昨季、打線が極度の貧打にあえぎ、セ・リーグ5位に沈んだ中日ドラゴンズ。球団のレジェンドである立浪和義の監督就任で新体制となった今季も、目立った新戦力の補強はなく、開幕を前に不安は募る。それでも、今季のドラゴンズに期待できる要素がないわけではない。今季の“立浪竜”に大きな可能性を感じる理由を一つ一つ挙げていこう。
(文=栗田シメイ、写真=Getty Images)
3年計画の初年? 今季の“立浪竜”の可能性ついに待望の立浪ドラゴンズ体制となった今季の中日ドラゴンズ。
東海地方で絶大な影響力を持つレジェンド・立浪和義の監督就任に、渋かったフロントもついに補強に動くだろうと期待したファンも多かっただろう。だが、ふたを開けてみればFAで又吉克樹が流出し、補強はキューバの育成契約選手2人に、同じく育成契約の大嶺祐太のみ。実質補強ゼロともいえる状況だ。
即戦力となる新たな外国人が加わらなかったのは果たして何年ぶりだろうか――。記憶をたどるのも困難だ。いかに楽観的なファンである筆者とはいえ、今季のペナントでドラゴンズが上位に食い込む姿はなかなか想像しがたい。
しかしその反面、オープン戦を見る限り去年まで感じることがなかった胸躍るような選手起用も見えている。期待の若手の域を出なかったプロスペクトたちを育て、来年以降に勝負を賭けるであろう3年計画の骨組みが少しずつ明らかになっていった。
本稿で3年連続の開幕前の寄稿になるが、期待値は一番低いというのが正直なところだ。それでもあえて、今季の“立浪竜”の可能性をひも解いていきたい。
15本塁打を目指してほしい逸材はドラ2の…「打線のほうはなんとかします」
新監督は就任会見でこう断言した。昨季の野手陣が厳しい成績に終わったことを受けてだ。打率、本塁打、打点、長打率、出塁率と全ての項目でセ・リーグ最下位を記録している。特に本塁打は5位の阪神タイガースの121本に対して、69本はあまりにも寂しい。いかに広いバンテリンドームを本拠地にしているとはいえ、言い訳できない水準だった。高橋周平、平田良介、阿部寿樹ら主軸が軒並み低空飛行に終わり、代わりに起用される選手も大きなインパクトを残せていない。
テコ入れすべく、ドラフトでは6指名中5人を野手で固めるという大鉈を振るう。ドラフト1位、2位ともに大卒外野手という異例の指名には、新監督の明確な意図が透けて見える。
なかでも早くに出場機会を得そうなのがドラ2の鵜飼航丞だ。キャンプからオープン戦を見ると、明らかにドラゴンズの打撃陣にいなかった生粋の長距離砲に映る。「助っ人鵜飼」と一部のファンも小ネタにするように、外国人のような放物線を描く打球角度は、本拠地に関係なく本塁打を重ねられそうなポテンシャルがある。変化球への対応や外へのボールに対してなど確実性に課題があるが、楽しみのほうが大きい。レフトでの起用が増えることが予測されるが、自分のスイングを貫き、15本塁打を目指してほしい逸材だ。
“同級生コンビ”石川昂弥&岡林勇希にかかる期待既存戦力の底上げに着手し、積極的な若手起用が見込まれているのも今季の変化だろう。その筆頭が、立浪監督が起用を明言している石川昂弥と岡林勇希の若き同級生コンビ。
岡林はミートがうまく、広角に打つことができるシェアな打撃が魅力の外野手で、本格的な野手転向はプロ入り後の素材型の選手だった。だが既にどんなコースも打ち分ける技術がある。なかでも特筆すべきは、インコースのさばきだろう。以前、母校菰野高校の戸田直光監督への取材で、本人の投手志向もあり、高校時代ほとんど野手練習はしていないという話を聞いた。「それでも試合では打っちゃう。インコースを腕を畳んでライトの引っ張れる感覚は天才的なものがあった」。恩師の言葉通り、その打撃センスは完全に戦力として期待される水準まできている。50m5秒台の俊足、120mの遠投という身体能力に加え、経験を積むことでその膨大な伸び代を開花していくシーズンとなるはずだ。
石川は近い将来、間違いなくドラゴンズの主軸を担う選手だ。高橋周平をセカンドに回してまでサード起用されることが濃厚で、首脳陣が今年1年かけて育てていくプランを打ち出している。昨季はケガで棒に振り、自身も今季に懸ける思いは強い。シーズンを通して体力的な不安も残るが、単なる長距離砲ではなく広角に打ち分ける技術も併せ持つのが石川の強みでもある。右打ちの強打者の系譜が途切れていた近年だが、来シーズン以降も見据えて飛躍の契機をつかむことになれば、今後のチーム編成が大きく変わってくる。
打線は、中村紀洋コーチ直伝の新打法がハマりそうな球界随一の打てる捕手・木下拓哉、ダヤン・ビシエド、大島洋平らが中心となるが、他は調子やチーム状況により流動的になるだろう。高橋周平がセカンドにコンバートされ、石川がサード起用されることで内野守備には不安が大きくなる。それだけに得点力の向上は至上命題となっていくことは明白だ。
