「ペットボトルの水平リサイクル」をご存知でしょうか。
使い終わったペットボトルを新たにペットボトルとしてリサイクルする方法です。
「ボトルtoボトル」とも呼ばれますが、今年4月、福岡市は日本で唯一の技術を取り入れ、水平リサイクルに取り組むと発表しました。
どのようにリサイクルされているのか密着しました。
年間1億6000本のペットボトル 半分が「水平リサイクル」に
福岡市が回収しているペットボトルの量は、年間約4000トン。
本数でいうと、約1億6000万本に上ります。
福岡市は今年4月、その半分の量を日本唯一の技術で「水平リサイクル」する企業に委託すると発表しました。
RKB 江里口雄介記者「福岡市では、ペットボトルが新しいペットボトルに生まれ変わり続ける新技術を導入しています。いったいどのように生まれ変わるのか、ペットボトルの旅を追いかけます。」
ペットボトル「水平リサイクル」の旅に密着
そのリサイクルは深夜の回収から始まります。
福岡環境整備 森山慶一さん「1台のパッカー車で一日に収集するペットボトルは約2トン程度になります。全部計算すると1000袋くらいにはなるかなと思います。」
福岡市内にはこのパッカー車が全部で24台あり、日々回収にあたっています。
福岡市ではペットボトルとビンを同じ袋で回収しています。
その理由は風に飛ばされないようにするため。
ペットボトルだけでは風の強い日に散乱してしまう危険性があるため、仕分けに手間がかかっても同じ袋で回収しているのです。
空き缶、プラスチック容器、取り除くのは手作業”飲み残し”は回収率低下に
その仕分けを担っているのが、中間処理業者です。
まず、きちんと分別されていない空き缶などを人の手で取り除いていきます。
環境開発 リサイクルプラント 三島秀文 課長「コンベアが斜めになっていまして、比重差を利用してビンとペットボトルを分ける機械になっています」
軽いペットボトルはブラシの上に、重いビンはブラシをすり抜けて下に落ちていきます。
ただ、ここで問題になるのが飲み残しです。
飲料の重さでビンと一緒に下まで落ちてしまい、回収率が下がるのです。
さらに、混入しているプラスチック容器などを手作業で取り除いていきます。
きちんと分別されていれば、本来必要のない作業ですが、まだまだ人の手を入れなければリサイクルするのは難しいのが現状です。
最後は「ベール」と呼ばれる圧縮した状態に仕上げて、中間処理が完了です。
環境開発 リサイクルプラント 三島秀文 課長「排出される市民の方がしっかり分別して出していただければ、我々の負担も減るのかなというのもありますし、それでも以前に比べたらかなり市民の方の意識もずいぶん上がっているように感じます」
圧縮されたペットボトルが向かう先は・・・
中間処理されたペットボトルは再び巨大なトラックに詰め込まれ、向かった先は・・・
RKB 江里口雄介 記者「福岡市のペットボトルがやってきたのは、潮風感じる新門司港です。巨大な船に乗って海を渡ります。」
全長225メートルの巨大フェリーで乗客とともに約21時間の航海。
到着したのは、神奈川県の横須賀港です。
福岡市が今年4月、新たに契約した神奈川県川崎市のリサイクル工場へ、途中でフレーク状に粉砕して届けられます。
国内唯一の技術「ケミカルリサイクル」とは
RKB 江里口雄介 記者「確かにちょっとだけペットボトルの雰囲気はありますけど・・・」
ペットリファインテクノロジー 営業業務部 加藤智明さん「通常フレークというのは、異物があると嫌われることが多いんですけど、”ケミカルリサイクル”は少し異物が混ざっていても全然問題ないです」
日本では、ここでしか商用化されていない「ケミカルリサイクル」とは?
ペットファインテクノロジー 伊賀大悟 社長「まず最初にエチレングリコールの中に原料となるペットボトルを投入して、加熱をしながら溶かしていきます。PETというのは、分子が鎖のようにつながったポリマーといわれるプラスチックなんですけど、分子の鎖を切って分解してBHETと呼ばれる分子が出来ます。」
通常のリサイクルは物理的に溶かして不純物をろ過する方法ですが、ケミカルリサイクルでは、化学的に分子の状態まで分解して不純物を取り除くことで、石油から作るPET樹脂と変わらないほど純粋なPET樹脂に再生できるのです。
しかも石油から作るペットボトルと比べて、CO2排出量は約半分に抑えられます。
金属片や色素などの不純物を取り除いた後は、ふたたび分子結合させてPET樹脂へと戻します。
ペットファインテクノロジー 伊賀大悟 社長「こちらが当社のケミカルリサイクルで作った再生PET樹脂HELIXです。石油から作られたPET原料と同じように使っていただくことが出来ます。」
ペットボトルを永遠に再利用できる”夢の技術”課題は・・・
ペットボトルからペットボトルへ。
捨てることなく永遠に再利用できる夢のような技術ですが、課題は、通常のPET樹脂と比べコストが約2倍かかることです。
それでも環境への関心の高まりを受け、再生PET樹脂は需要が増えてきたといいます。
見慣れた姿に再生”コスト高でも当たり前の社会に”
福岡市のペットボトルが最後にたどり着いたのは静岡県の飲料メーカーです。
再生樹脂からプリフォームと呼ばれる小さなペットボトルを作り、そこに空気を注入すると2リットルのペットボトルが完成。
瞬く間に、普段よく見かけるお茶になりました。
アサヒ飲料では2030年までに100%リサイクル素材、もしくはバイオ由来の素材に変えていく計画です。
アサヒ飲料 未来創造本部 平松原也 チーフプロデューサー「海洋プラスチックの問題とかもありますので、消費者の目が厳しくなっていると思っています。CO2排出を抑えられるリサイクル素材に変えていき、PETをきちんと存続させていくというところが重要かなと思っています。コストはしょうがないと」
課題はコストと、ペットボトルを全て回収する仕組みづくり。
自治体が水平リサイクルに取り組むことは、課題解決の大きな一歩と言えます。
福岡市環境局 循環型社会推進部 飯干智希 課長「今、ベール化したものをそれぞれのリサイクル業者に売却をしているという状況で、約2億円の売却収益になります。こうやって水平リサイクルされてまた市民の元にかえって来るということが日常的になる、常識になっていくような社会になっていけばいいかなという風に考えています。」