いよいよ2022シーズンのプロ野球が開幕を迎える。3年連続でBクラスに沈み、今年こそは逆襲を誓う広島東洋カープだが、決して前評判は芳しくない。その大きな理由の一つが、主砲・鈴木誠也が抜けた打線の心もとなさだ。では、それを解消するキーマンとなるのは誰か。実績と年齢、ポテンシャルを考えると、鈴木誠也が「天才」と評した西川龍馬しか浮かばない――。
(文=小林雄二、写真=Getty Images)
前評判の低い広島だが、投手陣は期待大。カギとなる打撃陣で期待したいのは…今季のセ・リーグ、その順位予想において、多くのファンも納得のコメントといえそうなのが山本昌氏のそれだ。
「ピッチャーは大瀬良(大地)くんとか森下(暢仁)くんがいる中で、鈴木誠也の抜けた穴を誰が埋めるかですね」
付け加えて「(投手陣は)後ろもしっかりしている」(藪恵壹氏)というコメントもあるように投手陣の前評判はなかなか“好評”だ。
先発陣は昨季、リーグトップタイのQS(※)20回を記録し(QS率87%は単独トップ)、4年連続開幕投手の大瀬良、昨季最多勝の九里亜蓮。昨季リーグ2位の投球回でリーグ4位の防御率2.98、QS19回を数えた森下。そして、いよいよ本格開花の時を迎えようとしている左腕・床田寛樹の“4本柱”の存在は心強く、ここに高卒3年目の玉村昇悟と再ブレイクを狙う遠藤淳志の若手二人が先発ローテに名を連ねる。
(QS:Quality Startの略。先発投手が6イニング以上を投げ、かつ3自責点以内の場合に記録される)
投手陣の懸念材料であった中継ぎ陣も最速157キロを誇る快速右腕・島内颯太郎、キャンプ、オープン戦で評価を上げ、某スポーツ情報サイトでセ・リーグの「ルーキー即戦力ランキング」で1位に挙げられた松本竜也、そして3連覇時の守護神・中﨑翔太、さらには160キロ右腕のロベルト・コルニエルもいる。
左腕も勝ちパターン候補の一人で2年連続50試合登板の塹江敦哉、昨季ルーキーながらチーム最多の54試合に登板した2年目の森浦大輔、状態さえよければクローザー候補でもあるヘロニモ・フランスア、そして即戦力ルーキーの黒原拓未となにげに駒はそろってきている上に、後ろには昨季セ・リーグ新人王の栗林良吏がいる。今季から延長12回制が復活するが、このメンツであればある程度の計算は成り立つはずである。
新外国人のマクブルームは来日が遅れ、坂倉・小園は成長過程…にもかかわらず、解説者によるシーズン直前の順位予想では「広島Bクラス」を予想する向きが多いのは、メジャー移籍が決まった「鈴木誠也不在の打線」にいまひとつ、見るべきものが感じられないからであろう。
例えば、鈴木の後釜にと獲得した新外国人のライアン・マクブルームはコロナ禍における入国制限により、来日できたのは3月12日。「アメリカでも試合以外はしっかりと強化トレーニングできた。動ける身体はできている」(マクブルーム)とはいえ、実戦部分においてはなじむまでには時間はかかるであろうことは想像に難くない。
昨年、鈴木誠也に次ぐリーグ2位の打率(.315)を残した坂倉将吾に関しては、佐々岡真司監督は昨秋から三塁での起用を示唆し、オープン戦でも捕手、一塁、三塁という3つのポジションで起用。そうなると当然考えられる守備面での負担に加え、坂倉自身が規定打席に到達したのも昨季が初という実績&経験面も含めるとキーマンに設定するのはあまりにも酷というものだ。高卒3年目の昨季、(これまた)初めて規定打席に到達し、リーグ8位の打率(.298)を記録するなど飛躍、順調な成長曲線を描いている小園海斗をキーマンとする解説者もいるが、いかんせんまだ高卒4年目の若手であり、成長過程の真っただ中。坂倉同様、「キーマン設定」は少し違う気がする。
今の広島に必要な「つなぎ役」とポイントゲッター役のいずれもこなせる資質では誰かといえば、やはり西川龍馬しかいないのではないか。
理由は年齢(27歳)も含めたチーム内での立ち位置、プラス、一番は今の広島に絶対的に必要な「つなぎ役」とポイントゲッターの役、いずれもこなせる資質を備えているからだ。
ここまでにも述べている通り、鈴木が抜け、新外国人のマクブルームも現時点ではベールに包まれたまま本番(開幕)を迎えるラインナップに「ここぞの一発攻勢」は期待できない。であれば、つないでつないで、ポイントゲッターで点を重ねるというスタイルにこだわるしかすべはない。
本人もそのあたりのチーム事情を踏まえ、「もう一度、下半身をどっしりさせて、強く打ちたい。下半身だけで飛ばすことを心掛けている」と、オフには軸足にしっかり体重を乗せて打つ下半身主導の打撃を再研磨。
鈴木誠也不在を意識して「長打力を上げたい」とも言うが、最もこだわっているのは安打数のようで「誰よりも安打を打つ」と最多安打のタイトルへも色気を示している。さらには「誠也くらいの圧倒的な数字を残せば、何も言わずとも(チームメートが)ついてくると思う。数字で(存在感を)示せたらと思います」と本来、やる気に満ち満ちた発言はあまり表立って言わない男が珍しく意思表示しているのも、どこか期するところがあるからだろう。
予想される打順は3番、4番、5番の中軸。ここに前述した小園、坂倉の若手2人が絡み、どこかのタイミングでマクブルームが“中心”に座るのが理想だが、西川がそれこそ「圧倒的な数字」で存在感を示せば、打線はつながり、機能すると考える。投手陣が昨年よりも整備されている今季、打線が機能を向上させれば自然と順位も上がってくる……と思うのだが、心配なのは西川の打順である。
「1番・西川」では相手に与える怖さがなくなる恐れあり本来ポイントゲッターであるはずの西川をオープン戦の最終盤で佐々岡監督は「1番」に配置。開幕後も西川を1番に起用することを明言した。「(西川以外の)誰かが出てこないといけないが、なかなか出塁率というところが伸びなかった」ことが理由だと言うのだが、もともと1番候補であった宇草孔基や大盛穂ら若手に出塁率を求めるのであれば、そこの部分を含めキャンプ、オープン戦を通じて刷り込んだ上で実戦の場を与え、時に我慢をしながらも起用していくのが育成ではないだろうか。だが現状を見るにつけ、目先の状況で烙印(らくいん)を押し、消去法的に西川を1番に据えるように見えてしまう手法には疑問を感じざるを得ないのだ。
思い返せば“4連覇”を狙った2019年、丸佳浩のFA移籍に伴い、首脳陣は「3番打者の設定」に右往左往、入れ替わり立ち替わりで人員配置を行った結果、落ち着きを失った打線は機能を失った経緯がある(当時は緒方孝市監督だったが)。鈴木誠也という大きな軸を失った今季、あの時と同じような事態に陥れば打線はより弱体化してしまうのではないか……と危惧してしまう。
繰り返すが、本来の西川はポイントゲッター型である。そして今季の打線の重要なキーを握る一人である。その核となる選手を、後手後手な対応であちらこちらの打順に移動させる事態となるようであれば、広島の上位浮上は難しくなるだろう。
<了>