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なぜ川島永嗣は欧州で活躍し続けられるのか? 日本では理不尽な批判も…決して揺るがなかったもの

REAL SPORTS 2021年6月25日 11時30分

欧州の最前線で、38歳という「超」が付くベテランに異例ともいえる2年間の契約延長。それもたった3つしかない外国籍枠を使って、だ。これまで幾多の困難が立ちはだかった。時に、理不尽な批判にさらされることもあった。それでも欧州の最前線で闘い続け、確かな評価を手にしている。なぜ川島永嗣はどれだけ不遇な時期を過ごしていても、気が付けばその存在を必要とされるのだろうか? そこには、若かりし頃から不屈の男が抱いてきた、揺るがぬ“目標”があるからだ――。

(文=藤江直人、撮影=高須力)

38歳で2年間の契約延長。川島永嗣が欧州の最前線で得る高い評価

何度も苦境に直面しても絶対にぶれない生き様に、いつの間にか周囲が引き寄せられる。波瀾(はらん)万丈に富んだ川島永嗣のゴールキーパー人生は、この繰り返しに集約される。

直近だけでも所属するフランス・リーグアンのストラスブールが、来秋のFIFAワールドカップ・カタール大会での上位進出を目指す日本代表が、川島を必要とした。

まずはストラスブールとの契約が延長された。それも単年ではなく2023年6月末までの2年間。1983年3月生まれの川島は、40歳になるシーズンをフランスで迎える。

「38歳という年齢で2年契約をもらえたことに、クラブからの信頼を感じています。ここからまた挑戦できることに対して、自分自身もワクワクしていますし、一日一日、自分にできることを積み重ねてきた結果が今につながっていると思っています」

森保ジャパンに招集されていた6月12日に届いた一報。冷静な口調でストラスブールとの契約延長を受け止めた川島は3日後に行われた、キルギス代表とのワールドカップ・アジア2次予選最終戦で森保一監督から先発に指名された。

東京五輪世代のU-24日本代表との一戦を含めて、19日間で5試合が行われた日本代表戦。川島は初戦だった5月28日のミャンマー代表とのワールドカップ・アジア2次予選第6戦でも先発している。

それまでは権田修一(清水エスパルス)が守ってきた、カタールへの切符を懸けた公式戦のゴールマウス。そこに今大会予選で初めて立った川島は、胸中に抱いた素直な思いをこう明かした。

「代表の試合は特別ですし、次のワールドカップへ向けた試合に関われたことは自分にとってもすごくうれしい。そして、何よりも勝てたことがうれしいですね」

第3GKの立場から、最終的に最多の出場数へ。どんな状況でも怠らない準備

J1リーグが前後に開催された関係で、ミャンマー戦には権田は合流していなかった。キルギス戦は最終予選進出を決めた後のいわば消化試合だった。それでも、活動自体が限られる日本代表戦で権田、シュミット・ダニエル(シント=トロイデン)、中村航輔(ポルティモネンセ)を押しのけて先発を射止めた価値は大きい。

何がストラスブールを、日本代表を、川島に引き寄せているのか。今回の代表活動期間中に川島が残した言葉から、答えの一端が垣間見えてくる。

「必要とされるときにしっかり仕事ができるように、自分としては常に準備しています。ゴールキーパーは経験も大切ですけど、常日頃からどのような目標を持って準備できているかどうかに大きく左右される、本当に難しいポジションだと思っているので」

どんな状況でも準備を怠らない。言葉にすれば簡単に聞こえるものの、実践し続けるには体力面でもメンタル面でも難易度が高い仕事を、昨シーズンの川島は完遂した。

ストラスブールには現在開催中のUEFA EURO 2020でもベルギー代表に名を連ねる守護神マッツ・セルス、元U-21フランス代表のバングル・カマラが在籍している。

しかし、昨シーズンの開幕直前のプレシーズンマッチでセルスがアキレス腱を断裂。セカンドキーパーのカマラも、新型コロナウイルス検査で陽性反応が出た。

チームの窮地を救い、開幕節と第2節で先発したのが第3キーパーの川島だった。第3節以降は復帰したカマラに先発を譲ったが、黒星が大きく先行した苦境を受けて、第11節のモンペリエ戦から先発に復帰。実に20試合続けてゴールマウスを守った。

