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「女子サッカー選手としてプレーを続けられるんだよ」仲田歩夢が競技外の姿を見せ続ける理由と新シーズンへの覚悟

REAL SPORTS 2022年11月2日 11時50分

2021年より開幕したWEリーグは2年目のシーズンを迎えた。リーグの幕開けと時期を同じくして、9年間在籍したINAC神戸レオネッサから新設チームである大宮アルディージャVENTUSに移籍した仲田歩夢は、大宮に来てからある感情が強く生まれてきたという。どんな思いで今女子サッカーに向き合っているのか、また彼女が考える女子サッカーの魅力について語っていただいた。

(インタビュー・構成=阿保幸菜[REAL SPORTS編集部]、写真=Ⓒ1998 N.O.ARDIJA)

大宮に来てから強く生まれた感情

――仲田選手は昨年、9年間在籍したINAC神戸レオネッサから新設の大宮アルディージャVENTUSに加入されましたが、加入当初を振り返るとどんな印象でしたか?

仲田:私の中ではポジティブな移籍だったので、不安よりも楽しみな気持ちのほうが大きいスタートでした。INACから一緒に来た選手もいますし、ほとんどの選手がある程度顔見知りだったのもあって。不安はあまりなく、これからどういうチームになるんだろうなとワクワクしていたのを覚えています。

――実際に1年プレーしてみて、ご自身の中でどのような変化がありましたか?

仲田:INACにいた頃は、自分がチームを引っ張っていくというよりは引っ張ってくれる人についていくというようなタイプでした。自分がチームをどうにかしようという気持ちがないわけではなかったんですけど、控えに回るシーズンもあったりいろいろな立場を経験したので、どちらかというとINACでは一歩引いていたようなところがあったと思っています。

「このチームをよくしたい」「勝てるチームになりたい」とか、「みんなで勝って笑いたい、喜び合いたい」というような気持ちは、大宮に来てから強く自分の中に生まれた感情だなと感じているので、そういった意識の変化が大きくあったかなと思います。自分自身、初めての移籍ということもあったのかもしれませんけれども、やっぱり新しいチームでベースがない状態からスタートするので、誰かが何か動き始めないと何も積み上がっていかないなという感じがあったので。積極性を持っていかないと、なあなあになってチームがよくなっていかないんじゃないかなと考えていました。

――コロナ禍でスタートした初年度、VENTUSは11チーム中9位という結果で終わったものの、INACに次ぐ観客動員数を達成しました。集客にあたりチームとして意識してきたことはありますか?

仲田:私たちが何かをしたというよりは、地域の人たちのおかげというのがあると思います。大宮に来て、街全体が大宮アルディージャを応援する気持ちがすごく強いというのを感じています。なので、選手やクラブがSNSで呼びかけたり、街に出てポスターを貼ってもらったり、チラシを配ったりという取り組みはありましたけれども、それ以前に大宮の人々が本当に大宮アルディージャを好きなんだなっていうのを感じて。

――埼玉には他にも、浦和レッズ、三菱重工浦和レッズレディース、ちふれASエルフェン埼玉ちふれもあり、日本の中でもサッカー王国ですが、これまで過ごしてきた地域と比べてどのような印象がありますか?

仲田:やっぱりサッカーに対する気持ちが熱い人が多いなというのはすごく感じます。さいたまダービーも、VENTUSに移籍してこなかったら実際にどんなものなのか知ることができなかったと思いますし。WEリーグでもどの試合よりも注目されて、人が集まる試合なんだなっていうのを身をもって感じました。女子でもそういう熱い試合ができるということが感慨深かったですし、自分がそのピッチに立てるということがうれしかったです。

