初潮を迎えたことを1年間、親に告げることができなかった少女がいる。
生理中は、ぼろ布をあて、家族が寝静まった夜中に汚れた下着とぼろ布を洗って乾かした。
少女には、そうせざるを得ない事情があった。
「生理が始まったら大人になったとみなされ、結婚させられる」
世界には、様々な事情から生理用品にアクセスできない少女や女性が約5億人いるといわれている。
その実態は、あまり知られていない。
”生理がくると大人” 国連職員が受けた衝撃
大阪公立大学の特別研究員、松尾敬子さん(51)は、国連人口基金の職員としてジュネーブに勤務していた2021年、元同僚のアフガニスタン人女性の話に衝撃を受けた。
大阪公立大学・特別研究員 松尾敬子さん
「『世界の生理のポットキャスト』を制作することになって、
アフガニスタン出身の元同僚女性にコンタクトをとりました。
一緒に働いていた時、
生理で苦労したような話をしていた記憶があったからです。
そこで衝撃を受けました」
松尾さんによると、女性はミトラ・ロスさん(31)。
10代前半だった少女時代、初潮を迎えたことを1年間、親に隠し続けた。
当時女性が暮らしていたアフガニスタンの地域では、生理が来ると「大人になった」とみなされ、大人同士が決めた望まぬ結婚をさせられることが多かった。
学ぶことが好きだった少女は、親に告げないことを決めた。
当然生理用品は手に入らない。
生理期間中は経血がもれないようぼろ布をあてて過ごした。
家族に気づかれないよう、皆が寝静まった後にぼろ布と汚れた下着を洗い乾かした。
一晩中起きているから生理期間中は常に寝不足だった。
胸のふくらみ隠すためおばのブラジャー盗んだ
また、胸のふくらみを隠すため、おばのブラジャーを盗んで使った。
「ブラジャーが盗まれた」とおばが探し回っていたが「自分が盗った」とは言い出せなかった。
大阪公立大学・特別研究員 松尾敬子さん
「彼女は、国連職員として働いていた。英語もできる。
つまり、アフガニスタンでは高学歴でエリートなんです。
そういう家庭でも、彼女は生理がきたら結婚させられることにおびえ、
親に隠さざるを得なかった。そのことに衝撃をうけました。
どれだけの少女たちが、意思決定権を奪われ、
不衛生な環境におかれているのか、ということです」
アフガニスタンからオーストラリアへ
ミトラさんは今、アフガニスタンから出てオーストラリアで生活している。
タリバン政権になり身の安全が保障されないとして難民申請し、認められた。
しかし家族で難民申請が認められたのは彼女だけで、彼女は今も自分ひとりでアフガニスタンを脱出したことに罪の意識を感じているという。
大阪公立大学・特別研究員 松尾敬子さん
「特にヨーロッパでは”難民疲れ”している時期でもありましたし、ある意味、
人道問題が常態化している国については関心があまり向かなくなっている、
ということもあると思います」
「生理小屋」に閉じ込められる少女たち
松尾さんは、2009年から2023年まで、国連機関の職員として、世界中で様々な人道支援に携わってきた。
特に、アフリカやアジアなどで「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ=女性が性と生殖に関することを自分で決める権利」の確立のために奔走した2021年からの2年間は、女性や少女たちの過酷な現状を目の当たりにした。
生理期間中、「生理小屋」と呼ばれる小屋に閉じ込められる少女。
性器の一部または、全部を切除する「割礼」、14歳以下で母親になる少女たち。
松尾さんは、こう話す。
大阪公立大学・特別研究員 松尾敬子さん
「今これから生理を迎えるであろう子どもたちが、
これからも生理を恥ずかしいことだと思い、痛みを我慢し、
積極的に自分の体におこっていることを受け入れられない社会を
我々が続けてもよいのか、ということです。
濃淡はまだまだあると思いますが、男児もふくめ、自分の体と心を、
そして他人の体と心をより大事にできる環境を作らないといけない
と思っています」
世界で起きている人道問題の中でも、女性や少女たちが直面している性や生殖の課題は、語られることも、報じられることも少ない。