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「クルルッ」屋根裏から鳴き声と足音 蓋をあけてキャットフードを食べる アライグマ被害ついに住宅にも

RKB毎日放送 2024年7月2日 18時55分

愛らしい見た目から動物園でも人気者のアライグマ。

しかし今、野生のアライグマが急増し全国各地で被害をもたらしている。

その被害は、農作物だけにとどまらない。

住宅に忍び込んだアライグマ

福岡県南部・久留米市田主丸町。山あいの1軒家に住む女性(60代)は今年4月、庭先が荒らされているのに気づいた。

飼っている愛猫のエサが入った容器のふたがあき、中身は空っぽに。

女性が自宅に設置している防犯カメラの映像を確認すると、映っていたのは、なんと2匹のアライグマだった。

被害にあった女性
「アライグマが庭先の棚に下から飛び上がって。お皿にご飯が入ってなかったからか、猫のエサが入った容器を見つけて。凄い転がして開けようとしてたんです」

防犯カメラは深夜、敷地内に侵入し、棚の上に飛び乗る2匹のアライグマがキャットフードが入った容器を物色する様子を捉えていた。

女性
「これが開けられた容器です。凄い傷だらけになってました」

固く閉まっていた蓋をあけられ

固く閉まったプラスチック製容器のふたはこじ開けられ、中身は食べられていた。

ミカンの皮をむいて食べるほど手先が器用だと言われるアライグマ。その後もたびたび女性の住宅に侵入。

ついには、女性が飼っている10匹の猫のために建てた屋外のキャットハウスにも入り込んだ。

アライグマは、猫には目もくれず、皿の上のエサを食べ尽くした。鉄製のキャットハウスは、扉の一部が金網になっている。

アライグマはこの金網部分から侵入したとみられる。女性の目下の心配は、飼い猫への被害だ。

女性
「ここの緑の金網をしていなかったんですよその時は。だからちょっと開いていたんですよね。びっくりですよ。まさかアライグマにこの入口が分かるとは思わなかったです」

大量に輸入→捨てられたアライグマが繁殖

特定外来生物に指定されているアライグマはもともと日本にはいなかったが、およそ50年前にアニメで人気に火がつき、ペット用として大量に輸入されたという経緯がある。

しかし、その気性の荒さから飼いきれずに捨てられるケースも多く、野生化した個体がいま生息域を急速に拡大しているのだ。

屋根裏から鳴き声 大量の糞も

アライグマは、都市部の住宅地でも度々目撃されている。

福岡県小郡市の男性(70代)は、住宅の屋根裏から聞こえてくる鳴き声や足音に悩まされてきた。

男性(70代)
「こちらのエアコンがある辺りから向こうのほうに向かって、多分親子3匹くらいだと思うんですけど、鳴き声がしたりとか、走るバタバタバタって音が聞こえるんですよ」

その正体が分かったのは今年5月。初めてアライグマの姿を確認した。

男性は、住宅の1階部分をテナントとして歯科医院に貸しているが、その従業員が敷地内の木に登っているアライグマを発見し写真を撮ったという。

男性
「最初聞いた時には、本当にアライグマかと思いました。画像を見せられて『おっアライグマだ』と。まさか自分のところで見つかるとは思いませんでした」

1週間後、アライグマが見つかった木の近くにワナを設置しすぐに1頭を捕獲。

しかし、その後しばらくの間も、天井裏からは「クルルッ」というアライグマの鳴き声や足音が聞こえていたという。

男性
「1階が医療機関ですから、天井裏で糞をされたりとか、逃げられたりとかキャーキャー鳴かれると、患者がいるわけですから後々困るのでやっぱり何とかしてほしい」

最近、天井板をめくってみたところ、アライグマの姿はなかった。

代わりに見つけたのは大量の糞だ。強烈な臭いを放っているため、男性は今、張り替えを検討している。

農作物被害 約4億5600万円

農作物への被害も深刻だ。

農水省によると、2022年度の全国の被害額は、約4億5600万円にのぼっている。

福岡県だけでも2022年度におよそ2500万円に上り、6年前の3倍以上に増加した。

なぜここまで被害が急増しているのか。原因のひとつはその繁殖力の高さだ。

100頭→6年後に1000頭に 繁殖力が高い

アライグマのメスは満1歳から出産が可能で、平均3頭~4頭の子供を産むとされる。最初に100頭いたとすると、6年後にはおよそ1000頭に。12年後には当初の100倍を超える1万頭以上に増えるなど、爆発的に繁殖すると言われている。専門家は、被害は農作物や住宅だけにとどまらないと指摘する。

