「政治とカネ」の問題が大きな争点となった今回の選挙。
従来の選挙のあり方に異を唱え、カネのかからない、迷惑をかけない選挙を目指した候補者(48)がいます。
結果は落選。
しかし、「今のままの選挙でいいの?」彼の言葉は、選挙が終わった後も耳に残ります。
山中イノシシに囲まれながらポスター貼り
衆議院選挙・公示の翌日、掲示板に自らポスターを貼っていたのは、太宰府市議を辞めて福岡5区から無所属で立候補した覆面レスラーのタコスキッド氏(48)です。
タコスキッド氏「僕だけでも何十か所か、貼りましたね。本当は僕、無所属になるので、あきらめていたんですよ。ポスターを作ることすらあきらめていたんですよ」
福岡5区のポスター掲示板は、全部で813か所。
代行業者に依頼する政党もある中、タコスキッド氏はボランティア20人がかりで貼っていったといいます。
ボランティアスタッフ「きのうの23時までかかって、山の中をイノシシに囲まれながら…」
タコスキッド氏「もうお金はかければかけるほど有利です。でもそれって、いつか誰かが『そういうのじゃないよね』っていうことをしないと、ずっとお金がかかる選挙しかできないじゃないですか」
見守り・筋トレいつもの日課欠かさない
タコスキッド氏「おはようございます、おはよう」
一日の始まりは4年間続けてきた交通安全の見守り活動です。
これは選挙期間中も変わりません。
地域住民「いいですよ。子供たちも全部見守ってくれてます、あのおじさんはね」
見守りが終わりようやく選挙活動かと思いきや、駐車場の脇でまさかの筋トレ。
選挙期間中も覆面レスラーとしての日課を欠かしません。
街頭演説「自分が嫌なことはやらない」
タコスキッド氏「街頭演説ってうるさくないですか?有権者がほんの数秒を通るだけなのに、ただワーって言われるだけで、そういうの嫌なので、僕は自分が嫌なことはやらない」
お金のかからない選挙を実現するため、選挙カーもできるだけ安くアレンジ。
車に乗せるやぐらの材料はホームセンターで7000円で調達し手作りしました。
後ろの車にも聞こえないほどのボリュームで
福岡5区には、立憲・前職のほか自民・新人など合わせて5人が立候補していました。
他候補の陣営が、選挙カーとスピーカーで活動を続けるなか車上運動員もなしに1人で選挙区を回ります。
タコスキッド氏「もうちょっと静かにとか、ここ病院があるからとか、保育園あるからとか言っても、なかなか難しかったりするんですよ。自分で運転してウグイス嬢の方にお願いしないことで、他に回せるお金もあるんじゃないかなと僕は思ってて」
代わりに流すのは「消費税ゼロ」「教育費の無償化」など自身の政策を録音したメッセージと音楽。
後ろの車にも聞こえないほどのボリュームです。
ベビーカーを押した母親の姿を見つけると、ボリュームをさらに下げました。
タコスキッド氏「僕たちの暮らしのためにやろうとしているのに、僕たちに迷惑をかけることをいとわない思考回路だとやばくないかなって僕は思っています」
政策はこのほか、ユーチューブやブログで発信しています。
選挙区外の地域にも行く
選挙期間中の週末、選挙区ではない福岡市東区の公園にタコスキッド氏の姿がありました。
司会者「タコスキッド、GTーRタイガー入場!!」
選挙の日程が決まる前から依頼されていたという地域の秋祭りにチャリティープロレスで参加しました。
タコスキッド氏「ここで終わらせて選挙活動に向かいます!」
記者「ここは選挙区じゃないですよね?」
タコスキッド氏「選挙区じゃないですね、関係ないですよ。政治家でしょ?誰の言うことだって聞かないと、そう思います」
「当然、勝つ気でいるけど・・・」
夜、タコスキッド氏が向かった先は音楽スタジオです。
「君もヒーローになれるよ必ず 道の石ころもダイヤになれるさ 君もヒーローになれるよ必ず 明日もきっと良い日になる♪」
タコスキッド氏「当然勝つ気でいるんですけど、開票の日に負けた時に皆なんかしょんぼり三々五々帰るみたいになるのしんどいじゃないですか。だったらみんなでワッてやって、お疲れ様っていって帰りたいねっていうライブ企画です」
結果は・・・落選 4位に
そして迎えた投開票日。福岡5区では、自民党の新人が10万台、立憲民主党の前職が8万台の票を獲得する中、タコスキッド氏は4位の得票(1万7691票)で落選しました。
一夜明けた28日、タコスキッド氏の姿は、いつもと同じ太宰府市の交差点にありました。
地域住民「入れさせていただいたんですが」
タコスキッド氏「すいません、期待に応えられなかった」
地域住民「でも応援してます。いつも見守りありがとうございます」
供託金300万円は没収
タコスキッド氏が今回の選挙にかけたお金はポスター制作費の12万円を含む約40万円。
ただ、得票率が10%を下回ったため供託金300万円が没収され、公費で賄えるポスター製作費なども自己負担となりました。
当選する意思がない人の売名行為などを防ぐために設けられている供託金制度ですが、国民の政治参加を阻んでいると指摘する声もあります。
「ハガキまで出したら1000万円くらいの借金になっていた」
タコスキッド氏「じゃあこれ僕がもっと、ハガキ出したりしていたら、一気に1000万円ぐらいの借金になるわけですよ。もっと誰でも選挙に参加できる状態でないと民主主義は保てないと思っているので」
福岡県では過去最多の52人が立候補した今回の衆院選。
「政治とカネ」が大きな争点となった一方で、投票率は低調に終わりました。
有権者の声を反映させるために今のままの選挙制度でいいのでしょうか。
改めて考えさせられます。
RKB毎日放送 記者 江里口雄介