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「ゾウは夫を踏みつけ投げ飛ばした」 これまで150人が死亡 森林開発と温暖化がもたらした危機 人間とゾウ「死ぬまで働かせる」虐待も

RKB毎日放送 2024年11月28日 18時25分

古くからゾウが国の象徴として親しまれてきたタイで、「人間とゾウの共存」が大きな社会課題となっています。

人に虐待される飼育ゾウ、そして人を襲う野生のゾウたちが自然との向き合い方を突きつけています。

約3800頭が飼育されているタイ

古くからゾウが国の象徴として親しまれてきたタイ。

国内で飼育されているゾウはおよそ3800頭で、観光客向けのキャンプは、世界全体の7割がタイにあるとされています。

アユタヤのゾウ乗り体験施設は、連日、多くの日本人観光客らでにぎわっています。

アユタヤエレファントキャンプ ナムティプ・ゲートゲォー マネージャー
「タイではゾウに乗ることは縁起が良いと考えられてきました。観光客はタイに来るとゾウのことを思い浮かべますし、私たちの文化の一つになっています」

しかし、近年は動物福祉の観点からゾウ乗り観光に対する批判の声も高まっています。

ゾウの調教「虐待」との批判も

WAP=世界動物保護協会は4年前、観光施設のゾウ使いらが、人間を乗せるためにゾウに暴力的な調教を行っているとして「虐待行為だ」と警告しました。

WAPが公開した動画には、悲鳴をあげるゾウの様子が映っています。

こうした中、タイではゾウとの関わりや観光のあり方を見直す動きが広がっています。

100頭以上が暮らすゾウの保護施設

北部チェンマイで100頭を超えるゾウが暮らす保護施設「エレファント・ネイチャーパーク」。

観光地で酷使されたゾウが次々と運ばれてきます。

保護施設を創設したレック・セーンドゥアンさん
「このゾウは観光客を乗せるゾウで、先週まで働いていました。私たちが救助してあげないと死ぬまで働かせるだろうから助けることにしました」

施設を運営するためには観光収入を得る必要があるものの、ゾウ乗りや見世物のショーは行っていません。

RKB 村橋佑一郎記者
「観光客向けのツアーが行われていますが、自然に近い状態で生活しているゾウを間近でみることができます」

観光客にはゾウのありのままの生態を観察してもらいます。

また、ゾウ使いたちは調教をやめ、クラフト作品の制作・販売などを手がけることで、新たな収入源を確保しました。

外国人観光客
「ゾウの本当の生活を見ることができてとても良いことだと思います」
「ゾウを使ったエンターテインメントはすべて禁止すべきです」

こうした新しい観光スタイルは国内8つのキャンプに広がり、ゾウ乗りなどをやめたところもあるといいます。

保護施設の創設者・レックさん
「『ゾウを幸せにさせると人々も幸せになるビジネスモデルができるよ』ということを伝え、すべてのキャンプが社会的責任を考えるビジネスに変わってほしいです。日本の人たちにもゾウの観光をするときに考えてもらいたいと思っています」

人を襲う野生のゾウ

ゾウとの共存を模索する一方で別の深刻な問題もあります。

タイでは近年、過度な森林開発や気候変動の影響でゾウが暮らせる自然環境が失われつつあるのです。

そのしわ寄せは、4000頭以上が生息する野生のゾウにも。

野生のゾウが保護区の森を出て、エサを求めて農地を荒らしたり、人間と衝突したりするケースが頻発しています。

「ゾウは夫を踏みつけ投げ飛ばした」

東部チャンタブリーに住むサン・ゲーシーさん(59)は今年8月、夫のブッダー・ゲットウドムさん(66)を亡くしました。

ブッダーさんは、夜中に自宅の裏庭で物音がしたため様子を見に行ったところ、野生のゾウに襲われました。

サン・ゲーシーさん
「ゾウは夫を踏みつけ投げ飛ばしました。私は大声で泣き叫んでいました」

ゾウに踏みつけられ、ブッダーさんのろっ骨は肺に突き刺さったといいます。

サン・ゲーシーさん
「夫のことを話すと涙が出てきます。寂しくてたまりません」

タイでは2018年以降、観光客を含む少なくとも150人が野生のゾウに襲われ亡くなっています。

また、報復としてゾウが人間に殺されるケースも後を絶ちません。

ブッダーさんの次男 ヒラン・コッチャラットさん(38)
「さらにゾウが増えたらどう生きていけばいいのか。ほかに住む場所はないのに」

監視カメラとAIでゾウを監視・追跡

悲劇を防ぐため、新たな対策も始まりました。

クイブリ国立公園では、ゾウを監視するカメラ28台を設置。

AI=人工知能を使ってゾウを自動的に検知・追跡するシステムも試験的に運用しています。

住宅地に向かうゾウがいれば、パトロール隊や近隣住民に無線や通信アプリで警告します。

RKB 村橋佑一郎記者
「いま赤外線のドローンを使ってゾウを探している」「2頭いる?2頭いるんだ」

取材中、すぐ近くに6頭のゾウが現われました。

パトロール隊が急行します。

RKB 村橋佑一郎記者
「大きな声を出してゾウを追い払っていますね」

ゾウを傷つけないように火薬で音を鳴らし、威嚇します。

ゾウの群れに襲われる危険もありましたが、6頭とも保護区に返すことができました。

ゾウと人間 危機からの共存へ

ほかにも、保護区内に水場や草地を120か所以上つくるなど、環境整備を進めたことでゾウの被害は大幅に減りました。

クイブリ国立公園 アッタポン・パォオン 所長
「ゾウを適切に管理し、観光収入にもつながるシステムをつくることで、人々と共存できます。危機的な状況をチャンスに変える仕組みを広げていきたいです」

タイの飼育ゾウと野生ゾウを取り巻く多くの問題は、私たち人間が、自然や動物とどう向き合うべきなのかを問いかけています。

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