20日、オリックス・バファローズは東京ヤクルトスワローズとの日本シリーズに挑む。25年ぶりの日本一へ、そのキーマンとなるのは誰か? 日本シリーズのような短期決戦では主軸へのマークが特に厳しくなる。だからこそ、今季ブレイクを果たした、ここぞの場面で勝負強さを発揮してきたこの2人が、カギを握るに違いない――。
(文=花田雪、写真=Getty Images)
今季レギュラーを獲得したばかりでも、紅林と宗の三遊間コンビを推す理由日本シリーズのような短期決戦は、「局地戦」だ。クライマックスシリーズ(CS)を勝ち上がってきたチーム同士――今年でいえばオリックス・バファローズと東京ヤクルトスワローズの両球団に大きな戦力差はないといえる。
となると、「わずかでも相手を上回るポイント」をいかに見極め、そこを生かすかが勝敗のカギを握る。
問題は、「どこ」で相手を上回るか――。
オリックスには吉田正尚、杉本裕太郎、ヤクルトには山田哲人、村上宗隆というリーグを代表する強打者が打線の中央にドシッと座る。必然的に、彼らのようにマークが集中する中心打者を脇から支えるであろう選手の結果に、チームの命運が懸かってくるケースが予想される。
いわゆる「ラッキーボーイ」の存在だ。
今シリーズのオリックスで、その役割を担いそうな選手を考えたとき、筆者の頭の中に浮かんだのが紅林弘太郎、宗佑磨の2人だ。
高卒2年目の19歳にしてポジションをつかみ取った大型遊撃手紅林は今季が高卒2年目。まだ19歳という若さで、1軍の遊撃ポジションをつかみ取った。高校時代から素材は高く評価されており、甲子園など全国の舞台とは縁がなかったが2019年ドラフト2位という評価でオリックスに入団している。
ただ、正直にいうとここまで早く1軍で出場機会をつかむとは想像していなかった。
確かに、素質は抜群。186cm、94kgという恵まれた体躯(たいく)に、強打と強肩。その将来に夢を見たくなる存在だったのは間違いない。
しかし、プロ野球の歴史をひも解いても、ここまで「大型」の遊撃手が大成したケースはほとんどない。坂本勇人(巨人)は紅林と同じ身長186cmの「大型遊撃手」だが、プロ入り時は今よりもさらに線が細く、そこまで「大型」というイメージもなかった。
紅林に関しては遊撃手として数年間育成され、適正次第では他のポジションで打撃を生かすというプランもありなのではないか――。そんな未来すら予想していた。
それが、わずか2年で1軍の正遊撃手に抜てき。チームには長年、遊撃レギュラーを務めた安達了一や、紅林の1学年上にも太田椋といったライバルがいる。それでも中嶋聡監督が紅林を使い続けたのは、「球界を代表する遊撃手に育て上げる」という強いメッセージにも思える。
もちろん、打撃も守備も、まだまだ粗っぽさは残る。シーズン17失策はパ・リーグ最多で、打率.228は規定打席到達者29人中、27位だ。
それでも――。通常よりはるかに深いポジション取りから見せる強肩や、シーズンで10本塁打を記録した長打力など、弱点を補って余りあるスケール感を、紅林は持っている。
絶対に負けられない試合で見せた「持っている男」の素養「持っている」といえば、シーズン最終戦で見せた打撃もそうだった。
10月25日、オリックスの143試合目。勝っても負けてもその時点でリーグ優勝は決まらない状況ではあったが、試合を残していた千葉ロッテマリーンズにプレッシャーを与えるためには、絶対に負けられない試合。
この試合で紅林は東北楽天ゴールデンイーグルスの先発・田中将大から先制・中押しの2本のタイムリーを放っている。1本目は三遊間をしぶとく抜き、2本目はライトの前にポトリと落ちる当たり。ともに「快心のヒット」ではなかったが、結果的にこのタイムリーが決勝点になった。シーズン最終戦の負けられない試合では、内容ではなくとにかく「結果」が求められる。紅林はそんな場面で日本を代表する投手を相手に見事に「結果」を残してみせた。
同じことは日本シリーズでもいえる。勝っても負けても、今季は終わる。打ち取られても「次につながる」などと悠長なことは言っていられない。そんな局面で内容にかかわらず「結果」を残せる選手が、俗に「持っている男」と呼ばれる。
少なくとも紅林には、その素養がある。打順はおそらく下位になるはずだが、だからこそ「打った」ときのインパクト、相手に与えるダメージは大きい。意外性といったら紅林には失礼かもしれないが、膠着(こうちゃく)した場面でポンと試合を決める一打を放つような活躍ができれば、紅林が「シリーズ男」になる可能性も十分あるはずだ。
雌雄の時を経てブレイクを果たした逸材の勝負強さ宗に関していうと、紅林と違い「もっと早く出てくる」選手だと思っていた。横浜隼人高時代からプレーを見ているが、当時からアスリートとしての能力は一級品。当時の印象は「未来型の遊撃手」。将来的には野手に必要な5ツールを全て兼ね備えるスター選手になれる逸材――そう感じていた。
プロ入り後もその能力は高く評価され、毎年のように開幕前には「レギュラー候補」と呼ばれていた。それでもなかなか結果が出ず、ポジションも遊撃手ではなく外野に回ったこともあった。
それが今季。中嶋監督からの打診で三塁に本格転向。これが、ズバリとハマった。柔らかなグラブさばきと、時に見せるアクロバティックなプレー。持て余していた身体能力が、三塁というポジションで生きた。
発表は12月2日だが、今季のゴールデングラブ賞のパ・リーグ三塁手部門は、宗以外にないと確信している。
打撃面でも主に2番を任され、139試合で打率.272、本塁打9本など、ほぼ全ての項目でキャリアハイをマークした。チームが優勝争いを展開した夏場の7~9月には3カ月連続で月間打率3割超をマークし、10月は打率こそ落としたが3本塁打を放った。
特に10月12日、優勝を争うロッテ戦の8回裏に放った同点2ランは、チームの今季を振り返る上でもハイライトの一つだろう。CSファイナルステージの第3戦でも一時逆転となる2ランを放っており、「ここぞ」の場面で勝負強さを発揮している。
25年ぶりの日本一は、この2人の活躍に懸かっている紅林も宗も、レギュラーに定着したのは今季から。その意味で、彼らに「勝敗」を託すのは酷な話だ。ただ、チームには幸いにして山本由伸、吉田正尚といった「投打の軸」が存在する。その上で彼らがプラスアルファの働きをすることができるかどうかが、「局地戦」を制するカギになる。
前述の通り、日本シリーズでは必ずといっていいほど「ラッキーボーイ」「日本シリーズ男」と呼ばれる選手が誕生する。
今季レギュラーを獲得したばかりのフレッシュな彼らがそう呼ばれるような活躍をすれば、25年ぶりの日本一もはっきりと見えてくるはずだ。
<了>