第31節のボルドー戦からセルスが復帰するも、正守護神までもが新型コロナウイルスに感染して離脱。残り2試合で急きょ川島が先発し、リーグアン残留に貢献した。

最終的にはリーグ戦38試合のうち、最多の24試合で先発。クリーンシートは「8」を数え、ストラスブールが挙げた11勝のうち「8」つでゴールマウスを守った。

しかもカマラが先発した8試合、セルスの6試合で全てリザーブとしてスタンバイ。シーズンを通してチームを支えた軌跡に、地元メディアでは契約延長を望む声が出ていた。

3つしかない貴重な外国籍枠を行使。クラブからの厚い信頼

ただ、それでも単年契約という論調が大半だった。だからこそ38歳と「超」のつくベテラン選手が勝ち取った2年間の契約延長は、もっと称賛されていい快挙だ。

しかも、川島の契約延長は初めてではない。ストラスブール加入1年目の2018-19シーズンの出場をわずか1試合で終えた2019年夏にも、契約が2年間延長されている。

常に万全の状態を整える姿勢が、セルスとカマラを含めたチーム全体に好影響を与える。ストラスブールは川島の存在価値を高く評価し、よほどの緊急事態でなければ出番が巡ってこない第3キーパーに、「3」しかない貴重な外国籍枠の一つを行使した。

川島に対するピッチ外の信頼感は今も変わらず、さらに新シーズンへ向けたピッチ内での戦力としても計算された。その証しとしての今回の2年延長を川島はこう語った。

「僕自身も最高峰へ向けて、まだまだ挑戦していきたいという気持ちでいました。それはシーズンを通してより多くの試合に出た中で感じたことですけど、次の2年という時間で自分がどのような形で成長していけるのか、というのはここからがスタートになる。なのでもう一度、気を引き締めて挑戦していきたいと思っています」

ここで言及した「最高峰」が、川島のゴールキーパー人生をひも解くキーワードとなる。


不遇な時期を過ごしたことは一度や二度ではない。それでも成長できると信じた

 小学校時代にテレビ越しに見たアルゼンチン代表の守護神、セルヒオ・ゴイコチェアに憧れた川島は、埼玉・与野西中学校で本格的にゴールキーパーの道を歩み始めた。

以来、浦和東高、大宮アルディージャ、名古屋グランパス、川崎フロンターレと国内でプレーしながら、漠然と「最高峰に挑戦し続けたい」と目標を掲げ続けた。

「自分としては挑戦していく過程で年齢は関係ないと思っていますし、逆に最高峰を目指さなかったらプレーしている意味はない。挑戦していかない限り、本当の意味で自分の中で確立されたプレーであるとか、そこにいるからこそ見える景色というものは感じられない。その意味で自分は今までも、そしてこれからもその部分は変えません」

最高峰へ挑むのであれば必然的に舞台は海外に移る。渡欧前に英語、イタリア語、ポルトガル語などを習得したのは、やがて訪れる海外挑戦へ向けた周到な準備であり、実際にベルギーのリールセへ移籍した2010年夏以降は新たな目標も加わった。

「ヨーロッパでは、ゴールキーパーの役割や存在感がもともと大きい。その中で外国籍のキーパーがプレーしていくためには、ヨーロッパ人よりもいい部分やプラスアルファを出さなければいけないし、プレーの面でもメンタルの面でも日本にいた時よりも強さや厳しさを求められると思っている」

リールセからステップアップしたスタンダール・リエージュでは、3年目の2014-15シーズン途中でポジションを剥奪された。契約満了による退団からスコットランドのダンディー・ユナイテッドへ加入するまで、半年近い無所属状態も経験した。

2016年夏に加入したリーグアンのメスでは、第3キーパーを務めると公式リリースでわざわざ明記された。実際にベンチ入りできず、10代の若手たちとリザーブリーグでプレーした時間の方が多かった日々で、川島の心は一度も折れなかった。

「自分が計画した通りにいかないのが人生であり、サッカーだと思う。自分の中では意味があって挑戦しているし、不遇な時期があったからこそ成長できると信じている」

「この涙は死ぬまで忘れない涙」。川島が人目をはばからずに号泣した一戦

当時をこう振り返ったことがある川島は、2010年のワールドカップ・南アフリカ大会直前から主力を担ってきた日本代表でも、苦難の時期を味わわされている。

チームを縁の下で支える「メンタルプレーヤー」として、メスで出場機会を失っていた川島を復帰させたヴァヒド・ハリルホジッチ元監督はこう語っていた。

「エイジは発言力も経験もあるリーダーの一人であり、チームにいいスピリットももたらせてくれる。厳しい戦いにおいて、エイジの存在感が必要になってくる」

しかし、ゴールキーパーに対して貫いてきた真摯(しんし)な姿勢は、冒頭でも記したように、いつの間にか周囲に川島を必要とさせる。メスでの2年目、2017-18シーズンでファーストキーパーを拝命した川島は、日本代表でも劇的な復権を果たす。

