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14座制覇に王手! 登山家・渡邊直子さん「シシャパンマ」登頂へ ~いじめられっ子が山からもらった自信と達成感~

RKB毎日放送 2024年9月30日 19時37分

標高8000m級の世界の山々に挑み続けている女性がいる。福岡県大野城市出身の登山家・渡邊直子さん42歳。高所登山に挑み続け、ゴーグルの跡がくっきりと残るくらい日焼けしている。

9月19日、ヒマラヤ山脈に属し世界第8位、標高8163mの「マナスル」登頂に成功。渡邊さんは、マナスルに4回登頂した世界で初めての女性と言われている。

その日は快晴で、無風、他の登山家もおらず、渡邊さんの仲間4人が独占するような形で、登頂成功となった。通常、8000m峰に初挑戦する場合、最終キャンプであるキャンプ4から挑戦することが多いらしいが、高所登山が初めての仲間がいたにもかかわらず、キャンプ2(6300m)からダイレクト登頂に成功するという偉業を成し遂げた。

「マナスルは人を食べる山」と表現する登山家もいるくらい、雪崩が多い山だが、雪崩に遭遇することもなく、クレバス(氷床にできた深い割れ目)や粉雪に苦戦しながら、フィックス(ロープ)を張り、仲間とのチームワークで登頂達成となった。

すでに13座登頂、残るは「シシャパンマ」

世界には最高峰「エベレスト」(標高8848m)をはじめ、標高8000mを越える山が14座あるが、渡邊さんは、このうち13座の登頂に成功している。

渡邊さんは「挑戦している」という意識よりも、「山を楽しみに登っている」感覚で登り続けているという。登山のために特別な筋力トレーニングをしているわけではない。一番大事なことは、登山中に高度順応できるかどうかということなのだそうだ。

20代半ばから高所登山に挑戦し、2006年に1座目となるチベット「チョ・オユー」(標高8201m)に登った際、「標高が高くても全然きつくなかった」と話す渡邊さん。気が付けばシェルパ(ガイド)や仲間を置いて1人で酸素ボンベをかつぎ、自ら調整しながら登頂に成功していた。

その後、標高6476mのネパール「メラ・ピーク」にイギリス人男性と2人で登り、最初は男性に全然付いていけなかったそうだが、標高が高くなるにつれ、自分の方が早く登れていることに気付いた。自分の体が高所登山に向いていると確信できた瞬間だった。

その後、その男性が「エベレスト」に登ったことを知り、「自分にも登れるはずだ」と、2013年に「エベレスト」登頂を成功させた。当時は、14座も制覇することなど考えてもいなかったが、楽しくて登っていたら7座を制覇していて、それが日本人女性で初めての快挙だと知り、14座登頂を意識し始めたという。

渡邊さんの1年は、夏と冬は看護師として夜勤などの勤務をこなして資金を貯めたうえで、春と秋にネパールで8000m峰登山に挑戦している。それでも資金が足りず、スポンサーを探したり、クラウドファンディングや、寄付を募ったりしている。

2023年秋にも、残る1座、標高8027mの「シシャパンマ」登頂に挑んだが、途中雪崩に遭い、中断せざるを得なかった。「シシャパンマ」は、14座の中で一番標高の低い山だが、これまで人があまり登っていないため、少人数でロープを張るところから始まり、アイゼンで垂直の雪壁を登るという、非常に難易度の高い山と言われている。

また、登山口が中国(チベット自治区)のみで、登山許可取得が非常に厳しかったが、今回ビザも取得でき、登山許可も得られたことで、今チベットで「シシャパンマ」登頂に向け最終調整に入り、ベースキャンプに向かっている。「何が起きるか分からないけど、10月中にはシシャパンマ登頂達成を目指します」彼女の根底にある意志の強さを感じた。

10歳の時の雪山登山をきっかけに、引っ込み思案だった性格が自信へと変わる

福岡県大野城市に生まれ、幼い頃は控えめな性格で、いじめられたこともあったという渡邊さん。

当時のNPO法人「遊び塾ありギリス」の企画で、小学4年生の時に、八ヶ岳登山を初めて経験、その景色の美しさに登っているきつさは感じなかったそうだ。登頂した時の達成感は格別で、「自分にもできる」と自信に繋がった。

中学1年でパキスタンの4700m登山に挑み、高い所で誰よりも強く動けるという新たな自分の一面を知った。学校から離れた場所に、学びと喜びとコミュニティーがあったのだ。

大学3年生の時、6000m峰のチーム登山に挑戦した際、怪我をした人の救護などを担当する保健係を任されたことで、看護師の仕事に興味を持ち始めた。

これまで8000m峰を28回登ってきた渡邊さん。看護師と登山家を両立させながら、「1年で6座制覇」という驚異的な日本記録も樹立している。

14座登頂の先にある夢「子供たちに冒険を」

ただ、14座制覇は「自分を知ってもらうためのツールに過ぎない」と渡邊さん。自分自身にとってヒマラヤ登山が精神的な支えになっていることはもちろんだが、これまでヒマラヤでの登山やトレッキングをきっかに元気を取り戻し、日本に帰っていった友人を目の当たりにした。登っている苦しさを忘れさせる程の景色の美しさに、魅了されるのだそうだ。

日々の仕事に追われている大人や、精神的に不安定な子どもたちにヒマラヤを感じてほしいと願っている渡邊さん。安心して保護者が子どもを預けられるよう、信頼を得るために、14座登頂を達成させたいと話す。登山初心者でも歩けるコースを考え、「新ヒマラヤトレッキング企画」も年末年始に計画している。8000m峰に約20年通い続けてきた渡邊さんだからこそ提案できる「ヒマラヤ登山の楽しみ方」を教えてもらえそうだ。

高所登山を通して自分に自信を持ち、夢中になれることを見つけた経験を活かし、子ども達にも積極的に冒険を楽しんでほしい、そして、登山に興味がない人にも、山に来て心地よさを感じてもらえるような活動を続けていくことが、今後の夢だと語る。今は、目の前にある「シシャパンマ」登頂と「14座制覇」に向け、一歩一歩前へ進んでいる。

RKB毎日放送 アナウンサー 池尻和佳子

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