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イブラヒモビッチが語る、伝説のオーバーヘッド「おまえはフェイクのアンディ・キャロルだ」と呼ばれて…

REAL SPORTS 2023年1月17日 16時0分

ついに“ミラノの支配者”が帰ってくる。昨季終了後に行った膝の手術のリハビリから復帰間近といわれるズラタン・イブラヒモビッチ。彼の帰還は、イタリア・セリエA連覇を目指すACミランにとって大きな追い風となるはずだ。そこで本稿では、昨年刊行された書籍『アドレナリン ズラタン・イブラヒモビッチ自伝 40歳の俺が語る、もう一つの物語』の抜粋を通して“イブラ”の偉大さを改めて振り返る。今回は、あの伝説のオーバーヘッドキックについてイブラヒモビッチ本人が語り尽くす。

(文=ズラタン・イブラヒモビッチ、訳=沖山ナオミ、写真=Getty ImAges)

今まで決めたなかで最高のオーバーヘッドは…

俺にとってオーバーヘッドは特別なんだ。今まで決めたなかで最高のオーバーヘッド? それは決まってるぜ。

まずここから始めよう。俺はイングランドでさんざん悪口を言われていた。「イブラはイングランド代表相手にゴールしたことがない」「イブラはイングランドのクラブチーム相手にゴールしたことがない」「イブラはプレミアリーグを避けている」「それなのにイブラはスター気取りだ」……なんてことばかり。

オランダでプレーしていたころから、俺は常に標的にされていた。その後イタリア、そしてフランスに行ってからも。

まあいい。とにかくイングランド代表とスウェーデン代表が対戦する日がやってきた。それは2012年11月4日、ストックホルム近郊にあるソルナの新スタジアム、フレンズ・アレーナ落成記念試合でのことだった。親善試合ではあったが、俺にとってはそれ以上の意味があった。イングランドをとっちめてやらねばならなかったからな。

外野が騒ぎ立てると、俺のエネルギーはチャージされる。批判は俺の炎を燃やすガソリンだ。投入されればされるほど、俺のパフォーマンスは燃え上がるのだ。

子どものころから、俺はいつも良きにつけ悪しきにつけレッテルを貼られていた。常に騒動の渦中にいたが、俺は自分が悪いときだってしゃべりまくっていた。「一番うまいのは俺だ」とかそんなことを口走っていた。自信があったんだな。だから余計に間違ったことをしたときは責め立てられた。倍返しされたよ。プライベートなことまであげつらわれて、非難された。そして俺は一層強くなった。

「おまえはフェイクのアンディ・キャロルだ」と歌われて…

その夜、イングランドサポーターは「おまえはフェイクのアンディ・キャロルだ」と歌った。アンディ・キャロルとは背が高くて俺に似ているイングランド代表FWだ。

試合が始まった。スタジアムは満席。すぐに激烈な戦いが始まった。やつらは何かを仕掛けようとしてきたが、俺たちもホームの新スタジアムでみっともない姿をさらしたくない。俺は背中に10番を付け、腕にはキャプテンマークを巻いていた。試合開始後20分。低いクロス。俺はボールに向かった。相手DFが止めに入ったがボールを確保し、つま先で蹴り込んだ。ゴール。1-0。やったぜ。宣言したとおり、新スタジアムで最初にゴールしたのは俺様だ。歴史に残るだろう。

だが、イングランドが抵抗して勝ち越し、1-2となった。俺はボールに向かって走った。胸トラップしてシュート。2-2。イングランドDFのガリー・ケイヒルが倒れて怪我したようだったから、歓喜のパフォーマンスはやめておいた。まだ引き分けなんだ。ACミランがアタランタ相手に勝利してUEFAチャンピオンズリーグの出場権を勝ち取ったときだって、俺は大騒ぎしなかった。チームメイト全員がはしゃいでいたし、もちろん俺もうれしかったが、セリエA2位で喜ぶわけにはいかない。これまでも、そしてこれからも同様。俺は1位になったときだけ、喜びを見せつける。それが俺流だ。

ペナルティエリア付近でフリーキックをゲットした。強く蹴った。地を這うシュートが隅に刺さった。3-2。俺は新しいスタジアムでハットトリックを決めた。

「イングランド人どもよ、文句あるか?」そしてさらなる伝説が…

イングランド人どもよ、文句あるか? ただの親善試合だからとでもぬかすつもりか!? 試合の勝敗がほぼ決まったころに、観客は少しずつスタジアムから立ち去っていった。駐車場がまだ工事中で、入出庫に時間がかかったからだ。試合時間残り数分。

