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集団感染で活動休止も“全勝優勝”。MVP堀江翔太の述懐、埼玉ワイルドナイツ「真の強さの理由」[ラグビー]

REAL SPORTS 2022年6月4日 10時0分

今年から装い新たに始まった国内最高峰リーグ、ジャパンラグビーリーグワン。その初代王者に輝いたのは、埼玉パナソニックワイルドナイツだった。だがその始まりは波乱に満ちていた。チームで31人が新型コロナウイルス陽性判定を受け、約2週間の活動休止。開幕2戦は不戦敗扱いとなった。はたから見れば厳しい船出になると思われたが、終わってみれば“全勝”優勝を成し遂げた。なぜ活動休止の影響をものともしなかったのか? その答えをひも解けば、彼らの「真の強さの理由」が見えてくる――。

(文=向風見也、写真=Getty Images)

対戦した相手選手が脱帽。初代王者・埼玉ワイルドナイツの強さの理由

点差に現れない強さがあった。

埼玉パナソニックワイルドナイツは5月29日、東京・国立競技場でリーグワン初年度のプレーオフ決勝を制した。前身のトップリーグ最終年度に続き2連覇となる。この日は試合終了間際まで東京サントリーサンゴリアスの反攻に耐え、18―12と僅差で切り抜けた。

しかしワイルドナイツは前半のうちに、トライラインを割ったかに映った2つのシーンをビデオ判定で無効とされ、ペナルティーゴールを失敗してしまった場面も2つつくった。

相手の防御とは無関係に失われた得点機会を鑑みれば、かえってワイルドナイツの充実ぶりがにじむ。敗れたサンゴリアスの齋藤直人は、ロッカールームを出るや「この試合を勝つにはどうすべきだったか」と問われる。

「まだちゃんと振り返り切れていないです」「どうするか、というのはまだ分からないです」と結論付ける流れで、こうも語っていた。

「さっきちょうど、チームメートとシャワーを浴びながら話していて……(この日)やれることは、やったかなと」

挑戦者が脱帽する現実について、クボタスピアーズ船橋・東京ベイの立川理道主将も「パナソニックの強さは相手の良さを出させない強さ」とうなずく。

ワイルドナイツとはプレーオフの準決勝でぶつかり、10―24で屈した。得意のモール(ボール保持者を軸につくる塊)を攻略されて崩され、3―7と4点差を追っていた前半終了間際には、敵陣ゴール前で回していたパスをウイングの竹山晃暉にさらわれる。そのまま決定的なトライを与える。

立川は言う。

「大事なところで、当たり前のことをしっかりやれる人が多い。勝てそうで勝てない。それが逆に強い(と感じさせる)……そういう印象です」

「以前なら負けてたんじゃないか」。36歳のベテラン堀江翔太の評価

振り返れば今季のワイルドナイツは、1月7日に予定されていた初戦を前後して合計31人に新型コロナウイルスの陽性が確認され、開幕からの2試合を規定により不戦敗としている。全16節あるレギュラーシーズンの順位争いにあって、ビハインドを背負った。

何より約2週間、活動そのものが停止された。

クラスター発生後の復調が難しいのは、どの競技にも共通するだろう。今季のラグビーのリーグワンでも、新型コロナウイルス起因による不戦敗明け、さらには先方の都合による不戦勝明けのチームの通算戦績はプレーオフを含め8勝16敗。相手が活動停止明けでなかった場合のそれは4勝11敗だった。試合勘の重要性が浮き彫りになった。

それでもワイルドナイツは、復帰初戦で開幕2連勝中と好調だった横浜キヤノンイーグルスを27―3で撃破。自慢の防御をアメーバのように動かし、ノートライに抑えた。

ここからシーズンを進めるごとに不用意な反則も減らし、時期によって出場メンバーを入れ替えながら白星を重ねる。

リーグの再編に伴い10点差以内のゲームが昨季より3倍の6と接戦が増える中、36歳の堀江翔太は関西弁交じりのイントネーションで言い切る。

「現状のチームがどんだけ成長しながら進んでいるかを見ている」

活動再開直後や若手が多く出た際にも、逆転勝利ができた。だからおおむね前向きだった。

「接戦で勝ち切れているのは評価してもいい。以前やったら負けてたんじゃないかと思うところもあります」

ワイルドナイツが立ち返った原点、生まれた好循環

ワイルドナイツは結局、実戦全勝で頂点に立った。新型コロナウイルスによる苦しみはそう受けずに済んだわけだ。

その背景をひも解くと、複数の選手が口にしたある一言にたどり着く。

「少し休んだくらいでは、それまで積み上げたものは失われない」

活動再開直後、堀江はよりフランクに話す。

「2週間ぐらい何もせんでも――最初はちょっとつまずきますけど――すぐに『あぁ、それそれ』と入って(思い出して)くるんですよね」

2010-11シーズン以前の三洋電機時代から、ワイルドナイツは堅守速攻を看板に掲げてきた。ニュージーランドはカンタベリー州のスタイルを源流とし、攻めてはグラウンドの両端に大型選手を配するポッドシステムを先んじて採用してきた。

