ(の制作)自体は5000万円かかって。でもこの5000万円っていうのはメイキングの売り上げで捻出した5000万円で、この5000万円のスペシャルムービーは当然ゼロ円で全部出しちゃうわけです。そうするとこれを見た人が、“このメイキングを知りたいな”みたいな感じでサロンに入って……という流れが(出来上がる)。“絶対制作過程を売った方がいいじゃん”って思ってずっとやってきたんですけど、(これまで)あまりみんなやらなかったんです。

 で、起業家のけんすう(古川健介)さんが、それを「プロセスエコノミー」っていう言い方にした瞬間に、みんな“僕も私もプロセスエコノミーをやる”と言い出して。“自分がやってることがプロセスエコノミーなのか否か”みたいなところで、去年の暮れぐらいからガッと加速した感じがあります。「ノマドワーカー」も、名前が加速させた感があるじゃないですか。名前をつける……むっちゃ大事かもしれないですね。

 もしかしたら「セカンドキャリア」っていう響きがよくないのかもしれないです。もっとみんなが言いたくなるような、もっといい名前があるかもしれないですね。要は、ランクアップしたように見えるような。

――本当ですよね。確かにセカンドキャリアに対するネガティブな印象はあります。

嵜本:むちゃくちゃありますね。

――22歳で現役生活が終わったら、“自分の人生、失敗だった”ぐらいのところからセカンドキャリアがスタートすることになる。

西野:そうか。今のままセカンドキャリアっていう言葉がネガティブなふうに捉えられていると、なんか“逃げた”みたいな、“本番で負けたやつ”みたいに見られちゃうということですね。

「僕、何回もオワコンって言われてる(笑)」。終わったと言われた人の強さ

嵜本:現役のやめ方も、J1、J2、J3、JFL、地域リーグとどんどん下にランクを落としていってやめるんです。上に上がってやめる人っていないですね。

西野:そういうことか。

嵜本:結局行く箱があるというか。チーム数が多いから、拾ってくれるところがあるっていう構造なので、スパッとやめられる状況じゃない。拾ってくれるのであれば、月5万円でもやりたいんですよ。

――アスリートはすぐ、“終わった”とも言われるんですよね。例えば松坂大輔さんは、甲子園で「平成の怪物」と呼ばれ、西武でもメジャーでも活躍して、みんなその絶頂期を知っているから、けがでプレーできなかったら、“あいつはもう終わった”と言われる。

西野:残酷だな。

――芸能人でもありますか?

西野:僕、何回も終わったって言われてる(笑)。オワコンとはよく言われてる気が。3~4年に1回ぐらい(笑)。

――先ほど西野さんが言っていたように、“成功例”は大事だと感じます。そういった意味では、嵜本さんがもっと、“俺はこうやって稼いだぞ”っていうのを発信していくのがいいんじゃないですかね。

西野:あれじゃないですか、『カンブリア宮殿』とか出る。それが一番いいですよ。

嵜本:どの世界にもセカンドキャリアはあるんですよね。一般のビジネスパーソンのキャリアチェンジは全部キャリアアップじゃないですか。でもアスリートの場合、セカンドキャリアというとキャリアダウンと見られる。

西野:確かに。

嵜本:現役時代の経験が生きないところに行くから、キャリアダウンになってしまう。経験を生かすことができれば、キャリアアップと扱われるようになるはずなんです。

 結論として僕が思うのは、“終わった”と言われるとか、そういう経験をしている人間は絶対強いと思うんですよ。サッカーやってきて一番よかったと思うのは、“クビ”っていう経験が得られたことですね。あの苦しみとかつらさは、やばかった。2年半ぐらいでクビと言われて、そこから半年、紅白戦すら出ていないです。来季の構想から外れているので。あの時はめちゃくちゃつらかったですね。紅白戦を外から見ているんですよ。やばかったです、屈辱というか。来季の構想から外れているので、当たり前といえば当たり前なんですけど。でもあの経験ができていなかったら、今の自分はないなって。

――その時の悔しさが、引退してからのセカンドキャリアに生きたと。

嵜本:男として、ここまでプライドをズタズタにされたことはなかったんですよ。それまでチームでは中心選手でしたし、サッカーで順風満帆だったわけじゃないですか。でもやっぱりプロはレベルが違い過ぎて。自分の努力が足りなかった結果なんですけど、でもやっぱり本当につらくて。

