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リスク大きく儲からない”障害者の歯科治療”日本で最初に開業した男性(77)「おまえはダメだ」と言われた子供時代がバネに「人の役に立つ仕事がしたい」

RKB毎日放送 2024年10月8日 18時17分

45年前、日本で初めて障害者専門の歯科医院を開業した歯科医師の男性がいます。障害者の歯科治療は麻酔がほぼ必須でリスクが大きく、より多くのスタッフも必要です。あえて「難しい、儲からない」といわれる分野に飛び込んだのは、「おまえはダメだ」と言われ続けた子供時代の体験があったから、と話します。

「いやいや」歯の治療嫌がりパニックに

福岡市博多区にあるおがた小児歯科医院。知的障害がある幼い男の子が治療に訪れていました。

「いやいや・・・」

歯の治療を嫌がりパニックになった子供を優しくなだめるのはこの歯科医院を開業した歯科医師の緒方克也さん(77)です。

患者の6割が障害者

おがた小児歯科医院 緒方克也さん「おお、上手上手、いいぞいいぞ、すごいすごい。おお、すごいぞ!できたよ、よく頑張ったね、よかった」

おがた小児歯科医院では、1日に80人程の患者を診察しますが、そのうちの6割が障害がある人たち。

パニックを起こすなどして、ほかの歯科医院で治療を断られたという人も少なくありません。

おがた小児歯科医院 緒方克也さん「みんな障害の状況は違うし、同じ名前の障害でも全部違うし、その人に合ったことをしないといけない」

手探りで治療方法を模索

45年前、日本で初めてとなる障害者専門の歯科医院として開業した「おがた小児歯科医院」。

当時、障害者のための歯科治療は体制がほとんど整備されておらず、緒方さんのもとには全国から患者が駆け込みました。

どのように治療に当たればいいのか、前例がない中、手探りで治療方法を模索していきました。

「こんなにたくさんのスタッフ、普通はいない」

障害者の治療には治療をする医師に加え、2人歯科衛生士の合わせて3人で行うことが多いといいます。安全に治療できるよう体を支えて安定させる必要があるからです。

「おがた小児歯科医院」には、非常勤も含めて11人の歯科医師と14人の歯科衛生士がいます。

おがた小児歯科医院 緒方克也さん「普通の開業医の先生たちはこんなにたくさんスタッフがいない。自分で座って口を開けることができない人にどうしていいかわからないから、普通のところじゃできないと言うことになるんでしょうね」

大分から福岡に通う男性

大分県日田市に住む44歳の男性は、34年前から緒方さんの治療を受けています。自閉スペクトラム症と重度の知的障害があります。

口の中の刺激に特に敏感で精神的に不安定になりやすいため、3人がかりで体勢を安定させ、麻酔も使ってリラックスした状態で治療します。

ほかにも、次の治療を視覚的に示すカードや、周りの音を遮断する耳当てなど、患者の障害特性にあわせて安定して治療ができるように様々な手法を確立してきました。

男性の保護者「地元の歯医者に行ったら息子が治療させないんですよね。ここはスタッフさんも揃ってますから、もう本人は嫌がらんでずっと行ってます。おかげで助かってます」

「ここにお世話になるしか・・・」

治療に通う子どもの保護者「多動だったし、だからもうここにお世話になるしかないかなぁと言う、もう普通のところは難しいかなぁと思って」

記者 Qきれいになりました?
患者「なりました。怖くなかった。」

「おまえはダメだ」と怒られ子供時代

障害者の歯科治療には、より多くのスタッフが必要なことから、利益を出しにくいこと。さらにリスクを伴う麻酔治療が欠かせないことから、歯科医師が手を出したがらない分野です。

緒方さんは「人の役に立つ仕事がしたい」と、あえて難しい分野に挑戦しました。

おがた小児歯科医院 緒方克也さん「子供のころ、親や兄弟から学校の成績などで『おまえはダメだダメだ』と怒られていて、自分の中ではそこまでダメじゃないのになぁと思っていました。障害者をとりまく環境は、いわば最初からダメと言われているようなもの。自分の幼い頃の経験から彼らに共鳴しました。障害者はダメな人ではないんだと。ダメにしているのは社会なんだ、といういうことを証明したかったんです」