足を食べられたカメ

外来種に詳しい 北海道大学 池田透 名誉教授
「アライグマの場合は非常に食性の幅が広い。色んなものを食べてしまいます」

外来種に詳しい北海道大学の池田透名誉教授が、その特性が分かる1枚の写真を見せてくれた。

木の穴から顔を出すアライグマ。

この穴にはもともとフクロウが住んでいたが、その姿が見えなくなった。いつの間にかアライグマが乗っ取っていたのだ。

池田透名誉教授によると、福岡県内で相次いで見つかっている足のないニホンイシガメ(絶滅危惧種)も、アライグマに食べられた可能性が高いという。

外来種に詳しい 北海道大学 池田透 名誉教授
「とにかくありとあらゆる生物にダメージを与える可能性がある。もともと日本にいた在来の生物への影響というのが、やはり非常に危惧されるところです」

住宅街でゴミをあさる姿も

専門の業者に駆除を依頼するケースも増えている。

福岡県春日市の住宅街に住む男性は2か月ほど前、ゴミ袋を漁るアライグマを目撃した。

目撃した住民
「全然逃げないんですよ。もう人に慣れているというかですね。まさかこんなところにアライグマがいるんだなって」

近所の住宅でも同様の被害が相次いだため、男性は専門の業者に駆除を依頼した。

住民「ここにいつもゴミを置いていたんですけど、ゴミ箱を倒されて全部開けられて」
駆除業者「アライグマにゴミ袋の中身取られた?」
住民「そうです」

駆除に使われるのは・・・

依頼を受けた業者は、専用の箱罠を仕掛けた。

おびき寄せるために使うのは意外なものだった。

記者「Qなんでエサはキャラメルコーンなんですか?」
害獣駆除などを行うエイケン 渡邉昭彦さん
「アライグマはもともとコーンが好き。あと香りが立つので寄ってきやすいんですね」

この業者が去年1年間に捕獲したアライグマの数はおよそ30頭だったが、今年は6月までの半年でほぼ同数を捕獲。

最近は市街地で捕獲することも増えてきたと話す。

害獣駆除などを行うエイケン 渡邉昭彦さん
「アライグマは下水の中とか色んなところを通ってくるので、街中でも捕まえたことがあります。5、6年前から徐々に問い合わせが来はじめて、年々、倍々くらいの感じで増えています。」

場当たり的な駆除では減少しない

急速に生息域を拡大するアライグマ。専門家はその数を減らしていくためには、地域ごとに生息数を推計することが重要だと訴える。

外来種に詳しい 北海道大学 池田透 名誉教授
「被害が出た、じゃあ取るというような対症療法的な対応ではいつまでもアライグマは残念ながら減少しないと思います。データに基づいてきちんとした計画を立てて、その目標に向かって捕獲していくということが必要なわけです」

人の生活だけでなく、生態系にも悪影響を与えるアライグマ。手がつけられなくなる前に捕獲体制を強化して計画的に駆除するなど、早めの対策が必要だ。

福岡県ではアライグマを優先的に駆除などを行う対象として、今年3月に完全排除に向けた計画も策定した。

駆除の人手を毎年およそ400人増やすなど捕獲体制を強化し、生息数を分析するシステムも開発する予定だという。

感染症のリスクも 住宅に近づけないために

最後に、アライグマを住宅に近づけない手立てはあるのか。わたしたちにできることを環境省に聞いた。

●えさをやったり触ったりしない
●屋外に果実や野菜、家庭ごみを放置しない。
●屋外で飼っているペットのエサを放置しない。

環境省によると、アライグマは、狂犬病やエキノコックス症、重症急性呼吸器症候群(SARS)など、人に感染する様々な感染症を媒介している可能性があるという。

「ペットとして輸入しそして捨てた」
わたしたち人間の行為がもたらしたツケは大きい。

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