スポーツ界・アスリートのリアルな声を届けるラジオ番組「REAL SPORTS」。この春からはJFN33局ネットの全国放送にリニューアル。元プロ野球選手の五十嵐亮太、スポーツキャスターの秋山真凜、Webメディア「REAL SPORTS」の岩本義弘編集長の3人がパーソナリティーを務め、ゲストのリアルな声を深堀りしていく。今回は、ゲストに株式会社フィナンシェ(以下フィナンシェ)代表取締役CEOの國光宏尚氏が登場。スポーツ界でも注目を集める新世代のトークン発行型クラウドファンディング「FiNANCiE」がスポーツ界との共創に力を入れる理由、Web3が実現する“楽しみながら稼ぐ”未来について話を聞いた。
(構成=池田敏明、写真提供=JFN)※写真は左から、秋山真凜、國光宏尚、五十嵐亮太、岩本義弘
みんながウィンウィンになれるWeb3の世界秋山:國光さんが代表を務めるフィナンシェは、ブロックチェーン(※)を活用したクラウドファンディングのサービスを展開されています。
(※)過去から現在に至るまで、誰が・いつ・いくらで売買したかなど取引の履歴が暗号技術によって数珠つなぎのように記録されることにとにより、データの破壊や改ざんを極めて難しくしたデジタルテクノロジー
國光:ブロックチェーンを使った新しいトレンドを「Web3(ウェブスリー)」と言います。Web1は閲覧するだけの世界、Web2はSNSのように自分で情報発信できる世界。これらに対し、Web3は自分で参加できる世界で、その大きな特徴の一つがフィナンシェも活用しているトークンエコノミー(代替貨幣経済)です。トークン(※)を活用してファンを巻き込み、みんなウィンウィンで成長していくコミュニティーとして注目されています。
(※)ブロックチェーン技術を利用して発行された暗号資産や仮想通貨。「FiNANCiE」ではデジタル上の応援の証として保有したり、売買することができる
Web2の時代は、中央集権型でプラットフォーム型、つまり一部の会社がすべてを支配する世界でした。有名なところではGoogleやYouTubeなどですね。コンテンツについて出していいものといけないもの、収益の配分など、すべてを会社側が支配しています。そして、大成功した時の富はすべて吸い上げてしまう。でも、それはおかしいのではないか。例えばYouTubeの成功は、オーナー会社のGoogleや投資家だけではなく、全く流行っていなかった初期の頃から動画を投稿していた名もなきクリエイターや、それを見続けていたファン、宣伝した人、記事にした人たちも貢献しているはず。でも、その人たちには収益の取り分がないんですよね。ごく一部の人間がすべてを独占している。それはおかしいんじゃないか、ということです。
岩本:「中央集権型」に対してWeb3は「分散型」という言われ方をしますよね。
國光:そうですね。仮にWeb3型のYouTubeがあるとすると、初期に動画を投稿すると「YouTubeトークン」がもらえることになります。これは視聴しても、宣伝しても、記事を書いてももらえる。みんなでYouTubeを広げていくと、結果としてYouTubeトークンを求める人が増えてその価格が上がり、みんなハッピーになる、という形です。これをいろいろな領域に応用すれば面白いんじゃないか、ということで始めたのがクラウドファンディング型プロジェクト支援サービスの「FiNANCiE」です。
岩本:その中で、國光さんがエンターテインメントやスポーツにFiNANCiEを活用しようと考えたのはなぜなんですか?
國光:トークンエコノミーの基本はコミュニティーです。スポーツとすごく相性がいいなと感じたのが、多くのチームには“勝つこと・優勝すること”と“スポーツを通じた地域貢献”という2つのビジョンがあり、トークンエコノミーには目標に共感するファンが集まり、みんなで努力し、実現すると結果的にトークンの価格が上がるという図式があります。これらの流れが似ているので、スポーツとDAO(※)やトークンエコノミーとの相性が良く、活用しやすいのではないかと考えました。
(※)Decentralized Autonomous Organization(自律分散型組織)の略。中央集権的なリーダーが不在で、参加するメンバー同士が平等な立場で意思決定を行う組織。目標達成に向けて参加者が協力し合うって管理・運営を行う組織モデルで、Web3における重要な概念となっている
「いやいや、もらえるものはもらう」自己満足ではなく、価値の共有へ岩本:私がGMを務める南葛SC(関東サッカーリーグ1部/実質5部所属)でも、FiNANCiEを活用して南葛SCトークンを発行しています。
國光:南葛SCの場合は、コミュニティーから始まって最終的にJ1昇格や優勝を目指すという壮大なストーリーを描いているじゃないですか。その成り上がり、大企業の傘下にあるクラブじゃなくてもJ1のトップを目指せるというところにみんなが共感して集まり、応援することを楽しんでいます。DAOの世界で特に注視すべきは、今までのサービスは応援する側にメリットがなかった、ということなんですよ。
秋山:応援して自己満足する感じですよね。
國光:そうです。「ファンを巻き込む」と言いながら、ファンにメリットがないんです。
五十嵐:でも、応援するだけで満足しているんじゃないですか? それ以上のメリットということですか?
