帝国データバンクによりますと、今年1月から10月末までに負債1000万円以上で倒産した焼肉店が39件にのぼることがわかりました。
前年同時期の16件から倍増し、過去最多を更新しています。
今、焼肉店で何が起きているのか。
「打つ手がない」コスパが売りの店 社長の嘆き
「かんぱーい!楽しい」
福岡県久留米市の焼肉店「焼肉ホルモンひろ屋」。
ホルモンは一皿440円。
レモンサワーは60分550円で飲み放題というコスパを売りにしている店です。
焼肉ホルモンひろ屋 中村竜博 社長
「いかに安く出して、いかに客に気軽に来てもらえるか。薄利多売で、できるだけ利益を取らずにやってきました。その反響が反響を呼んでもっとたくさんお客さまが増えた時に経営を合理化して利益が生まれる、という計画でしたが、その計画にたどり着けません。」
店をオープンしたのは3年前。
新型コロナの感染拡大が落ち着いてきたころで、1日に100人以上の客が訪れていました。
しかし、物価高で経営環境は厳しさを増し、値上げせざるを得ない状況だといいます。
焼肉ホルモンひろ屋 中村竜博 社長
「本当に苦しいというか難しいというか。正直打つ手がないですね。これ以上値上げすると、うちのコンセプトがぶれてしまうので、絶対それはしたくない」
輸入牛肉の価格 1.7倍に
円安などを背景に米国産などの輸入牛肉の価格は、2020年と比べおよそ1.7倍に上昇。
また、キャベツなど焼肉店で多く使われている野菜の値段も1.3倍に上昇しました。
居酒屋より5%高い「原価率」があだに
焼肉店を専門に扱うコンサルティング会社の担当者は、焼肉業界ならではの特徴として原価率の高さを指摘します。
お肉のカンパニー 焼肉エグゼクティブプロデューサー 加登大資さん
「居酒屋業界と比べて、原価率が平均5%高いのが焼肉業界。焼肉で言うと、調理の工程が”たれでもみ込む”くらいになってしまうのでごまかしがきかない。おいしい商品を出そうとすると、原価が高くなる傾向にあるのです」
素材そのものを提供する焼肉店は、原材料価格の高騰が経営に即、影響を及ぼします。
つけっぱなしの排気ダクト 電気代は2倍に
さらに肉を焼くためのガス代や、排気ダクト、クーラーの電気代など、焼肉店ならではの特徴も経営を圧迫します。
焼肉ホルモンひろ屋 中村竜博 社長
「お客さんがいる間はつけっぱなしになるので、去年と比べるとガス代が1割くらいあがって、電代は2倍です。ダクトをまわす電気もかなりの量使うので、焼肉屋は不利だなと思います。」
コロナ禍で出店増→競争激化
テーブルごとに排気ダクトが備えられている焼肉店は、「換気がいい」というイメージでコロナ禍に新規出店が相次ぎました。
他の飲食店に比べ客単価が高く、店内のオペレーションも比較的簡単なことから、焼肉人気に着目した居酒屋やラーメンチェーンなど異業種からの参入もあり、競争が激化。
コロナ禍で「勝ち組」だった焼肉店ですが、物価高騰による経営環境の悪化で、小規模な焼肉店が倒産するケースが増えています。
倒産 年間50件超の可能性も
帝国データバンクによりますと、今年1月から先月末までに負債1000万円以上で倒産した焼肉店は39件。
前年同時期の16件から倍増し、過去最多を更新しました。
このままのペースでいくと、年間の倒産数が、初めて50件超える可能性もあるということです。
帝国データバンク 情報統括部 飯島大介 副係長
「原材料価格の高騰、輸入牛肉に加えて野菜、ライス、米ですね、全ての原材料が高騰している、これが一番の要因になっています。」
客離れ警戒で「値上げしづらい」
客単価が高い焼肉店は、節約志向での客離れを警戒して値上げがしづらく、大幅な価格転嫁ができないということです。
そのため、大量仕入れなどが可能な大手焼肉チェーン店とのコスト競争に耐え切れない中小の焼肉店が苦戦しています。
福岡県内でも今年に入ってからこれまでに少なくとも8店舗が閉店していて、小規模店の廃業を含めると、実際はより多くの焼肉店が市場から消えたとみられています。
「おうち焼き肉増えた」消費者の行動にも変化か
物価高は、消費者の財布も直撃。消費行動にも変化があらわれているようです。
消費者「以前は気軽に焼き肉屋さんに行こうって感じだったんですけど、最近はスーパーで買ってきて”家で焼肉しようか”という回数が増えてきました。」
消費者「ひとり焼肉のチェーン店によく行ってたけど、前は800円くらいで食べられたのに、今は900円1000円とかになってハードル上がりました」
「安くておいしい」が売りの、前出の焼肉店「焼肉ホルモンひろ屋」の社長は、「特別な日に1回ではなくて月に2回3回もきてもらえるようなお店にしたい」と話しました。
長く続く円安と物価高は日本に根づいた”庶民の”「焼き肉文化」をも直撃しています。