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鎌田大地が日本代表戦で“ダメ出し”した理由。W杯ベスト8の“その先”を描く頭脳

REAL SPORTS 2021年6月29日 18時39分

2020-21シーズン、ブンデスリーガで3位のアシストを数え、欧州での評価を確固たるものにした。日本代表でも別格の存在感を放ち、気が付けばなくてはならない存在になった。変わらないぶっきらぼうな口調で、時にチームメートに厳しい言葉を投げ掛ける。鎌田大地が描く“その先”の世界へ――、その稀有な能力をひも解く。

(文=藤江直人、撮影=高須力)

日本代表で別格の存在感。鎌田大地だけが持つ稀有な能力とは?

本人は意識していないし、悪意を込めているわけでもない。それでもややぶっきらぼうな鎌田大地(アイントラハト・フランクフルト)の口調は、サガン鳥栖時代から変わらない。

「知らない人としゃべるのが、あまり好きじゃなかったですからね」

人見知りの面があった10代を振り返った鎌田は「今年で25歳になるので、年を重ねた分もあるのかも」と苦笑しながら、いま現在では違うとあっけらかんと説明した。

「今はヨーロッパでプレーしていますけど、僕は外国語をまったくしゃべれないので、日本語で簡単にコミュニケーションが取れるありがたさをすごく感じています」

日本代表の活動期間中は、ちょっとした解放感に駆られるのだろう。鎌田本人が認めるように、口調はそのままでも、発する言葉の量は以前とは比較にならないほど増えた。

ぶっきらぼうという言葉は、実は職人かたぎという類義語を持つ。森保ジャパンのトップ下に定着した鎌田は、ピッチ上での事象を玄人視点で言語化できる稀有(けう)な存在になった。

韓国戦で自ら決めたゴールを“言語化”

例えば3月の韓国代表との国際親善試合。カウンターから最後は自ら持ち込み、代表2ゴール目となる追加点を決めた前半27分の場面を、鎌田はこう説明した。

「ヨーロッパでプレーしている選手たちが前線で出ていたし、切り替えてすぐにカウンターというのはみんなチームで実践しているので、すぐに前へ人数をかけられたと思う」

日本陣内でパスをつなごうとした韓国の選手をMF伊東純也(ヘンク)が突っかけ、奪ったボールを前線のFW大迫勇也(ブレーメン)へ素早く預けた直後だった。

鎌田に伊東、ボランチの遠藤航(シュトゥットガルト)、そして逆サイドのMF南野拓実(サウサンプトン)が以心伝心でスプリントを開始。ボールをキープする大迫を追い越し、パスを受けて相手ゴール前へ迫った鎌田は選択肢が2つあったと続けた。

「サコ君(大迫)も含めて、あれだけペナルティーエリアの中に味方の選手が入っていったので、最初は(伊東)純也君を使って右からのクロスがいいかなと考えましたけど、相手選手の僕への対応もよくなかったので、これは仕掛けたらいけるかなと。僕自身も点が欲しかったし、まだ前半だったので最後までやり切ろうという感じでした」

前線から連動してプレスをかけて、相手ボールを奪うや速攻に転じ、時間をかけずにゴールを狙う。ヨーロッパで実践され、現代フットボールの主流ともいえる攻撃を森保一監督からも求められているからこそ、必要と感じれば厳しい言葉も発する。

「まったく納得できない」。セルビア戦でチームに投げ掛けた苦言

5月末から行われたA代表の5連戦。ハイライトとして位置づけられた、ドラガン・ストイコビッチ監督が率いる6月11日のセルビア代表戦を1-0の勝利で終えた直後だった。

「今日の前半に関してはまったく納得できない。レベルが少し上がった相手に対しても前からどんどんプレスをかけていくのは、スピーディーな攻撃がしたいから。なのにボールを奪った直後に落ち着いちゃうと、何のためにプレスにいっているのかが分からない」

セルビアは2018年9月に船出した森保ジャパンが初めて対戦したヨーロッパ勢であり、対戦当時のFIFAランキングでも25位と日本の28位を上回っていた。

それでも前半をスコアレスで折り返したが、決定機をつくれなかった試合展開とその理由にいら立っていた鎌田は「前半がああなると、後半は体力がもたない」とも指摘した。前線から果敢にかけ続けたプレスが、全て徒労に終わったと言い切ったわけだ。

「前半はすごく疲れる試合をしてしまったので、後半の最後の3本ぐらいはいいパスを通せなかった。後半はみんなの意識が変わりましたけど、前半はリスクを避け過ぎたというか、ボールを奪っても横とか後ろへのパスが多過ぎたし、そうなると相手のプレスにどんどん押し込まれる。もっと勇気を持って、前の選手に速くボールをつけないと」