――しかも、昨シーズンはアウェイでVENTUSが勝利しましたね。

仲田:そうですね。ダービーのアウェイで勝てたことは、チームにとってすごく大きかったと思います。

発信していかないことには、何も伝わらない

――仲田選手はプレーで魅せることはもちろん、YouTubeチャンネルを開設したりメディアにも多く露出しているだけでなく、今年8月に大宮にオープンしたタイ料理店「アジアンバルWill」を望月ありさ選手と一緒にプロデュースしたりとピッチ内外で活躍しています。幅広い露出機会も増やしつつ、地域に根ざした活動も積極的におこなっている背景にある思いを聞かせていただけますか。

仲田:YouTubeだったりSNSの発信については、少しでも多くの人に知ってもらいたいという思いが一番大きくて。自分のこともチームのことも、発信していかないことには伝わらないというか。そもそも女子サッカーもWEリーグもまだまだ知名度が低いと感じているので、そういった発信を入口として、少しでも多くの人たちに知ってもらうきっかけになればいいなと思っています。

 発信することで「プレーに集中していないんじゃない?」とか、マイナスに捉えられてしまうこともありますが、私としては無理してやっていることでもなく、逆に息抜きになったりもするので楽しんでやっています。

 お店のお手伝いなど地域での活動をしているのは、私自身が大宮に来てこの街をすごく好きになったからです。地域の人たちが本当に温かくて、サッカーが好きで、応援してくださる方が多いので、この街に対して何かしたいなという思いがあります。それから、私は高卒でINACに入団しているので社会経験が全くないため、社会と関わることで自分を高めたいという考えもあります。

 今はなかなか難しいご時世ですけれども、応援してくださっているファン・サポーターの方々との交流の場になったらいいなということも自分の中で考えていて。時間の関係でなかなかお手伝いには行けていないんですけども、少しでもそういう機会を増やしていけたらいいなと思っています。

サッカーとプライベートは両立できるという姿を伝えたい

――最近は競技以外の時間でいろいろな活動をするアスリートの方も増えてきましたが、いまだに「プレーに集中していない」と言われることもやはりあるんですね。

仲田:よくありますね。もう言われ過ぎて慣れてきたこともあって、あまり気にはならないんですけど(苦笑)。自分はやるべきことをやった上で競技以外の活動をしているつもりなので、伝わる人に伝わればいいなという思いです。楽しみにしてくれている方もたくさんいるので、ネガティブな声はあまり気にし過ぎないようにしています。ファン・サポーターの方々に私のプライベートな部分を見ていただく場はSNSの発信くらいでしかないと思うので、サッカーとプライベートを半々ぐらいで発信していきたいなと。

「こんなサッカー選手いるんだ」とか、「サッカーをしていてもプライベートを楽しめるんだ」というふうに感じてもらえたらいいなという思いもあって。アスリートは競技だけしていると思われがちですけど、みんなそれ以外にも趣味やプライベートの時間が絶対あるので。そういうことも楽しみながら、女子サッカー選手としてプレーを続けられるんだよっていうところも私の伝えていきたいところではあります。

 私自身、プライベートな部分も楽しむことでモチベーションを保っている部分もあるので、競技とプライベートとのバランスというのが一番大事かなと思っていて。SNSでは、ありのままの自分を出すようにしています。

――プライベートとのバランスというのは、アスリートだけでなく社会人全般にいえることですよね。

仲田:そう思います。

――VENTUSの試合やSNSを見ていると、結果がなかなか出ないときでも選手たちにはいつも明るく前向きな雰囲気が感じられます。その姿がファン・サポーターに愛されている魅力の一つかなと思うのですが、チームの共通意識として心がけていることはありますか?

仲田:特別な意識付けというものはなくて、VENTUSに集まった選手たちが、前向きで明るい選手が多かったということに尽きるかなと。それに加えて、有吉(佐織)選手や鮫島(彩)選手といったベテラン選手が、常に前向きで明るく元気いようというマインドを持っているので、それがチームにも良い影響をもたらしていると思います。もちろん局面では厳しさもありますが、選手がのびのびプレーできないような状況がVENTUSには本当になくて。全ての選手が、ピッチに入ったら誰とでもコミュニケーションが取れるというのは、VENTUSの良いところだなというふうにすごく思います。

仲田歩夢が考える、女子サッカーならではの魅力とは

――WEリーグにとってもVENTUSにとっても、2年目となる今シーズンはこの先の女子サッカーの盛り上がりをつくっていく上で重要なシーズンになってくると思います。一過性のものとしないためには、どんなことが必要となってくると思いますか?

