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「領空侵犯を阻止せよ」防衛最前線のF―2戦闘機パイロット 訓練に密着 福岡・航空自衛隊築城基地

RKB毎日放送 2024年10月31日 17時8分

国内では2024年、中国軍機とロシア軍機の領空侵犯が相次いで確認されています。空の安全保障に改めて関心が高まるなか、西日本の空を守る航空自衛隊築城基地では緊急時に備えた厳しい訓練が日々行われています。

「確認作業を怠ると、大きな事故に」

轟音とともに滑走路から飛び立つ、Fー2戦闘機。航空自衛隊築城基地(福岡県築上町)には2006年に導入され、西日本の空を守っています。

訓練「あなたは日本領空を侵犯している」

荻田祥3等空尉(26歳)は、F―2戦闘機のパイロットの1人です。
2023年10月に配属され、初めて戦闘機の実戦部隊の一員となった荻田さん。
この日は午前8時半に基地に入りました。

荻田祥3等空尉
「このあとフライトがあるので、準備をしています。(確認作業を怠ると)大きな失敗や最悪の場合事故に至ってしまうこともあるので、一つ一つ確認を確実にやるのが重要だと教わってきました」

無線通信のトラブルを想定して

敬礼「おはようございます」

朝礼で気象情報などを確認した後、一緒に訓練を行うメンバーでミーティングをします。

井上道1等空尉「もし1番機が通信不良になった場合だけど…」

模型を使って訓練の説明をしているのは、先輩隊員の井上道1等空尉(35歳)です。今回は領空に接近した国籍不明の飛行機に警告し、その最中に通信トラブルが発生することを想定します。

井上道1等空尉
「2機で対象機に接近して、最初は(私が乗る)1番機が対象機に『領空に近づいている、離れなさい』と指示していく。その過程の中で、何かしらのトラブルで1番機が通信が取れなくなったところ、(荻田3等空尉が乗る)2番機が認知したので場所を交代して、2番機がその役目を引き継いで対象機に対する対領空侵犯措置を継続する」

「自分は向いていないんじゃないか…」

小学生のころ、航空自衛隊の航空祭で戦闘機を間近で見てパイロットに憧れたという荻田さん。2022年、一人前のパイロットの証とされるウイングマークを取得しましたが、挫折を味わったこともあると言います。

荻田祥3等空尉
「パイロットになってからも定期的に試験や越えなければならない壁があるので。私も試験を落としたこともあるし、『自分は向いていないんじゃないか』とどこか折れてしまいそうになったことはある」

戦闘機が旋回する際、パイロットにはシートに体を押しつけるような強烈な力がかかり、必要な血液が脳に送られず、失神するおそれがあります。

そのためパイロットは、下半身などを締め付け血流を確保する特殊なスーツを着用して、訓練や任務に臨みます。
実際に締め付けられる感覚を、記者が体験してみました。

RKB小松勝「(スーツに空気が入ると)かなりきつい、苦しいです」

危険と隣り合わせの任務や訓練と向き合う荻田さん。戦闘機に乗る際、必ず持ち込む「お守り」があるそうです。

荻田祥3等空尉
「神奈川県の実家に帰省した時、新年の一番初めに浅草にある飛不動尊に行っています。飛不動尊の飛行護(まもり)を、身分証の中に入れて飛んでいます」

領空侵犯機に「ただちに東へ進路を変更せよ」

訓練が始まりました。ミーティングの通り、うまくやれるでしょうか?

兵器管制官「戦闘機から、英語で東へ旋回するよう通告せよ」
井上道1等空尉「1番機、無線の不具合」

想定に従い、井上さんの通信機器にトラブルが発生。代わって荻田さんが通告、警告を行います。

荻田祥3等空尉
「東シナ海上空を飛行中の貴機に通告する、こちらは航空自衛隊、貴機は日本領空に接近している、東に進路を変更せよ」

兵器管制官「対象機領空イン、領空侵犯機と判定、警告開始」

荻田祥3等空尉
「日本領空を侵犯している航空機に警告する、あなたは日本領空を侵犯している、東へ進路を変更せよ」

井上道1等空尉「ちゃんと機体信号も使えよ」

機体信号と呼ばれる、翼を振る動作で指示に従うよう意思表示したうえで、再度警告します。

荻田祥3等空尉
「日本領空を侵犯している航空機に警告する、あなたは日本領空を侵犯している、ただちに東へ進路を変更せよ」

「強制しうる意思」示すのが大事

約1時間の訓練を終えた荻田さんは、一連の手順を振り返りながら井上さんから助言を受けます。

井上道1等空尉
「領空侵犯機というのは、基本的に犯罪者とニアリーイコールだから。日本国の領空に入ったら、こちらの誘導に従わせるのはやっていいこと。強制することができる。強制する時に強制しうる意思を示しているのかがすごく大事になるから、そこはちゃんとやりなさい」

荻田祥3等空尉
「国籍不明機に対して、『自分がどうしたいのか』『どういう行動を取ってほしいのか』という意思表示や、声色を変えて強調するところが足りなかったな、と。自分で一つできたと思ったら、また新たな課題が出てきたり、というのをずっと繰り返すことになるので、毎回やった後にデブリーフィングでしっかり自分の反省点を出してまた次にステップアップできるように、一つ一つ」

厳しい訓練を終えた後の食事会は、仲間とのほっとするひととき。荻田さんの表情も和らぎます。

荻田祥3等空尉
「みんなで飲んでわいわいするのも好きなので、ストレス解消になっている。真面目な話は置いておいて、ちょっとバカ話をするみたいな、そういうのも息抜きになる」

Q.荻田さんの印象は?
福島将吾1等空尉「飲んでるキャラ、お酒のキャラ」
川原信亮3等空尉「盛り上げ役ですよね」
後藤弥明1等空尉「盛り上げも、いじられることもできるオールラウンダー、マルチロールファイター、将来が楽しみ」

緊張迫られる基地 東京と上海から等距離

領空侵犯の恐れがある際は、築城基地からもたびたびスクランブル(緊急発進)をします。防衛省によりますと2023年度、航空自衛隊の戦闘機がスクランブル発進した回数は669回と、2019年度以降の5年間で最少でした。

しかし、2024年8月に長崎県沖で中国軍機による領空侵犯が初めて確認され、西日本の空を守る築城基地は緊張を強いられています。

濱島雄一郎2等空佐
「築城基地は場所的に、東京と上海がほぼ同じ距離にある。中国から不明機が飛んで来た場合は真っ先に対応しなければいけない位置にある基地なので、最前線で対応する意味合いが強い。一人一人が『自分がやるものだ』と非常に高い意識を持って、対領空侵犯措置任務に就いている」

築城基地という防衛の最前線で戦闘機に乗り始めて1年。荻田さんは海外の情勢を注視しつつ、どのような任務にも対応できるよう備えています。

荻田祥3等空尉
「世界の状況は日々変化しているのは感じている。しかし我々は淡々と日々の訓練をやって、常に精強であるということをもって日本を守っていくことが重要だと。将来的には部下を連れて行くシチュエーションになると思うので、しっかりミッションを達成できるようになりたい」

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