そして、障害者のもつ可能性を花開かせたいと、福祉の分野にも取り組むことになりました。

おがた小児歯科医院 緒方克也さん「お母さんと接することがあって、この子を育てることの苦しさをお話になるんですね。どういう風に育てていくのかということも広く広まっていない時代だったから、そんな話を聞きながら、障害者の歯科治療でなくて、他の福祉の事にも関心を持ったんです」

福祉の分野へ新たな挑戦

「園長先生、おはようございます。はい、おはようございます」

19年前、緒方さんは障害がある子供を預かって専門の教育を行う児童発達支援センターの「joy(じょい)ひこばえ」を立ち上げました。

現在、3歳から5歳の子供たちが保育士や言語聴覚士、音楽療法士に見守られながら、話すことや食べることなど、基本的な生活を送るための教育を受けています。

目的は「きれいにすることじゃない」

園長の緒方さんも歯科の知識を生かし、子供だけでなく、スタッフにも食べ方や歯磨きの仕方を指導します。

おがた小児歯科医院 緒方克也さん「口ばっかり見ないで手がどんな握り方かも見たほうがいい。この年頃の歯磨きは、きれいにすることが目的じゃなくて、習慣付けをすることが目的だから。うまい下手よりも、ちゃんと受け入れてやっているということが大事」

アートや音楽にも

さらに、社会参加の場も作り出しました。

RKB 金子壮太記者「こちらの施設では障害者の方が仕事としてアート活動に取り組んでいます」

障害者がアート活動を通して社会と関わるための事業所「JOY(じょい)倶楽部」です。

絵画や芸術を専門にする「アトリエブラヴォ」と、音楽の演奏をする「ミュージックアンサンブル」に現在、44人の障害者が在籍。国内外でのアート活動や演奏を通して、収入を得てきました。

おがた小児歯科医院 緒方克也さん「彼らがだんだん成長して大人になってここにたどり着いたんだなと、あの頃はわからなかったけど、来てみればここだったんだと、こういう形はこの人達には必要だったんだろうなと受け入れています」

訪れた人が涙した演奏会

演奏会では、お客さんも含め会場全体が一体となり、音楽を楽しみます。

訪れた人「すごく楽しい曲でたくさんあって、皆さんの演奏で感心しました」

訪れた人「懐かしい曲とか聞かせてもらってよかったです。すごく上手で感動しました。涙が出てきました」

演奏した田中恵さん「たくさんの拍手、嬉しかったなと思う。落ち着いて踏ん張りました」

演奏した松尾はづきさん「楽しかったです。また、練習頑張ります」

保護者「楽しく演奏している姿を見て、本当にありがたいなぁと本当に幸せだなぁと本人も親もそう思っています」

おがた小児歯科医院 緒方克也さん「あの人たちの演奏聞きたいね、福岡市にはこの素晴らしい文化があると言われた時に私たちの活動は市民権を得たと思っています」

45年前、日本初の障害者歯科医院を開業、福祉事業まで手掛けるなど走り続けてきた緒方さん。

11年前に歯科医院の運営は後輩に譲りましたが、児童発達支援センターと障害福祉サービス事業所では、まだトップを務めています。

「医療が医療だけやっていてはだめ」

77歳を迎えた今、思い描く理想の社会とは?

おがた小児歯科医院 緒方克也さん「どんなに重度な障害であってもダメな人はいない。それはダメにしてるのは社会であって、本人に責任はないと思いますね。医療が医療だけやっていたり、福祉が福祉だけやっていたり、教育が教育だけやっていたりのではなくて、やっぱりそれが一つになって、1人の人の幸せを支えていると言うことができるといいなとそういう社会とか組織だといいなと思っています」

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