仲田:正直なところ、1年目がすごく良かったから2年目も引き続きがんばろうというよりは、WEリーグ初年度は想像よりも盛り上げられなかったし、認知度もそこまで上げられなかったという感覚のほうが、おそらく選手たちは感じていると思います。そこに対して、もっと何かできたはずだというのは私を含め選手たちは責任を感じている部分もあります。

 現状を維持させるというよりは、もっともっと良くしていく必要があります。引き続き発信は続けていきながら、さらに何か変化をプラスして、興味を持っていただき「試合に行ってみようかな」と思ってもらえるような取り組みをこれからもっとやっていきたいです。

――選手の立場としては、WEリーグ1年目は期待していたよりも盛り上がらなかったという印象だったのですね。

仲田:そうですね。私はそう思ってますし、たぶん周りにもそういうふうに感じている選手が多いんじゃないかなとは思います。やっぱり女子にもプロリーグができるということで、もう少し注目されて盛り上がるかなという期待はありました。もちろん、そこでプレーしているのは私たちなので、良いプレーを見てもらうことが一番の評価になるとは思っています。でもそれ以前に、興味を持ってスタジアムに足を運んでもらうというところがまだまだ足りていない。

 2年目にあたっては、まずは少しでも多くの人に興味を持ってもらって、スタジアムに足を運んでもらう。そこで私たちのパフォーマンスやプレーを見て、何か感じていただいたり、また応援したいと思っていただけるかどうかというのはプレーする私たちにかかっていると思うので。少しでも多くの人を惹き付けられるような取り組みをしていかなくてはならないと感じています。

――具体的には、どんなアプローチをしていくべきだと考えていますか?

仲田:何をしていくのが一番いいのか、正直難しいところではあるんですけれども。サッカーって男子のスポーツと思われがちなところもあるので、「わざわざサッカーを見に行くなら男子のほうがいいよね」となってしまう。

 でも、初めて女子サッカーを見に来た人に話を聞くと、男子とはまた違う楽しみ方があったり、女子がひたむきにがんばっている姿は結構ぐっとくるものがあったという声をいただいたりしています。まずは試合を見てもらわないことには始まらないので、選手の立場として、少しでも興味を持ってもらうためにどう働きかけていくべきかを真剣に考えていかなければならないと感じています。

――仲田選手が考える、女子サッカーならではの魅力とはどういうところですか?

仲田:男子の選手がそうではないということではなくて、粘り強さや最後まで戦うひたむきさみたいな部分を感じやすいのは女子サッカーならではの魅力かなと。あとは、女子サッカーのファン・サポーターの方たちは本当に温かい雰囲気があります。例えば、VENTUSではお子さん連れの方も多いので、幅広い層の方が気軽に見に来ていただきやすい雰囲気がWEリーグの試合会場にはあるんじゃないかなと思います。

<了>






PROFILE
仲田歩夢(なかだ・あゆ)
1993年8月15日生まれ、山梨県出身。大宮アルディージャVENTUS所属。山梨エスペランサレディースにてサッカーを始め、常盤木学園高等学校に入学後、1年時から出場した全国高校女子サッカー選手権大会で2度の優勝を経験。FIFA U-17女子ワールドカップ トリニダード・トバゴ2010に出場し準優勝を果たす。高校卒業後は2012年よりINAC神戸レオネッサに入団し、9年間プレーした後、WEリーグ初年度である2021年に新設の大宮アルディージャVENTUSへ移籍。

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