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今野泰幸が刺激を受けた本田圭佑のサッカー観「プロになると“全体的にうまい”では通用しない」

REAL SPORTS 2023年3月10日 12時0分

スポーツ界・アスリートのリアルな声を届けるラジオ番組「REAL SPORTS」。元プロ野球選手の五十嵐亮太、スポーツキャスターの秋山真凜、Webメディア「REAL SPORTS」の岩本義弘編集長の3人がパーソナリティーを務め、ゲストのリアルな声を深堀りしていく。今回はゲストに社会人サッカークラブ、南葛SCの一員として活躍する今野泰幸選手が登場。人間性やサッカー観、選手としてのターニングポイントなど、日本を代表するサッカー選手として築き上げてきた偉大なキャリアの意外な裏側に迫る。

(構成=磯田智見、写真提供=南葛SC/松岡健三郎)

「きっと僕は性格的に“プロ向きの選手”ではないんです(苦笑)」

秋山:今野選手はJ1リーグ通算443試合、日本代表として通算93試合、FIFAワールドカップには通算2度にわたって出場した百戦錬磨のボランチです。現在所属している南葛SCでは、2年目のシーズンを戦っています。

今野:南葛SCでの1年目を振り返ると、うまくいかないことが多くて、けっこう苦しみました。僕はどんなことにも馴染むまでに時間がかかるタイプなんです。だから、選手の輪に溶け込むにも、これまでとは異なる環境にマッチするのにも時間がかかりました。正直なところ、個人的にはかなり大変でしたね。

五十嵐:サッカーの世界には選手の移籍が盛んな印象があります。そのなかで、移籍をするたびに環境に馴染むのに時間がかかってしまうというのは、一選手として難しい部分があるのではないですか?

今野:きっと、僕は性格的に“プロ向きの選手”ではないんですよね(苦笑)。一方で、僕は1チームあたりの在籍期間が長いほうなんです。コンサドーレ札幌では3年、FC東京では8年、ガンバ大阪では7年半、ジュビロ磐田では2年半にわたって在籍しました。

五十嵐:でも、プロ向きではない選手が、40歳を超えても現役を続けていられるものなんですか?(笑)

秋山:性格と経歴が噛み合っていませんね(笑)。

Jリーグクラブと社会人サッカークラブの違いとは?

五十嵐:南葛SCのGMを務める岩本さんから見た今野選手とは、どういうタイプの選手ですか?

岩本:個人的に大好きな選手です。僕は昔から、「GK以外のすべてのポジションに今野泰幸を起用できたら、ものすごく強いチームが作れる」とよく口にしていました。攻撃力も守備力もレベルが高く、常にハードワークできますからね。Jリーグのトップレベルで長年戦っていた選手が、社会人クラブである南葛SCに来てくれたんですから、その決断に心から感謝しています。

秋山:今野選手が南葛SCに加入しようと思った決め手は何だったんですか?

今野:一番大きかったのは、岩本さんが直接連絡をくれて、どのクラブよりも早くオファーを出してくれたことです。

岩本:コンちゃんの磐田退団の報道が出てから、30分後くらいにはもうメールを送っていました。南葛SCのオーナー兼代表である高橋陽一先生のOKをもらう前に行動していましたね。「本気のオファーを出したいので、電話ができるタイミングがあれば教えてほしい」と。

今野:そのメールを見て、少しして僕から電話をかけました。1時間くらい話をするなかで、岩本さんからはっきりとオファーをもらったんです。

五十嵐:実際に南葛SCに加入して、Jリーグのクラブと比較するとどのような面に違いが感じられましたか?

今野:もう何から何まで違います。J1やJ2のクラブには、拠点となるクラブハウス、それに隣接した天然芝の練習グラウンドがあります。だから、冬の時期には練習前にクラブハウス内のお風呂に入って体を温めて、ジムでストレッチをしてしっかりと準備をしてからグラウンドでの練習に臨んでいました。

 一方、南葛SCにはクラブハウスがありません。しかも、昨年までは夜間に練習を行っていました。だから、すぐにグラウンドに行くと寒いから車のなかでギリギリまで待機して、練習開始15分前くらいからグラウンドの周辺でストレッチを始めていました。

岩本:葛飾区の施設で練習を行っているため、予約の時間になるまでグラウンドのなかには入れないので、選手たちはグラウンドの手前や周辺で練習前の準備を行っています。また、今年からは午前中の練習になったのですが、昨年までは夜間の練習で、21時になると照明設備の電源が完全に落とされるので、一気に真っ暗になってしまうんです。

今野:全体練習後の自主トレや体のケアもグラウンドでは行えないような環境でした。だから、練習後には上着だけ車のなかで着替えて、急いで自宅に帰ってお風呂に入るという状況でした。

五十嵐:環境的にはかなり厳しいですよね。やはりトップレベルでプレーしてきた選手として、ストレスになる部分もあるんじゃないですか?

