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「性別関係なく質が上がれば魅力が高まる」J1優勝経験したクラブスタッフに聞く、WEリーグ競技力向上の本質

REAL SPORTS 2023年7月3日 11時48分

2021年9月にスタートしたWEリーグ(日本女子プロサッカーリーグ)は、「世界一アクティブな女性コミュニティ」を目指す理念推進と、「世界一の女子サッカー」を目指す競技力向上が両輪となって運営されてきた。しかし、2シーズン目を終えて、後者においては課題を指摘する声も多い。その一つが世界一を目指す「プロの基準」だ。リーグへの参入要件や最低年俸、集客やレフェリング等について、クラブ運営に携わる現場スタッフはどう感じているのか。J1サンフレッチェ広島で17年間フロント業務に関わり、現在はAC長野パルセイロでJリーグとWEリーグの両方に携わる森脇豊一郎氏に話を聞いた。

(インタビュー・構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]、写真提供=©️ 2008 PARCEIRO)

JリーグとWEリーグの運営や集客の本質は同じ

――AC長野パルセイロ・レディースはWEリーグ発足時から加盟し、2シーズンを戦ってきました。森脇さんはJ1のクラブでも長く運営に携わった経験をお持ちですが、この2シーズンを振り返って、運営面ではどのような変化を感じていますか?

森脇:WEリーグ2年目となり、Jリーグを経験されたスタッフの方が増えたこともあり、リーグ側とクラブ側の双方が、経験値に裏付けされたコミュニケーションが取れるようになってきたことを実感しています。実務レベルでいうと、「この案件は、どなたに確認すれば、すぐに答えが得られる」という予測と経験があれば、リーグ・クラブの双方ともクオリティと業務効率が上がるので、いい変化だと思います。WEリーグ事務局の皆さまには、日頃からクラブをご支援いただいていることに感謝しています。

――1年目のホーム平均観客数は1175人(リーグ全体で1560人)、2年目は1083人(同1401人)でした。プロリーグの集客の難しさや、男子チームとのマーケティング戦略の違いなどについて、どのような実感をお持ちですか?

森脇:難しい質問ですが、JリーグであってもWEリーグであっても、突き詰めて考えると、最終的な答えとしては、集客・経営・マーケティングに何も違いはないと考えています。プロサッカービジネス、プロスポーツビジネスの本質は「期待感を売る商売」ですので、地域の皆様に「この選手や、このチームを応援したい」「試合を観たい」と思っていただけるような機会をいかに多く創出できるかだと思います。そこにJリーグとWEリーグの違いはなく、ジェンダーフリーの考え方が当てはまっていますね。

 集客のための魔法はないですし、あったとしても一過性です。プロスポーツは勝敗や成績の影響を受ける人気商売ですから、強化サイド(現場)は強くて魅力のあるチーム作りが求められます。一方で事業サイド(フロント)は、「勝敗・成績」に関係なく、毎年固定客の指標となる数字をいかに右肩上がりにもっていけるかが勝負どころになります。その指標とは、「会員数」「シーズンチケット販売枚数」「ユニフォーム販売枚数」「一試合平均入場者数」です。JリーグであろうとWEリーグであろうと、やるべきことの本質は同じであり、「強化」と「事業」が車の両輪として機能し、クラブが1つに方向に向かって走ること。クラブが毎年持続可能な成長をし続けることが重要です。一足飛びにはいきませんが、クラブが地域の皆様から宝物として認識していただけるようになることが、プロスポーツクラブの存在意義だと思っています。

レフェリングの質の向上が興行としての魅力創出につながる

――試合後の会見や取材では、レフェリングに対する声を聞くことが多かったように思います。WEリーグは女性レフェリーの底上げを目指していますが、一方でJリーグのようにVAR(ビデオアシスタントレフェリー)は導入しておらず、ジャッジが議論になった際のリーグ側の見解なども公になることはありません。

森脇:競技力向上、興行としての魅力を引き出す重要な役割を担っているのがレフェリーだと思います。また、個人的な考えでは、レフェリーのジャッジミスも含めてフットボールであり、スポーツであると思っています。レフェリーや対戦チーム、サポーターも含めて、試合に関係するすべての人々の根底にリスペクトの気持ちがあってほしいです。ただ、実際にピッチ脇に立って業務をしていると、両チームの監督やコーチングスタッフ、選手の声が頻繁に聞こえてくるのも事実です。「さっきのプレーはファウル取らずに、これはファウル取るの?」という声です。試合中に起こるレフェリーの判定基準にバラつきがあると、現場スタッフが少なからず感じているからだと思います。

 レフェリングについてぜひお願いしたいのは、いわゆるアフターファウルと背後からのファウルは厳しく取っていただきたいということです。昨年のあるホームゲームで、ペナルティーエリア内でシュートモーションに入った当クラブの選手に対して、少しアフター気味に斜め後ろから足を狩るように深いタックルが入りました。対戦チームの選手は怪我をさせようと思って行ったプレーではないと思いますが、結果としてその選手は負傷退場し、診断結果は右足首骨折の大怪我でした。その危険なプレーに対してカードは出ませんでした。当時、資料を揃えてクラブからWEリーグ事務局へ意見書を出させていただき、抗議せざるを得ませんでした。アフターファウルと背後からのファウルは、一歩間違うと選手寿命を脅かす大怪我につながりますので、選手を守るためにも、見過ごすことがないようにお願いしたいです。