敵地アルアインで2017年3月に行われた、UAE代表とのアジア最終予選。ホームで苦杯をなめさせられていた難敵との大一番で、川島は精彩を欠いていた西川周作(浦和レッズ)に代わる先発をハリルホジッチ監督から言い渡された。

果たして、結果はロシアへの視界を一気に良好にさせる2-0の快勝。あわや同点のピンチでビッグセーブを演じた川島は、UAE戦後に自身のブログを更新。敵地のロッカールームで人目をはばからずに号泣したと、こんな言葉を介して明かしている。

「多分、この涙は死ぬまで忘れない涙だと思います」

「日本人GKは世界で通用する」。そう信じて本気で上を目指し続ける

3度目の大舞台となった2018年のワールドカップ・ロシア大会。開幕前の下馬評を覆す形で快進撃を続け、通算3度目の決勝トーナメント進出を果たした西野ジャパンの中で、川島はミス絡みの失点が多かったとむしろ批判の的になった。

ただ、毀誉褒貶(きよほうへん)が激しいのがゴールキーパーの宿命でもあると受け止めてきた川島は、ロシア大会後に発足した森保ジャパンと疎遠になった日々で原点に立ち返った。

「ロシア大会の後は、次のワールドカップを目指そうとは思っていませんでした。ただ、ワールドカップに3回出させてもらい、いろいろな経験をさせてもらった中で、個人的にやり残したことがあると自分の中で感じていました」

やり残したこととは、イコール、最高峰への挑戦の継続だ。当初は漠然と思い描いていた最高峰は、今では少しずつ輪郭を帯びてきていると川島は明かす。

「日本人のゴールキーパーは世界で通用すると僕は思い続けてきたし、そもそも日本のゴールキーパーのレベルが低いとも思っていない。その意味でも海外でプレーさせてもらっている自分自身が本気で上を目指していかない限り、全体的なレベルはアップしないんじゃないかと感じているし、何よりも若いゴールキーパーたちに失礼だと思うので」

4度目のワールドカップ出場へ。最高峰を目指す挑戦は続く…

ヨーロッパでの12年目の戦いが決まった状況も踏まえて、ゴールキーパーの先駆者として背負うものが伝わってくる。だからといって、川島に余計な気負いはない。

代表を引退した選手を除いて、ロシア大会組が順次招集されてきた森保ジャパンで、川島は岡崎慎司とともに最後に呼ばれた。東京五輪世代を中心とする陣容で臨んだ2019年のコパ・アメリカから始まった新たな挑戦で、川島は自然体を貫いてきた。

「自分が年上だからこういう振る舞いをしないといけないとか、こういう経験をしているから背中で見せないといけないとか、実はあまり考えたことがないんですよ。年齢には関係なく、選手である以上はピッチに立ちたいと思うのは当たり前だし、それは代表でも所属クラブでも変わらない。ただ、そうした自分の姿勢が常にいい方向に、チームのプラスになるように、ということはいつも考えています」

2022年のワールドカップ・カタール大会出場を懸けたアジア2次予選で出場歴を刻んだ今、最高峰を目指す挑戦の中に4度目の大舞台も加わった。ただ、川島自身は「カタール大会に出ることが目標になるわけではない」とこう続ける。

「今まで以上にゴールキーパーとして何ができるのか。探し続けないといけない部分であり、簡単に答えが出るものでもない。どうしたら日本がベスト8以上にいけるのか。小さな差が大きなものに変わっていくと思うので、その小さな差を埋めていけるのかどうかを、所属クラブでも、そして代表でも強く意識していきたい」

権田は、至近距離でのシュートストップならば「エイジさんの方が強いと思う」と感服の思いを込めて言う。一方でゴールの起点になるプレーが一流のゴールキーパーの条件になって久しい中で、森保監督もビルドアップへの参加を求める。川島が言う。

「得意・不得意はあると思うし、選手によってどのようにビルドアップしていくのかも差がありますけど、所属チームでもそういう部分のレベルをより上げていきたい」

短期的な視野に立てば、最高峰への挑戦には足元の技術の上達も含まれてくる。決して平坦ではない道のりにむしろ心を躍らせながら、ストラスブールで迎える4年目の戦いへ、9月開始予定のアジア最終予選へ、川島はつかの間のオフで英気を養っていく。

<了>







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