今野:ストレスという感覚はあまり持ちませんでした。むしろ、「この状況でもサッカーができるだけで楽しい」という思いのほうが大きかったですね。ただ、1年を通して環境面への適応や自分自身のパフォーマンスを振り返ると、思うようにはいかなかったなというのが率直なところです。

自身のプレースタイルから考える現役引退のタイミング

五十嵐:やはり40歳を過ぎると、これまで以上にケガと向き合う場面が増えるし、体のケアが大切になってきますよね。

今野:僕は一度グラウンドのなかに入ったら、ケガを恐れることなくガツガツと相手に向かっていくようなプレースタイルなんです。そういうシーンでケガを恐れて消極的なプレーを選択するようになる日が来たら、僕はサッカーをやめるべきだと考えているんです。だから僕は練習でも試合でも常に全力でプレーし、100%の力を出し切ることを心がけています。

五十嵐:そういうプレースタイルだと、やはりケガのリスクが高くなりそうですね。

今野:僕は練習中から絶対に負けたくないんです。1対1のボールの奪い合いや球際の激しい競り合いで、相手に「やられた!」と思わされるのが嫌なんです。

五十嵐:今もその思いとともに体が反応するんですか?

今野:やはり、全盛期と比べると反応は遅くなっていると思います。そのなかでも、自分の100%の力は出しているつもりです。

プロ1年目のときに恩師から授けられたアドバイス

岩本:先ほど本人も言っていましたが、練習でも試合でも常に全力を出し尽くすというスタンスは、今ちゃんの長所の一つであり、その積み重ねがここまでの偉大な実績につながっているのだと思います。高校生のころ、「プロになれるかどうか……?」というレベルだったことは有名なエピソードで、元日本代表監督であり、当時札幌を指揮していた岡田武史さんに“拾ってもらう形”でプロ入りしてから、一歩一歩そのキャリアを進んできました。

今野:僕は全くエリートではなかったし、プロになれるのかどうか本当に微妙な立場の選手でした。今でも自分自身のことを“へたくそな選手”だと思っていますから。そのぶん、とにかく一生懸命プレーしなければいけないと思っていますし、ずっとそういうスタンスを心がけて取り組んできました。

五十嵐:今野選手自身、自らの強みはどういう部分だと感じているんですか?

今野:実は、プロになるまで自分の強みを把握できていませんでした。でも札幌に加入して、岡田さんから「ボールを奪いに行く際のアプローチがお前の武器だ。ボール保持者に対してスピードに乗って激しく向かっていけるから、その点はこれからも伸ばしていくといい」と言われたんです。その瞬間、ようやく自分の強みを理解できたんです。

五十嵐:自分の強みについては、野球だとわかりやすんですよね。球が速い、コントロールがいい、足が速い、ボールを遠くに飛ばせるとか、明確なものがあるので。

今野:それまでの僕は、“全体的にサッカーがうまい”ことが強みなのかなと思っていたんです。右足でも左足でも蹴ることができるし、守備もできるし、走るのも苦手ではない。だから、何となく“全体的にうまい”のかなと。でもプロになると、“全体的にうまい”では通用しないんですよね。

 そういう環境に身を置いて、自分の持ち味が全然わからなくて困っていたときに、岡田さんから明確な武器を指摘してもらえたんです。だからその瞬間に、「岡田監督から言われたことを自分の武器として捉え、絶対に誰にも負けないように伸ばしていこう」と誓いました。

日本代表でともに戦った本田圭佑の取り組み方を見て感じたこと

五十嵐:今野選手は、どの時期から自分の可能性に気づき始めたんですか?

今野:東北高校2年生のときに、磐田の練習に参加させてもらう機会がありました。そのころから自分のなかではJリーグを意識し始めました。

五十嵐:僕もプロ入りを意識したのは高校2年生のときなんです。今野選手もそれまでは目立たなかったということですか?

今野:全然目立つ存在ではありませんでした。学生時代は、世代別の日本代表とも無縁の選手でした。

岩本:そんな選手をよく磐田が練習に呼んだよね?

今野:自分でも不思議でした。ただ、練習に参加させてもらったことで、「俺はプロを目指してもいいのかな?」と思うようになったことは確かです。

五十嵐:高校2年生のときにプロの練習に参加して、ようやくプロを目指そうという気持ちになったと?

岩本:サッカー選手の能力値や可能性というのは、けっこう見極めが難しいところがあるんです。だから、下のカテゴリーからいきなりのし上がってくる選手もいれば、無名の高校からプロになる選手もいるんですよね。

今野:ある意味、運の要素も強いと思います。野球だったら打率や防御率などの数字が明確なので、それを基準に注目される選手もいるでしょう。でもサッカーの場合は、ボールに関与していないシーンでのプレーも含めると、見る人が見ないとなかなか評価につながりません。僕は運よくプロサッカー選手になれましたが、実際プロになるのはすごく難しいことだと思っています。

五十嵐:でも、“運よくプロになれた選手”が日本代表にまで上り詰められるものなんですか?(笑)

岩本:世界的にもそういう選手はいるんですよね。もちろん、プロになったあとに尋常ではない努力を積み重ねつつ、運も味方につけて一気に台頭してくるような選手が。

秋山:プロになるまでは運が大事だけど、そこから先は努力と実力次第ということですか?