――海外では、女性レフェリーや女性トレーナーが男子チームの現場で仕事をするケースや、その逆も少なからずあると聞きます。リーグ全体の底上げを考えると、どのような形が理想でしょうか。

森脇:今年、4thレフェリーに男性の方が入った試合を2試合経験しました。主審・副審は女性の方々でレフェリングを行っていただいています。WEリーグが女性レフェリーの活躍の機会を創出する、確保することが重要であると考えているからだと思いますが、本当の意味でジェンダーフリーを考えたり、レフェリングの質の向上が競技力の向上にいい影響を与え、興行としての魅力創出につながっていく、という考え方をするならば、男性のレフェリーにもWEリーグ公式戦でもっと活躍の機会があってもいいのではないかと思います。要は、性別関係なくレフェリングの質が向上すれば、競技力向上と興行としての魅力の高まりにつながっていくのではないか、という考え方です。

参入要件のハードルは再考の余地がある

――WEリーグは1クラブ15名以上とのプロ契約が必要で、最低年俸は270万円と設定されているほか、座席数が5000人以上あるホームスタジアムを有することなどの参入基準があります。この要件については、現状に沿ったものだと思いますか?

森脇:前提として、Jリーグが創設された時がそうであったように、WEリーグ創設にあたって高いハードルを設けて、それをクリアしようと努力して環境を整備することで、周囲から見てプロの興行として認知いただけるという考え方でスタートしていると認識しています。その考え方は理解していますが、一方で、選手を雇用し給与を支払うのはクラブです。いわゆる責任企業と言いますか、1社だけで数億円のご支援をいただけるスポンサー企業がいらっしゃればいいのですが、長野のような地方都市のクラブはそうはいかない社会経済環境にあります。

 今年の2022-23シーズン、パルセイロ・レディースには30選手が在籍していますので、基準通り15名のプロ契約選手と15名のアマ契約選手でプロリーグを戦いました。私はクラブ側の人間ですので、地方都市におけるクラブ経営を考えると「プロ契約15選手以上」というレギュレーションがいい意味で緩和され、ハードルが少し下がると経営が楽になると考えています。

 同様に、高いハードルとして、監督にはS級ライセンス(もしくはA-pro)保持者であることが義務付けられています。現在日本のサッカー界において、S級ライセンスが取りづらい状況にあると多くの指導者から話を聞いています。WEリーグの競技力向上とクラブ経営の両立を考えるならば、レギュレーションを少し緩和して「A級ライセンス保持者以上」とハードルを下げていただけると、クラブ側にとっては監督の人選の幅が広がると思います。そうすることで、まだS級ライセンスの取得に至っていなくても、指導者としての能力が高く、人間性が備わっているA級ライセンス指導者の方が、性別問わず、国内トップリーグの監督経験を積む機会の創出につながるのではないかと思います。この監督ライセンスのレギュレーションの緩和は、WEリーグ参入のためのクラブヒアリングの時から、ずっと当クラブがお話をさせていただいていることです。

――それまで監督として実績を出していても、S級取得者ではないためにWEリーグで指揮を執れないケースも複数ありましたね。最後に、今後リーグを取り上げてくれるメディアを増やしていくためにどのようなことが必要だと思われますか?

森脇:ものすごく難しい質問ですね。この質問を「WEリーグやクラブ、選手に対する興味関心をより多くの方に持っていただくにはどうしたらいいか」という別の言葉に勝手に置き換えて考えさせていただくなら、答えの1つとして「ストーリーを伝える」が挙げられます。たとえば、大怪我を負い、長いリハビリを乗り越えて、やっとの思いでWEリーグの公式戦のピッチに立ち、先月5月27日、首位の三菱重工浦和レッズレディースを相手に決勝ゴールを決めた選手がいます。

――鈴木日奈子選手ですね。

森脇:はい。私はレディースチームの広報担当として、復帰の過程をほぼ毎日見てきました。パルセイロ・レディースの公式インスタグラムでは、たまにそういったクラブスタッフでしか知りえない裏側のエピソードを公式写真とともに掲載していますので、ぜひ一度ご覧になっていただければ幸いです。そういった選手の思いや裏側にあるエピソード、過去から現在に至るストーリーを伝え、知っていただくことで、WEリーグへの興味関心、選手への興味関心、共感の輪や応援の輪が広がってくれればいいなと思っています。


<了>





[PROFILE]
森脇豊一郎(もりわき・とよいちろう)
1973年生まれ、山口県出身。大阪体育大学大学院を修了後、日系社会青年ボランティアに参加し、2年間、ブラジル・サンパウロ州の日本語学校で体育教師を務める。帰国後、2002年からサンフレッチェ広島で17年間フロントスタッフを務める。森保一監督の下で3度のJ1優勝も経験。現在はAC長野パルセイロの事業部長として、スポーツを手段に地域活性化に貢献することを目指している。

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