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日本シリーズの鍵は「延長12回制」を巡る選手起用。シーズンは9回打ち切り、試される首脳陣の手腕

REAL SPORTS 2021年11月20日 8時10分

11月20日、いよいよ決戦の火ぶたが落とされる。オリックス・バファローズと東京ヤクルトスワローズの組み合わせとなった2021年の日本シリーズは、「延長12回制」で実施される。今季はペナントレースからクライマックスシリーズに至るまで全て9回で打ち切られてきた。このレギュレーションの違いは、両軍の選手起用にどのような影響を与えるのだろうか? ささいなきっかけで大きく流れを変えてしまう日本シリーズで、首脳陣のマネジメント能力が例年以上に試されそうだ。

(文=花田雪、写真=Getty Images)

日本シリーズで今季初の「延長12回制」。両チームに与える影響は?

史上初めて、前年リーグ最下位チーム同士の対戦となる日本シリーズ。

セ・リーグ王者の東京ヤクルトスワローズ、パ・リーグ王者のオリックス・バファローズは共にクライマックスシリーズ(CS)を3戦全勝で勝ち上がり、勢いに乗った状態で日本一を懸けた大一番に臨む。

昨季までは8年連続でパ・リーグの球団が日本一に輝いているが、今年の組み合わせは“読めない”部分も多い。

両チームとも「短期決戦に慣れている」とはいえず、ヤクルトは2001年から19年間、オリックスは1996年から24年間、日本一から遠ざかっている。

その意味でも、「ささいなきっかけ」で流れが変わる可能性をはらんだ、見応えのあるシリーズになりそうだ。

もちろん、見どころも多い。第1戦での先発が予想される山本由伸と奥川恭伸の投げ合い、故障明けでCSから復帰してきた吉田正尚の状態。球界屈指の破壊力を誇る山田哲人、村上宗隆のコンビ……。

ただ、その中でも特に注目したいのが日本シリーズのレギュレーションだ。

NPB(日本プロ野球)が発表した開催要項によると、今年の日本シリーズは例年通り、第7戦までは延長戦を12回まで行う。「例年通り」と聞くと大した問題はないように思えるが、今年の場合は少し事情が変わってくる。

2021年、プロ野球は新型コロナウイルス感染拡大予防における行政からの営業時間短縮要請に対応するため、レギュラーシーズン、交流戦、CSの全てで延長戦ナシの「9回打ち切り」を採用した。

シーズン143試合とCS3試合の計146試合、両球団は「延長ナシ」の戦いを続けており、いうなれば「9回で力を使い切る体」になってしまっているわけだ。

そこにきての「延長12回制」が、果たしてシリーズの行方に何を及ぼすのか。

両監督とも初めての経験。選手起用はどう変わる?

最も影響が大きいのが、「選手の起用法」だろう。

点差や戦況にかかわらず、全ての試合が9回で終わると事前から分かっていれば、監督は9回から「逆算」して選手を起用することができる。

投手の継投も延長を考慮する必要がないので先発が降板してから9回までの残りイニングを計算して、「誰を」「どこで」使えばいいのか、判断に迷う必要がほとんどない。

しかし、これが「延長アリ」だとどうなるのか。早い仕掛けで選手を前半、中盤からつぎ込んだ場合、延長戦に入ってから選手が不足してしまう可能性が出てくる。投打ともに「切り札」をどこで切るのかの判断の難しさは、シーズンの比ではないだろう。

こういった場合、両球団を率いる指揮官の「経験」がものをいうことになりそうだが、ヤクルト・高津臣吾監督は就任2年目、オリックス・中嶋聡監督は昨季途中から監督代行、今季より正式に就任と、共にチームを指揮してまだ2年目。昨季もコロナ禍で延長戦が10回までに制限されていたため、実は両監督にとってもこの日本シリーズが初の「延長12回制」での戦いになる。

