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ガスコンロとポリ袋さえあれば・・・災害時の”ポリ袋ごはん” 同じ方法でトマトパスタやプルコギ丼も

RKB毎日放送 2024年7月9日 19時8分

電気やガスなどのライフラインが止まった時にもおいしい食事を手軽につくれないか、防災食に特化したレシピを生み出す料理研究家がいます。使うのは、1枚のポリ袋。空腹を満たし、心もほぐすヒントが詰まっています。

「普通のごはんよりおいしい!」

料理研究家 江副貴子さん「『ポリ袋ご飯』をこのステージ上で作ってみたいと思います」

6月、福岡県志免町で開かれた防災に関する講演会。

登壇した料理研究家の江副貴子さん(59)が町内会の役員およそ140人を前に伝えたのは、炊飯器を使わずにポリ袋を使って米を炊く方法です。

料理研究家 江副貴子さん「お茶碗に大体半分くらいお米を入れるんですよ。その上に水を入れた分くらいが大体1.2倍になります。ですからそれごとビニール袋にざっと入れてもらえば、一膳分のご飯ができます。」

沸騰したお湯に入れて約20分加熱すれば完成。利点は、手軽さだけではないといいます。

料理研究家 江副貴子さん「これはご飯を作るだけでなく、おかずも温めることができます。それから節水ができます。調理後、ビニール袋を開けるだけで食器具がいらないという、いいことづくしのポリ袋ご飯です」

断水と停電が数か月続いた被災地

江副さんは、災害時にライフラインが止まっても簡単に作ることができ、なおかつ栄養バランスの取れた料理の作り方を研究しています。

元日の能登半島地震では発生直後に最大でおよそ4万戸が停電。

また、断水は石川県内で最大でおよそ11万戸にのぼり、山間部を除いて解消するまでに5か月がかかりました。

料理研究家 江副貴子さん「被災者の実際の声ですが、冷えて固いものばかり、野菜を食べていないので1週間以上便秘をしているということはあるのですが、皆さん我慢されるそうです。声があげられないんですよね」

江副さん考案の『ポリ袋ご飯』は参加者に好評でした。

試食した参加者「普通のごはんよりおいしい」

人生を変えた出会い

江副さんは管理栄養士として学校給食の現場で32年間働いていました。

しかし、もっと調理について学びたいと思うようになり54歳の時に上京、調理の専門学校に入学しました。

そこでの出会いが、江副さんの人生を変えました。

料理研究家 江副貴子さん「出会った方々から東日本大震災の話をたくさん聞くことがあったんですよ。帰宅難民になったとか、エレベーターに閉じ込められたとか。東京の人は、我がごとのように東日本大震災を捉えているなっていうことを感じて、私も防災の勉強がしたくなって福岡に帰ってきました」

しかし、災害時の食事について教えてくれる場所は見つかりませんでした。

それなら自分が伝える側になるしかないと独学で研究を始め、おととし、友人たちと「志免町防災Eat(イート)プロジェクト」を立ち上げました。

防災食のコツは、常温で保存できる乾物と缶詰

料理研究家 江副貴子さん「防災食を選ぶコツはですね、冷蔵庫に入れなくて済むものっていうのを考えると、乾物と缶詰ということになりますので、そういったものをですね、日頃からこれ使えそうとか、考えていくとどんどん広がっていくと思います」

江副さんは誰もが真似できて食材の応用が利く料理を心がけています。

洗い物を減らすためハサミを使い、切った食材と調味料をポリ袋に入れてお湯で加熱するだけ。

トマトパスタもポリ袋で

30分足らずで缶詰プルコギ丼とキノコたっぷりのトマトパスタが完成しました。

プロジェクトのメンバーで試食します。

メンバー「結構時間経ってたけどアルデンテ」

メンバー「ストレスから免疫が落ちてしまうこともあるけど、キノコが免疫力を上げてくれる。感染症が流行ってしまうと、みんなが同じところに居られなくなるから。このメニューはいいですよね」

温かい食事と”選べる”楽しみが心をほぐす

ただ、被災した経験のない江副さんは不安も抱えていました。

「自分の提案する防災食が本当に避難生活で役に立つのか」

その問いかけを胸に出身大学を訪れました。

この日会ったのは薬膳・食育ボランティア部の学生たち。

2月末から、およそ1か月間、能登半島の被災地で炊き出しのボランティアに参加していました。

被災地での食環境がどのようなものだったのか、耳を傾けます。

学生「ご飯を白ご飯で渡すんじゃなくて、白とかゆかりとかわかめとか、並べてどれがいいですか?って選んでもらうだけでも全然違いました。『これちょっと多くしますね』って、そういう会話も生まれたり」

学生「すごく遠慮されている方もいらっしゃったんですけど、『一生懸命作ったので、おいしいので食べてください』って笑顔で渡したら、すごい涙目になりながら喜んでくださって、すごくそれが印象に残りました」

雪の降る厳しい寒さの中で特に喜ばれたのは温かいご飯だったといいます。

学生「私も熊本県出身で熊本地震を経験していたので、温かい食事のありがたさやコミュニケーションをとる食事の場は避難所にとって必要だなと思いました」

料理研究家 江副貴子さん「いかに災害関連死を減らすかというのは、私は食にかかっていると思っているので、またみなさん方と一緒に考えていきたいなって改めて今、思っています。」

子どもの防災食

2017年の九州北部豪雨では朝倉市の保育園で園児の送迎ができなくなり子供たちは教室で一夜を過ごしました。

その話を聞いた江副さんは、保育園でも「防災食」の普及啓発に取り組んでいます。

料理研究家 江副貴子さん「ここで幼い子どもたちが先生と一緒に泊まると思っただけでも胸が痛みますよね。どうやったらそういう時に安心した気持ちになれるかなという視点に立って食材を選びたいなと思っています」

江副さんは、ポリ袋ごはんのレシピを応用した”ポリ袋粥”や、液体ミルクを加えた”ポリ袋ミルク粥”を、乳幼児向けの防災食として提案しました。

災害時こそ「豊かな食を」、江副さんは、信念を胸に研究と啓発を続けています。

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