福岡や佐賀で展開するペットショップで、複数の女性従業員が経営者の男(66)から性暴力を受けた。
犯行現場の多くは男の自宅。男は、「勤務」として、従業員の女性たちに自身の食事や着替え、掃除など身の回りの世話をさせていた。
性的暴行や強制わいせつなど7件の罪で起訴された男(66)の裁判で明らかになったのは、「ようやくつけた好きな仕事。辞めたくない」従業員の心理に付け込んだ悪質な犯行だ。
福岡と佐賀で複数のペットショップを経営
被害にあった女性たちが勤めていたのは、福岡と佐賀にあるペットショップ。このペットショップを経営していたのが、本多道雄被告(66)だ。
起訴状などによると、福岡県糸島市に住む本多道雄被告(66)は、2017年から2022年にかけて、複数の女性従業員に対し、脅して抵抗できなくした上で性交やわいせつ行為をした準強制性交等罪・強制わいせつ罪など7件で起訴されている。
裁判は、裁判員裁判となった4件とそれ以外の3件を分けて審理が進められ、このうち3件について裁判が終わった。福岡地裁は、本多道雄被告(66)に有罪判決を言い渡した。
福岡地裁が有罪判決 経営者の男(66)の罪
裁判が終わりいずれも有罪判決となったのは、下記の3事件。
① 2019年、本多被告の自宅で女性従業員(当時21)にいきなり抱き付き、 左首筋に無理やり鼻と唇を押し当てたうえ、胸を触るなどした(強制わいせつ罪)
② 2022年、本多被告の自宅で、女性従業員(当時22)に抱きつき、
胸や臀部を直接触るなどした(強制わいせつ罪)
③ 2022年、男女5人の従業員に対し、「裏切り者は殺す」などと言いながら、
日本刀の様なものを従業員らの近くで振り下ろし凶器を示して脅迫した(暴力行為等処罰法違反などの罪)
被害者の一人(当時22)は法廷で、本多被告を「オーナー」と呼び、勤めていたペットショップ側から言われていたことをこう証言した。
「オーナー(本多被告)に逆らわないこと、オーナーの機嫌を損なわないこと」
強制わいせつの犯行現場は、いずれも本多被告の自宅だった。
従業員はシフトで「糸島勤務」 本多被告の世話をさせられていた
判決によると、当時従業員として、本多被告の経営するペットショップに勤めていた女性(当時22)は、本多被告の寝室で抱きつかれ、服を脱がされ体を触られたりなめられたりした。
書斎でも服を脱がされ尻や胸をなでまわされた。
女性はなぜ、本多被告の自宅で被害を受けたのか。
ペットショップ従業員だった女性(当時22)
犯行は勤務中のことです
検察官どういう勤務?
ペットショップ従業員だった女性(当時22)
会社で「糸島勤務」と呼ばれる勤務に入った時です
本多被告は、福岡県糸島市の自宅で、従業員に朝食の支度や着替え、掃除など身の回りの世話をさせていた。「糸島勤務」と呼ばれ、シフトが組まれていた。
女性(当時22)は、ペットショップに勤めてから2か月後、2回目の「糸島勤務」に入った。
最初に被害にあったのは、午前7時45分ごろ本多被告の自宅に着いたあと、朝食の支度を終え寝室で本多被告を着替えさせていた時だった。
ペットショップ従業員だった女性(当時22)
着替えが終わったあとに抱きつかれて、胸に顔をこすりつけられました
顔は胸に密着している状態でした
検察官
押しのけたり振り払ったりすることは?
ペットショップ従業員だった女性(当時22)
していません。入社当時から、
先輩スタッフから「オーナーの言うことは絶対だから逆らっちゃいけないよ」
「逆らったらクビにされる」と言われていたので、
ショップの仕事自体は好きだったので急に辞めさせられたりするのが怖くて
抵抗できませんでした。
気をそらせるために「ご飯ができていますよ」と言いましたが
すぐにはやめてくれませんでした。
この日、女性は3回にわたって、わいせつ行為を受けた。2回目は、本多被告の書斎だった。
ペットショップ従業員だった女性(当時22)
書斎のスペースにオーナーから呼ばれて行ったらズボンを下ろされて
お尻をなでられたり、服をまくし上げられて胸を触られたりしました
検察官
抵抗は?
ペットショップ従業員だった女性(当時22)
「嫌です」「やめてください」と聞こえるように言いました。
ズボンを下げられたのでもとに戻そうとしました。
上げようとしたらまた下げられて服の中に手を入れられたりしました。
検察官
どんな気持ちでしたか?