8・9回を固定してきたヤクルト、12球団で唯一3連投なしのオリックス

特に頭を悩ませることになりそうなのが、「継投」だ。以下にヤクルト、オリックス両球団のリリーフ投手を「救援登板数順」に挙げてみる。

【ヤクルト】
清水昇   72試合 3勝6敗・50ホールド・1セーブ 防御率2.39
マクガフ  66試合 3勝2敗・14ホールド・31セーブ 防御率2.52
今野龍太  64試合 7勝1敗・28ホールド・0セーブ 防御率2.76
石山泰稚  58試合 0勝5敗・9ホールド・10セーブ 防御率3.60
坂本光士郎 36試合 1勝2敗・7ホールド・0セーブ 防御率4.05
大西広樹  33試合 3勝0敗・7ホールド・0セーブ 防御率2.82

【オリックス】
富山凌雅  51試合 2勝1敗・20ホールド・0セーブ 防御率2.72
ヒギンス  49試合 1勝2敗・28ホールド・2セーブ 防御率2.53
平野佳寿  46試合 1勝3敗・3ホールド・29セーブ 防御率2.30
山田修義  43試合 1勝0敗・9ホールド・0セーブ 防御率2.27
K-鈴木   34試合 1勝0敗・2ホールド・2セーブ 防御率3.03
漆原大晟  34試合 2勝2敗・4ホールド・2セーブ 防御率3.03

数字だけを並べてみると、優勝チームだけあって両球団ともにリリーフの駒はそろっているように思える。あえて「差」をつけるとすれば、ヤクルトが清水、マクガフを8・9回にほぼ「固定」してシーズンを戦い抜き、オリックスは12球団で唯一、1年間を通して3連投した投手がいなかったように、リリーフ陣を満遍なく使った印象が強い。

本来であれば、試合終盤に登板する投手を「固定」できているヤクルトに分があるといえるが、今年は少し違う。

レギュラーシーズンと同じ戦い方を貫くのか、それとも変更するのか?

日本シリーズのみの「延長12回制」採用によって、状況次第では清水、マクガフが登板した後の延長戦で投げる投手が必要になってくるからだ。もちろんヤクルトにも今野、石山や今季途中からリリーフに回った田口麗斗のように有能なリリーバーが控えている。ただし、シーズンの職場がほぼ7回以前に限定されており、「失点一つがチームの敗戦に直結する」状況での登板経験が、今季に限っては圧倒的に少ない。

例えば同点のまま終盤を迎えた場合、高津監督がシーズンの起用法を貫き、8・9回は清水&マクガフに託すのか――。その場合、10回以降をどうマネジメントするのか。

逆にオリックスも、「3連投回避」の起用法がシリーズでも継続できるかは未知数だ。延長戦になれば、当然起用する投手の数は増える。となると、局面によっては「3連投回避」の制約は解除して好調な投手を惜しみなくつぎ込む必要も出てくるかもしれない。ただその場合、シーズンで一度も「3連投」していない投手陣への負担がどれほどのものになるのか――。

また、リードした場面でクローザーが打たれ、同点にされたケースも想定しておかなければならない。

シーズン中ならクローザーが9回に同点打を浴びても、その回で試合は打ち切りになるためリリーフ陣が「準備」をする必要はほぼない。ただし、シリーズでは同点=延長戦=試合が継続される。

今年の日本シリーズは最大でも9試合しかないとはいえ、「9回打ち切り」の戦いに慣れたブルペン陣への負担は、大きく跳ね上がるだろう。

例年以上に首脳陣のマネジメント手腕が問われる戦いになる

プロ野球ファンにとっても1年ぶりに見ることになる「延長12回制」の戦い――。

主力選手の活躍はもちろんだが、ブルペンで控えるリリーフ投手、それをマネジメントする首脳陣の手腕が例年以上に試される――。

2021年の日本シリーズは、そんな戦いになるかもしれない。

<了>






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