キーマンは外野専念を決意した根尾昂と再起を期す…筆者が考える今季のキーマンは2人。再起をかける阿部寿樹と、根尾昂だ。
阿部は昨季低迷したが、オープン戦では打棒が復活。彼の打撃練習を見ても、スイングスピードを武器に快音を飛ばす姿はやはり魅力的だ。本職のセカンドだけではなく、レフトやファーストでも起用されるが、レギュラーが定まらない野手陣においてユーティリティープレーヤーとしてチームを助ける。
根尾はかつてインタビューする機会に恵まれたが、その際の印象は長期的かつ段階的にキャリアを考えているということだ。外野手登録に変更した今季は、オープン戦でも3割をキープ。何より明らかに打席での雰囲気が変わってきた。もともと外野守備は指標的にもリーグでも上位で、強肩と脚力は広いセンターでこそ生きるはず。持ち前の身体能力を生かし、一気にブレイクというシナリオがあってもいい。未知数な選手も多いため、出場機会は必ず訪れる。昨季のように与えられた形の起用ではなく、限られた出場機会の中で結果を残し、躍動する根尾はやはり見てみたい。
総じて野手陣は若手が積極起用されるであろうことは、今季のドラゴンズを温かく見守りたいと思わされる大きな要素だ。途中交代や先発の入れ替えがあっても中堅からベテラン、という未来への希望が持てない布陣から脱却しそうな気配を感じるのが吉報だろうか。
迫られる勝ちパターンの再編。質量ともに先発陣が充実投手陣は不調・故障者が続出する救援陣より先発陣が充実している。
先発ローテは、大野雄大、柳裕也、小笠原慎之介が中心。そこに勝野昌慶、松葉貴大、岡野祐一郎、高橋宏斗、笠原祥太郎、福谷浩司らが加わってくる。質、量ともにセ・リーグではトップクラスと呼べるスターターはストロングポイントだ。最優秀防御率、最多奪三振のタイトルホルダーである柳はオープン戦もさすがの安定感で、もう一段階上のレベルの投手に脱皮しそうなにおいがある。
特注は、高卒2年目の高橋宏斗だ。もともと馬力型で即戦力と見られていたが、オープン戦では随時150キロ台のファストボールにキレのある変化球を操り、ローテを内定させた。最終登板となった千葉ロッテマリーンズとのオープン戦では、2安打11奪三振と圧巻の投球内容。本格派右腕のパワーピッチャーで常時150キロオーバーというエンジン性能には、どうしても夢を見たくなる。昨季ヤクルト優勝の原動力となった、奥川恭伸のような活躍があってもサプライズではない。奥川のように登録、抹消を繰り返しながらの起用となる可能性が高いが、まずは1年間投げきることで飛躍のきっかけとしたいところだ。
一方で、中継ぎ陣は不安が募る。ドラゴンズの強みであったリリーフ運用だが、又吉のFAに、祖父江大輔の勤続疲労、ケガ明けの福敬登と勝ちパターンの再編も迫られた。福岡ソフトバンクホークスからの人的補償で獲得した岩嵜翔、配置転換したジャリエル・ロドリゲスが収まりそうだが、未知数な面が大きい。クローザーのライデル・マルティネスが盤石なだけに、彼へつなぐ継投パターンを早めに確立したいところだ。
拮抗する“乱セ”で飛躍する左腕は…右腕は清水達也、山本拓実ら若手がいるが、左腕不足が深刻。テストされたルーキーの石森大誠、近藤廉らはいずれも厳しい結果に終わった。願わくばここに一枚外国人左腕を獲得したかったが、そういう意味でも鍵を握るのは橋本侑樹だ。
150キロ近いファストボールに驚異的なスライダーのキレで、昨季の交流戦でパ・リーグの強打者を抑え込んだ橋本の姿が忘れられない。コントロールに課題は残すが、自ずと登板回数は増えてくるはずなので自身の立ち位置をはっきりとさせたいところだ。またここ数年戦力になれていないドラ2としての意地も見せてほしい。
そしてもう1人、密かに期待を寄せるのが育成でキューバから獲得したフランク・アルバレスだ。サイドハンドから155キロ前後のフォーシームに、動くツーシーム、そして鉈のように切れるスライダーと素材は超一級品。映像を見た限りでは日本野球への適応には時間は要するだろうが、慣れてくると無双しそうな雰囲気を感じる。外国人枠が余っているチーム状況もあり、救援陣に疲労が出てくるであろうシーズン後半に、支配下登録され重要な位置を任されることもあるのではないか。
セ・リーグはそこまで抜けた戦力がなく、拮抗していることからも“乱セ”となる見方も強い。それでもドラゴンズにとっては我慢の1年となる可能性が高いが、チャンスをつかみ飛躍していくであろう若手に一喜一憂しつつ目を凝らすのも、正しいファンの姿ではないか。かつての強竜時代を知るゆえに、我慢に慣れていないのもまた、ファン心理ではあるのだが……。
<了>