7月20日にオーストラリアとニュージーランドの共催で開幕するFIFA女子ワールドカップに臨むなでしこジャパンのメンバーが、6月13日に発表された。23人の中には、池田ジャパン体制になってから最多の8ゴールを決め、今季のWEリーグで得点王になったFW植木理子の名前もあった。「頑張ることでは誰にも負けたくない」と、魂のこもった全力プレーが最大の魅力。一方、今季は動きだしやシュートスキルにも磨きをかけ、決定力を磨いてきた。大会直前のケガで無念の離脱となったフランス大会から、4年越しで迎える今大会への思いとは――。
(インタビュー・構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]、写真=森田直樹/アフロスポーツ)
あれほど泣いた日はなかった――7月のワールドカップメンバー選出、おめでとうございます。メンバー入りしながらピッチに立つことができなかったフランス大会から4年、どんな思いで今大会を迎えますか?
植木:ありがとうございます。4年前、直前のケガで離脱するという悔しい思いをしたのは自分だけですし、あれほど泣いた日はなかったです。その悔しさを晴らせるのはワールドカップしかないと思っていたので、あの時と同じスタートラインに立つことができました。ただ、まだ何も掴んでいないので、ワールドカップで結果を出して、このチャンスを生かしたいですし、「4年前、あの経験をしてよかった」と最後に言えるように頑張りたいと思います。
――自分の名前が呼ばれた時はどのような状況で聞いていたんですか?
植木:家に一人だったので、メンバー発表をリビングのテレビで見ていました。呼ばれるかどうか本当に緊張しましたが、このために頑張ってきたので、その重みを改めて感じました。この4年間、いろいろな人に支えられて、いろいろな選手から学んでやってきて本当に良かったな、と思えましたし、呼ばれた瞬間は言葉に表せないぐらい嬉しかったです。
――いろいろな反響があったと思いますが、特に嬉しかったのは誰からのメッセージでしたか?
植木:恩師からの連絡は嬉しかったです。いつもは割とドライな弟から、1時間後ぐらいに「おめでとう」とメッセージがきたのも嬉しかったですね(笑)。これまでも、ゴールを決めた時やメディアに出た時に久々に連絡をくれる人たちがいました。そうやって結果を残すことでつながる縁もありますし、いろんな人に女子サッカーの良さを知ってもらうきっかけが作れたら嬉しいです。
WEリーグで磨いた武器で世界に挑む――今季は14ゴールを決めてWEリーグの得点王になりましたが、どのような誇りを持ってワールドカップに臨みますか?
植木:自分自身、チームに生かされることで生きるプレースタイルなので、得点王のタイトルを取れたのもチームのおかげです。代表でも生かしてもらえるように頑張りたいなと思いますし、得点王としての責任感を持って、自分のゴールでチームを救いたいと思います。
――植木選手といえばヘディングが代名詞で、代表では8ゴール中5ゴールをヘディングで決めています。海外の選手相手にはどんなことを意識しているんでしょうか。
植木:常に相手の動きを見るようにしていますが、海外の選手が相手だと、ただ競り合うだけでは高さで勝てないので、タイミングやポジショニングを意識しています。タイミングの取り方は日本の選手のほうがうまいので、海外勢相手にも自分のタイミングに持っていくようにしていますし、日本人らしい粘り強さや頭の良さなど、相手のフィジカルを超える強みを示せれば勝てると思います。
――ゴール前でマークを外すスキルや、決定力を磨くために心がけてきたことはありますか?
植木:サッカーを始めた時からFWですが、小さい頃は身長が低かったので、普通にマッチアップしたら勝てない相手が多くて、いろいろな先輩や指導者から動き出しの技術を教わりました。ベレーザに昇格してからは、練習や試合のレベルが上がる中で、ボールの受け方や駆け引きのバリエーションを積み上げてきました。(元ベレーザで現在はINAC神戸に所属している)田中美南さんなど、先輩のいいところを見て参考にしてきましたね。ベレーザの選手はパスが上手なので、自分がいい動きをすれば決定的なパスが出てくるので、練習からしっかりコミュニケーションを取ることは大切にしていました。
――日テレ・東京ヴェルディベレーザのアカデミーで育ち、12年間、同じクラブでプレーしてきましたが、「クラブを背負って戦う」という点ではどのような思いがありますか?
