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「海が死にそう」能登半島地震後に起きた"異変" 海底からわく気泡… 漁の再開を願う海女

RKB毎日放送 2024年9月13日 16時48分

能登半島で素潜り漁を行う海女(あま)は、福岡県宗像市から移住したと伝えられています。能登の海にも広がる地震の被害、福岡の食卓にも影響を及ぼすかもしれません。

盆踊りの似たリズム 能登と福岡の漁師町

福岡県の無形民俗文化財に指定されている、宗像市鐘崎の盆踊り。

RKB 今林隆史
「独特の太鼓のリズムに合わせて、小さな子供からお年寄りまで参加する鐘崎の盆踊り、意外なルーツがありました」

400年の伝統があると言われていて、地域で大切に受け継がれてきました。

太鼓の叩き手
「小さいころに習ったというよりは、見て覚えたような感じですね」
Q.ルーツがどこだとか、聞いたことがありますか?
「全然分からないです」

「輪島の方やったかな、確か。そのへんから」

盆踊り振興会にはその起源が伝えられていました。

鐘崎盆踊り振興会 広橋折好 会長
「400年くらい歴史があると言われております。何も娯楽のなかった海女さんや若い衆が、能登半島の御陣乗(ごじんじょ)太鼓を持ってきたのがルーツと言われています」

漁期で能登と福岡を移動した海女 海流がつなぐ文化

勇壮な響きが特徴の御陣乗太鼓は、輪島市に伝わる石川県の無形民俗文化財です。なぜ、700キロ離れた宗像市鐘崎の太鼓のルーツが能登半島と言われているのか?それは、鐘崎が発祥と言われている海女が大きく関わっています。

鐘崎の海女は良い漁場を求め、海流に乗って能登半島まで出稼ぎに行っていました。季節移動を繰り返していた海女たちが太鼓のリズムを伝え、盆踊りに取り入れられたとみられているのです。

鐘崎盆踊り振興会 広橋折好 会長
「漁師さんが、あっちのをかじったり、こっちのをかじったりして今に至るから、御陣乗太鼓をそのまま真似しているわけやない」

400年前に移住した海女に伝わる方言

鐘崎の海女は、約400年前に能登半島に移住した、と伝えられています。その子孫が住む輪島市海士町。

海女がアワビを取る時に使う漁具には「大」の字が刻まれていて、鐘崎の海女が呪符として「大」の字を漁具に刻んできたのと共通しています。さらに「たわし」や「魚の骨」など共通する方言もありました。

Q.たわしは?海女「そーら」 Q.魚の骨は?海女「えげ」

地震後に海女を驚かせた海底からの「泡」

素潜り漁を続けてきた海女。能登半島地震の後、海で起きた異変を目の当たりにしています。

輪島の海女漁保存振興会 門木奈津希 会長
「沖の方とかも、ポコポコ出ている」「『何?』って感じ。見たことないから。気持ち悪かったです」

海底から噴き出しているという「泡」。九州大学の菅(かん)浩伸教授はその謎に迫る調査を行ないました。

九州大学浅海底フロンティア研究センター 菅浩伸 教授
「一体この気体がどういう成分なのか。まず第一に『漁業者の方々に害がないのか』が一番心配されていますので、それを調べる」

輪島市沖の水深20メートルの海に潜ってみると――。

RKB 今林隆史
「人間の吐く息と変わらない大量の泡が、海底のいたるところから湧き出ています」

泡は1列になって噴き出していました。水深15メートルにも泡の列が…。生物が付着しておらず、最近できたとみられる岩盤の割れ目から出ていました。

九州大学は、この泡を採取して成分などを調べています。分析の中間結果が、輪島の海女らに報告されました。

九州大学浅海底フロンティア研究センター 菅浩伸 教授
「いわゆる”危ない元素”は含まれていないことは分かりました」

「海藻が窒息する」海底にまで流れ込んだ土砂

能登の海では別の問題も浮上しています。

RKB 今林隆史
「地震から8か月経ちますが、海藻の表面には細かい泥が堆積しています」

海底の藻類や貝類を覆う細かい泥。菅教授が6月に調査した時よりも増えている、ということです。土砂崩れが起きたところから梅雨の雨などで流れ込んだと見られています。

菅浩伸 教授
「岩の上に生えている藻類、それから貝類の上に細かい土砂が溜まってくると、もうふたをしたような状態になる。ある意味で窒息してしまう」

さらに、水中ドローンで水深50メートルの海底を撮影してみると――。

九州大学浅海底フロンティア研究センター 三納(さんのう)正美 准教授
「10~20センチくらいの段差的な地形が連続的に走っているのが見えました」

輪島港の沖約3キロの海底で活断層の可能性がある段差が見つかりました。

菅浩伸 教授
「浅いところは情報がない。やはり市民生活に近いところですから、ぜひ情報を集めて、積み重ねていく必要があると思います」

伝統的な福岡の朝食文化にも地震の影響が

能登半島地震は福岡の食卓にも影響を及ぼすかもしれません。

博多の朝ご飯に欠かせない「おきうと」。

原材料の海藻「エゴノリ」は、かつては福岡で採れていましたが、今は東北や能登のものを使っています。中でも、能登の海女が採ったものが一番品質が良い、ということです。

林正之おきゅうと店 西村守也さん
「能登のエゴノリがないと、うちの商品にはなりませんね。海女さんたちが全く漁に出られないということも最近連絡が入りましたし、何らかの形で今がこういう状況だともっと知っていただきたい」

輪島では、エゴノリを乾燥させていた場所に仮設住宅が設置されています。それに加えて、海底に堆積する泥の問題もあります。

輪島の海女漁保存振興会 門木奈津希 会長
「海が死にそう。窒息したみたいになって、海藻もだめになるだろうし、いなくなる」

笹原麻紀さん「泥をかぶって、海藻がもう死んでいく」

「やっぱ海好きやってんな」

毎年7月から9月に漁を行なってきた海女。2024年は試験的な漁は行なったものの、環境の変化で漁ができない状況が続いています。

船上の海女
「今こうなって初めて、『やっぱ海好きやってんな』って。嫌々行っていたつもりやったけど」

輪島の海女漁保存振興会 門木奈津希 会長
「当たり前が当たり前じゃなくなった。とりあえず、元の海女漁に早く戻ってほしいです」

海にも残る、地震の爪あと。豊かな海で海女が再び漁をできるのは、いつになるのでしょうか。

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