國光:例えば会社員の方が楽しく仕事をしているとして、「楽しいんだったら給料なんていらないんじゃないか」と言われるのと一緒です。プロ野球選手も「楽しんで野球をしているならそれだけでいいですよね?」と言われると「いやいや、もらえるものはもらう」という話になりますよね(笑)
五十嵐:なるほど! 確かにそうですね。
國光:フィナンシェのようなスタートアップ企業にはストックオプション制度というものがあり、社員も会社の株式を取得できます。だからその会社が大成功を収めると、社員も一獲千金を手にできるかもしれない。ただ雇われているのではなく、自分もオーナーの一人、主体者だという自覚があるので、すごく頑張ります。これをファンや顧客にも広げていこうというのがWeb3やDAO、FiNANCiEのコンセプトです。参加して結果的に大成功を収めると、自分にも大きなメリットがある。だからみんなで一緒に頑張る。これがイノベーションの部分ですね。
岩本:もちろん試合やライブを見に行くだけでも十分に楽しいんですけど、それ以上に“仲間”になるんですよ。自分も仲間なんだという違う喜びが生まれます。実際、南葛SCでFiNANCiEを活用したところ、ファンとの関わりがすごく強くなったのを実感しています。試合に勝った時の喜び方も他のクラブとはちょっと違っていて、本当に仲間みたいな感じなんですよ。
もし当時「長友トークン」があったら今の価値は?國光:スポーツで活用する際にはサッカー日本代表の長友佑都さんにアドバイザーになっていただいたんですけど、長友さんは大学時代にレギュラーですらありませんでした。でも、もしその時に誰かが「長友はきっと成功する」と思って「長友トークン」を買っていたら、たぶん今、その価値はものすごいことになっていますよね。世間には海外留学したい、何かに挑戦したいと思っても、お金がないから断念せざるを得ないという人はけっこういると思います。でも、そこにFiNANCiEやDAOのような仕組みがあると、夢に挑戦したい人がいて、そこに「この子は成功するんじゃない?」という賛同者が現れてトークンで支援すれば、実際に挑戦できるようになってくるでしょう。
五十嵐:大きな組織だけじゃなく、個人でもいいんですね。その人の価値に対して応援したいという人が集まってトークンで支援し、その人が成功すれば、トークンの価値も上がるということなんですね。
國光:そうです。実際のところ、1602年のオランダ東インド会社を起源として株式会社が誕生したことによって、誰でも自分の夢やビジョンをベースに投資家からお金を集め、リスクを取った挑戦ができるようになり、その結果、一気に世界の経済が成長しました。ただ、株式会社の最終的な基準は売上と利益なんですよ。要するに、もうかるところにしかお金が集まらない。
でも、新しいDAOの時代は、それ以外の尺度もあると考えられています。南葛SCが株式会社で、ベンチャーキャピタルなどからお金を集めた場合は、売上と利益を上げてくれと言われるんですよ。でも、DAOの場合は、売上と利益ではなく、優勝やJ1昇格、地域貢献などを求めるはずです。資本主義は利益を追求するものですが、世の中、お金だけではないじゃないですか。利益追求以外の新しい組織の形が生まれつつあるタイミングなのかな、と思います。
『マイクラ』の作品が高額で売れる?秋山:現在、NFT(※)はどのように活用されているのでしょうか?
(※)Non-Fungible Token(非代替性トークン)の略。ブロックチェーンの技術を活用することで、複製が容易だった画像や動画などデジタルデータの唯一無二性を証明することができる。アートをはじめとする多くのデジタル資産が取引されるようになっている
國光:これまでデジタルデータは無制限にコピーできてしまっていましたが、NFTによって限定商品を作ることができるようになりました。1枚限定、10個限定、100個限定などで作れるので資産価値を持つというのがすごく大きいんです。モノの価値は、基本的には需要と供給で決まります。欲しがる人は多いけど個数が少ない、だからこそ価値が高まります。ただ、インターネットでは今まではコピーするコストがかからなかったので、違法コピーを含めて一気に出回ってしまい、デジタルデータそのものに価値がなくなっていました。ただ、NFTの出現によって限定商品が作れるようになりました。例えば『MINECRAFT(マインクラフト)』というゲームですごい家やランドを作ったとして、現状では1円にもなりませんよね。でも、もしそれがNFT上にあって、世界に一つしかない家、世界に一つしかないランドとなると、お金を出して買いたい人が出てくると思いませんか?