「何かが突出しているわけではないけれども…」。自らの分析像

ゴールへの道筋を含めてピッチ上での事象を具体的に、分かりやすく説明する姿は中村俊輔(横浜FC)や、昨シーズン限りで引退した中村憲剛さんを思い出させる。

一方で遠慮など無縁で、チームの課題を忌憚(きたん)なく指摘する姿は2006年のFIFAワールドカップ・ドイツ大会を最後に電撃的に引退した中田英寿さんをほうふつとさせる。

全員が日本代表のトップ下として、歴史に足跡を刻んだレジェンドだ。ならば鎌田は同じポジションの系譜に名を連ねる一人として、自らをどのように分析しているのか。

「世界のトップ・オブ・トップで考えると僕は全然足が速くないし、そこまで得点力のあるトップ下の選手でもないと昨シーズンであらためて分かりましたし、ましてやフィジカルの強さもない。なのでフランクフルトで考えれば、何かが突出しているわけではないけれども、基本的な総合値としては普通の選手よりは上なのかなと思っています」

代表チームに招集され、周りが日本人選手になったからといって足が速い方に、フィジカルが強い方に分類されるわけでもない。そのような状況で森保監督のファーストチョイスになった過程で、鎌田はチームメートたちに“ある注文”を繰り返してきた。

「よく言っているのは、相手が後ろにいてもとりあえずというか、無理にでも僕に当ててくれていいと。相手が後ろにいると、リスクがあるという理由でボールを下げがちになりますけど、相手にとってはそこで僕に通される方が一番嫌だったりするので」

フランクフルトでは相手のラインの間を巧みに動き、最適解のスペースでボールを引き込むプレーが、ドイツ語で『ラウムドイター』(スペースを見つけ出す者)と称賛された。

同じ手法を代表にも持ち込んで久しいが、異なるのはフランクフルトでは最終ラインからのロングパスを呼び込むのに対して、代表ではボランチを経由させる点だ。

ボランチ遠藤航、守田英正、橋本拳人との関係性

その意味で2018-19シーズンにシント=トロイデンで共にプレーし、今では森保ジャパンの心臓部に君臨する遠藤とは「僕のことを分かってくれて、すごくプレーしやすくしてくれる」とすでに信頼関係が存在する。

ならば遠藤の相棒として、今年に入ってから台頭してきた守田英正(サンタ・クララ)との関係はどうなのか。3月の韓国戦後に鎌田はこんな言葉を残している。

「もうちょっと早いタイミングで僕にボールをつけてくれたら、というシーンが数多くありました。でも守田君とは初めてだったし、ハーフタイムや試合後にもたくさんしゃべったので、回数を重ねていけばもっともっとうまくいくと思っています」

韓国戦後も5試合にわたって、鎌田はピッチ上で守田と共演してきた。今ではどのような関係性が築かれているのか。逆に守田へ聞くと「大地は器用なので」と、言葉と実際のプレーを介してすでに確固たるイメージが共有されていると返ってきた。

「僕がボールに関与していないようでしているときや、相手をつるとか、意図的に枚数をずらすポジションを取ったときにやっぱり分かってくれる。どこに立てば相手が嫌がるのか、という意味で毎回すごくいいポジションを取ってくれるし、大地と僕の2人だけで相手の複数選手の間にずれをつくり、優位に立てるのはすごく大きい」

橋本拳人(ロストフ)はどうか。セルビア戦では守田とのダブルボランチで先発。鎌田がダメ出しした前半だけで、川辺駿(サンフレッチェ広島)との交代でベンチへ下がった自分に対して、鎌田が指摘した通りの自己分析を展開している。

「最初の方で何度か続いたミスを取り返すために、もっといいプレーをしたいと考えるようになった中で普段は選択しないようなパスを出そうとするなど、自分の中で修正がきかない状態になってしまった」

共に攻撃をけん引する南野拓実、大迫勇也から見た鎌田

鎌田のトップ下定着に伴い、ポジションをそれまでのトップ下から左サイドへ移している南野は「フランクフルトでもそうですけど、大地はトップ下のスペースを使うのが非常にうまい」と鎌田の能力を認めた上で、共存するための絵を描き始めている。

「なるべく大地とかぶらないように、ポジションチェンジなどをすることが、結果として相手が嫌がるプレーになるのかなと思っています」

左から南野、鎌田、伊東が2列目のファーストチョイスになった中で、鎌田も左右に配置される選手の特長を把握しながら、代表の攻撃をこうデザインしていた。

「(伊東)純也君を右に張らせて、僕もできるだけ右側へ行けば(南野)拓実君が中に入ってこられる。トップ下2枚が理想だね、と拓実君とは話していました」

南野もバイタルエリア周辺のスペースを使うプレーを得意とする。あうんの呼吸に導かれた鎌田と南野の動きを見ながら、1トップの大迫もこんな言葉を残した。

「大地も拓実も相手の間でうまくポジションを取ってくれるので、僕はそれに合わせてポジションを取る、という形にしています。最初からここでパスを受けよう、という感じで決めているわけではないですね」


