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「少年刑務所」受刑者の書いた詩…罪をつぐなって社会に戻る日のために

RKB毎日放送 2024年12月10日 17時48分

奈良少年刑務所から、「社会復帰のために、受刑者向けに詩の教室を開いてほしい」と依頼された詩人・寮美千子さんは、「本当に詩が役に立つのか?」と疑問を感じたという。ところが、重罪を犯した少年たちが紡ぎ出した詩は、想像を超えるものだった。12月10日、RKBラジオ『田畑竜介GrooooowUp』に出演した神戸金史・RKB解説委員長が、寮さんの体験を報告した。

少年刑務所とは

12月7日、8日に福岡刑務所で、受刑者が作った製品を安価で販売する「矯正展」が5年ぶりに開かれました。きれいな革靴やバッグなど、いろいろなものがありました。その中には、佐賀少年刑務所からの出品もありました。

少年刑務所は、犯罪傾向の進んでいない17~25歳の男性受刑者を収容します。函館、盛岡、川越、松本、姫路、佐賀の全国6か所に設置されています。もう1か所、奈良にもあったのですが、奈良少年刑務所は2017年3月で廃止になっています。

この奈良少年刑務所で、受刑者に「コミュニケーションをもっと学ばせてあげてほしい」と頼まれたのが、作家で詩人の寮(りょう)美千子さんです。

【寮 美千子】
作家・詩人。1955年東京生まれ。千葉県立千葉高校を卒業後、外務省、広告制作会社勤務、フリーランスのコピーライターを経て、1986年に毎日童話新人賞を受賞し作家デビュー。2005年、泉鏡花文学賞受賞。絵本・童話・詩・小説・ノンフィクションと幅広く執筆。2006年に奈良へ移住。2007~16年、奈良少年刑務所の外部講師を務めた。

「助けて」と言えない少年たち

寮さんが奈良に移り住んだ時に、少年刑務所との付き合いができて、ある日唐突に依頼されたんだそうです。

寮:社会に戻ってきた時に、困らないような人になってもらおう、教育に重きを置くっていうことになって、情緒面のことも「ちゃんとみんなとコミュニケーションできる人になってもらいましょう」というようなこともあって、社会性を涵養するプログラム、じわじわと水が染み込むように育てていくという形で「その講師をやってくれ」って言われたんです。「え?それは私が直接受刑者とお話しするってことなんですか?」って聞いたら「そうです」「どんな罪の人が来てるんですか?」「そうですね、強盗、殺人、レイプ、放火、覚醒剤などです」と言われて。「えー、ちょっとそれは…」。「そうおっしゃらずに」と電話の向こうで懇願するの。

寮:「この子たちは困った時に、『助けて』も言えない」コミュニケーション不全で。「嫌なことを頼まれた時に『嫌です』も言えない。一番愛してくれるはずの親から殴られたり『お前なんか産まなきゃよかった』って言われたり、あるいは教育熱心すぎる親に『こんな点じゃ、うちの子じゃありません』とか言われたり、いろいろあってここに来てるんだ」と。「つらいから、心を閉ざしている。閉ざしていると『悲しい』という気持ちも入ってこないけど、『うれしい』『楽しい』も入ってこなくなる。そうすると、自分が何を感じているのかわからなくなる状態になっちゃうんです」って言われた。「生きている実感がない。だから、荒野にポツンと独りで立っているのが、彼らの心の景色です。そこに童話や絵本や詩を使って、彼らの心の芽を生やしてあげて、情緒を育ててやってほしいんです」と言われたんです。言葉を使って。

寮:「何言ってんだ、この人?」って思いました。だって、人を殺すところまでこじらせまくって、実行しちゃっている子たちですからね。そんな子に、絵本とか詩本とか何?役に立つの?自分が作家をしながら、全然なんかそこまで信じられない。「無理です」って言ったんだけど、懇願されちゃって。「この子たち、このまま返したら『助けて』も言えないから、絶対刑務所に逆戻りです。それだけは避けたい。何とかしてください」ってほだされちゃって、やることになっちゃったの。

こんなことを頼まれたら大変ですよね。作家である寮さんでさえ、そういう気持ちになったと。ただ、罪は罪として刑務所で受刑者として過ごさなければいけないんですけど、まだ若いですし、必ずいつか社会に戻るわけですから、「その時のためにも」と少年刑務所から頼まれたのが、独自の教育「社会性涵養プログラム」でした。

「こんなんで授業できるんですか?」

寮さんは2007年~16年、「物語の教室」を担当したそうです。月に一度、90分の授業です。受講者は10名ほどで、最初はこんな感じだったそうです。

寮:刑務所の中でも一番「困ったちゃん」「困ってるちゃん」ですね。みんなと対話もできない。間違えて注意されても返事もできない。そういうような子ばっかり10人呼ぶんです。もう教室入った時に「こんなんで授業できるんですか?」って思いました。ブルブル震えているような子がいると思えば、「オレ様オーラ」全開で人をにらみつけている子もいるし、真っ暗な顔をして下を向いたきり何も言わない子とか、目が宙を泳いで人というよりは土の塊、目玉はビー玉みたいな。ニヤニヤ四六時中笑っている子とか。怖いですよ。「こんなんで授業できるんですか?」って思いましたよ。