ペットショップ従業員だった女性(当時22)
触られるのが気持ち悪くて
何でこんな風にされるのか分からなくて混乱していました
3回目は寝室で「添い寝をしなさい」
ペットショップ従業員だった女性(当時22)
オーナーから「添い寝をしなさい」としつこく言われて
断ってもずっと言われるので、一旦近くに行けば満足してくれるかなと思い、
ベッドに端に座ったら倒されてそこから服を脱がされたりしました
女性は、寝室で下着を脱がされ体を触られた。
夕食の支度、風呂の準備、後片付けなどを終え、女性が本多被告の自宅を出たのは午後10時ごろだったという。
帰宅後、先輩の従業員に相談しようとしたところ、「胸を触られたとかは絶対言うなよ」と言われ、女性は「口止めされたと思った」。
検察官
どうして逃げたり通報したりしなかったのですか?
ペットショップ従業員だった女性(当時22)
逆らうな、機嫌を損ねるなと言われていて、
ショップの仕事自体は好きでやっていたし、先輩方もいい人なので、
糸島勤務がなければペットショップの仕事は好きだったので、
機嫌1つでクビにされるのは・・・せっかく決まった仕事だったので
「ずっと動物関係の仕事に就きたかった」 父親に相談し警察へ
動物とかかわる仕事は女性の夢だった。
ペットショップ従業員だった女性(当時22)
ずっと動物関係の仕事に就きたくて、
専門学校に行っていてやっと受かった店舗だったので、
多少きつくてもやりがいがありました
熱望していた仕事だったが、女性は「糸島勤務」での被害から半月後、退職した。
きっかけは、本多被告から、もうひとりの男性も含め3人で泊りでの旅行に誘われたこと。
ペットショップ従業員だった女性(当時22)
釣り旅行に泊まりで行くと言われて、さすがに男性2人の間に入るのはと思って
親族に相談したところ「やめとき」と言われたのもあって辞めました
検察
父親に性被害の相談はしましたか?
ペットショップ従業員だった女性(当時22)
細かくは話していないんですけど、触られたということは話しました
身体を触られたりすると言った時に、
父から「それは仕事じゃないから、警察に行きなさい」と言われたので、
親族に付き添ってもらっていきました
「年上の男性と対面」難しくなった
被害の影響は、退職後の今も続いている。
検察
被害後、生活状況など変わったことはありますか?
ペットショップ従業員だった女性(当時22)
外に出かけたりした時に、
人が多いところで男性と接触したりするのが気持ち悪くなりました
検察
どのような夢を持っていましたか?
ペットショップ従業員だった女性(当時22)
動物に関わる仕事、ショップとか病院とか、
動物と飼い主さんと関わる仕事に就きたいと思っていました
検察
夢に変化は?
ペットショップ従業員だった女性(当時22)
人と関わる部分で、
年上の男性と面と向かって動物の話をする仕事には就きづらくなりました
男はいずれの事件についても無罪を主張 福岡地裁「被害者の供述は信用できる」
裁判で本多被告は、当時22歳の女性(事件②)に対する強制わいせつ事件について、抱きつき臀部を触ったことについては認めたうえで、「被害者に許可は取っていたし、被害者は嫌がっていなかった」「それ以外に性的な言動はしていない」などと起訴内容を否認。弁護側は、「被害者の証人尋問は事件から2年経過していて、記憶に曖昧な部分がある」などと主張した。
①の事件については「性的な行為は無かった」などと述べ、③の事件についても「「裏切り者」とも「殺す」とも発言していない」「日本刀を素振りしていたが、それは手持ち無沙汰であり、屋外が寒く、身体を動かしたかったためだった」などと述べ、起訴内容を否認。
本多被告は3件すべてで無罪を主張したが、福岡地裁は「被害者は事件前後の状況を含め、その時々の心情を交えながら具体的に証言している」「被害者の供述は信用できる」などとして、本多被告に有罪判決を言い渡した。
糸島勤務中に起きた強制わいせつ事件(①と②)については「自らの性欲を充足させるため、仕事上の上下関係を背景に強制的にわいせつ行為に及んだ」と認定した。
「私以上に、被害にあった人もいる」
今後は今回審理されなかった強制性交等傷害罪や準強制性交等罪などについて審理が行われ、全ての事件を検討した上で、量刑を含んだ判決が言い渡される。
今回裁判で証言した被害者の女性(22)は、声を振り絞った。
ペットショップ従業員だった女性(当時22)
私以上に被害に遭われた方も多いと思うので、厳しい処罰を望みます
RKB毎日放送 記者 奥田千里