今野:両方かもしれません。サッカーがうまいだけでもダメだし、もちろん運だけでもダメ。その両方を兼ね備えていないと、日本代表に招集されるのは難しいと思います。

岩本:例えば、本田圭佑選手。ワールドカップで3大会連続ゴールを決めた唯一の日本人選手です。その本田選手であっても、日本代表のなかに入るとボール扱いや技術レベルでは決して飛び抜けてうまいほうではありませんでした。やはり、アスリートには実力や努力とともに、決めるべきところで決めるといった勝負強さや“持っている”という面も含め、運も不可欠な要素なのかもしれません。

五十嵐:日本代表の一員として一緒にプレーしたことのある今野選手は、本田選手についてどういう印象を持っていますか?

今野:圭佑は、ボールコントロールやテクニック面で、自分にできないことがあればみんなに対して「これはできない」とはっきり口にします。続けて、「俺はこれができないぶん、こっちのプレーができるように練習を積もうと思う」と言うんです。彼にとっては、「自分ができること=自分の技術」であり、その技術を生かすことが自分なりのプレーだと考えているようでした。実際、サッカー選手だからといってすべてのプレーをこなせる必要はないし、やらなくていいプレーもあります。11人の特徴をうまく組み合わせてチームとして機能すればいいわけですから。だから圭佑は、「自分にはこれができる」というプレーをすごく熱心に練習していましたし、彼の取り組みを見ながら僕はサッカー選手として適切な考え方だなと思っていました。

五十嵐:いい意味で割り切りというか、どこで線引きし、他の選手と違いを見せるかというのもアスリートには欠かせませんからね。

「だから僕は『キャプテン翼』のサッカー観が大好きなんです」

秋山:南葛SCの一員であり、長年にわたって日本サッカー界のトップシーンを駆け抜けてきた今野選手の原点と言えるのが、あの『キャプテン翼』だとお聞きしました。

岩本:『キャプテン翼』のなかで一番好きなキャラクターを挙げるとすると?

今野:やっぱり大空翼です。翼くんって、“みんなと一緒にサッカーをしよう”というスタンスを持っているじゃないですか? あんなにうまいのにチームメートにパスを出すし、みんなと一緒に頑張ろうとプレーしていますよね。僕はああいうスタイルが大好きなんです。

 だから、味方に文句を言うような選手は嫌なんですよね。サッカーは高い確率でミスが発生するスポーツですから、どんな選手もミスをするし、味方がミスをしたら仲間がカバーして取り返せばいい。それなのに、なかにはミスをした味方に対して「お前、何やっているんだよ!」って激しい口調で文句を言う選手もいる。そういうスタンスは個人的に好きじゃありません。

五十嵐:実際、試合中にそういう選手を目にすることはあるんですか?

今野:たくさんあります。勝ちたいという気持ちが先行してしまい、文句や罵声を発してしまうんだと思います。その点で、チームメートのミスを仲間がカバーし合い、助け合っているのが“『キャプテン翼』のサッカー”だと思うんですよね。

五十嵐:アドレナリンも出ているし、「何やっているんだよ!」って言ってしまう選手がいるんでしょうね。

今野:暴言というと大げさかもしれませんが、ミスした選手に「おい!」と強い口調で言う選手は少なくありません。でも、「おい!」なんて言っている時間があるなら、サッカーは切れ目なくプレーが続くスポーツですから、気持ちを切り替えてそのミスをカバーできるポジションに走ればいいと思うんです。立ち止まって「何やっているんだよ!」なんて文句を言っているから、その時点で次のプレーに対する反応が遅れてしまう。僕としてはそうではなく、チームメートみんなで一つのミスをカバーし合って、“全員攻撃・全員守備”を仕掛けるのが理想であり、それこそが“大空翼のチーム”だと思っています。だから僕は『キャプテン翼』のサッカー観が大好きなんです。

<了>






[PROFILE]
今野泰幸(こんの・やすゆき)
1983年1月25日生まれ、宮城県出身。南葛SC所属。東北高校卒業後、2001年にコンサドーレ札幌に加入。以来、Jリーグの舞台で20年以上にわたって活躍し、日本代表の一員としても国際Aマッチ93試合4得点という実績を残している。ボール保持者に対するスピーディーでパワフルなアプローチ、屈強な肉体を武器にしたボール奪取力、さらには優れた危機察知能力を生かした幅広いエリアのカバーリングなど、守備の局面で披露するその存在感は圧巻。ボランチやセンターバックを主戦場とし、ディフェンスリーダーとしてチームをまとめる。

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パーソナリティー:五十嵐亮太、秋山真凜、岩本義弘

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