鎌田の“ステップアップ”の考え方。「僕が目指しているのはそれではない」

ガンバ大阪のジュニアユースからユースへの昇格がかなわなかった鎌田は、京都の東山高を経て2015年に鳥栖へ加入。ルーキーイヤーからリーグ戦で3ゴールをマークし、リオデジャネイロ五輪を目指していたU-22日本代表候補にも入った。

「もっと上のチームでやりたいという思いがあったし、移籍を望めばできた」

19歳だった1年目のオフに、日本国内でステップアップするチャンスがあったと明かした鎌田は、鳥栖に残留した理由を「自分の夢をかなえるため」と明かしている。

「移籍してすぐに試合に出るのは厳しいと思って。数年プレーした後に海外に出ると年齢的にも若くはなくなるので、ならば鳥栖から直接海外がいいかなと」

複数のJクラブからオファーを受けながら、海外からのオファーを開示する条件を示したベルマーレ平塚(現湘南ベルマーレ)を選択。山梨・韮崎高から平塚入りして4年目の夏に、セリエAのペルージャへ移籍した中田さんをまたも思い出させる。

実際に鎌田も3年目の夏、2017年6月に鳥栖からフランクフルトへ完全移籍。シント=トロイデンへの期限付き移籍から復帰し、公式戦で計10ゴールをマークした2019-20シーズン終了後にも「ステップアップすることはできた」と振り返る。

「ちょっと格上のクラブへステップアップすることもいいことだと思いますけど、次のチームへ行ってまた2~3年プレーすると、僕の場合は27歳とか28歳になってしまう。目先のお金を含めて、僕が目指しているのはそれではないので。我慢してフランクフルトでプレーして、ここから上へ行くのが一番早いのかなと思って残りました」

40億円の違約金設定。ドイツでつかんだ確かな評価と手応え

迎えた2020-21シーズン。奪ったゴール数が「5」だった鎌田は、前述したように「得点力のあるトップ下の選手ではない」との自己評価をより強めた一方で、アシストがブンデスリーガ全体で3位に入る「12」を数えた状況には手応えを深めた。

「開幕前に『こうなるといいな』と思ったものに近いというか、フランクフルトでこれ以上の数字を残すのは難しい、といっていいぐらいの数字だと思う。フランクフルト自体、それほどレベルが高くないというか、ドイツでは中堅のチームだし、僕自身がスーパーな選手ではない分、周りの助けが必要な選手なので。僕をうまく使えているときはチームも僕もいいし、逆に僕がよくないときは周りもよくない状況が多かった」

昨年9月の段階でフランクフルトは鎌田との契約を2023年夏まで延長した。例えばこの夏に鎌田を獲得するには、3000万ユーロ(約40億円)の違約金が設定されている。

プレミアリーグのトッテナム・ホットスパーや、ラ・リーガ1部のセビージャが新天地候補として報じられる一方で、コロナ禍が各クラブの財政事情を悪化させている現実もある。鎌田自身は今夏のステップアップをどう見据えているのか。

「タイミングなどいろいろな問題があるので、移籍に関してはただ単にステップアップすればいいという話ではない。サッカー界は流れが速いので、ある意味でギャンブルみたいな部分もありますけど、小さなころからサッカーを続けてきた理由は自分の夢をかなえるためなので。そのために何が一番正しいのかを考えることが大事ですね」

夢とはUEFAチャンピオンズリーグの優勝を狙えるチームで活躍する自分の姿であり、ワールドカップ優勝を目指せる日本代表をその中心でつくり上げていく作業となる。

ワールドカップ・ベスト8以降の世界を見据え…

自身初のワールドカップ出場を懸けたアジア2次予選を全勝で通過した今、思いや考えをしっかりと言語化できる鎌田の頭脳はカタールの地での戦い方も描き始めている。

「次はアジア最終予選を考えなきゃダメですけど、その一つ先の“世界”も考えたときには、僕たちがボールを持てない時間帯も続く。その意味でもいい守備からいいカウンターを仕掛ける形が、上のチームに勝つためには非常に大事になってくる」

セルビア戦後に口を突いた苦言はアジア最終予選だけでなく、日本がまだ見ぬワールドカップのベスト8以降の世界をも見据えた真理でもあった。今夏の去就がどうなろうとも、鎌田は森保ジャパンに還元できるレベルアップを求めて新たなシーズンを待つ。

<了>







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