長いパスが届いた。味方DFが時間稼ぎのために放ったボールだったが、俺はいつもどおりボールに向かって走った。本能が「行け!」と命じた。ボールに間に合うかどうかはわからなかった。相手GKのジョー・ハートが飛び出していたのが見えた。DFはGKの邪魔をしない位置にいた。飛んでくるボールを敵ではなく俺が自由に操るために、何らかのアクションが必要だった。2つの選択肢があった。GKと競い合ってボールを奪うか、あるいはフェイントをかけて下がるか。ハートは俺がジャンプしようとするところを見ていた。だが彼がボールから視線を外した隙に、俺は踏みとどまって下がった。ハートがヘッドで飛ばしたボールは、俺の方向に飛んできた。

周囲の状況はどうでもよかった。敵が近づいて来ることは気にも留めず、ただボールに集中した。両肩をゴールに向けることだけを考えた。ボールを頭上で後ろ方向に蹴るとき、ポスト間にボールを収めるにはこの方法が確実なんだ。

ゴール30メートルの距離。空中で体を捻った。蹴った。ボールの行方を見た。いつもは着地するときに体を守るため、手を下に向ける。だがこのときは怪我などどうでもよかった。イングランド人選手がゴールに向かって走り、ボールをインターセプトしそうだったから、その動きを見届けねばならなかった。止めるなよ……!

相手DFはスライディングしたが届かなかった。ゴールだ。決めたぜ!

「オーバーヘッドキック」は俺の名刺代わりだ

俺はユニフォームを脱ぎ、上半身裸で走った。満足感で狂いそうだった。最高級の試合をやり遂げた。しかも、イングランド相手に!

くだらないこと言うんじゃない。これが俺様が出した答えだ。ユニフォームを空高く飛ばした。スウェーデン人はみな大興奮だ。イングランド人選手たちは唖然とした顔で俺を見ていた。やつらはこう考えていたはずだ。「あり得ない……」

俺はダニー・ウェルベックのそばを通り過ぎたとき、英語でささやいてやったぜ。「まぁ、楽しめや。こんなシーンは生涯見られないと思うぜ!」

誰もが楽しむといい。これほどのエンターテインメントは生涯見られないはずだ。鳥肌が立ったよ。人々のまなざしから、俺が何か途方もないことを成し遂げたことが伝わってきた。歴史に残る偉業を成し遂げたときは、特別な感情が湧き起こる。その感情は胸に留まり、決して消えることはない。

勇気、ファンタジー、アクロバット、強さ、リスク、傲慢さ……。このゴールにはすべてが含まれていた。このオーバーヘッドキックは俺みたいなもんだ。すべてをひっくり返す。変革する。「オーバーヘッドキック」は俺の名刺代わりだ。

ゴールから30メートル離れていたら、普通の選手はボールを一度止めてから蹴るだろう。だが俺は普通ではない。もし失敗していたら、こう言われたはずだ。「イブラは相変わらずだ。カッコばかりつけやがって、脳みそが足りないんだな。なぜここでオーバーヘッドだ?」

だが、また同じ場面になったら、きっと同じことをしたはずだ。俺は危険の淵に立たされたとき、一層自分が強く感じられて自信を持つことができるのだから。ギリギリの状況に陥ったときに最高の解決方法を見出してそれを実行できたら、また同じことをやりたくなるだろう?

「俺は骨だってしなやかに曲げることができる」

オーバーヘッドには、俺が情熱を注いでいる武術、とりわけテコンドーの要素がある。俺はテコンドーを学んで、敏捷性、アクロバティックな能力、柔軟性を身に付けた。地上2メートルの位置でボールを止めて蹴り、後方に飛ばすという、サッカーをやってるだけでは身に付かない動きを習得したのだ。

膝の検診を受けると、いつも十字靭帯が伸び過ぎていると指摘される。だがそうではない。鍛錬を積んだ結果、柔軟性が備わったんだ。俺は骨だってしなやかに曲げることができる。

子どものころから鍛えていたからな。親父がブルース・リーやジャッキー・チェンの大ファンだったから、いつも彼らのビデオを俺や姉貴に見せていた。その影響で俺は道を歩くとき、何でもかんでも蹴飛ばしていた。杭、ごみ箱……、何でもぶっ倒していた。

蹴ることが好きでたまらないんだな。どんな試合でも本能的に蹴っている。他のやつらがヘディングするときも、俺は何とか足を使おうとする。だから今でも俺のヘディング能力は、195センチあるセンターフォワードにしては極上とまではいえない。俺にとって、足でボールを扱うことは最優先だ。常にヘディングではなく、オーバーヘッドを試みていた。スペクタクルだからってこともあるが、そっちの方が自信があったんだ。

さらにいえば、足の位置に頭を置くことは、視点を変えるために役立つ。それは人生においてもだ。



<了>






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