福岡県福津市で小学校の新設のため盛り土をすることによって周辺地域の浸水がひどくなると懸念されています。
盛り土以外の方法もあるのですが福津市は「盛り土がベストだ」として建設を進めています。
児童生徒が急増している福岡県福津市
RKB 植高貴寛 記者
「新設小学校建設予定地の福津市宮司地区です。現在、グラウンド部分で盛り土による造成工事がすすめられています」
ベッドタウンとして人口増加が続く福岡県福津市では、児童・生徒が急増し市内の小学校7校のうち3校が31学級以上の過大規模校となっています。
過大規模校に通う児童
「1500人くらいいます。運動場がちょっと人が多いので、わけています、遊べる学年を」
2つの川が合流する低地に新小学校を建設へ
福津市は新しい小学校の建設を検討し、2022年2月に福津市宮司地区への建設を決めました。
しかしその3か月後、この建設予定地が大雨の際、0.5メート以上3メートル未満の浸水想定区域に入ると福岡県が公表。
福津市は、浸水対策として盛り土によって土地をかさ上げすることにしました。
専門家の懸念「盛り土したら水位があがる」
福岡工業大学・社会環境学部 田井明 准教授
「ここ盛り土しちゃうと水位が上がるでしょう。かなり雨水が流しにくくはなります」
防災と河川工学を専門とする福岡工業大学の田井明准教授は建設予定地が2つの川が合流する低地になっていることを懸念しています。
盛り土をすることで小学校の浸水を防ぐことはできますが、行き場を無くした水があふれることで周辺地域の浸水リスクは高まります。
福岡工業大学・社会環境学部 田井明 准教授
「全部ここに上流の雨が集まってくる地形に元々なっています。ここに田んぼだったところに建てるので、もう水が溜まるのは明らかですね。盛り土するので小学校自体安全ですけど、周りはもう完全に浸水のリスクは上がる」
避難が難しくなる恐れ
また、洪水が起きて、周辺地域が水没すると学校が孤立し児童が学校から避難したり住民が学校に避難したりすることが、難しくなる恐れもあります。
福岡工業大学・社会環境学部 田井明 准教授
「学校に避難する、学校から避難する、という時の判断が、学校の先生や行政が適宜正しい判断をするのがかなり難しいと思うんですね。きっちりマニュアル化していても想定以上のことが起こると思うので、かなり考えておかないと危ない」
最大1メートル15センチ浸水する住宅も
今年5月に開かれた住民説明会では盛り土によるかさ上げに周辺住民から不安の声が上がりました。
建設予定地のそばに住む蔵本芳樹さんの場合、最大で1メートル15センチ浸水する恐れがあることがわかりました。
盛り土の影響でこれまでより70センチ程度、水かさが増すことになります。
蔵本芳樹さん
「めっちゃ周辺住民のことをないがしろにしてるなと思います。何でそんなことするのって。学校を建てること自体には反対していません」
市が打ち出した対策でも・・・
福津市は、グラウンドや駐車場のかさ上げを30センチ下げるなどの対策を打ち出しましたが軽減されるのは10センチだということです。
蔵本芳樹さん
「私たちとしても河川、土木、建築などの学識経験者がいろいろ検討してみたけれど、もうこの方法『盛り土』しかありませんというのならば、まだ納得しようと努力もできます。」
教育委員会「教育環境を優先すべき」
蔵本さんら周辺住民は学識経験者を入れた検討委員会を開くことなどを教育委員会に請願しました。
しかし、教育委員会は、「児童の教育環境を整えることを優先すべき」などとして請願を不採択としました。
蔵本芳樹さん
「教育委員の人たちは、『自分たちは人命を軽視するつもりはない』と言っていましたけど、軽視されとるやんって思いました」
市長「できる限りの対策したい」
福津市の原崎智仁市長は、早めの避難を呼びかけるなどソフト面の強化に加えてハード面でも「出来る限りの対策をしたい」と話します。
福津市 原崎智仁 市長
「グラウンド部分にも調整池が作れないかなとか、それは思っていますよ。ハード面の整備はもう少し、まだまだ開発区域内にしても外にしても特に蔵本さんたちが住むアパート周辺を守らないかんと思っています」
「盛り土」以外で建て替えた学校も
同じ洪水浸水想定区域でも盛り土ではなく別の工法で学校の建て替えをした自治体があります。
RKB 植高貴寛 記者
「周辺の住宅地への影響を考えて地面から2.6メートルの高さに盛り土ではなく高床構造で校舎が建てられています」
佐賀県嬉野市にある塩田中学校です。
2008年、校舎の老朽化のため学校施設のあり方を考える検討委員会を設置。移転も検討しましたが、地元住民の強い意向もありピロティ方式という高床構造で建て替えました。
校舎の下に水を貯める「高床構造」
嬉野市教育委員会 杉崎士郎 教育長
「学校に水を寄せて地域にできるだけ水をいかない方式の方が、ピロティ方式(高床式)の方がいいのではないかということで高床式になっています」
高床構造なので水は校舎の下にたまるため周辺に流れ出すことはありません。
さらに中庭をグラウンドより80センチ低くすることで貯水機能を持たせ洪水時に建物自体の水没を防ぎ避難時間を確保することを可能にしました。
嬉野市教育委員会 杉崎士郎 教育長
「今車が入ってきているでしょ。あそこから親御さんに生徒を引き渡すということをしています。もし洪水被害が起きた時に学校に来た場合でも、あそこは、一番水につからない、水が来ないところになっています」
福津市長「高床構造は耐震性が低い」
子供たちの安全を確保し周辺への浸水被害も起こさない高床構造での学校建設。
福津市の原崎市長は、高床構造は盛り土より耐震性が低く大地震における安全面を考慮すると「盛り土がベストな工法」と訴えます。
福津市 原崎智仁 市長
「高床式も、安全だと言ってもやはり柱の上に建って柱の下に基礎があるけど、やはりひびが入る可能性とかね、それは土の上にドンと乗っているほうが絶対安全だと思います。今回の工法(盛り土)で学校を作るのが一番ベストと思っています」
土木防災の専門家「高床構造の耐震性に問題ない」
しかし、土木防災の専門家は「基準をクリアすれば高床構造での耐震性に問題はない」と指摘します。
防災アドバイザー 近藤靖浩さん
「国交省が、構造に対する設計の指針を出しています。それに耐えられる構造を確認するという方向で国が指針を出していますので、それに準拠できれば地震には対応できるのかなと思います。盛り土だからとか高床だから全てが地震に弱いというわけではないと言えますね。」
台風シーズンを迎える中、福津市の建設現場では盛り土によるかさ上げ工事が着々と進んでいます。
新しい小学校は2027年4月に開校する予定です。