植木:自分よりうまい選手たちとサッカーができる環境は、このクラブならではだと思っています。毎日の練習が刺激的ですし、ハイレベルな環境でやらせてもらっているからこそ、クラブの名前を背負ってワールドカップで戦えることを嬉しく思っていますし、ベレーザの名前が世界で広がるように責任を持って戦うつもりです。
ターニングポイントは昨年末の欧州遠征――2016年のU-17女子ワールドカップで準優勝し、2018年のU-20ワールドカップでは世界一になりました。なでしこジャパンで再び同じ場所に上り詰めるイメージは持っていますか?
植木:U-20ワールドカップで優勝した時の景色は忘れられないですが、アンダー世代とはまったく違う場所なので、世界とどれだけ戦えるのかが楽しみですし、FWとしてチームに一番貢献できるのはゴールを決めることだと思っています。(池田)太さんのサッカーは前線のアグレッシブな守備からスタートするので、その役割もしっかり果たしたいです。
――池田監督体制になってからの積み上げで、奪いにいく守備など、戦術面の成長の手応えはどうですか。
植木:最初の頃は個々の競争もあったので、全員がチームのことを考えずに、1対1の強度を上げることなどにフォーカスしていましたけど、試合や大会を重ねてチームとして戦術面でも積み上げてきた中で、ボールの奪いどころや攻撃の完成度は上がったと思います。ただ、実際にやってきたことが積み上がったかどうかは、大舞台で結果を出して初めて言えることだと思います。
――ターニングポイントだったと感じる試合はありますか?
植木:(昨年11月に)イングランド(0−4で敗戦)、スペイン(0-1で敗戦)と戦って2敗した試合ですね。3バックにトライし始めてすぐの時期で、相手のレベルが高くて通用しないことが浮き彫りになった試合です。前半は0-1だったんですが、後半に崩れて3失点してしまいました。ただ、その経験があったからこそ、その後に(2月のアメリカ遠征で)アメリカと対戦した時に、同じように前半0-1で負けていても、チームの雰囲気が全然違って。うまくいかない時があっても 割り切って修正しようとする力がついたと思いますし、そのタイミングで強豪国とやれたのは大きかったなと思います。
――決勝までいくと、合宿から1カ月以上の長丁場ですが、持っていきたいものはありますか?
植木:漫画が好きで、遠征の時はいつも完結している作品を持っていきます。完結済みでないと、遠征中にモヤモヤしたものが残るので(笑)。短い遠征なら紙の本を持っていきますが。長い遠征や海外だと移動もあるので、電子で良さそうな作品を探しています。
結果で恩返ししたい――今大会は、長くエースとして引っ張ってきた岩渕真奈選手がメンバーから外れましたが、彼女から学んだことや、生かしたいことはどんなことですか?
植木:2011年のドイツワールドカップを見て、初めて憧れた選手です。あの時は映像の中でいろいろなものを盗みながらプレーしていましたが、この数年は同じピッチに立つことができて、プレー面や人としての強さも学んできたつもりです。それはピッチ上でしか返せないと思うので、選ばれた責任を持って、結果を残して帰ってくることで証明したいと思っています。
――ずばり、何点取りますか?
植木:U-20のワールドカップの時は5点決めたのですが、今大会はそれを超える点数をとって、さらにいい景色を見たいですし、皆さんにいい報告ができるように頑張ります。
――今大会の女子ワールドカップの賞金総額は146億円で、2019年大会の4倍近い増額になると言われています。女子選手の待遇が向上していることについてはどのように受け止めていますか?
植木:世界的には女子サッカーに期待してお金や力をかけてくれていますが、人気という面では(海外に比べて)日本はまだまだだなと感じることがたくさんあるので、「女子サッカーにお金を落としたい」と思ってもらえるようにしなければいけないと感じます。ただ、私たちができることは、ピッチで魅力的なプレーをすることに尽きると思うので。まずは今回のワールドカップで、結果を残すことに加えて、「応援したい」と思ってもらえるようなプレーをすることで、そういう人が増えるといいなと思っています。
<了>
[PROFILE]
植木理子(うえき・りこ)
1999年7月30日生まれ、神奈川県出身。日テレ・東京ヴェルディベレーザ所属の女子プロサッカー選手。中学の時に日テレメニーナ・セリアスに一期生として入団し、高1の時にトップチームのベレーザにスピード昇格を果たす。年代別代表で活躍し、2018年のU-20女子ワールドカップフランス大会では5ゴールを決めて世界一に貢献。スピードを生かした背後への動き出しやヘディングのうまさが特徴で、今季のWEリーグで得点王とベストイレブンをダブル受賞。池田ジャパンではコンスタントにメンバー入りし、今年7月に行われるワールドカップのメンバーにも選出された。