ラグビー・リーグワン2022―23、プレーオフトーナメントの決勝戦が20日に東京・国立競技場で行われる。国内リーグ2連覇中の王者・埼玉パナソニックワイルドナイツに挑むのは、クボタスピアーズ船橋・東京ベイ。初優勝を目指すチームの中で一際輝きを放つのが、今季の新人賞候補とも目される木田晴斗。小学生時代に空手で世界一に輝くも、中学時代から専念するラグビーでは高校まで一度も全国大会に出られなかった。それでも努力を怠らなかった木田が、プロ加入1シーズン目で日本有数のラインブレイカーとなるまでの軌跡を追った。
(文=向風見也、写真=つのだよしお/アフロ)
多くのファンを魅了する鮮やかなアタック。本人は…SNSのショート動画で映えるアスリートだ。
木田晴斗。クボタスピアーズ船橋・東京ベイ所属のプロラグビー選手である。
ポジションはグラウンド端のウイング。身長176センチ、体重90キロのサイズにして強靭で、大柄なライバルにも簡単には当たり負けしない。人とぶつかった際のボディバランス、躊躇のない走りが特長だ。
本人はおとりの動き、キック処理といった“切り取り”のムービーには入らないような動きにこそ進歩を実感するというが、多くのファンを魅了するのは鮮やかなアタックだ。
5月中旬から、国内リーグワン1部のプレーオフに挑んでいる。上位4強が日本一を争う熾烈なバトルを、堂々と見据える。
「毎日、緊張して過ごすんじゃなく、リフレッシュしながら、です。自分の持っている力以上のものは出ないと思っています。ただ(持っている力を)出せれば(結果を出すことが)できると自信を培ってきている」
ベストラインブレイカー受賞。トライはリーグ2位の16本立命館大学から2022年にスピアーズ加入した木田は、新人賞の最有力候補と見られている。
規定上、フルで戦える最初のシーズンとなった今季は、レギュラーシーズンでもっとも防御を破った選手に贈られるベストラインブレイカーを受賞した。
その間、トライは16本も決めた。リーグ2位である。
左タッチライン際で球をもらい、迫るタックルをハンドオフでいなして見せたのはトヨタヴェルブリッツとの第7節。前半16分だった。倒れながらもフィールド内に体を残し、左手一本で球をインゴールへたたきつけた。
東芝ブレイブルーパス東京を圧倒した第9節では、持ち前のバネと身のこなしを披露。敵陣ゴール前左で大外から中央方向へ駆け込み、味方のキックパスが落ちる場所へジャンプ。相手と球の間に体を入れ、相手が球にかけていた手を振り切り、そのままフィニッシュした。後半8分。当時記録した2試合連続2トライのうち3本目だった。
東京サントリーサンゴリアスとの最終節では、後半2分に魅した。対する日本代表の松島幸太朗のタックルを蹴散らし、走り切った。
その松島に「推進力があった」と驚かれた体の強さは、極真空手で培ったものだ。
「意欲的なところは、あります。全体的に」幼少期から道着をまとい、小学4年の頃には世界ジュニア選手権で優勝。1学年上の部門では、やがてキックボクサーを経てボクサーとなる那須川天心も出ていたという。
同時期、もう一つの転機を迎えていた。友達に誘われ、宝塚ラグビースクールへ体験に出かけた。身をぶつけ合う自由な球技が、自分の性格に合っていた。ボールを持って走り、相手を置き去りにするのが爽快だと知った。中学1年の途中から、ラグビーに専念した。
「公立が嫌やったから」と入った大阪の私学、関西大倉中学校には、ラグビー部はなかった。自分で創部して、仲間を募った。3年生になると20名程度のメンバーをそろえ、地区の大会で初めて勝った。
関西大倉高校に内部進学したのは、中学でのチーム作りを高校の土井川功監督に支えてもらったからだ。恩義があった。
高校時代、全国大会には出られなかった。それでもいまの立場を獲得できたのは、とびきり貪欲だったからだ。
大学進学へは、知人のつてを頼って立命館大学の練習に参加した。その日初めて会った大学生や指導者たちに、自分がパスをもらうサインプレーをしてもらうよう頼んだ。
その通りにしてもらった。爆発した。スポーツ推薦を勝ち取り、1年目の公式戦に出る前にはスピアーズの採用に見つかっていた。
本人は過去を振り返り、こう語る。
「意欲的なところは、あります。全体的に」
日本代表の要求に応えることも「チームのプラスになる」かくして今季ブレイクを果たし、プレーオフ行きを決めるまでの間、水面下で一つのステップを上っていた。
3月下旬、日本代表候補のミーティング合宿へ呼ばれたのだ。
ワールドカップ・フランス大会を今秋に控えるナショナルチームは、キック合戦の流れから組織的なカウンターアタックを仕掛ける。木田は左足で蹴られるからと、シーズン中盤からチェックされていた。
「見てもらえているということはうれしいです。ただ、何も達成できていない。プレーオフでも、もし(シーズン後の)合宿に行ければそこでもアピールして、(ワールドカップに)11番で出ることを目標に頑張っていきたいです」
5月13日、東京・秩父宮ラグビー場。サンゴリアスとのプレーオフ準決勝に臨み、日本代表に求められる動きを「アピール」した。
後半1分頃だ。自陣中盤左の防御網から飛び出し、右斜め前方へ鋭くタックルした。現役ジャパンの松島を強く押し返し、攻守逆転につなげた。
日本代表で防御を教えるジョン・ミッチェル アシスタントコーチが唱えてきた、走者から見てタッチライン際のタックラーが激しくぶつかる動き。それを繰り出した木田は、24―18で勝ってこう述べるのだった。
「ああいうドミネート(圧倒)するタックルは、ジャパンでも求められていた。『ここや』と思って行きました。チームの勝利が一番ですが、それをする(代表の要求に応える)ことも絶対チームのプラスになる」
関東での一人暮らしも充実させる。
休日は「だらだらしているよりは疲労の抜けがいい」からと同僚に料理を振舞ったり、「身体を研ぎ澄ませるため」に海や川の水音を聞きに行ったりする。
豪胆さの表れか、照れ隠しか。いたずらっぽく笑う。
「あんまり、生活が変わったわけではないです。無駄遣いもしないですし。……無駄遣いできるくらい稼げたらと思うんですけど、まだまだ、これからです」
20日には東京・国立競技場へ立つ。クラブにとって初めてのプレーオフのファイナルで、昨季王者の埼玉パナソニックワイルドナイツとぶつかる。
向上心に満ちた元空手世界チャンピオンが、個性を発揮する。
<了>