 でも、クビになれた。自分の中で、“クビにされた”から、“クビになれた”に変わったんですよね。だから、本当に感謝の気持ちで今ガンバ大阪のスポンサーをしています。でもみんな、“クビにされた”で終わってしまっていて、見たくもないと思ってしまっている。

西野:だってそれこそ小学校ぐらいから、(スポーツに)恋してる時間が長いですもんね。そらそうだよな……。


「やり続けてきたから今撤退するのはもったいない」がより大きな赤字に

――嵜本さんは、「投資とリターン」という考え方をしていますよね。自分がサッカー選手として時間を投資しても、期待できるリターンがあまりにも少ないからパッとやめられた、と。

嵜本:経営でいえば、「サンクコスト」と同じで。企業でも1~2億円を事業に突っ込んだから、3年とか5年はやらないといけないと考えてしまって、でもそれが結果的により大きな赤字を生み出してしまう、ということはよくありがちだと思います。アスリートの場合もほとんどそう、“俺はやり続けてきたから”、と。

 だから、僕は「前向きな撤退」と言っているんですよ。逃げの撤退じゃない。前向きな撤退を決めたから今があると思って。もし中途半端に活躍して、3年、5年、ずっとスーパーサブのような感じで現役を続けていたら、今頃危なかったかもしれないな、と。だから、あの時の意思決定は、ようやったなと思います。

――サッカー選手であることにしがみついて、カテゴリーを落としてでも現役を続ければ、たぶん30歳までできたわけですよね。

嵜本:できたと思います。サッカー選手って、狙ったところに蹴れたかどうかがすごく大事で、でもそこをちゃんと見ていない選手が多いと感じます。ゴールを決めても、自分の狙い通りの100点満点のゴールなのか、それとも75点だけど決めてしまえたのか。そこのギャップを追求できている選手はあまりいない。

西野:たとえゴールが決まったとしても。

嵜本:そうですね。僕の場合は、パスもシュートも全部、自分の狙った通りではないのに成功してしまっていたので、これはもう危ないなと思って。そこの見極めができていたから、やめる決断ができたんだと思います。

 だから今も会社で言っているのは、“つくれた売り上げ”じゃなくて、“失った売り上げ”がどれだけあるかを考えよう、と。成約率90%を達成しても、残り10%は成約できていない。その10%で、今日一日で逃した売り上げはどれだけだったか。あるいは今はブランドや骨董品の買い取りしかしていないけど、例えば不動産や車にも領域を広げられていたら、どれだけお客さまのライフタイムバリューを上げられていたか。取れている売り上げと、取れていない売り上げ。その両方の視点ができれば、撤退時期が決められるのかな、と。

西野:面白い! もっと発信してった方がいいんじゃないですか。絶対、“鼻につく”とか言われそうだけど、それは背負わなきゃいけない感じだから(笑)。

――“元アスリートはセカンドキャリアで全然ダメだ”という世間の認識をひっくり返す言葉ですよね。

西野:結果出してるんですからね。素晴らしいですね。面白い!

<了>



PROFILE
西野亮廣(にしの・あきひろ)
1980年7月3日生まれ、兵庫県出身。お笑いコンビ・キングコングとして華々しくデビュー、人気を博した後、絵本を描き始める。クラウドファンディングで資金調達し、分業制で制作した絵本『えんとつ町のプペル」は約70万部の大ヒットを記録。主催のオンラインサロンは国内最大の約7万人(2021年4月時点)の会員を抱え、自身の体験を著したビジネス書は全て10万部を超えるベストセラー。製作総指揮を務めた映画『えんとつ町のプペル』は処女作にして、動員170万人、興行収入24億円を突破、第44回日本アカデミー賞 優秀アニメーション作品賞という異例の快挙を果たす。

PROFILE
嵜本晋輔(さきもと・しんすけ)
1982年4月14日生まれ、大阪府出身。バリュエンスホールディングス株式会社 代表取締役社長。デュアルキャリア株式会社 代表取締役社長。2001年にJリーグ・ガンバ大阪に加入、22歳で現役引退を。2007年に実兄2人と共にブランド品に特化したリユース事業「MKSコーポレーション」を立ち上げ、同年にブランド買取専門店「なんぼや」をオープン。2011年株式会社SOU(現バリュエンスホールディングス株式会社)を設立。2018年に東証マザーズ上場。2019年9月にはFAN AND株式会社(現デュアルキャリア株式会社)を設立。現在はサポートや寄付等を目的としたスポーツオークション「HATTRICK」をはじめ、アスリートのデュアルキャリアを支える取り組みを進めている。

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