五十嵐:『マイクラ』、うちの息子が大好きで、めっちゃ上手なんですけど、それを買ってくれる人なんているのかなって思ってしまいます。でも実際、子どもが描いたピクセルアートがNFTですごい金額で売れているんですよね。
國光:実際に今、出てきているのが、バーチャルの世界での不動産や絵画などです。最近、話題になったのが、バーチャル空間上でデジタルスニーカーを販売している「RTFKT(アーティファクト)」という会社があるんですが、ナイキが買収したんですよ。その際にナイキ側の人間が言っていたのが、デジタルのスニーカーとリアルのスニーカーに差はない、ということです。ナイキのスニーカーに価値がついているのは希少性によるものです。それはデジタルも一緒でこのスニーカーは何足しかない、となったら、お金を払ってでも手に入れたいという人が続出するんですよ。
五十嵐:どの時代でも、早いタイミングで価値に気づけるかどうか、その感性があるかどうか、ということなんですよね。國光さんが「これだ!」と思ってアプローチしている時も僕はまだピンと来ていなくて、何年もたってから「あの時に言っていたのはこれか。投資しておけばよかったな……」と後悔するんだろうな、という気がします。
國光:先ほどの五十嵐さんのお子さんの話でも、今はただ『マイクラ』で遊んでいるだけだけど、そこで作ったものがすごい金額で売れたら、息子さんがそのために費やした時間にも価値が出てくるじゃないですか。僕の予想では、数年以内にゲーム内で作ったものを誰かに売って、親よりも高収入を得る子どもが続出するでしょう。
「Play to Earn」、遊びながら稼ぐという考え方國光:実際に今、「Play to Earn」、遊びながら稼ぐという考え方があって、NFTを活用して、プレーしながら稼げるゲームが出てきています。今、ゲーム業界は親にとって“敵”のような存在で、子どもが1日中ゲームをしたら怒りますよね。でも、僕にとってはそれが不思議で、例えば中学生の子どもが1日中勉強したり、本を読んだり、部活をしたりしていても怒られないことが多いですよね。ゲームは「時間の無駄だ」と言われる。結局のところ、勉強や読書、部活は、将来的に仕事につながるかもしれないからなんですよね。ゲームでは仕事につながらないから「時間の無駄」と言われてしまう。でも、これからはゲームが仕事につながるようになるんですよ。
秋山:Play to Earnが実現できるゲームはすでにあるんですか?
國光:日本では『STEPN(ステップン)』というゲームが話題になっています。『ポケモン GO』みたいに外を歩くゲームなんですが、歩いているだけでポイントがもらえるんですね。このポイントが仮想通貨であり、それを売ってお金に換えることができるんです。ちなみにこの『STEPN』の時価総額は、高い時では1兆2000億円ぐらいでした。これは当時、任天堂以外のすべての日本のゲーム会社よりも大きい金額です。まだいろいろな問題は抱えていますが、すでにそういう規模の会社が出始めている、ということです。
岩本:世界的に見るとすでにPlay to Earnが実現されていて、貧困層の方がゲームで稼いで家族を養ったり、ゲームに費やす時間がある人に富裕層の方がチャンスを与えたりといった形が増えつつあります。
國光:そうですね。『Axie Infinity(アクシー・インフィニティー)』というゲームは、フィリピンやベトナムで農業を営んでいる方々を中心に200万人ぐらいのユーザーがいるんですが、コロナ禍でなかなか仕事がない時期に、このゲームの収入で生活を支えていたという有名な話があります。
日本のITが世界に勝つための挑戦を続ける秋山:國光さんは『メタバースとWeb3』という著書を執筆されるなど、いろいろな挑戦をされています。今後、新たに挑戦したいことはありますか?
國光:メタバース(※)やWeb3の領域で、今後10年間の世界を大きく変えていくための挑戦はし続けたいですし、もう一つ、日本のIT業界がまだ達成できていない夢があって、それは世界で勝つということです。結局まだIT業界では、世界的に有名なのはすべてアメリカの企業なんですよ。だから、野茂英雄さんやイチローさん、五十嵐さんがメジャーリーグを目指したように、メタバースやWeb3の領域でも世界で勝ちたいですよね。
(※)meta(超越)とuniverse(宇宙)を掛け合わせた造語。インターネット上の仮想空間。ユーザーはアバターを使ってメタバース内で自由に行動し、ゲームやイベント、経済活動などを行うことができる
五十嵐:シリコンバレーのど真ん中にオフィスを置いてほしいですね。それは夢ですね。むしろ、シリコンバレーみたいな場所を日本に作って、そこで何十兆円と稼げるようになったら、それこそ日本が世界に勝ったということになりますよね。
<了>
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JFN33局ネットラジオ番組「FUTURES」
(「REAL SPORTS」は毎週金曜日 AM5:30~6:00 ※地域により放送時間変更あり)
パーソナリティー:五十嵐亮太、秋山真凜、岩本義弘
Webメディア「REAL SPORTS」がJFNとタッグを組み、全国放送のラジオ番組をスタート。
Webメディアと同様にスポーツ界からのリアルな声を発信することをコンセプトとし、ラジオならではのより生身の温度を感じられる“声”によってさらなるリアルをリスナーへ届ける。
放送から1週間は、radikoにアーカイブされるため、タイムフリー機能を使ってスマホやPCからも聴取可能だ。
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