このお話を聞いたのは、11月30日にブックスキューブリック箱崎店(福岡市東区)で開かれた寮さんのお話を聞く会でのことでした。聞き手は店長の大井実さんです。

最初の授業でいきなり変化が

引き受けた寮さんはとにかく「最初は絵本をみんなで読もう」と。登場人物の役柄ごとに、線を引いて「ここだけ読めばいいから」と言って、みんなで読んでもらう。ガタガタでうまくいかず大変だったそうです。ところが突然、みんなで合わせてしゃべろうという動きが始まりました。最初の授業で、寮さんは本当に驚いたそうです。

寮:全部ひらがなで書いてあって、2~3行とか4行とか大した行数はないんです。前に2人立ってもらって、みんなも床の上に座ってこっちを見ているんですけど、「大丈夫かな、読めるかな、読めるかな……」、最後のページまで行くとみんなホッとして「よかったねー!」って盛大な拍手が湧くんですよ。初めて行った授業の最初の1時間目の、その瞬間でした。いきなり変化が、始まった。いきなりですよ。

寮:「緊張したけど、読めてよかったです」とか、「拍手もらって、うれしかったです」と。最初はみんなちょっと下向いて「やりたくない」って言っていた子がだんだんやりたくなってきて、最後の方になると「次、誰やりますか?」って言うと「はい!」って自分から手を挙げるわけですよ。最初のアウェー感と全然違う空気感になっているんですよ。たった1時間半、初対面の授業で。「すごいな」と思って。

これは、寮さんの実体験です。刑務所の職員も「一体何をしたんですか?どうしてこんなことが」と言ったそうです。寮さんが何かしたというより、彼らの中にもあるものが引き出されてきたという感じだったんだろうと思います。

警察に捕まった時の「詩」

寮:だいぶリラックスして楽しくなって、仲間感ができたところで、ここまでが心の準備体操。ここからは「それじゃあ、宿題で詩を書いてきてね」って言って。そうすると「先生、宿題って何ですか?」聞いたら、小学校にも行かせてもらえなかったから、宿題って言葉も知らないんです。

寮:「上手な詩、いい詩を書かなくてなくていいんだよ、立派なことを書こうと思わなくていいんだよ。もうつぶやきでもいいし、何でもいいんだよ」って言って、一生懸命ハードルを下げて。どうしても書くことがなかったら、好きな色について書いてちょうだいっていうお題を出したの。

寮:でも教官が「書くことなかったら『書くことがない』って書いてきてもいいんだぞ」と言うから、「余計なこと言って!」と私は思って。そうしたら、全員「書くことがない」「わからない」「見つからない」とか書いてきた。「来週は書いてきてね」って言ったら、みんなちょっと「寮先生かわいそう」とか思って、同情して書いてきてくれたの。そうしたら1人だけ「書くことが見つからない第2弾」って書いてきて。おちょくられているのかなと思ったけど、次の時間に突然書いてきたんですよ。「涙」っていう詩で、この子が警察に捕まったときの話を書いたんですね。

「涙」 仕事一本 ガンコな父 名前で呼ばれたことも なかったから 必要以上 会話すらない そんな関係である ある警察官は 僕の父に質問をしました 「子どもを 漢字一文字でたとえると なんですか?」 まっ白な紙に 大きく 大きく 書かれた文字は 「宝」でした そのときぼくは おさえられない なにかを感じました 数秒後には キレイな涙が流れていました

寮:ガーン。いい詩でしょ!? 私はこれを読んで、泣いちゃいました。

グッと来るところがありますね。「キレイな涙が流れていました」なんていう文章を書けるのか、と思いました。

「好きな色」についての詩

「好きな色について書いてきてもいいんだよ」と呼びかけた寮さん。「金色」と書いた少年がいます。

金色は 空にちりばめられた星 金色は 夜 つばさをひろげ はばたくツル 金色は 高くひびく 鈴の音 ぼくは金色が いちばん好きだ

少年受刑者が書いた実際の詩なのです。色についてなら、書きやすいかもしれません。その中で一番衝撃的だったのは、たった1行の詩。「くも」というタイトルです。

空が青いから白をえらんだのです

これは本当に驚きだったようですね。人に傷を負わせているけれど、自分も傷を負っているわけです。生まれたときから育ってきた過程で、いろいろなことを考えるようになっていく、変化が生まれてくる。少年が書いた詩は、『空が青いから白をえらんだのです 奈良少年刑務所詩集』(新潮文庫、税込み605円)として書籍化されています。

また、その経緯を書いたノンフィクション作品が『あふれでたのはやさしさだった 奈良少年刑務所 絵本と詩の教室』です。

『あふれでたのはやさしさだった 奈良少年刑務所 絵本と詩の教室』(西日本出版社、2018年、税別1100円)
奈良少年刑務所で行われていた、作家・寮美千子の「物語の教室」。絵本を読み、演じる。詩を作り、声を掛け合う。それだけのことで、世間とコミュニケーションを取れなくて罪を犯してしまった少年たちが、身を守るためにつけていた「心の鎧」を脱ぎ始める。

「罪を犯したのだから隔離しておけばいいじゃないか」という話ではなく、その子たちは社会に必ず戻ってくるのです。そこを考えないと、私たちの社会はうまく維持できないんじゃないかと、読んで思いました。

◎神戸金史(かんべ・かねぶみ)

1967年生まれ。毎日新聞入社直後に雲仙噴火災害に遭遇。福岡、東京の社会部で勤務した後、2005年にRKBに転職。ニュース報道やドキュメンタリー制作にあたってきた。やまゆり園障害者殺傷事件やヘイトスピーチを題材にしたドキュメンタリー最新作『リリアンの揺りかご』は各種プラットホームで有料配信中。

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