確たるブランドは原石を磨いたり、他チームや学生シーンの有力選手を魅了しており、徐々に選手層を拡大させる。2013年までには、京都産業大で一時出番のなかった田中史朗(現NECグリーンロケッツ東葛)、帝京大卒業後にニュージーランド留学を経て入部した堀江を、南半球最高峰のスーパーラグビーでプレーするまでに育てる。

2018年はトップリーグ16チーム中6位とこのクラブにあってはやや低迷も、それ以前は11季続けて4強入り。さらに2020年は、例年に比べて主力同士での練習機会が激増する。パンデミックで日本代表の活動が止まったためだ。

果たして翌2021年、トップリーグで全チーム最多タイとなる5度目の優勝を果たした。その同年には、このクラブで無印の存在から成長したベン・ガンター、ジャック・コーネルセン、ディラン・ライリーがそろって日本代表となった。

良き選手が一つになり、かねてあったクラブの原点に立ち返る。いざグラウンドに出れば勝ちを重ね、その流れでさらなる良い選手を生む。ワイルドナイツは今、この好循環のただ中にある。

名将ロビー・ディーンズが口にしたのは、貯蓄された信頼

2014年に就任のロビー・ディーンズ監督はシーズン中、取材で「自信を持ってプレーすることの大事さ」というテーマを振られた。

その回答からは、クラブに根付く強さの秘訣(ひけつ)が伝わる。

「自分たちの求めてきたこと、望んでいるものに向けていい準備をした末に、自信が生まれる。また、自信だけではなく、味方から信頼されること、味方を信頼することがラグビーには大事です。そしてこの信頼は、一朝一夕にできるものではありません」

ワイルドナイツは今季から、熊谷ラグビー場に隣接のさくらオーバルフォートで活動。常にファンに公開される全体練習でよく行われるセッションの一つに、「T1」と「T2」の動作確認がある。

T1(1人目のタックラー)がボール保持者を倒すやすっと起き上がり、T1よりも接点側に立つT2(2人目のタックラー)が手元の球に絡む。看板のプレーを成り立たせるための基本動作も細かく定義付けられ、それらが反復によって刷り込まれているわけだ。

これらの動きがハイクオリティな試合でハイクオリティに遂行されるほど、フィールドに立つ選手はチーム内における「信頼」の貯蓄ができるのだろう。

決勝直前、堀江は語っていた。

「今年はなんか、チームワークがいいというか。平均的にそこそこの選手が集まって、選手同士で、選手とコーチで会話しながら、一個のものをつくり上げるところが多くて。ゲーム中も会話しながら『もっとこうした方が、ああした方が』と。それを僕中心じゃなく、他のリーダーが中心になってできているかなと思います」
「結構、うちは、シビアに言うチーム。『おまえ、下手くそやな』とか『あそこはああしなきゃあかんで』とか。そうやって選手同士で言えるのもうちのいいところかなと。僕は、(皆に)言う分、失敗できひんなとプレッシャーを感じながら言っています」

ドレッドヘアでおなじみのこの人は数年来、トレーナーの佐藤義人氏に師事。チームが提供する筋力や体力の強化メニューは佐藤氏のそれと概念が異なるため、取り組まないことがほとんどだ。個人を尊重する組織の風土に、堀江は感謝しきりだ。

「まあ、チームのスタッフ、ヘッドコーチが、ちょっと僕に自由を与えてくれている。佐藤さんを受け入れてくれるチームの懐の深さと、佐藤さんの僕の身体を見る技術が抜群にいいと思います。僕は、ただ(ラグビーを)やっているだけです」

選手がチームのすべきことを「信頼」する傍ら、チームが選手の取り組みを「信頼」する。それもワイルドナイツの姿である。

決勝翌日のアワードで、36歳の堀江はリーグワンの初代MVPとなった。

<了>






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